最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

イエメン取材動画事件

知財高裁令和4.3.28令和3(ネ)10085損害賠償請求、同反訴請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 菅野雅之
裁判官    中村 恭
裁判官    岡山忠広

*裁判所サイト公表 2022.3.30
*キーワード:動画、映画の著作物、著作者性、共同著作者性

原審:東京地裁令和元年(ワ)16700、令和2年(ワ)1135(裁判所サイト未搭載)

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■事案

イエメン渡航中に撮影された動画の著作者性などが争点となった事案

控訴人(1審本訴被告、反訴原告) :ジャーナリストら
被控訴人(1審本訴原告、反訴被告):フォトジャーナリスト

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法16条

1 名誉毀損の肯否(本件本訴)(略)
2 本件動画の著作者性(本件反訴)

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■事案の概要

『控訴人X1(以下「控訴人X1」という。)(当時大学4年生)とフォトジャーナリストとして活動する被控訴人は、平成30年1月27日から同年2月9日までの間、イエメンに滞在して現地の様子等の動画(本件動画)を撮影し、同月12日に帰国した。なお、控訴人X1は、同年8月25日、紛争地域の取材等を行うジャーナリストである控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)と婚姻した。』

『本件本訴は、被控訴人において、控訴人X1が、平成31年3月3日及び同月6日の2回にわたり、ウェブサービス内のブログに上記イエメンに滞在中及びその前後に被控訴人からセクシャルハラスメント(セクハラ)又はパワーハラスメント(パワハラ)を受けた旨の本件各記事を投稿し、また、配偶者である控訴人X2が、本件各記事を引用して本件各ツイートを投稿したところ、控訴人X2による本件ツイッターの投稿と控訴人X1による本件各記事の投稿は関連共同して行われたものであり、これらの行為により被控訴人の名誉が棄損され、精神的苦痛を被ったと主張して、控訴人らに対し、不法行為(共同不法行為)による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料1500万円及びこれに対する本件各記事又は本件ツイッターの投稿後である、訴状送達の日の翌日(控訴人X1については令和元年7月14日、控訴人X2については同月17日)から支払済みまで民法(ただし、平成29年法律第44号による改正前のもの。以下、単に「民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』

『本件反訴は、控訴人X1が、被控訴人に対し、(1)イエメンに渡航中等において被控訴人からセクハラ又はパワハラを受けたことにより、精神的苦痛を被り、勤務先を休職し、通院を余儀なくされたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料、休業損害及び通院費等の損害合計736万1043円及びこれに対する最初のセクハラ等が開始された日の後である平成30年1月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、(2)イエメン渡航中に撮影された本件動画の著作者は控訴人X1であるにもかかわらず、被控訴人が控訴人X1に無断で本件動画の記録媒体をテレビ局に提供し、本件動画が放映されて、控訴人X1の本件動画に係る著作権(複製権、頒布権)が侵害され、使用料相当額の損害を受けたのみならず、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、使用料相当額及び慰謝料等の合計325万9382円及びこれに対する平成30年4月11日(本件動画が放映された日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『原判決は、本件本訴について、本件各記事は被控訴人の社会的評価を低下させるものであり、その中で摘示されている事実について真実性、相当性の抗弁は認められず、また、本件各ツイートは、控訴人X1と共同して被控訴人の社会的評価を低下させるものであり、被控訴人の受けた精神的苦痛を慰藉するには100万円が相当である旨判断して、被控訴人の請求のうち100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し、本件反訴については、セクハラ及びパワハラ行為が行われたと認めることはできず、また、控訴人X1が本件動画の著作権者であるということはできない旨判断して、反訴請求をいずれも棄却した。』

『これに対して、控訴人らが本件本訴の敗訴部分について、控訴人X1はこれに加えて全部棄却された本件反訴請求について、それぞれ不服があるとして控訴をした。』
(2頁以下)

<経緯>

H30.01 控訴人X1と被控訴人がイエメン滞在、本件動画撮影
H30.04 本件動画がTV局で放映
H31.03 控訴人X1がブログに記事投稿、控訴人X2がツイート記事投稿

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■判決内容

<争点>

1 名誉毀損の肯否(本件本訴)(略)

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2 本件動画の著作者性(本件反訴)

本件動画の著作者性について、原審では、概要、「控訴人X1が、被控訴人の持参したカメラを渡されて被控訴人が現地を取材しコメントをする様子を撮影するよう依頼され、撮影の開始や終了、アングルについて被控訴人の指示を受けつつビデオカメラを回して本件動画の撮影をしたと認定した上で、同控訴人が本件動画の著作者とは認められない旨判断」(4頁以下)していました。
この点について、控訴人X1は、イエメン入国経験、現地の知識の保有性や本件動画の直接撮影者が自身であるといった点からの補充主張をしました。

この点について、控訴審は、

「本件動画は、被控訴人が報道番組等において使用してもらうことを企図して撮影されたものであり、イエメンの難民キャンプや反政府勢力の支配都市等の状況が撮影され、また、被控訴人が現地の住民とのやり取りを取材している様子や、被控訴人がその状況についてカメラに向かって日本語で語りかけている様子等が収められているものである。」

「被控訴人がイエメンでの入国経験や取材経験もなかったのに対し、控訴人X1は、イエメンでの入国経験があり、難民キャンプも訪れたことがあり、案内人のBとは以前から面識があることから、控訴人X1が、被控訴人から、相談を受けて、訪問先や関係情報等について教示し、また、被控訴人が現地で語っている様子を被控訴人の持参したビデオカメラで撮影したことがうかがわれるものの、本件動画の撮影目的に加え、被控訴人が紛争地域の取材、撮影を行うフォトジャーナリストとして活動していたことからすると、控訴人X1が、訪問先を決定し、撮影する位置を指示したり、撮影中の被控訴人の発言や撮影内容について決定していたとはおよそ考え難く、控訴人X1は本件動画の撮影に当たっての情報提供や補助的な役割を果たしたのにすぎないというべきであるから、控訴人X1が本件動画の全体的形成に創作的に寄与したものと認めることはできない。」と判断(10頁以下)。

控訴人X1の主張は容れられていません。

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■コメント

紛争地域でのコーディネーターとして重要な役割を担い、また、実際にビデオカメラを回す手伝いをした者が動画の(共同)著作者となり得るかどうかが争点となった事案です。