最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ビジュアルアイデンティティ(VI)制作委託契約事件(控訴審)

大阪高裁令和3.1.21令和2(ネ)597著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官    池町知佐子
裁判官    三井教匡

原審
大阪地裁令和2.1.27平成29(ワ)12572著作権侵害差止等請求事件
判決文
別紙1
別紙2
別紙3

*裁判所サイト公表 2021.2.17
*キーワード:写真、レシピブック、ウェブサイト、ビジュアルアイデンティティ、VI、コーポレートアイデンティティ、CI、制作業務委託契約、黙示の合意

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■事案

素麺のブランドコンサルティングにあたり制作されたレシピブックやウェブサイト、写真の著作権侵害性が争点となった事案

控訴人(1審原告) :ブランディング会社
被控訴人(1審被告):社会インフラ資材卸会社

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■結論

原判決一部変更

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■争点

条文 著作権法12条1項、21条、27条

1 パッケージデザインの未払報酬等に関する請求
2 レシピブックなどの著作権侵害性
3 損害論

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■事案の概要

『本件は,ビジュアル・アイデンティティ(VI)の制作等を目的とする株式会社である控訴人が,被控訴人,ナカシマエナジー及び播磨喜水からの依頼を受けて制作,納品した制作物に関して,報酬の未払いがあり,あるいは,著作権(複製権等)を侵害されたなどとして,被控訴人に対し,次の各請求をしている事案である。』
『原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が原判決を不服として控訴した。』(3頁以下)

<経緯>

H26.11 原告がナカシマエナジー社とブランディングパートナー契約、デザイン制作契約締結
H27.08 原告がパッケージデザイン制作
H27.12 ウェブサイト制作管理業務委託契約締結
H28.02 原被告間でCIデザイン業務委託契約締結

<原告制作物>

原告パッケージデザイン:1から6
原告制作物1:手延べ麺に関するレシピブック掲載の料理写真
原告制作物2:スペイン料理コラボレシピブック
原告制作物3:ウェブサイト
原告制作物4:カタログ掲載の商品写真
原告制作物5:POP掲載のキャッチコピー
原告制作物6:コーポレートシンボル
原告制作物7:会社案内に掲載の事業領域図
原告制作物8:会社案内、パンフに掲載のキャッチコピー、写真、文章
原告制作物9:日経新聞掲載広告
原告制作物10:会社案内に掲載した海の写真
原告制作物11:ポスター
原告制作物12:社内発表用映像

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■判決内容

<争点>

1 パッケージデザインの未払報酬等に関する請求

原告(1審原告、控訴人)が制作したパッケージデザイン6点について、原告はデザイン単体のデザイン料に関する未払報酬があるとして被告(1審被告、被控訴人)に1260万円余の請求をしましたが、発注累計個数に応じて定まる合意があるとして、原告の主張は原審では認められず、控訴審でも原審の判断が維持されています(12頁以下)。

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2 レシピブックなどの著作権侵害性

(1)原告制作物1:手延べ麺に関するレシピブック掲載の料理写真

原審では、原告レシピブック1のデザイン制作委託契約では明示的な合意はないものの、その成果物の著作権は受託者である原告に留保しつつ、委託者である播磨喜水が自身の商品の宣伝広告、販促物又は広報資料としてその成果物を構成する画像データ等を複製、利用することについて、これに必要な範囲での利用を許諾する旨の合意が黙示的に存在すると考えるのが当事者の合理的意思に沿うと判断しました。
これに対して控訴審では、制作目的とは異なる目的で被告が事前許諾なく利用することまで原告が認めていたとはいえないと判断。黙示の包括的利用許諾の成立を否定しています(16頁以下)。

(2)原告制作物2から4

原審同様、著作権侵害の事実は認められないと控訴審は判断しています(15頁以下)。

(3)原告制作物5から12

委託契約における利用許諾の範囲内であるとして、原審同様、控訴審でも原告の著作権侵害の主張は認められていません(22頁以下)。

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3 損害論

原告制作物1について、レシピブックに掲載した料理の1つのレシピ情報と写真を1枚のレシピカードとして、そのレシピカードを制作する費用が1枚2万5000円であることを根拠に使用料相当額損害として2万5000円を認定。
弁護士費用相当額損害2500円を合わせて合計2万7500円が損害額として認定されています(21頁以下)。

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■コメント

デザイン制作会社のCIやVIに関する契約書を取り扱う機会がありますが、発注者側と著作権を留保する交渉ができるデザイン事務所は、よほどデザインというものにこだわりがあるか(勝手に色味や形状、シリーズの統一性を崩されたくないなど、思い入れが強い場合)、デザインが優れていてデザイン事務所の立場が強い場合ではないか、という印象です。
もちろん、継続的な取引を確保するために、著作権を保持しておいたり、著作者人格権をテコに取っ掛かりを残す努力をするわけですが、デザイン制作会社側としては、かならずしも容易な交渉ではありません。
本事案では、原審と控訴審で認定が分かれた部分があり、発注者側としては、著作権が制作者側に残る場合は特に、契約終了後のことをよくよく考えておく必要があることが分かる事例です。