最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

相続著作物事務管理事件

東京地裁令和3.8.10令和1(ワ)30126等著作権共有持分等確認請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    棚井 啓
裁判官    仲田憲史

*裁判所サイト公表 2021.8.16
*キーワード:相続、共有著作権、代表者、事務管理、有益費、経費、覚書、解釈

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■事案

遺族間で共有する著作物の管理を巡って紛争になった事案

本訴原告(反訴被告):A
本訴被告(反訴原告):B、C
亡本訴被告E訴訟承継人(反訴原告):D

亡G−E(長男)、H(次男)、B(三男)、C(長女)
亡E−D(子)、亡H−A(子)

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■結論

本訴一部認容、反訴一部認容

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■争点

条文 著作権法64条、65条、民法697条、702条

1 本件著作権につき、原告が4分の1の割合による共有持分を有することの確認を求める請求に確認の利益があるか
2 原告が現在、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあるといえるか
3 Hが本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員について
4 原告が本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員について
5 H又は原告の利得額、因果関係のある損失について

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■事案の概要

『本件は,F(筆名G。以下「G」という。)の著作物である別紙著作物目録記載の著作物に係る著作権(以下「本件著作権」という。)につき,Gの子のH(以下「H」という)が著作権の利用許諾等の管理をし,Hの死後はその子である原告がこれを引き継いだところ,原告と本件著作権を共有する,Gの子でありHのきょうだいである訴訟承継前亡本訴被告E(以下「E」という。),被告B及び被告C(以下,E,被告B及び被告Cを併せて「Eら」という。)との間で,本件著作権の収益の分配方法等で紛争になったとして,本訴は,原告が,被告らに対して,原告が本件著作権の共有持分を有すること及び本件著作権につき著作権法65条4項,64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあることの確認を請求する事案であり,反訴は,本件著作権に係る収益を管理していたH又はHの死亡後に事実上収益を管理していた原告において経費として計上して収受した金員のうちの一部には理由がなくその収益の一部につき,法律上の原因なく収受したとして,被告らが,Hを相続した原告に対し,不当利得(ただし,「第1 請求」の2(1)は,平成27年度分から平成30年度分の経費に係るもの,同(2)は,平成31年度分から令和2年度分の経費に係るもの)の返還を請求する事案である。』

<経緯>

S62   G逝去
H09   Gの妻I逝去
    亡Gの次男Hが著作権管理継続
    「G著作権に関わる覚え書」作成
H27.06 Hが公正証書遺言作成
H28.08 H逝去
    亡Hの子原告Aが著作権管理継続
H30.03 Eらの弁護士が原告に通知
R01.11 本訴提起
R02.01 E逝去

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■判決内容

<争点>

1 本件著作権につき、原告が4分の1の割合による共有持分を有することの確認を求める請求に確認の利益があるか

H死亡後、本訴提起前に原告とEらとの間で弁護士間のやり取りがされており、当時、原告Aが本件著作物の共有持分を有するか否かについて紛争になっていた経緯がありました。
本訴において被告らが原告Aの権利を認める主張をするに至ったことを考慮しても、未だ確認の利益は失われていないと解するのが相当であると裁判所は判断。
裁判所は、確認の利益に係る原告の主張には理由があると判断しています。
そして、原告と被告らは本件著作権をそれぞれ4分の1の割合で準共有しているとして、原被告らとの間において別紙著作物目録記載の著作物について、原告が4分の1の割合による著作権の共有持分を有することを確認しています(9頁以下)。

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2 原告が現在、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあるといえるか

Gの死後、妻Iが本件著作権の利用許諾等の管理を行っていましたが、妻Iの死後は長男Eらの委託を受けて、GやIと同居していた次男Hが著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者となり、単独で本件著作権の利用許諾等を行っていました。また、その際には次男Hは、G遺族会代表という肩書を使用することがありました。
その後、Hは兄弟であるB、C、Eと「G著作権に関わる覚え書」表題の覚書を作成し、Hの死後は、その子A(原告)が管理を継続していました(10頁以下)。
裁判所は、覚書の記載内容について、その内容やその他の事情を総合考慮した上で、HとEらとの間でHの死亡後に原告Aを共有著作権行使の代表者とすることを記載したものとは解釈されないと判断。
本件覚書によって、原告主張の合意が成立したとは認められず、また、他に原告主張の合意を認めるに足りる証拠はないとして、原告が共有著作権の行使の代表者の地位にあるとの原告の主張を裁判所は認めていません。

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3 Hが本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員について

裁判所は、諸事情を勘案した上で、HとEらとの間では分配金の計算にあたってはHの報酬(手数料)である総収入の5%を控除し、さらに本件著作権の管理に係る経費を控除した上で、残額につき4等分することで合意が成立していたと認められると判断しています(16頁以下)。

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4 原告が本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員について

亡Hの子である原告Aを本件著作物の著作権行使の代表者とすることについて、Hとその兄弟であるEらとの間で合意が成立していたとは認められず(争点2)、原告AとEらとの間で本件覚書をもって原告が本件著作権の利用許諾及び著作権料の分配を担当すること及び管理方針について、合意が成立していたとは認められないと裁判所は判断(18頁以下)。
原告AがHの死後に本件著作権の管理として行ってきた本件著作権に係る著作権料の受領、分配は、いずれも事務管理(民法697条以下)として行ってきたというべきであると判断。
原告が著作権料の分配にあたって控除することが正当化される費用等は、事務管理を前提としたものに限られると裁判所は判断しています。

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5 H又は原告の利得額、因果関係のある損失について

事務管理を前提として、H又は原告Aの金員の取得が、被告らの損失と因果関係のある利得といえるかどうかを裁判所は検討しています(19頁以下)。
裁判所は、Hが死亡する前後の時期に分けて判断。「地代家賃」「旅費交通費」「通信費」「接待交際費」「支払手数料」「雑費」などの名目について検討をしています。
H死亡後については、原告Aによる事務管理として評価されるとして、原告が費用償還できるのは有益費に限られる(民法702条1項)と判断しています。

結論として、Hによる著作権管理については法律上の原因のない利得があるとはいえないと判断。
それに対して、原告Aによる著作権管理については、原告Aの不当利得は平成28年度分から平成30年度分については、被告ら1人について、別紙利得計算表1の「利得額(1人分)」欄の合計額である3万9682円、平成31年度分から令和2年度分については、被告1人について別紙利得計算表2の「利得額(1人分)」欄の合計額である13万5401円となると判断しています。

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■コメント

事案としては、相続した著作物の著作権の管理に関して、遺族間で管理方法や経費の扱い方について紛争になったものです。
Gがどなたか、判決文からは判然としませんが、児童文学作家で、ロシア文学にも影響を与えた鹿児島にゆかりのある児童文学作家、昭和62年没というと、椋鳩十さんでしょうか。椋鳩十さんのお孫さんにあたるかた(原告Aかと思われます)は、椋鳩十さんの研究をされたり、学芸員、作家をされておいでです。
椋鳩十さんの作品は動物を扱った童話が多くて、子供の頃は教科書などでも掲載されていたりして、多くのかたが親しんだ作家さんではないでしょうか。