最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
保湿ジェルロゴデザイン事件
東京地裁令和3.12.24令和2(ワ)19840商号使用差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 吉野俊太郎
裁判官 小田誉太郎
*裁判所サイト公表 2022.1.13
*キーワード:ロゴデザイン、著作物性、商号
--------------------
■事案
ロゴデザインの著作物性などが争点となった事案
原告:商業施設設計監理会社
被告:化粧品等製造販売会社
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法2条1項1号、会社法8条、不正競争防止法2条1項19号
1 原告標章の著作物性の有無
2 会社法8条1項の「不正の目的」の有無
3 被告ドメイン名による不正競争行為の有無
--------------------
■事案の概要
『本件は,原告が,被告に対し,(1)被告が,被告商品などに被告標章1ないし3を付していることが,別紙1記載の原告標章に対する原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして,著作権112条に基づき,その妨害排除と妨害予防を求めるほか,(2)被告が,不正の目的をもって,原告と同一の商号を使用しているとして,会社法8条2項に基づき,被告商号の使用の差止めと抹消手続を求めるとともに,(3)被告が,原告の特定商品等表示に類似する被告ドメイン名を使用等していることが不正競争防止法2条1項19号に規定する不正競争に該当するとして,同法3条1項に基づき,その使用の差止めを求めた事案である。』
『なお,裁判所は,当事者双方に心証を開示した上,早期解決を図るために,被告標章1及び2のデザインを任意で修正する方向での和解を勧告したのに対し,被告は,裁判所の意向を踏まえこれに応ずる意向を示したものの,原告が和解による解決を受け入れなかったため,当審における和解は打ち切られた。』
(2頁)
<経緯>
H12.04 原告標章、ANOWA.CO.JPドメイン使用
H28.01 原告がANOWA.JPのドメイン登録、標準文字「アノワ」商標登録
H30.06 被告が被告商号「株式会社アノワ」に変更
R02.01 被告製品、被告標章1使用
R02.06 被告標章1ないし3使用
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■判決内容
<争点>
1 原告標章の著作物性の有無
原告標章は、「一般的なセリフフォントを使用して,大きな文字で原告の商号をローマ字で表記した「ANOWA」の語を「ANO」及び「WA」の上下2行に分け,「A」の右下と「N」の左下のセリフ部分が接続し「W」の中央部分が交差するよう配置した上,その行間(文字高さの3分の1)には,小さな文字で,英単語「SPACE」(空間),「DESIGN」(デザイン),「PROJECT」(プロジェクト)の3語を1行に配置し,その全体を9対7の横長の範囲に収めたロゴタイプ」でした(13頁、21頁以下)。
原告標章の著作物性について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義に言及した上で、原告標章は文字配置の特徴等を十分考慮しても、欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず、原告の商号を表示する文字に、業務に関連する単語を添えて、これらを特定の縦横比に配置したものにすぎないと判断。
原告標章は出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであって、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情を認めることはできないと判断。
原告標章は著作権法2条1項1号にいう美術の範囲に属する著作物に該当するものとは認められないとしています。
結論として、原告の請求のうち、著作権侵害及び著作者人格権侵害に係る部分はいずれも理由がないと判断されています。
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2 会社法8条1項の「不正の目的」の有無
原告と被告は、本店所在地も業種も全く異にするものであることや、被告代表者自身が著名であり、社会的にも信用がある実業家であった事情を踏まえると、被告には原告の知名度や信用を利用しようとする意思も必要もなかったものと認めるのが相当であると裁判所は判断。
そうすると、被告は原告や原告標章の存在を知ることなく、被告商号を独自に考案し、これを使用したものと認めるのが相当であると判断。
これらの事情の下においては、被告が会社法8条1項にいう「不正の目的」をもって被告商号を使用したものと認めることはできないと判断しています(16頁以下)。
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3 被告ドメイン名による不正競争行為の有無
被告ドメイン名は、被告商品の商品名に相当するドメイン名にすぎないものであり、被告商号の使用等に不正なところがないという理解は、被告ドメイン名の取得、保有及び使用についても異なるところはないと裁判所は判断。
被告が不正競争防止法2条1項19号にいう「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的」を有していたものと認めることはできないと判断しています(19頁以下)。
結論として、原告の主張はいずれも容れられていません。
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■コメント
会社の商号が同一又は類似する場合に事業上のリスク(誤認混同惹起性や商標、著作物の類否など)があるかどうかは、起業の際でもチェックポイントとして重要な事項となります。
判決文の末尾に別紙として画像が掲載されているので、どのようなロゴデザインであったかが分かります。
文字列を上下二段に分けて、その間に下線のように文字列を入れる、といった配置は、デザインとしては、よくあることかと考えられ、事実、裁判所の和解勧告(2頁)からしても、たまたま似てしまったのかな、とも思われるところです(被告としては、商品のロゴ開発の際に、もう少し事前調査していれば、とは思われますが)。
ちなみに、被告代表者Bは「歩く百億円」の異名をお持ちだそうで、ウェブ検索すると、現在の被告商品のロゴデザインは一列の文字配置に変更されているようです。
ANOWA41について | ANOWA41|アノワジェル|株式会社アノワ
保湿ジェルロゴデザイン事件
東京地裁令和3.12.24令和2(ワ)19840商号使用差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 中島基至
裁判官 吉野俊太郎
裁判官 小田誉太郎
*裁判所サイト公表 2022.1.13
*キーワード:ロゴデザイン、著作物性、商号
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■事案
ロゴデザインの著作物性などが争点となった事案
原告:商業施設設計監理会社
被告:化粧品等製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、会社法8条、不正競争防止法2条1項19号
1 原告標章の著作物性の有無
2 会社法8条1項の「不正の目的」の有無
3 被告ドメイン名による不正競争行為の有無
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■事案の概要
『本件は,原告が,被告に対し,(1)被告が,被告商品などに被告標章1ないし3を付していることが,別紙1記載の原告標章に対する原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして,著作権112条に基づき,その妨害排除と妨害予防を求めるほか,(2)被告が,不正の目的をもって,原告と同一の商号を使用しているとして,会社法8条2項に基づき,被告商号の使用の差止めと抹消手続を求めるとともに,(3)被告が,原告の特定商品等表示に類似する被告ドメイン名を使用等していることが不正競争防止法2条1項19号に規定する不正競争に該当するとして,同法3条1項に基づき,その使用の差止めを求めた事案である。』
『なお,裁判所は,当事者双方に心証を開示した上,早期解決を図るために,被告標章1及び2のデザインを任意で修正する方向での和解を勧告したのに対し,被告は,裁判所の意向を踏まえこれに応ずる意向を示したものの,原告が和解による解決を受け入れなかったため,当審における和解は打ち切られた。』
(2頁)
<経緯>
H12.04 原告標章、ANOWA.CO.JPドメイン使用
H28.01 原告がANOWA.JPのドメイン登録、標準文字「アノワ」商標登録
H30.06 被告が被告商号「株式会社アノワ」に変更
R02.01 被告製品、被告標章1使用
R02.06 被告標章1ないし3使用
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■判決内容
<争点>
1 原告標章の著作物性の有無
原告標章は、「一般的なセリフフォントを使用して,大きな文字で原告の商号をローマ字で表記した「ANOWA」の語を「ANO」及び「WA」の上下2行に分け,「A」の右下と「N」の左下のセリフ部分が接続し「W」の中央部分が交差するよう配置した上,その行間(文字高さの3分の1)には,小さな文字で,英単語「SPACE」(空間),「DESIGN」(デザイン),「PROJECT」(プロジェクト)の3語を1行に配置し,その全体を9対7の横長の範囲に収めたロゴタイプ」でした(13頁、21頁以下)。
原告標章の著作物性について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義に言及した上で、原告標章は文字配置の特徴等を十分考慮しても、欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず、原告の商号を表示する文字に、業務に関連する単語を添えて、これらを特定の縦横比に配置したものにすぎないと判断。
原告標章は出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであって、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情を認めることはできないと判断。
原告標章は著作権法2条1項1号にいう美術の範囲に属する著作物に該当するものとは認められないとしています。
結論として、原告の請求のうち、著作権侵害及び著作者人格権侵害に係る部分はいずれも理由がないと判断されています。
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2 会社法8条1項の「不正の目的」の有無
原告と被告は、本店所在地も業種も全く異にするものであることや、被告代表者自身が著名であり、社会的にも信用がある実業家であった事情を踏まえると、被告には原告の知名度や信用を利用しようとする意思も必要もなかったものと認めるのが相当であると裁判所は判断。
そうすると、被告は原告や原告標章の存在を知ることなく、被告商号を独自に考案し、これを使用したものと認めるのが相当であると判断。
これらの事情の下においては、被告が会社法8条1項にいう「不正の目的」をもって被告商号を使用したものと認めることはできないと判断しています(16頁以下)。
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3 被告ドメイン名による不正競争行為の有無
被告ドメイン名は、被告商品の商品名に相当するドメイン名にすぎないものであり、被告商号の使用等に不正なところがないという理解は、被告ドメイン名の取得、保有及び使用についても異なるところはないと裁判所は判断。
被告が不正競争防止法2条1項19号にいう「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的」を有していたものと認めることはできないと判断しています(19頁以下)。
結論として、原告の主張はいずれも容れられていません。
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■コメント
会社の商号が同一又は類似する場合に事業上のリスク(誤認混同惹起性や商標、著作物の類否など)があるかどうかは、起業の際でもチェックポイントとして重要な事項となります。
判決文の末尾に別紙として画像が掲載されているので、どのようなロゴデザインであったかが分かります。
文字列を上下二段に分けて、その間に下線のように文字列を入れる、といった配置は、デザインとしては、よくあることかと考えられ、事実、裁判所の和解勧告(2頁)からしても、たまたま似てしまったのかな、とも思われるところです(被告としては、商品のロゴ開発の際に、もう少し事前調査していれば、とは思われますが)。
ちなみに、被告代表者Bは「歩く百億円」の異名をお持ちだそうで、ウェブ検索すると、現在の被告商品のロゴデザインは一列の文字配置に変更されているようです。
ANOWA41について | ANOWA41|アノワジェル|株式会社アノワ