最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ストレッチクッション事件

東京地裁令和3.2.17令和1(ワ)34531知財及び損害賠償請求事件PDF
別紙1
別紙2
別紙3

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官    三井大有
裁判官    吉野俊太郎

*裁判所サイト公表 2021.6.1
*キーワード:クッション、美術の著作物、著作物性、応用美術論、ライセンス契約

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■事案

エクササイズやストレッチに利用できるクッションの著作物性が争点となった事案

原告:個人事業主
被告:通販会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、不正競争防止法2条1項3号

1 本件契約が更新され現在まで存続しているか
2 平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか
3 原告が本件商品に係る著作権を有しているか
4 本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか
5 本件覚書の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか
6 原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,(1)被告が製造,販売する本件商品は,原告と被告が共同開発したものであり,本件覚書に基づき,コミッションを受け取る旨の合意があったとして,そのコミッションを受ける権利の確認と未払コミッションの一部120万円(平成31年4月分〜令和元年12月20日分)及び訴状送達の日の翌日(令和2年1月15日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求の趣旨第2項及び第4項),(2)仮に,本件覚書が効力を有しないとすれば,被告による本件商品の販売は,原告の著作権を侵害し,また,形態模倣による不正競争行為に当たるとして,予備的に,著作権法112条1項,不正競争防止法3条1項に基づき,本件商品の製造,販売の差止めを求めるとともに(請求の趣旨第3項),(3)被告が,本件覚書に係る契約(以下「本件契約」という。)の更新を拒絶し,また,本件商品の商品名を抜け駆け的に商標登録したことが不法行為に当たるとして,その違法性を立証する労力及び時間に相当する200万円の賠償及び訴状送達の日の翌日から支払済みまで前記改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(請求の趣旨第1項)。』
(1頁以下)

<経緯>

H27.07 被告が原告に商品企画を提案
H27.10 被告がCADデータなど制作、金型発注
H28.03 被告が原告に契約案提示
H31.04 原被告間でコミッション料率などを協議
H31.04 被告が商品名を商標登録出願
R01.06 再協議、不合意

本件商品:グッド・コア

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■判決内容

<争点>

1 本件契約が更新され現在まで存続しているか

裁判所は、原被告間の取引に関する契約関係について、遅くとも平成31年3月までに本件覚書記載の内容によって契約が成立していると認定。もっとも、契約期間2年間の満了後は、料率条件などで再契約の協議が整わなかったことなどから、現在は契約は存続していないと判断しています(9頁以下)。

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2 平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか

契約が終了している以上、コミッションの支払義務はなく、未払いは存在しないと裁判所は判断しています(10頁)。

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3 原告が本件商品に係る著作権を有しているか

本件商品は、エクササイズやストレッチをする際の補助具に用いるクッションでしたが、X字形の印象を与える形状を有するものでした。
このクッションの著作物性について、裁判所は、実用上の目的を有する工業製品に属するものであり、X字形の形状は幅広い体型にフィットさせるという実用目的で採用されたものであるなどとして、本件商品において美的鑑賞の対象となり得るような何らかの創作的工夫がなされているとはいうことはできず、本件商品について、美術の著作物としての著作物性を認めることはできないと判断、原告の著作物性、著作権の帰属の主張を否定しています(10頁以下)。

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4 本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか

原告は、本件契約が効力を失った後も被告が本件商品の製造、販売を継続したことは不正競争防止法2条1項3号の形態模倣の不正競争行為に該当する旨主張しましたが、裁判所はこれを認めていません(11頁以下)。

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5 本件覚書の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか

原告は、本件契約は同一条件で期間延長されるべきものであったのに被告が原告に対して一方的にコミッションの減額を通知し、契約の更新を拒絶したことが優越的な地位の濫用に当たる(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条9項5号ハ)と主張しましたが、裁判所は認めていません(12頁以下)

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6 原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか

原告は、被告による本件商標登録が原告の商標登録を受ける権利に対する侵害であると主張しましたが、裁判所は認めていません(13頁以下)。

結論として、原告の主張はいずれも認められていません。

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■コメント

ストレッチに使えるクッションのライセンス契約を巡る紛争になりますが、2021年6月2日現在でも、ネットショップで6903円(税込)で被告により商品の販売は継続されています。
楽天市場サイト
商品画像
(判決添付別紙2より商品画像)

商品企画者である原告の本人訴訟ということもあって、全部棄却で終わってしまっています。