最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

弁護士懲戒請求書事件(控訴審)

知財高裁令和3.12.22令和3(ネ)10046著作者人格権等侵害行為差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官    上田卓哉
裁判官    中平 健

*裁判所サイト公表 2021.12.28
*キーワード:懲戒請求書、著作物性、公表、引用、権利濫用

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■事案

弁護士懲戒請求書の著作物性などが争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審第1事件原告兼1審第2事件原告):弁護士
被控訴人兼控訴人(1審第1事件被告):弁護士
被控訴人(1審第2事件被告):弁護士

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■結論

一部変更(1審原告請求棄却)

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、4条、3条、32条、23条、18条、民法1条3項

1 本件懲戒請求書の著作物性
2 本件懲戒請求書の公表の有無
3 引用の適法性
4 権利濫用の成否
5 プライバシー権侵害の有無
6 本件記事3の掲載の不法行為性

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■事案の概要

『本件は,一審原告から本件懲戒請求を受けた弁護士である一審被告Yが自らのブログ上に掲載した,一審原告の主張に対する反論を内容とする本件記事1及び2(原判決別紙記事目録記載2の各記事)に関し,(1)一審被告Yが,一審原告の氏名が請求人として記載された本件懲戒請求書をPDFファイルに複製し,インターネットにアップロードした上,本件記事1内に同ファイルへの本件リンクを張った行為が,一審原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害するとともに,一審原告のプライバシー権を侵害するとして,一審原告が,一審被告Yに対し,著作権法112条1項に基づき,原判決別紙記事目録記載1の各ブログに本件記事1及び2を掲載することの差止めを求め,同条2項に基づき,本件記事1(本件リンク先のPDFファイルを含む。)及び2の削除を求めるとともに,著作権(公衆送信権)侵害の損害賠償として,本件懲戒請求書のファイルの削除に要した労力と時間に相当する財産的損害10万円と弁護士費用20万円の合計30万円,及び著作者人格権(公表権)侵害の損害賠償として慰謝料170万円の合計200万円並びにこれに対する不法行為の後である第1事件の訴状送達の日の翌日(令和2年3月5日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め〔第1事件〕,第1事件における一審被告Yの訴訟代理人となった一審被告Zが,第1事件に係る訴えの提起後,一審被告Zのブログ記事(本件記事3)に本件記事1に対するリンクを張ったことが,前記著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)の侵害の幇助に当たるとして,一審原告が,一審被告Zに対し,著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)の侵害の幇助の損害賠償として慰謝料150万円及びこれに対する不法行為の後である第2事件の訴状送達の日の翌日(令和2年9月26日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案〔第2事件〕である。』

『原判決は,一審被告Yに対し,原判決別紙記事目録記載1(1)のブログ(本件ブログ)に掲載されている本件記事1のうち同記載2(1)イのファイル(本件懲戒請求書のPDFファイル)の削除を命じ,その余の一審原告の請求をいずれも棄却した。そこで,一審原告及び一審被告Yが控訴した。』

『なお,一審原告は,第1事件について,訴え提起時から,著作権法112条1項に基づく請求をすることを明らかにしており,同請求については第1審において審理がされたが,請求の趣旨には,同項に対応する差止めの主文が挙げられなかった。そのため,一審原告は,当審において,同項に対応する差止めの主文(前記第1の1(2))を追加した。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件懲戒請求書の著作物性
2 本件懲戒請求書の公表の有無
3 引用の適法性
4 権利濫用の成否
5 プライバシー権侵害の有無
6 本件記事3の掲載の不法行為性

控訴審では、争点4の権利濫用の成否について、

(1)公衆送信権及び公表権により保護されるべき1審原告の利益
(2)1審被告Yによる本件記事1と本件リンクの目的
(3)本件リンクによる引用の態様の相当性

の点を詳細に検討。結論として、

『前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する,公衆送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動により,相当程度減少していたこと,前記(2)のとおり,本件記事1を作成,公表し,本件リンクを張ることについて,その目的は正当であったこと,前記(3)のとおり,本件リンクによる引用の態様は,本件事案における個別的な事情のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法として相当なものであったことを総合考慮すると,一審原告の一審被告Yに対する公衆送信権及び公表権に基づく権利行使は,権利濫用に当たり,許されないものと認めるのが相当である。』

として、原審と異なり、公衆送信権に基づく権利行使についても、権利濫用の抗弁を認めています(8頁以下)。

控訴審では結論として、争点4以外は、原審の結論が維持されており、権利濫用の全面的な成立を認めた上で、1審原告の請求はいずれも理由がないとして棄却し、1審被告Yに対して本件ブログに掲載されている本件懲戒請求書のPDFファイルの削除を命じた原判決主文第1項は相当でないとしています。

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■コメント

被告の権利濫用の抗弁について、一部(公表権に基づく請求)を認めていた原審と異なり、控訴審では全面的(公衆送信権と公表権に基づく請求)に認めて、1審原告の請求は棄却の判断となっています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和3.4.14令和2(ワ)4481著作者人格権等侵害行為差止等請求事件等
原審記事