最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
中国オンラインゲーム類否事件
東京地裁令和4.4.22平成31(ワ)8969著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官 矢野紀夫
裁判官 佐々木亮
*裁判所サイト公表 2022.4.26
*キーワード:ゲーム、キャラクター、インラインリンク、侵害主体性、複製、翻案、却下、特別の事情
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■事案
オンラインゲームのキャラクターの類否やリンク行為の侵害主体性が争点となった事案
原告:ゲーム制作会社(上海市所在)
被告:ゲーム制作会社(香港所在)
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法21条、27条、民事訴訟法3条の9
1 民事訴訟法3条の9「特別の事情」による訴えの却下の肯否
2 原告各画像に係る著作権侵害の成否
--------------------
■事案の概要
『本件は、原告が、被告において、別紙被告画像目録記載2ないし7の各画像をゲーム内画面に含む別紙被告作品目録1記載のオンラインゲームを制作し、日本国内に配信した行為により、原告の別紙原告画像目録記載2ないし8の各画像に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとともに、フェイスブック上に作成された上記ゲームの公式ウェブページに別紙被告作品目録2記載の画像を表示させるインラインリンクを貼った行為により、原告の別紙原告画像目録記載1の画像に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害し又はこれを幇助したと主張して、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、別紙被告作品目録1記載の上記ゲームの複製の差止め及び同ゲームのデータの削除並びに別紙被告作品目録2記載の画像の複製の差止め及び同画像のデータの削除を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1110万円(著作権法114条2項及び3項に基づき算定した損害金並びに弁護士費用相当損害金の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年10月9日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
H29.03 被告グループ企業が原告を中国で提訴(別件中国訴訟)
H29.11 原告が原告ゲームを日本国内で配信
H30.01 被告が被告ゲームを日本国内で配信
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■判決内容
<争点>
1 民事訴訟法3条の9「特別の事情」による訴えの却下の肯否
裁判所は、「原告及び被告は、いずれも中国に住所を置く法人であり、日本に事務所等の拠点を有しないこと、被告ゲームの開発や配信に関する主要な作業は中国において行われたことが認められる。これらの事情によれば、本件訴訟に関する証拠が中国に存在することがうかがわれるから、本件を日本の裁判所で審理した場合には、被告が、本件訴訟の争点に関する主張立証をする際に、中国語で記載された書類を日本語に翻訳したり、中国語を話す関係者のために通訳を手配したりするなどの一定の負担を被り得ることは、否定し難い。」と認定。
もっとも、本件訴訟における原告の請求が、日本国内向けに配信された被告ゲーム及びそれに関連する画像の複製を差し止め、被告ゲーム等のデータを削除し、被告ゲームの売上げに基づいて、著作権法114条2項によって推定される額の損害を賠償すること等を求めるものであるとして、本件訴訟における請求の内容は、日本と密接に関連するものであり、かつ、原告が主張する上記損害は日本において発生したものと解されると判断。
結論として、本件は、事案の性質上、日本とも強い関連性を有するというべきであるなどとして、民事訴訟法3条の9所定の「特別の事情」があるとは認めず、訴えの却下としていません(45頁以下)。
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2 原告各画像に係る著作権侵害の成否
(1)原告各画像と被告各画像の表現の同一性ないし類似性
裁判所は、複製、翻案の意義に言及した上で、類否について原告と被告の各画像を対比して検討。
結論として、8点のうち、ふくろうのキャラクターである被告画像1については、原告画像1を複製したものに当たると判断。それ以外のものは、アイデアあるいはありふれた表現が共通しているにすぎず、複製又は翻案には当たらないと判断しています(48頁以下)。
(2)被告による原告画像1に係る著作権侵害の成否
原告は、被告が第三者によって制作されてYouTube上で公表された動画のハイパーリンクを、フェイスブックの被告が管理する被告ゲームのアカウントに係るウェブページ(本件ウェブページ)に設定することで、本件ウェブページ上に被告画像1を掲載したものであり、こうした行為(本件リンク設定行為)は、規範的にみて原告が著作権を有する原告画像1を複製及び公衆送信するものであるなどと主張しました。
被告によるリンク設定行為の著作権侵害性について、裁判所は、「原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである」ことを前提に、被告の侵害主体性を判断。
結論として、裁判所は、被告が、原告画像1に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害し又はその侵害を幇助したとは認められないと判断しています(61頁以下)。
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■コメント
原被告いずれも中国企業による訴訟となります。中国では本件原告が被告として提訴された別ゲームに関する訴訟が係属しているようです。
判決文末尾に画像が掲載されていて、西遊記の孫悟空をモチーフにしたものなどですが、全体を眺めてみると、たしかにイメージが似ていることがわかります。
画像の使われ方については、弁護士齋藤理央先生のツイート(https://twitter.com/b_saitorio)をご覧いただけたらと思います。
なお、インラインリンクの侵害主体性(氏名表示権)については、リツイート事件(最高裁令和2.7.21平成30(受)1412発信者情報開示請求事件)参照。
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■参考サイト
「インラインリンクと著作権法上の論点」
弁護士齋藤理央(I2練馬斉藤法律事務所 2019.05.12)
記事
「リツイート画像による「権利侵害」…原告代理人が注目する「最高裁判決」のポイント」
山下真史(2020年07月23日 08時14分)
弁護士ドットコム記事
「リツイート事件最高裁判決 概要と留意点をまとめてみた」
弁護士岡本健太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts 2020年7月28日)
コラム記事
「今後変わる? リンクについての著作権法上の考え方」(2018年3月19日)同
コラム記事
中国オンラインゲーム類否事件
東京地裁令和4.4.22平成31(ワ)8969著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官 矢野紀夫
裁判官 佐々木亮
*裁判所サイト公表 2022.4.26
*キーワード:ゲーム、キャラクター、インラインリンク、侵害主体性、複製、翻案、却下、特別の事情
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■事案
オンラインゲームのキャラクターの類否やリンク行為の侵害主体性が争点となった事案
原告:ゲーム制作会社(上海市所在)
被告:ゲーム制作会社(香港所在)
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法21条、27条、民事訴訟法3条の9
1 民事訴訟法3条の9「特別の事情」による訴えの却下の肯否
2 原告各画像に係る著作権侵害の成否
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■事案の概要
『本件は、原告が、被告において、別紙被告画像目録記載2ないし7の各画像をゲーム内画面に含む別紙被告作品目録1記載のオンラインゲームを制作し、日本国内に配信した行為により、原告の別紙原告画像目録記載2ないし8の各画像に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとともに、フェイスブック上に作成された上記ゲームの公式ウェブページに別紙被告作品目録2記載の画像を表示させるインラインリンクを貼った行為により、原告の別紙原告画像目録記載1の画像に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害し又はこれを幇助したと主張して、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、別紙被告作品目録1記載の上記ゲームの複製の差止め及び同ゲームのデータの削除並びに別紙被告作品目録2記載の画像の複製の差止め及び同画像のデータの削除を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1110万円(著作権法114条2項及び3項に基づき算定した損害金並びに弁護士費用相当損害金の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年10月9日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
H29.03 被告グループ企業が原告を中国で提訴(別件中国訴訟)
H29.11 原告が原告ゲームを日本国内で配信
H30.01 被告が被告ゲームを日本国内で配信
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■判決内容
<争点>
1 民事訴訟法3条の9「特別の事情」による訴えの却下の肯否
裁判所は、「原告及び被告は、いずれも中国に住所を置く法人であり、日本に事務所等の拠点を有しないこと、被告ゲームの開発や配信に関する主要な作業は中国において行われたことが認められる。これらの事情によれば、本件訴訟に関する証拠が中国に存在することがうかがわれるから、本件を日本の裁判所で審理した場合には、被告が、本件訴訟の争点に関する主張立証をする際に、中国語で記載された書類を日本語に翻訳したり、中国語を話す関係者のために通訳を手配したりするなどの一定の負担を被り得ることは、否定し難い。」と認定。
もっとも、本件訴訟における原告の請求が、日本国内向けに配信された被告ゲーム及びそれに関連する画像の複製を差し止め、被告ゲーム等のデータを削除し、被告ゲームの売上げに基づいて、著作権法114条2項によって推定される額の損害を賠償すること等を求めるものであるとして、本件訴訟における請求の内容は、日本と密接に関連するものであり、かつ、原告が主張する上記損害は日本において発生したものと解されると判断。
結論として、本件は、事案の性質上、日本とも強い関連性を有するというべきであるなどとして、民事訴訟法3条の9所定の「特別の事情」があるとは認めず、訴えの却下としていません(45頁以下)。
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2 原告各画像に係る著作権侵害の成否
(1)原告各画像と被告各画像の表現の同一性ないし類似性
裁判所は、複製、翻案の意義に言及した上で、類否について原告と被告の各画像を対比して検討。
結論として、8点のうち、ふくろうのキャラクターである被告画像1については、原告画像1を複製したものに当たると判断。それ以外のものは、アイデアあるいはありふれた表現が共通しているにすぎず、複製又は翻案には当たらないと判断しています(48頁以下)。
(2)被告による原告画像1に係る著作権侵害の成否
原告は、被告が第三者によって制作されてYouTube上で公表された動画のハイパーリンクを、フェイスブックの被告が管理する被告ゲームのアカウントに係るウェブページ(本件ウェブページ)に設定することで、本件ウェブページ上に被告画像1を掲載したものであり、こうした行為(本件リンク設定行為)は、規範的にみて原告が著作権を有する原告画像1を複製及び公衆送信するものであるなどと主張しました。
被告によるリンク設定行為の著作権侵害性について、裁判所は、「原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである」ことを前提に、被告の侵害主体性を判断。
結論として、裁判所は、被告が、原告画像1に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害し又はその侵害を幇助したとは認められないと判断しています(61頁以下)。
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■コメント
原被告いずれも中国企業による訴訟となります。中国では本件原告が被告として提訴された別ゲームに関する訴訟が係属しているようです。
判決文末尾に画像が掲載されていて、西遊記の孫悟空をモチーフにしたものなどですが、全体を眺めてみると、たしかにイメージが似ていることがわかります。
画像の使われ方については、弁護士齋藤理央先生のツイート(https://twitter.com/b_saitorio)をご覧いただけたらと思います。
なお、インラインリンクの侵害主体性(氏名表示権)については、リツイート事件(最高裁令和2.7.21平成30(受)1412発信者情報開示請求事件)参照。
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■参考サイト
「インラインリンクと著作権法上の論点」
弁護士齋藤理央(I2練馬斉藤法律事務所 2019.05.12)
記事
「リツイート画像による「権利侵害」…原告代理人が注目する「最高裁判決」のポイント」
山下真史(2020年07月23日 08時14分)
弁護士ドットコム記事
「リツイート事件最高裁判決 概要と留意点をまとめてみた」
弁護士岡本健太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts 2020年7月28日)
コラム記事
「今後変わる? リンクについての著作権法上の考え方」(2018年3月19日)同
コラム記事