最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
求人広告原稿事件
大阪地裁令和3.4.8平成30(ワ)5629損害賠償請求事件PDF
添付別紙1
添付別紙2
添付別紙3
添付別紙4
添付別紙5
添付別紙6
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 杉浦正樹
裁判官 杉浦一輝
裁判官 布目真利子
*裁判所サイト公表 2021.5.18
*キーワード:広告原稿、著作物性、キャッチコピー
--------------------
■事案
求人広告原稿の著作物性などが争点となった事案
原告:広告代理店
被告:広告代理店、原告退任取締役ら
--------------------
■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、114条2項
1 被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(略)
2 被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(略)
3 損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(略)
4 被告P2による競業避止義務違反(略)
5 原告原稿に関する著作権侵害性(請求2)
--------------------
■事案の概要
『請求1
原告の取締役であった被告P1,従業員であった被告P2及び原告と同じく広告代理店業等を主たる業務とする被告会社が,共謀して,被告P1の原告取締役在任中の任務違背行為(主位的主張)又は被告P2の競業避止義務違反行為(予備的主張)により原告の顧客を侵奪するなどし,これにより原告が損害を被ったとして,被告らに対し,共同不法行為(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)719条1項)に基づく損害賠償請求権の全部又は一部請求として,連帯して457万4454円の損害賠償及びこれに対する最終の不法行為日である平成29年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下「請求1」という。)』
『請求2
被告会社が,原告が著作権を有する求人広告原稿を無断で複製,翻案し,ウェブサイトに掲載して原告の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害したとして,被告会社に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,81万3582円の損害賠償及びこれに対する最終の不法行為日である平成30年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下「請求2」という。)』
<経緯>
H27.02 被告P1が原告入社
H27.04 被告P2が原告入社
H29 被告P1、P2が原告退社
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■判決内容
<争点>
1 被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(略)
2 被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(略)
3 損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(略)
4 被告P2による競業避止義務違反(略)
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5 原告原稿に関する著作権侵害性(請求2)
広告代理店業を行う被告会社による原告の求人広告原稿の無断使用について、その著作権侵害性が争点とされました。
(1)著作物性、帰属性
この点について、裁判所は各原稿について著作物性などを以下のように判断しています(68頁以下)。
原稿1:建築・土木・設計等を業とする広告主による分譲マンションの建築設計業務全般のマネージメントを仕事内容とする求人広告
「キャッチコピー及び本文コピーの部分のみを見ても,原告原稿1には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,本文コピーは,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。したがって,原告原稿1は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。」
*著作物性肯定
原稿2:小児科専門のクリニックである広告主による正看護師、准看護師等の求人広告
「求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
原稿3:眼科クリニックである広告主による受付・検査補助スタッフ等の求人広告
「ボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿3には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
原稿4:眼科クリニックである広告主による受付・事務・診療助手の求人広告
「ボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿4には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
原稿5:建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告
「原告原稿5のキャッチ及びカセット職種(枝番3−1,3−2)は,全体を通じて若者言葉による口語調が用いられている。このうち,キャッチの部分は,そのような表現を採用すると共に,「略」,「!」「!!」といった記号を重ね,かつ,同部分が広告内の約4分の1に当たるスペースに,他の記載部分と比較して際立つよう大きな文字で記載されていることで,一見して目を引くものとなっている。
このように,原告原稿5は,物理的な広告掲載スペースの制約が厳しい中で,なお求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。」
*著作物性肯定
原稿6:株式会社マックスサポート勝田台支店の求人広告
*他社に著作権帰属を認定し、原告帰属を否定
原稿7:建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告
「原告原稿7のリードの部分は,字数の制限が厳しい部分であるようにもうかがわれるところ,原告原稿7では,そうした制限の中で,求職者の心情に特に着目し,これに寄り添う広告主の姿勢を示す表現を重ねることで読者の関心を喚起することに向けた工夫が見受けられる。求人のポイントの部分においても,同様の広告主の姿勢が端的に示されており,重ねて読者の関心を喚起する工夫が施されている。
このように,リード及び求人のポイントの部分のみを見ても,原告原稿7には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,リードの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,原告原稿5と比較すればなお少なくないスペース及び字数が当てられており,やはり物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
裁判所は、原告原稿1乃至5及び7の著作権については、いずれも原告に帰属していると判断しています。
(2)著作権侵害性
被告会社原稿1〜5及び7は、いずれも被告会社がリクルートに対して入稿して広告として掲載されたものでしたが、原告原稿の創作性が認められる部分について、被告会社原稿1〜5及び7は、原告原稿1〜5及び7と同一又はほぼ同一の表現がされていると判断。依拠性も肯定したうえで被告会社による原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)侵害性を肯定しています(74頁以下)。
(3)損害論
ア 逸失利益(114条2項)
被告会社受注額227万4000円×手数料率20%=45万4800円
イ 弁護士費用相当額損害
逸失利益の10% 4万5480円
小計 50万0280円
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■コメント
広告のキャッチコピー部分だけですと、分量的に短くて、著作物性が否定される場合が多いかと思われますが、ある程度の分量のある広告本文と合わせた場合、全体として著作物性が肯定の判断に傾くことになるかと考えられます。
添付別紙1には、対比表があり、被告原稿が原告原稿を基に修正されていることが分かります。ただ、内容的には求人広告なので、伝える内容については一義的で表現方法の選択の幅が狭いとも考えられ、その著作物性や著作権侵害性の判断については、微妙なものになるかと思われます。
求人広告原稿事件
大阪地裁令和3.4.8平成30(ワ)5629損害賠償請求事件PDF
添付別紙1
添付別紙2
添付別紙3
添付別紙4
添付別紙5
添付別紙6
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 杉浦正樹
裁判官 杉浦一輝
裁判官 布目真利子
*裁判所サイト公表 2021.5.18
*キーワード:広告原稿、著作物性、キャッチコピー
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■事案
求人広告原稿の著作物性などが争点となった事案
原告:広告代理店
被告:広告代理店、原告退任取締役ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、114条2項
1 被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(略)
2 被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(略)
3 損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(略)
4 被告P2による競業避止義務違反(略)
5 原告原稿に関する著作権侵害性(請求2)
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■事案の概要
『請求1
原告の取締役であった被告P1,従業員であった被告P2及び原告と同じく広告代理店業等を主たる業務とする被告会社が,共謀して,被告P1の原告取締役在任中の任務違背行為(主位的主張)又は被告P2の競業避止義務違反行為(予備的主張)により原告の顧客を侵奪するなどし,これにより原告が損害を被ったとして,被告らに対し,共同不法行為(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)719条1項)に基づく損害賠償請求権の全部又は一部請求として,連帯して457万4454円の損害賠償及びこれに対する最終の不法行為日である平成29年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下「請求1」という。)』
『請求2
被告会社が,原告が著作権を有する求人広告原稿を無断で複製,翻案し,ウェブサイトに掲載して原告の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害したとして,被告会社に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,81万3582円の損害賠償及びこれに対する最終の不法行為日である平成30年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下「請求2」という。)』
<経緯>
H27.02 被告P1が原告入社
H27.04 被告P2が原告入社
H29 被告P1、P2が原告退社
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■判決内容
<争点>
1 被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(略)
2 被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(略)
3 損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(略)
4 被告P2による競業避止義務違反(略)
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5 原告原稿に関する著作権侵害性(請求2)
広告代理店業を行う被告会社による原告の求人広告原稿の無断使用について、その著作権侵害性が争点とされました。
(1)著作物性、帰属性
この点について、裁判所は各原稿について著作物性などを以下のように判断しています(68頁以下)。
原稿1:建築・土木・設計等を業とする広告主による分譲マンションの建築設計業務全般のマネージメントを仕事内容とする求人広告
「キャッチコピー及び本文コピーの部分のみを見ても,原告原稿1には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,本文コピーは,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。したがって,原告原稿1は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。」
*著作物性肯定
原稿2:小児科専門のクリニックである広告主による正看護師、准看護師等の求人広告
「求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
原稿3:眼科クリニックである広告主による受付・検査補助スタッフ等の求人広告
「ボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿3には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
原稿4:眼科クリニックである広告主による受付・事務・診療助手の求人広告
「ボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿4には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
原稿5:建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告
「原告原稿5のキャッチ及びカセット職種(枝番3−1,3−2)は,全体を通じて若者言葉による口語調が用いられている。このうち,キャッチの部分は,そのような表現を採用すると共に,「略」,「!」「!!」といった記号を重ね,かつ,同部分が広告内の約4分の1に当たるスペースに,他の記載部分と比較して際立つよう大きな文字で記載されていることで,一見して目を引くものとなっている。
このように,原告原稿5は,物理的な広告掲載スペースの制約が厳しい中で,なお求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。」
*著作物性肯定
原稿6:株式会社マックスサポート勝田台支店の求人広告
*他社に著作権帰属を認定し、原告帰属を否定
原稿7:建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告
「原告原稿7のリードの部分は,字数の制限が厳しい部分であるようにもうかがわれるところ,原告原稿7では,そうした制限の中で,求職者の心情に特に着目し,これに寄り添う広告主の姿勢を示す表現を重ねることで読者の関心を喚起することに向けた工夫が見受けられる。求人のポイントの部分においても,同様の広告主の姿勢が端的に示されており,重ねて読者の関心を喚起する工夫が施されている。
このように,リード及び求人のポイントの部分のみを見ても,原告原稿7には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,リードの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,原告原稿5と比較すればなお少なくないスペース及び字数が当てられており,やはり物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。」
*著作物性肯定
裁判所は、原告原稿1乃至5及び7の著作権については、いずれも原告に帰属していると判断しています。
(2)著作権侵害性
被告会社原稿1〜5及び7は、いずれも被告会社がリクルートに対して入稿して広告として掲載されたものでしたが、原告原稿の創作性が認められる部分について、被告会社原稿1〜5及び7は、原告原稿1〜5及び7と同一又はほぼ同一の表現がされていると判断。依拠性も肯定したうえで被告会社による原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)侵害性を肯定しています(74頁以下)。
(3)損害論
ア 逸失利益(114条2項)
被告会社受注額227万4000円×手数料率20%=45万4800円
イ 弁護士費用相当額損害
逸失利益の10% 4万5480円
小計 50万0280円
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■コメント
広告のキャッチコピー部分だけですと、分量的に短くて、著作物性が否定される場合が多いかと思われますが、ある程度の分量のある広告本文と合わせた場合、全体として著作物性が肯定の判断に傾くことになるかと考えられます。
添付別紙1には、対比表があり、被告原稿が原告原稿を基に修正されていることが分かります。ただ、内容的には求人広告なので、伝える内容については一義的で表現方法の選択の幅が狭いとも考えられ、その著作物性や著作権侵害性の判断については、微妙なものになるかと思われます。