最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
自然保護センター展示システム事件
大阪地裁令和3.11.11平成31(ワ)2534損害賠償等請求事件PDF
別紙
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 杉浦正樹
裁判官 杉浦一輝
裁判官 布目真利子
*裁判所サイト公表 2021.12.13
*キーワード:システム開発契約、自治体、著作物性、業務委託契約
--------------------
■事案
インターネット展示システムの著作物性や契約違反性が争点となった事案
原告:環境政策コンサル会社
被告:福井県
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法2条1項1号
1 本件展示システムの著作物性
2 本件使用許諾契約の成否及び債務不履行の有無等
3 国家賠償法上の違法行為の有無等
--------------------
■事案の概要
『本件は,被告の運営する福井県自然保護センター(以下「本件センター」という。)のインターネット展示システム(以下「本件展示システム」という。)を構築等した原告が,被告に対し,以下の請求をする事案である。
(1)差止及び廃棄請求
ア 被告が本件展示システムに使用されているルータ(以下「本件ルータ」という。)の80番ポートを閉鎖した行為(以下「本件閉鎖行為」という。)及び本件ルータからADSL回線のモジュラージャックを取り外した行為(以下「本件引抜行為」という。また,これと本件閉鎖行為を併せて「本件閉鎖行為等」という。)について,本件展示システムに係る原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく差止(著作権法(以下「法」ということがある。)112条1項)及び廃棄(同条2項)請求
イ 本件閉鎖行為等及び被告が本件展示システムに係るサーバ設計書(以下「本件サーバ設計書」という。)を第三者に開示した行為(以下「本件開示行為」という。)について,原告と被告との間の本件展示システムに係る使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)の債務不履行(同一性保持義務違反及び秘密保持義務違反)に基づく差止及び廃棄請求
(2)損害賠償請求
本件開示行為について,被告による本件使用許諾契約に基づく秘密保持義務の不履行又は原告の秘密ないし営業活動上の利益を侵害する違法行為であるとして,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前の民法」という。)415条又は国家賠償法1条1項に基づく8569万円の損害賠償及びこれに対する平成28年3月26日(原告が被告に対し本件使用許諾契約に基づく許諾の撤回等を求めた日)から支払済みまで改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求』
(2頁以下)
<経緯>
H14.05 被告と乃村工藝社(原告が下請)が本件センター展示更新工事の請負契約締結
H18.04 原被告間で旧展示システムの保守運用の業務委託契約締結
H21.12 原被告間で「自然保護センターインターネット展示システム機器購入および保守委託業務」契約(本件購入契約)締結
「自然保護センターインターネット展示システム稼働環境構築・システム移行業務」契約(本件構築契約)締結
本件展示システム保守点検業務委託契約(本件保守点検契約)締結
H27.07 被告がHPリニューアルのためサイト閉鎖
■原告制作の本件サーバ設計書
H15.02 初版
H22.03 第3版
H24.11 第3.03版
■本件購入契約書及び本件構築契約書12条(要旨) (4頁)
1項 契約により生じた契約目的物の所有権は,当該目的物に相当する委託料が完済されたときに,原告から被告へ移転するものとする。
3項 契約により作成される成果物の著作権の取扱いは,次の各号に定めるところによる。
(1)原告は,法21条,27条,28条に規定する権利について,被告に無償で譲渡するものとする。
(2)被告は,法20条2項3号又は4号に該当しない場合においても,その使用のために,成果物を改変し又は任意の著作者名で任意に公表することができる。
(4)前各号にかかわらず委託業務により作成される成果物のうち,被告と原告が従来から有していたプログラム等の著作権は,それぞれ被告と原告に帰属する。
■本件保守点検契約に係る仕様書 (22頁)
「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGISの著作権」は原告に帰属し,原告は本件センターに対しその使用を許諾する
--------------------
■判決内容
<争点>
1 本件展示システムの著作物性
原告は、本件展示システムと本件サーバ設計書は別の著作物であり、本件展示システムの著作物性を前提に、本件展示システムの被告による閉鎖行為が改変にあたり、同一性保持権侵害に該当すると主張しました(19頁以下)。
この点について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義に言及した上で、
「本件展示システム自体につき著作物性が認められるためには,本件サーバ設計書を離れてなお固有の創作性が認められる必要がある。しかるに,本件展示システム自体は,いわば本件サーバ設計書の記載を技術的・機械的に具体化したものにとどまるものというべきであって,固有の創作性があると見るべき部分に関する具体的な主張立証はない。そうである以上,本件展示システム自体をもって創作的な表現と見ることはできない。」(23頁)
などとして、本件サーバ設計書とは別個の著作物性を本件展示システム自体に認めることを否定。
結論として、被告に対する著作者人格権に基づく差止及び廃棄請求は認められていません。
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2 本件使用許諾契約の成否及び債務不履行の有無等
裁判所は、仮に「エンドユーザー使用許諾契約」(本件使用許諾契約。原告が契約書を制作)が成立していて、被告が原告に対して同一性保持義務及び秘密保持義務(同契約書3条)を負う場合であっても、いずれの義務についても被告による不履行はないと判断。
原告は、被告に対して本件使用許諾契約の債務不履行を理由とする差止等請求権及び損害賠償請求権を有しないとして、原告の主張は認められていません(24頁以下)。
--------------------
3 国家賠償法上の違法行為の有無等
本件サーバ設計書記載のパスワードに係る情報などの第三者への被告による開示行為が、原告の権利、利益を侵害する旨、原告は主張しましたが、裁判所は認めていません(27頁以下)。
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■コメント
原告は展示システムの初期構築段階から関与していて、長年に亘って保守管理も担当していたものの、サイトリニューアルにあたって、受託できなかったことが紛争の一因のようです。
本件購入契約書と本件構築契約書には、成果物の著作権の譲渡項目や著作者人格権項目があります(判決文PDF4頁参照)。ベンダー側としては、仕様書と離れて展示システム自体の著作物性を足掛かりに、著作者人格権を主張しようと考えたようですが、うまく行きませんでした。
自然保護センター展示システム事件
大阪地裁令和3.11.11平成31(ワ)2534損害賠償等請求事件PDF
別紙
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 杉浦正樹
裁判官 杉浦一輝
裁判官 布目真利子
*裁判所サイト公表 2021.12.13
*キーワード:システム開発契約、自治体、著作物性、業務委託契約
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■事案
インターネット展示システムの著作物性や契約違反性が争点となった事案
原告:環境政策コンサル会社
被告:福井県
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号
1 本件展示システムの著作物性
2 本件使用許諾契約の成否及び債務不履行の有無等
3 国家賠償法上の違法行為の有無等
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■事案の概要
『本件は,被告の運営する福井県自然保護センター(以下「本件センター」という。)のインターネット展示システム(以下「本件展示システム」という。)を構築等した原告が,被告に対し,以下の請求をする事案である。
(1)差止及び廃棄請求
ア 被告が本件展示システムに使用されているルータ(以下「本件ルータ」という。)の80番ポートを閉鎖した行為(以下「本件閉鎖行為」という。)及び本件ルータからADSL回線のモジュラージャックを取り外した行為(以下「本件引抜行為」という。また,これと本件閉鎖行為を併せて「本件閉鎖行為等」という。)について,本件展示システムに係る原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく差止(著作権法(以下「法」ということがある。)112条1項)及び廃棄(同条2項)請求
イ 本件閉鎖行為等及び被告が本件展示システムに係るサーバ設計書(以下「本件サーバ設計書」という。)を第三者に開示した行為(以下「本件開示行為」という。)について,原告と被告との間の本件展示システムに係る使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)の債務不履行(同一性保持義務違反及び秘密保持義務違反)に基づく差止及び廃棄請求
(2)損害賠償請求
本件開示行為について,被告による本件使用許諾契約に基づく秘密保持義務の不履行又は原告の秘密ないし営業活動上の利益を侵害する違法行為であるとして,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前の民法」という。)415条又は国家賠償法1条1項に基づく8569万円の損害賠償及びこれに対する平成28年3月26日(原告が被告に対し本件使用許諾契約に基づく許諾の撤回等を求めた日)から支払済みまで改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求』
(2頁以下)
<経緯>
H14.05 被告と乃村工藝社(原告が下請)が本件センター展示更新工事の請負契約締結
H18.04 原被告間で旧展示システムの保守運用の業務委託契約締結
H21.12 原被告間で「自然保護センターインターネット展示システム機器購入および保守委託業務」契約(本件購入契約)締結
「自然保護センターインターネット展示システム稼働環境構築・システム移行業務」契約(本件構築契約)締結
本件展示システム保守点検業務委託契約(本件保守点検契約)締結
H27.07 被告がHPリニューアルのためサイト閉鎖
■原告制作の本件サーバ設計書
H15.02 初版
H22.03 第3版
H24.11 第3.03版
■本件購入契約書及び本件構築契約書12条(要旨) (4頁)
1項 契約により生じた契約目的物の所有権は,当該目的物に相当する委託料が完済されたときに,原告から被告へ移転するものとする。
3項 契約により作成される成果物の著作権の取扱いは,次の各号に定めるところによる。
(1)原告は,法21条,27条,28条に規定する権利について,被告に無償で譲渡するものとする。
(2)被告は,法20条2項3号又は4号に該当しない場合においても,その使用のために,成果物を改変し又は任意の著作者名で任意に公表することができる。
(4)前各号にかかわらず委託業務により作成される成果物のうち,被告と原告が従来から有していたプログラム等の著作権は,それぞれ被告と原告に帰属する。
■本件保守点検契約に係る仕様書 (22頁)
「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGISの著作権」は原告に帰属し,原告は本件センターに対しその使用を許諾する
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■判決内容
<争点>
1 本件展示システムの著作物性
原告は、本件展示システムと本件サーバ設計書は別の著作物であり、本件展示システムの著作物性を前提に、本件展示システムの被告による閉鎖行為が改変にあたり、同一性保持権侵害に該当すると主張しました(19頁以下)。
この点について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義に言及した上で、
「本件展示システム自体につき著作物性が認められるためには,本件サーバ設計書を離れてなお固有の創作性が認められる必要がある。しかるに,本件展示システム自体は,いわば本件サーバ設計書の記載を技術的・機械的に具体化したものにとどまるものというべきであって,固有の創作性があると見るべき部分に関する具体的な主張立証はない。そうである以上,本件展示システム自体をもって創作的な表現と見ることはできない。」(23頁)
などとして、本件サーバ設計書とは別個の著作物性を本件展示システム自体に認めることを否定。
結論として、被告に対する著作者人格権に基づく差止及び廃棄請求は認められていません。
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2 本件使用許諾契約の成否及び債務不履行の有無等
裁判所は、仮に「エンドユーザー使用許諾契約」(本件使用許諾契約。原告が契約書を制作)が成立していて、被告が原告に対して同一性保持義務及び秘密保持義務(同契約書3条)を負う場合であっても、いずれの義務についても被告による不履行はないと判断。
原告は、被告に対して本件使用許諾契約の債務不履行を理由とする差止等請求権及び損害賠償請求権を有しないとして、原告の主張は認められていません(24頁以下)。
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3 国家賠償法上の違法行為の有無等
本件サーバ設計書記載のパスワードに係る情報などの第三者への被告による開示行為が、原告の権利、利益を侵害する旨、原告は主張しましたが、裁判所は認めていません(27頁以下)。
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■コメント
原告は展示システムの初期構築段階から関与していて、長年に亘って保守管理も担当していたものの、サイトリニューアルにあたって、受託できなかったことが紛争の一因のようです。
本件購入契約書と本件構築契約書には、成果物の著作権の譲渡項目や著作者人格権項目があります(判決文PDF4頁参照)。ベンダー側としては、仕様書と離れて展示システム自体の著作物性を足掛かりに、著作者人格権を主張しようと考えたようですが、うまく行きませんでした。