最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
歌謡情報誌「月刊歌の手帖」無断掲載事件
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田中孝一
裁判官 奥 俊彦
裁判官 西尾信員
東京地裁令和2.12.10平成30(ワ)39933等損害賠償等請求事件PDF
*裁判所サイト公表 2021.5.14
*キーワード:ジャスラック、過少申告、法人格否認、雑誌、歌詞
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■事案
発行部数を過少申告して著作権侵害をした出版社が事業譲渡により出版事業を継続しようとした事案
原告(反訴被告):日本音楽著作権協会(ジャスラック)
被告(反訴原告):雑誌出版社
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■結論
本訴認容、反訴棄却
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■争点
条文 著作権法21条
1 本訴−被告の不法行為責任
2 反訴−原告の不法行為責任
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■事案の概要
『本訴事件は,音楽著作権に関する著作権等管理事業者である原告が,カラオケ愛好家等を主たる読者とする歌謡情報誌「月刊 歌の手帖」(以下「本件雑誌」という。)を発行・販売していた被告は,過去20年以上にわたって,本件雑誌に原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を掲載するための利用許諾申請をした際,本件雑誌の複製部数を過少に申告し,原告から受けた利用許諾の範囲を大幅に超える部数の本件雑誌を無断で発行・販売し,管理著作物の著作権(複製権)(以下「本件著作権」という。)を侵害したと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,管理著作物の使用料相当損害金の一部である9071万5884円,これに対する平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円及び弁護士費用相当損害金907万1588円の合計額である1億4443万1632円並びにうち9978万7472円(上記使用料相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計額)に対する同月27日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
『反訴事件は,被告が,原告は,被告から本件雑誌の発行事業(以下「本件事業」という。)の譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)を受けた株式会社歌の手帖社(以下「歌の手帖社」という。)から,本件雑誌に管理著作物を掲載するための利用許諾申請を受けた際,これを正当な理由なく拒絶した上,同社も被告の上記損害賠償債務(以下「本件債務」という。)を連帯して弁済する責任を負うとして,歌の手帖社を本件紛争に巻き込んだため,被告は,歌の手帖社との間で締結した本件事業に関する業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を継続できなくなり,同契約に基づく委託料の支払を受けられなくなったと主張して,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,同委託料の6年分である1億0000万0002円及びこれに対する不法行為の日の後である令和2年2月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
<経緯>
H5.09 「月刊 歌の手帖」刊行
H29.11 原告が監査実施、発行部数過少申告判明
H30.04 歌の手帖社設立
H30.05 被告が歌の手帖社に債務を除外して事業譲渡
H30.05 原告が被告に1億3624万円支払い請求
H30.06 原告が歌の手帖社の利用不許諾
H30.08 和解交渉
H30.11 歌の手帖社が利用許諾仮処分命令申立
H30.12 原告が被告、歌の手帖社を提訴
R2.09 歌の手帖社と訴訟上の和解成立
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■判決内容
<争点>
1 本訴−被告の不法行為責任
(1)本件雑誌の超過部数発行の有無
利用許諾申請手続において原告に対して毎号の発行部数が全て1万部である旨の申告をしていたにもかかわらず、実際には毎号1万部を超過する部数の本件雑誌を発行・販売していたことが認定されています(17頁以下)。
(2)本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無
原告が被告による本件雑誌の超過部数発行を黙示的に承諾していたとは認められず、結論として、被告は本件著作権侵害に基づく不法行為責任を負うと判断されています(18頁以下)。
(3)原告の損害額
本件使用料相当損害金 9071万5884円
平成30年12月26日までの遅延損害金 4464万4160円
弁護士費用相当損害金 907万1588円
上記の損害額(1億4443万1632円)が認定されています(20頁以下)。
(4)本件債務の一部についての消滅時効の成否
裁判所は、被告が主張する消滅時効の完成を認めていません(21頁以下)。
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2 反訴−原告の不法行為責任
被告は、反訴において、原告が著作権等管理事業法16条に反して正当な理由がないにもかかわらず、歌の手帖社名義の管理著作物の利用許諾申請を拒絶した上、同社を本件紛争に巻き込んだことから、被告と歌の手帖社との間の関係が悪化し、本件業務委託契約を継続することができなくなったものであり、これは被告に対する不法行為を構成する旨を主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、原告が管理著作物の無許諾利用者による使用料相当損害金の未清算を理由として同人又はこれと同視できる者に対して新たな管理著作物の利用許諾申請を拒絶することは、そもそも著作権等管理事業法16条の趣旨に反するとはいえないと判断。
・被告における本件雑誌の編集局長であったAが歌の手帖社の代表取締役に就任していること
・被告と同一の事務所において本件事業を開始したこと
・原告は本件事業譲渡後、歌の手帖社名義で本件雑誌における管理著作物の利用許諾申請をされたが、同社に対しては、被告の本件債務に関する問題が解決していない以上、上記申請を受け入れることはできないなどとして、被告名義の利用許諾申請を求め、引き続き被告との間で和解交渉を継続したこと
・原告は本件訴訟提起にあたり、法人格否認の法理などを根拠として本件債務を被告と連帯して弁済するよう求めたこと
などの事実関係から、本件事業譲渡の内容に疑問を持ち、当初は同社名義の利用許諾申請を許諾せず、上記のような法律構成によって本件債務に関する責任を追及しようとしたとしても、無理からぬところがあるというべきであると判断。
また、その後、被告名義の利用許諾申請を許諾し、また、最終的には歌の手帖社名義の利用許諾申請を許諾するに至っており、結果として本件事業譲渡後においても本件雑誌の発行・販売自体には支障がなかった点も勘案して、原告の取り扱いについては「正当な理由」があり、被告に対する不法行為は成立しないと判断しています。
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■コメント
20年近くに及ぶ歌謡情報誌の発行部数の過少申告という悪質な事案ですが、ウィキペディアによると、被告会社は2021年1月5日「閉業のお知らせ」をサイトに公表、3月24日、東京地裁から破産手続開始決定を受けたようです。
なお、月刊誌「歌の手帖」は現在でも刊行継続されています。
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■参考サイト
「歌の手帖」に賠償命令 部数を過少申告、著作権料安く
(朝日新聞デジタル 新屋絵理 2020年12月10日21時47分)
https://www.asahi.com/articles/ASNDB752HNDBUTIL04W.html#:~:text=%E6%AD%8C%E8%AC%A1%E6%83%85%E5%A0%B1%E8%AA%8C%E3%80%8C%E6%9C%88%E5%88%8A%20%E6%AD%8C,%E8%A3%81%E5%88%A4%E9%95%B7%EF%BC%89%E3%81%A7%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82
歌謡情報誌「月刊歌の手帖」無断掲載事件
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田中孝一
裁判官 奥 俊彦
裁判官 西尾信員
東京地裁令和2.12.10平成30(ワ)39933等損害賠償等請求事件PDF
*裁判所サイト公表 2021.5.14
*キーワード:ジャスラック、過少申告、法人格否認、雑誌、歌詞
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■事案
発行部数を過少申告して著作権侵害をした出版社が事業譲渡により出版事業を継続しようとした事案
原告(反訴被告):日本音楽著作権協会(ジャスラック)
被告(反訴原告):雑誌出版社
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■結論
本訴認容、反訴棄却
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■争点
条文 著作権法21条
1 本訴−被告の不法行為責任
2 反訴−原告の不法行為責任
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■事案の概要
『本訴事件は,音楽著作権に関する著作権等管理事業者である原告が,カラオケ愛好家等を主たる読者とする歌謡情報誌「月刊 歌の手帖」(以下「本件雑誌」という。)を発行・販売していた被告は,過去20年以上にわたって,本件雑誌に原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を掲載するための利用許諾申請をした際,本件雑誌の複製部数を過少に申告し,原告から受けた利用許諾の範囲を大幅に超える部数の本件雑誌を無断で発行・販売し,管理著作物の著作権(複製権)(以下「本件著作権」という。)を侵害したと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,管理著作物の使用料相当損害金の一部である9071万5884円,これに対する平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円及び弁護士費用相当損害金907万1588円の合計額である1億4443万1632円並びにうち9978万7472円(上記使用料相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計額)に対する同月27日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
『反訴事件は,被告が,原告は,被告から本件雑誌の発行事業(以下「本件事業」という。)の譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)を受けた株式会社歌の手帖社(以下「歌の手帖社」という。)から,本件雑誌に管理著作物を掲載するための利用許諾申請を受けた際,これを正当な理由なく拒絶した上,同社も被告の上記損害賠償債務(以下「本件債務」という。)を連帯して弁済する責任を負うとして,歌の手帖社を本件紛争に巻き込んだため,被告は,歌の手帖社との間で締結した本件事業に関する業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を継続できなくなり,同契約に基づく委託料の支払を受けられなくなったと主張して,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,同委託料の6年分である1億0000万0002円及びこれに対する不法行為の日の後である令和2年2月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
<経緯>
H5.09 「月刊 歌の手帖」刊行
H29.11 原告が監査実施、発行部数過少申告判明
H30.04 歌の手帖社設立
H30.05 被告が歌の手帖社に債務を除外して事業譲渡
H30.05 原告が被告に1億3624万円支払い請求
H30.06 原告が歌の手帖社の利用不許諾
H30.08 和解交渉
H30.11 歌の手帖社が利用許諾仮処分命令申立
H30.12 原告が被告、歌の手帖社を提訴
R2.09 歌の手帖社と訴訟上の和解成立
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■判決内容
<争点>
1 本訴−被告の不法行為責任
(1)本件雑誌の超過部数発行の有無
利用許諾申請手続において原告に対して毎号の発行部数が全て1万部である旨の申告をしていたにもかかわらず、実際には毎号1万部を超過する部数の本件雑誌を発行・販売していたことが認定されています(17頁以下)。
(2)本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無
原告が被告による本件雑誌の超過部数発行を黙示的に承諾していたとは認められず、結論として、被告は本件著作権侵害に基づく不法行為責任を負うと判断されています(18頁以下)。
(3)原告の損害額
本件使用料相当損害金 9071万5884円
平成30年12月26日までの遅延損害金 4464万4160円
弁護士費用相当損害金 907万1588円
上記の損害額(1億4443万1632円)が認定されています(20頁以下)。
(4)本件債務の一部についての消滅時効の成否
裁判所は、被告が主張する消滅時効の完成を認めていません(21頁以下)。
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2 反訴−原告の不法行為責任
被告は、反訴において、原告が著作権等管理事業法16条に反して正当な理由がないにもかかわらず、歌の手帖社名義の管理著作物の利用許諾申請を拒絶した上、同社を本件紛争に巻き込んだことから、被告と歌の手帖社との間の関係が悪化し、本件業務委託契約を継続することができなくなったものであり、これは被告に対する不法行為を構成する旨を主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、原告が管理著作物の無許諾利用者による使用料相当損害金の未清算を理由として同人又はこれと同視できる者に対して新たな管理著作物の利用許諾申請を拒絶することは、そもそも著作権等管理事業法16条の趣旨に反するとはいえないと判断。
・被告における本件雑誌の編集局長であったAが歌の手帖社の代表取締役に就任していること
・被告と同一の事務所において本件事業を開始したこと
・原告は本件事業譲渡後、歌の手帖社名義で本件雑誌における管理著作物の利用許諾申請をされたが、同社に対しては、被告の本件債務に関する問題が解決していない以上、上記申請を受け入れることはできないなどとして、被告名義の利用許諾申請を求め、引き続き被告との間で和解交渉を継続したこと
・原告は本件訴訟提起にあたり、法人格否認の法理などを根拠として本件債務を被告と連帯して弁済するよう求めたこと
などの事実関係から、本件事業譲渡の内容に疑問を持ち、当初は同社名義の利用許諾申請を許諾せず、上記のような法律構成によって本件債務に関する責任を追及しようとしたとしても、無理からぬところがあるというべきであると判断。
また、その後、被告名義の利用許諾申請を許諾し、また、最終的には歌の手帖社名義の利用許諾申請を許諾するに至っており、結果として本件事業譲渡後においても本件雑誌の発行・販売自体には支障がなかった点も勘案して、原告の取り扱いについては「正当な理由」があり、被告に対する不法行為は成立しないと判断しています。
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■コメント
20年近くに及ぶ歌謡情報誌の発行部数の過少申告という悪質な事案ですが、ウィキペディアによると、被告会社は2021年1月5日「閉業のお知らせ」をサイトに公表、3月24日、東京地裁から破産手続開始決定を受けたようです。
なお、月刊誌「歌の手帖」は現在でも刊行継続されています。
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■参考サイト
「歌の手帖」に賠償命令 部数を過少申告、著作権料安く
(朝日新聞デジタル 新屋絵理 2020年12月10日21時47分)
https://www.asahi.com/articles/ASNDB752HNDBUTIL04W.html#:~:text=%E6%AD%8C%E8%AC%A1%E6%83%85%E5%A0%B1%E8%AA%8C%E3%80%8C%E6%9C%88%E5%88%8A%20%E6%AD%8C,%E8%A3%81%E5%88%A4%E9%95%B7%EF%BC%89%E3%81%A7%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82