最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

特定健診事務処理ソフトライセンス事件

東京地裁令和3.3.24平成30(ワ)38486著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    小川 暁
裁判官    矢野紀夫

*裁判所サイト公表 2021.5.12
*キーワード:プログラム著作物、ライセンス契約、債務不履行、違約金合意

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■事案

特定健診事務代行業者が提出用XML変換ソフトをライセンス契約に違反して利用していた事案

原告:健康診断システム開発会社
被告:健康診断データ作成会社、代表者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条

1 被告会社に対する本件平成20年契約に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の可否
2 被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求の可否
3 被告Aに対する損害賠償請求の可否
4 被告会社に対する本件違約金合意に基づく違約金支払請求の可否
5 債務不履行に基づく損害賠償請求権についての相殺の抗弁の成否
6 差止請求及び廃棄請求の当否

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■事案の概要

『本件は,別紙1プログラム目録記載1及び2の各プログラム(以下,併せて「本件プログラム」という。)の著作権者である原告が,医師会等からの委託を受けて保険請求を代行する業者である被告株式会社EST corporation(以下「被告会社」という。)及び被告会社の代表取締役である被告A(以下「被告A」という。)に対し,被告会社が本件プログラムをその使用許諾契約に反する態様により使用したと主張して,以下の請求をする事案である。(以下、略)』

<経緯>

H20.08 原被告間で旧プログラム使用許諾契約(平成20年契約)締結
H30.03 原被告間で新プログラム使用許諾契約(平成30年契約)締結
H30.06 旧プログラム不正使用質問書送付
H30.08 被告が新プログラム使用許諾契約不更新
H30.08 原告が証拠保全申立て(東京地裁平成30(モ)7826)
H30.12 本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 被告会社に対する本件平成20年契約に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の可否

(1)債務不履行に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否

原告が本件訴訟を提起したのは平成30年12月12日であり、原告の主張する債務不履行による損害賠償請求権のうち平成25年12月11日以前の本件旧プログラムの使用に係るものについては、本件訴訟提起前に5年が経過しており、商法522条の消滅時効が完成していると裁判所は判断しています(32頁以下)。

(2)債務不履行の内容など

結論として、損害額総合計は6609万円余と認定されています。

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2 被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求の可否

本件旧プログラムについて被告会社による複製権侵害行為が認められ、損害額として970万円余が認定されています(41頁以下)。
なお、原告は債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求を選択的に請求しており、当該期間の債務不履行に基づく損害賠償額が不法行為に基づく損害賠償額を上回るものであったことから、債務不履行に基づく損害賠償請求として認容されています。

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3 被告Aに対する損害賠償請求の可否

結論として、被告会社代表者Aに対する共同不法行為などを理由とする損害賠償請求は認められていません(45頁以下)。

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4 被告会社に対する本件違約金合意に基づく違約金支払請求の可否

被告は、本件違約金合意の公序良俗違反による無効などを主張しましたが裁判所はこれを認めず、結論として、合計7393万円余の違約金が認定されています(46頁以下)。

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5 債務不履行に基づく損害賠償請求権についての相殺の抗弁の成否

被告会社は、本件平成30年契約は錯誤により全部無効であるとして、当該契約に基づいて原告に支払ったライセンス料について過払いがあり、原告に対して不当利得返還請求権を有しているなどと主張しましたが、裁判所は認めていません(49頁)。

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6 差止請求及び廃棄請求の当否

事実経過等を踏まえると本件プログラムについて、著作権法112条1項に基づいてその複製及び使用を差し止め、同条2項に基づいて本件プログラムが格納された記録媒体を廃棄し、又はこれらの記録媒体から本件プログラムを消去することを求める必要性が原告にはあると裁判所は認めています(49頁以下)。

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■コメント

消滅時効が成立して過去分の損害賠償請求額が半減してしまうと想定されたときに、損害額をできるだけ多く勝ち取るにはどうするか。
過去にライセンス契約違反をしている使用者に対して、契約更新にあたり、契約を打ち切るのではなく、通常のライセンス料の10倍の違約金規定を新たに合意させたうえで、あえて契約を継続、やはり契約違反がされる事態となった。
結果として、損害賠償金と併せて違約金が認定されおり、こうした方向に持ち込んだ原告の見通しの的確さ、戦術勝ちだったのかもしれません。