最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ストレッチクッション事件(控訴審)

知財高裁令和3.6.29令和3(ネ)10024知財及び損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 森 義之
裁判官    中島朋宏
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2021.7.21
*キーワード:クッション、美術の著作物、著作物性、応用美術論、ライセンス契約

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■事案

エクササイズやストレッチに利用できるクッションの著作物性が争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :個人事業主
被控訴人(1審被告):通販会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、不正競争防止法2条1項3号

1 本件契約が更新され現在まで存続しているか
2 平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか
3 1審原告が本件商品に係る著作権を有しているか
4 本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか
5 本件覚書の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか
6 1審原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか


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■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が製造,販売する原判決別紙2物件目録記載の本件商品(「グッドコア」という名称の姿勢保持具[以下,便宜上「クッション」ということがある。])は,控訴人が被控訴人と共同開発したもので,控訴人と被控訴人は,本件商品に関し,原判決別紙1記載の本件覚書に記載されたとおりの内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結したなどと主張して,次の各請求をした事案である。
(略)』
『原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したことから,これを不服として控訴人が控訴を提起した。』

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■判決内容

<争点>

1 本件契約が更新され現在まで存続しているか
2 平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか
3 1審原告が本件商品に係る著作権を有しているか
4 本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか
5 本件覚書の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか
6 1審原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか


結論として、控訴審も原審の判断を維持しています。

なお、争点3に関して、控訴審での控訴人の補充主張なども踏まえ、著作物性の判断について、

「本件商品のような実用に供される工業製品であっても,「実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性」を備えていると認められる場合には,著作権法2条1項1号の「美術」の著作物として,著作物性を有するものと解される。しかし,そのような美的特性を備えていると認められない場合には,著作物性を有することはないものと解される。以上の点は,著作権法に明文の規定があるものではないが,実用に供される工業製品は,意匠法によって保護されるものであり,意匠法と著作権法との保護の要件,期間,態様等の違いを考えると,「実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性」を備えていると認められる場合はともかく,そうでない場合は,著作権法ではなく,もっぱら意匠法の規律に服すると解することが,我が国の知的財産法全体の法体系に照らし相当であると解されるからである。これに反する控訴人の主張を採用することはできない。」(15頁以下)

としたうえで、本事案へのあてはめとして、

「本件商品は,全体として実用に供される工業製品として把握されるものであって,X字形の印象を与える形状は,幅広い体型にフィットさせるという目的で採用されたものであり(甲1(15)),突出部分に2種あるのも同様の理由によるものであり(甲3(3)),また,6個の突起部分も,エクササイズやストレッチをする際の補助具としての機能から設定されるものである(甲3(3)〜(7),甲16(1),甲19)。控訴人が主張するように,本件商品は,形状に工夫が凝らされていて,これを見た者に美しいと感じさせることがあり,そのために機能的な面で犠牲を払った点があるとしても,エクササイズやストレッチをする際の補助具としての実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性を備えていると認めることはできない。」

としています。

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■コメント

原審でも応用美術論について、「実用上の機能や目的を主とするものであって,それを離れた美的鑑賞性を有しているとはいえない」(原審判決文PDF11頁)と実用上の機能面と美的鑑賞性の分離の視点に言及していましたが、控訴審では一層明確に説示しています。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和3.2.17令和1(ワ)34531知財及び損害賠償請求事件
原審記事