最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

貴船神社写真事件

大阪地裁令和3.10.28令和2(ワ)9699著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官    杉浦一輝
裁判官    峯健一郎

*裁判所サイト公表 2021.11.5
*キーワード:写真、使用許諾、継続的契約、信頼関係破壊、解除、契約の終期

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■事案

神社の行事などを撮影した写真の使用許諾契約の終期などが争点となった事案

原告:写真家
被告:貴船神社(宗教法人)

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法541条

1 本件利用許諾に基づく本件使用写真の利用権の存続期間
2 差止及び抹消、廃棄の必要性

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告が保有する別紙写真目録1記載の写真のデータ(以下「本件写真」という。)は原告が著作権を有する著作物であって,被告に無償で利用を許諾したものであるから,原告が利用許諾を解約した後に,被告が本件写真のうち別紙写真目録2記載の写真のデータ(以下「本件使用写真」という。)をインターネット上に掲載した行為は,本件使用写真に係る原告の著作権(公衆送信権)の侵害であると主張して,被告に対し,著作権に基づく本件写真のインターネット上の掲載,自動公衆送信,送信可能化の差止め(著作権法112条1項)及び抹消,廃棄(同条2項)を求めると共に,著作権法114条3項に基づく損害賠償として3009万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(令和2年11月4日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(20頁)

<経緯>

H27 原告が被告に本件写真を提供
R01 原告が被告にサイトからの写真の削除要求
R01 被告が京都弁護士会紛争解決センターに和解あっせん申立
R02 被告サイトリニューアルが11月に完了
R02 被告がYouTubeでの掲載を12月に停止
R03 被告がYouTubeサーバーから削除

本件写真:貴船神社の社殿、風景、行事等を原告が撮影したもの

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■判決内容

<争点>

1 本件利用許諾に基づく本件使用写真の利用権の存続期間

(1)本件利用許諾の内容

本件利用許諾は、原告が継続的に被告の協力の下で貴船神社の年中行事等の写真を撮影して被告に提供し、被告において提供を受けた写真をウェブサイトやSNS等に使用して、被告の広報あるいは宣伝に利用するものであること、
また、原告においても、前記写真を適宜SNSで利用して原告の宣伝広告に役立てることを無期限かつ無償で承諾することを内容とする包括的な合意と裁判所は認定しています(13頁)。

(2)原告による本件解約告知について

原被告間の継続的な関係性から、本件写真全部について一方的に利用を直ちに禁止することは、当事者に不測の損害を被らせるものというべきであって、原則として許容されず、信頼関係を破壊すべき事情が生じた場合に催告の上解除することができる(民法541条)と裁判所は判断。

また、本件利用許諾が、原告が著作権者である本件写真を期限の定めなく無償で利用させることを内容とするものであることを考慮すると、解除することができる場合にはあたらない場合であっても、相手方が不測の損害を被ることのないよう合理的な期間を設定して、本件写真の利用の停止を求めた上で、同期間の経過をもって本件利用許諾を終了させることとする解約告知であれば、許容される余地はあると裁判所は判断。

そのうえで、原告が被告に対して、本件写真の削除等を要求したことについて、被告が本来の目的以外に本件写真を利用した等、本件利用許諾それ自体に関する内容について、原告と被告との間の信頼関係が損なわれたとすべき事情は何ら主張されていないと裁判所は認定。
結論として、本件解約告知に正当な理由があるとは認められないと判断しています(14頁以下)。

(3)本件利用許諾に基づく利用許諾の終期について

本件利用許諾に基づく利用許諾の終期について、裁判所は、

・同様の写真を撮影、用意するためには1年以上の期間を要すること
・被告の助言を受けて構成されていた広告媒体の再構築に相応の期間を要すること
・原告の削除要求が突如として行われたものであること

といった事情を考慮して、原告が一方的に解約告知をした場合、本件利用許諾の終了に至る予告期間としては、原告が削除等を要求した令和元年9月13日から1年3か月後の、令和2年12月12日までを要すると認めるのが相当であると判断しています(15頁以下)。

(4)公衆送信権侵害性

本件利用許諾の効力は、令和2年12月12日以前に消滅することはなく、被告は令和2年11月23日に被告ウェブサイトにおいて本件使用写真の掲載を停止し、令和2年12月2日にYouTubeの被告アカウントサイトにおいても本件使用写真の掲載を停止したなどとして、被告において本件使用写真に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したものとは認められないと裁判所は判断しています(16頁以下)。

結論として、原告の被告に対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は認められていません。

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2 差止及び抹消、廃棄の必要性

被告は、写真撮影及びウェブサイト等の更新を終えて本件使用写真を掲載しないように広告媒体の再構築を終えており、本件写真のデータを全て削除したことから、被告において将来、本件写真をインターネット上に掲載し、自動公衆送信又は送信可能化するおそれがあるとは認められないと裁判所は判断。
原告の被告に対する本件写真の被告のウェブサイトへの掲載、自動公衆送信又は送信可能化の差止及び本件使用写真のデータの抹消、本件写真のデータの廃棄請求には理由がないと判断しています(17頁)。

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■コメント

原告写真家の対応にあたっていた被告神社側の広報担当者(権禰宜)で原告の友人でもあった者が神社を退職したことを契機に、神社宮司代表者と原告の関係が悪化、訴訟にまで至った経緯があるようです(10頁以下参照)。
お互いにメリットがあった中での関係解消の事後処理のための合理的な期間として、1年3か月もの期間が必要だったかどうかは、事例判断として難しいところです。

神社関連の紛争というと、八坂神社祇園祭ポスター事件(東京地裁平成20.3.13平成19(ワ)1126損害賠償請求事件)を思い出します。