最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「放置少女」放置系RPGアプリゲーム類否事件

東京地裁令和3.2.18平成30(ワ)28994損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田中孝一
裁判官    奥 俊彦
裁判官    西尾信員

*裁判所サイト公表 2021.6.9
*キーワード:ゲーム、複製、翻案

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■事案

歴史をテーマとする美少女育成型の放置系RPG(スマホアプリ)の類否が争点となった事案

原告:ネットサービス会社
被告:スマホアプリ企画制作会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条、法適用通則法7条、8条、13条

1 原告が本件著作権の共有持分権を有するか
2 被告ゲームの制作・配信行為が本件著作権を侵害するか

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■事案の概要

『本件は,原告が,関連会社2社と共に,別紙原告ゲーム目録記載のゲーム(以下「原告ゲーム」という。)に係る5 著作権(原告ゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せ並びに原告ゲームのプログラムに係る複製権・翻案権・公衆送信権。以下「本件著作権」という。)を共有しているところ,被告が別紙被告ゲーム目録記載のゲーム(以下「被告ゲーム」という。)を制作・配信する行為は,本件著作権を侵害しており,上記関連会社2社から,同社らの被告に対する本件著作権侵害に基づく損害賠償請求権(以下,単に「本件債権」という。)の譲渡を受けたと主張して,被告に対し,本件著作権に基づき,被告ゲームの複製及び公衆送信の差止め並びにこれを記録したコンピューター及びサーバー内の記録媒体からの同記録の削除を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金5760万円((1)著作権法114条2項に基づく損害4800万円,(2)弁護士費用960万円)及びうち480万円に対する平成30年10月2日(訴状送達の日の翌日)から,うち5280万円に対する令和2年2月5日(訴えの変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』

『なお,原告は,本件著作権侵害に基づく被告ゲームの複製及び公衆送信の差止請求並びにこれを記録したコンピューター及びサーバー内の記録媒体からの同記録の削除請求(前記第1の1,2)に係る訴えを取り下げる旨を述べたが,これに対し被告は同意しなかったため,上記訴えの一部取下げの効力は生じていない。』
(2頁)

<経緯>

H29 原告が原告ゲームを配信
H30 被告が被告ゲームを配信
H30 配信差止仮処分命令申立(東京地裁平成30(ヨ)22081)
R01 被告ゲームの配信を一時停止

原告ゲーム:放置少女〜百花繚乱の萌姫たち〜
被告ゲーム:戦姫コレクション〜戦国乱舞の乙女たち〜

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■判決内容

<争点>

1 原告が本件著作権の共有持分権を有するか

原告は、中国法人である北京COM4LOVESが職務著作として本件著作権を取得した後、香港法人である香港COM4LOVESに対して本件著作権の共有持分権を譲渡し、さらに同社は原告に対して本件著作権の共有持分権の一部を譲渡したため、原告は本件著作物の共有持分権(翻案権を含む)を有していると主張しました。
この点について、裁判所は、準拠法について法性決定などしたうえで、結論として、原告は本件著作権の共有持分権(翻案権を含む)を有していると判断しています(32頁以下)。

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2 被告ゲームの制作・配信行為が本件著作権を侵害するか

原告は、被告ゲームが原告ゲーム全体をデッドコピーした上で、アイコンやキャラクターを変更したものであり、原告ゲームを複製、翻案したものであると主張しました。
裁判所は、著作物性や複製、翻案の意義に言及した上で、

「本件のような携帯電話機等を用いたゲームについては,通常の映画とは異なり,システムないしルールが決められ,プレイヤーはシステムないしルールに基づいてプレイするところ,このようなゲームのシステムないしルール自体はアイデアそのものであり,著作物ということはできず,システムないしルールに基づき具体的に表現されたものがある場合に,初めてその創作性の有無等が問題となるというべきである。」

「また,このようなゲームは,プレイヤーが参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため,プレイヤーが必要とする情報を表示し,又はプレイヤーの選択肢を表示するための画面(ユーザーインターフェース)(乙9〜11)を表示する必要があり,また,ディスプレイ上に表示される画面は常に一定ではなく,プレイヤーが各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる画面に遷移し,これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっているところ,一連のまとまった表現として把握される複数の画像が,プレイヤーの操作・選択により,又はあらかじめ設定されたプログラムに基づいて,連続的に展開することにより形成されている場合には,一連のまとまった表現を構成する各画像自体の創作性及び表現性のみならず,その組合せ・配列により表現される画像の変化も,著作権法による保護の対象となり得る。もっとも,このようなゲームにおける各画像及びその組合せ・配列については,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から機能的な面に基づく制約を受けざるを得ないため,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず,上記制約を考慮してもなおゲーム作成者の個性が表現されているものとして著作物性(創作性)を肯定し得るのは,他の同種ゲームとの比較の見地等からして,特に特徴的であり独自性があると認められるような限定的な場合とならざるを得ないものというべきである。」

と類否判断の基準を説示。そして、原告ゲームの基本的構成、具体的構成、利用規約、ゲーム全体と原告ソースコードについて著作権侵害の成否を検討しています。

(1)ゲームの構成、機能、画面配置等及びこれらの組合せ(37頁以下)

・基本的構成 システム、機能で共通点はアイデアにすぎない
・具体的構成 システム、機能で共通点はアイデアにすぎない。具体的表現で相違がある
・利用規約  定型的であり共通部分に創作性がない
・ゲーム全体 アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームのそれと同一性を有するにすぎないものというほかない

(2)ゲームのプログラム

原告は、被告ゲームの「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムは原告ゲームの「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムを複製又は翻案して作成されたものであり、原告ソースコードに係るプログラム著作権を侵害している旨主張しました。
この点について、裁判所は、結論として、被告ソースコードは表現上の創作性がない部分において原告ソースコードと同一性を有するにすぎないとして、原告ソースコードの複製又は翻案には当たらないと判断しています(42頁以下)。

結論として、原告の著作権侵害の主張は認められていません。

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■コメント

歴史をテーマとしたロールプレイングゲーム(RPG)で、プレーヤーがアプリを閉じてもゲームが自動進行して経験値を獲得してキャラクターを育てる、いわゆる放置系のゲームの類否が争点となった事案です。
原告ゲームの「放置少女」は、橋本環奈のTVCMをご覧になったかたも多いのではないでしょうか。
被告ソースコードに原告ゲームの開発担当者の名前が残っているとか被告ゲームに原告ゲームと同じバグがあるなど、相当程度の依拠が認められるものの(41頁)、類否の判断としては、複製や翻案にあたらないとされています。
被告ゲームは配信等差止仮処分命令申立もあり、その後、配信を停止しています。また、被告ゲームTwitter公式アカウントも停止状態のようですし、被告のものと思われるドメインも売りに出されているようです。

なお、ゲームの類否判断の裁判例としては、「魚の引き寄せ画面」の類否が争点となった釣りゲーム事件(グリー対DeNA)が思い返されます。

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■過去のブログ記事

「釣りゲータウン2」事件(控訴審)
知財高裁平成24.8.8平成24(ネ)10027著作権侵害差止等請求控訴事件
記事

「釣りゲータウン2」事件(原審)
東京地裁平成24.2.23平成21(ワ)34012著作権侵害差止等請求事件
記事

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■参考サイト

原告ゲーム 放置少女 〜百花繚乱の萌姫たち