最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
書店業務管理システムソフトウェア事件
東京地裁令和3.9.17平成30(ワ)28215著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官 吉野俊太郎
裁判官 小田誉太郎
*裁判所サイト公表 2021.12.28
*キーワード:ソフトウェア、表示画面、図形の著作物、複製、翻案、編集著作物性、ユーザーインターフェース、商品等表示
--------------------
■事案
書店業務管理システムのソフトの表示画面の類否などが争点となった事案
原告:ソフトウェア開発販売会社
被告:ソフトウェア開発販売会社
--------------------
■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法10条1項6号、12条、21条、27条、不正競争防止法2条1項1号
1 被告表示画面の複製又は翻案該当性
2 被告表示画面2が編集著作物としての原告製品に係る著作権を侵害するか
3 不正競争防止法違反の有無
--------------------
■事案の概要
『本件は,書店業務管理のためのソフトウェア「Book Answer 3」(以下「原告製品」という。)を製造・販売している原告が,(1)被告が製造・販売する別紙物件目録記載1及び2の各ソフトウェア(以下「被告製品1」などといい,併せて「被告製品」という。)の表示画面(以下「被告表示画面1」などといい,併せて「被告表示画面」という。)は,原告製品の表示画面(以下「原告表示画面」という。)を複製又は翻案したものであり,原告の著作権(複製権又は翻案権,譲渡権,貸与権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとともに,(2)被告製品2は,原告製品の周知な商品等表示である原告表示画面と類似の表示画面を使用して,原告製品との混同を惹起するものであり,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するなどと主張して,被告に対し,著作権法112条又は不正競争防止法3条に基づき,侵害行為の差止め(請求1及び3)及び被告製品の記録媒体からの抹消(請求2)を求めるとともに,民法709条に基づき,損害賠償金4214万2304円(平成27年9月1日から平成30年8月30日までの36か月間に係る既発生のシステム利用料及び保守料相当額3834万2304円並びに弁護士費用相当額380万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10月13日から支払済みまで民法(平成29年法第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求4)並びに平成30年9月1日から被告が侵害行為を中止するまでの間,1か月当たり106万5064円(システム利用料及び保守料相当額)の支払(請求5)を求める事案である。』
(2頁)
<経緯>
H14.07 原告が三菱電機インフォメーションシステムズから事業譲渡
被告代表者Aが原告に入社
H17 原告が「Book Answer」開発、販売
H24 原告が「Book Answer 3」開発、販売
H25 Aが原告退社、被告を設立
H27.09 被告がPerfectionをリリース
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■判決内容
<争点>
1 被告表示画面の複製又は翻案該当性
原告は、被告製品の表示画面は原告表示画面と実質的に同一であり、又はその表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであると主張しました(62頁以下)。
この点について、裁判所は複製及び翻案の意義について言及した上で、ビジネスソフトウェアの表示画面における複製又は翻案該当性について言及。ビジネスソフトウェアの表示画面の内容や性質等に照らし、
「(1)両表示画面の個々の画面を対比してその共通部分及び相違部分を抽出し,(2)当該共通部分における創作性の有無・程度を踏まえ,被告製品の各表示画面から原告製品の相当する各表示画面の本質的な特徴を感得することができるかどうかを検討した上で,(3)ソフトウェア全体における表示画面の選択や相互の牽連関係の共通部分やその独自性等も考慮しつつ,被告表示画面に接する者が,その全体として,原告表示画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるどうか」(64頁)
を検討して判断すべきであると説示。
各表示画面の対比の結果として、
「原告表示画面と被告表示画面の共通する部分は,いずれもアイデアに属する事項であるか,又は,書店業務を効率的に行うに当たり必要な一般的な指標や情報にすぎず,各表示項目の名称の選択,配列順序及びそのレイアウトといった具体的な表現においても,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない上,両製品の配色の差違等により,利用者が画面全体から受ける印象も相当異なるというべきである。そして,被告表示画面について,他に原告表示画面の本質的特徴を直接感得し得ると認めるに足りる証拠はない。」
と判断。
また、原告が、表示画面の牽連性に関して、原告製品は画面の最上部にメニュータグを常時表示し、どの画面からも次の業務に移行できるようにしている点や画面の中央にサブメニュー画面を用意し、画面遷移なしに表示することを可能にしている点などに独自性があると主張しましたが、ありふれた構成又は工夫にすぎないなどとして、原告の主張を裁判所は認めていません(84頁以下)。
結論として、被告表示画面の複製又は翻案該当性は否定されています。
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2 被告表示画面2が編集著作物としての原告製品に係る著作権を侵害するか
原告は、原告製品の表示画面全体をみた場合、当該画面の選択及び配列に創作性があるので、原告製品は全体として編集著作物に当たると主張しました(85頁以下)。
裁判所は、一般論として当該ソフトウェアの表示画面が全体として編集著作物に当たるとの考え方を認めながらも、
「画面の最上部にメニュータグを常時表示し,そのいずれの画面からも次の業務に移行できるようにすることや,画面の中央にサブメニュー画面を用意し,画面遷移なしに表示することは,利用者の操作性や一覧性あるいは業務の効率性を重視するビジネスソフトウェアにおいては,ありふれた構成又は工夫にすぎないというべきであり,原告製品における表示画面の選択や相互の牽連性等に格別な創作性があるということはできない。」
などとして、原告の主張を認めていません。
結論として、原告製品が編集著作物に当たるとは認められず、被告表示画面2が編集著作物としての原告製品に係る著作権を侵害するということはできないと裁判所は判断しています。
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3 不正競争防止法違反の有無
原告は、被告製品の表示画面が不競法2条1項1号の規定する不正競争行為に該当すると主張しました。
この点について、裁判所は、原告表示画面には「商品等表示」該当要件の周知性及び特別顕著性のいずれも認められず、原告表示画面が「商品等表示」に該当するということはできないと判断。原告の主張を裁判所は認めていません(86頁以下)。
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■コメント
紛争の背景事情としては、被告会社代表者が原告会社の元取締役(書店業務部門責任者)であり、三菱インフォメーションシステムズ在籍中から書店業務管理システムの開発担当であった、ということがあります。
別紙の表示画面一覧を見ると、業務用ソフトウェアの表示画面(UI ユーザーインターフェース)としては、ユーザビリティや機能を考えると、どうしても似通ってしまうことが分かります。
書店業務管理システムソフトウェア事件
東京地裁令和3.9.17平成30(ワ)28215著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官 吉野俊太郎
裁判官 小田誉太郎
*裁判所サイト公表 2021.12.28
*キーワード:ソフトウェア、表示画面、図形の著作物、複製、翻案、編集著作物性、ユーザーインターフェース、商品等表示
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■事案
書店業務管理システムのソフトの表示画面の類否などが争点となった事案
原告:ソフトウェア開発販売会社
被告:ソフトウェア開発販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法10条1項6号、12条、21条、27条、不正競争防止法2条1項1号
1 被告表示画面の複製又は翻案該当性
2 被告表示画面2が編集著作物としての原告製品に係る著作権を侵害するか
3 不正競争防止法違反の有無
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■事案の概要
『本件は,書店業務管理のためのソフトウェア「Book Answer 3」(以下「原告製品」という。)を製造・販売している原告が,(1)被告が製造・販売する別紙物件目録記載1及び2の各ソフトウェア(以下「被告製品1」などといい,併せて「被告製品」という。)の表示画面(以下「被告表示画面1」などといい,併せて「被告表示画面」という。)は,原告製品の表示画面(以下「原告表示画面」という。)を複製又は翻案したものであり,原告の著作権(複製権又は翻案権,譲渡権,貸与権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとともに,(2)被告製品2は,原告製品の周知な商品等表示である原告表示画面と類似の表示画面を使用して,原告製品との混同を惹起するものであり,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するなどと主張して,被告に対し,著作権法112条又は不正競争防止法3条に基づき,侵害行為の差止め(請求1及び3)及び被告製品の記録媒体からの抹消(請求2)を求めるとともに,民法709条に基づき,損害賠償金4214万2304円(平成27年9月1日から平成30年8月30日までの36か月間に係る既発生のシステム利用料及び保守料相当額3834万2304円並びに弁護士費用相当額380万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10月13日から支払済みまで民法(平成29年法第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求4)並びに平成30年9月1日から被告が侵害行為を中止するまでの間,1か月当たり106万5064円(システム利用料及び保守料相当額)の支払(請求5)を求める事案である。』
(2頁)
<経緯>
H14.07 原告が三菱電機インフォメーションシステムズから事業譲渡
被告代表者Aが原告に入社
H17 原告が「Book Answer」開発、販売
H24 原告が「Book Answer 3」開発、販売
H25 Aが原告退社、被告を設立
H27.09 被告がPerfectionをリリース
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■判決内容
<争点>
1 被告表示画面の複製又は翻案該当性
原告は、被告製品の表示画面は原告表示画面と実質的に同一であり、又はその表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであると主張しました(62頁以下)。
この点について、裁判所は複製及び翻案の意義について言及した上で、ビジネスソフトウェアの表示画面における複製又は翻案該当性について言及。ビジネスソフトウェアの表示画面の内容や性質等に照らし、
「(1)両表示画面の個々の画面を対比してその共通部分及び相違部分を抽出し,(2)当該共通部分における創作性の有無・程度を踏まえ,被告製品の各表示画面から原告製品の相当する各表示画面の本質的な特徴を感得することができるかどうかを検討した上で,(3)ソフトウェア全体における表示画面の選択や相互の牽連関係の共通部分やその独自性等も考慮しつつ,被告表示画面に接する者が,その全体として,原告表示画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるどうか」(64頁)
を検討して判断すべきであると説示。
各表示画面の対比の結果として、
「原告表示画面と被告表示画面の共通する部分は,いずれもアイデアに属する事項であるか,又は,書店業務を効率的に行うに当たり必要な一般的な指標や情報にすぎず,各表示項目の名称の選択,配列順序及びそのレイアウトといった具体的な表現においても,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない上,両製品の配色の差違等により,利用者が画面全体から受ける印象も相当異なるというべきである。そして,被告表示画面について,他に原告表示画面の本質的特徴を直接感得し得ると認めるに足りる証拠はない。」
と判断。
また、原告が、表示画面の牽連性に関して、原告製品は画面の最上部にメニュータグを常時表示し、どの画面からも次の業務に移行できるようにしている点や画面の中央にサブメニュー画面を用意し、画面遷移なしに表示することを可能にしている点などに独自性があると主張しましたが、ありふれた構成又は工夫にすぎないなどとして、原告の主張を裁判所は認めていません(84頁以下)。
結論として、被告表示画面の複製又は翻案該当性は否定されています。
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2 被告表示画面2が編集著作物としての原告製品に係る著作権を侵害するか
原告は、原告製品の表示画面全体をみた場合、当該画面の選択及び配列に創作性があるので、原告製品は全体として編集著作物に当たると主張しました(85頁以下)。
裁判所は、一般論として当該ソフトウェアの表示画面が全体として編集著作物に当たるとの考え方を認めながらも、
「画面の最上部にメニュータグを常時表示し,そのいずれの画面からも次の業務に移行できるようにすることや,画面の中央にサブメニュー画面を用意し,画面遷移なしに表示することは,利用者の操作性や一覧性あるいは業務の効率性を重視するビジネスソフトウェアにおいては,ありふれた構成又は工夫にすぎないというべきであり,原告製品における表示画面の選択や相互の牽連性等に格別な創作性があるということはできない。」
などとして、原告の主張を認めていません。
結論として、原告製品が編集著作物に当たるとは認められず、被告表示画面2が編集著作物としての原告製品に係る著作権を侵害するということはできないと裁判所は判断しています。
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3 不正競争防止法違反の有無
原告は、被告製品の表示画面が不競法2条1項1号の規定する不正競争行為に該当すると主張しました。
この点について、裁判所は、原告表示画面には「商品等表示」該当要件の周知性及び特別顕著性のいずれも認められず、原告表示画面が「商品等表示」に該当するということはできないと判断。原告の主張を裁判所は認めていません(86頁以下)。
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■コメント
紛争の背景事情としては、被告会社代表者が原告会社の元取締役(書店業務部門責任者)であり、三菱インフォメーションシステムズ在籍中から書店業務管理システムの開発担当であった、ということがあります。
別紙の表示画面一覧を見ると、業務用ソフトウェアの表示画面(UI ユーザーインターフェース)としては、ユーザビリティや機能を考えると、どうしても似通ってしまうことが分かります。