最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
防衛研究報告書引用事件
東京地裁令和2.10.20平成29(ワ)2890国家賠償請求事件PDF
別紙1
東京地方裁判所民事第25部
裁判長裁判官 谷口安史
裁判官 杉森洋平
裁判官 白井宏和
*裁判所サイト公表 2020.-.-
*キーワード:論文、報告書、盗用、引用、内部資料
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■事案
防衛研究報告書の記述が盗用にあたるかどうかが争点となった国賠事案
原告:防衛研究所事務官
被告:国
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法32条、国賠法1条1項
1 本件公表及び本件訓戒の違法性
2 原告の損害及び因果関係
3 削除請求の可否
4 謝罪広告の要否
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■事案の概要
『本件は,防衛省防衛研究所において研究に従事する職員である原告が,防衛研究所長が防衛研究所の公式ホームページにおいて原告が研究活動に係る不正行為を行った旨を公表したことにより,原告の名誉が毀損されたと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,2200万円及びこれに対する不法行為(公表)の日である平成28年10月19日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下この判決において同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,防衛研究所長が,前記公表及び前記不正行為を理由に訓戒処分をしたことにより,原告は抑うつ状態となって休職したと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,1100万円及びこれに対する不法行為(訓戒処分)の日である平成29年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,人格権による妨害排除請求権に基づき,前記公表に係る記事の削除を求め,さらに,名誉回復措置請求権に基づき,別紙「謝罪文」記載の謝罪広告の掲載を求める事案である。』
(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 本件公表及び本件訓戒の違法性
原告が、平成27年度特研報告書の本件引用箇所について、平成25年度特研報告書からの引用であることを表示していない行為(本件行為)が「研究活動に係る不正行為」に該当するかどうかについて、裁判所は、(1)平成27年度特研報告書が「発表された研究成果」(本件達2条2号柱書)に当たること、(2)本件行為が「盗用」(本件達2条2号三)に当たること、(3)原告が上記(1)(2)について「故意によるものでないことが根拠をもって明らか」ではないこと(本件達2条2号柱書ただし書)の各要件の該当性を検討しています(34頁以下)。
この点について、裁判所は、
・原告は特研報告書は防衛研究所紀要に掲載されるなどして対外的に公表されるまでは防衛省の内部資料であり、他の特研報告書の内容を引用する場合に表示をしなくとも本件達にいう「盗用」には当たらないとの認識を有していたが、そうした認識は実際上は必ずしも独自の見解とはいえない
・平成25年度特研報告書は原告を含む4名の研究者による共同研究であるところ、このような共同研究による特別研究における他の研究者の担当部分を引用する際の規律についても防衛研究所内において共通認識が形成されていたことをうかがわせる証拠はない
等の諸事情を踏まえて、原告が防衛研究所紀要に掲載される前の特研報告書については、引用する際に必ずしも表示をしなくとも本件達にいう「盗用」には当たらないと考えていたことについては、相応の合理的な根拠に基づくというべきであるとして、原告の本件行為は故意によるものではないと判断。
防衛研究所長が本件行為が「盗用」による「研究活動に係る不正行為」に該当することを理由として原告に対し本件公表及び本件訓戒を行ったことは、職務上の注意義務に違反し、国家賠償法上違法であると判断しています。
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2 原告の損害及び因果関係
本件公表は国家賠償法上違法であり、本件公表によってインターネット上で原告の名誉が棄損され、研究活動に支障が生じる可能性があることなどを考慮して、裁判所は、本件公表による原告の精神的損害を慰謝するための慰謝料は100万円、弁護士費用を加え合計110万円が原告の損害と認定しています(42頁以下)。
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3 削除請求の可否
防衛研究所の公式ホームページに本件公表に係る記事が掲載され続ける限り、原告は研究者としての活動を行うことに重大な支障が生じ,原告に対する無形の損害が生じるとして、裁判所は、これによる原告の権利の侵害を防止するため本件公表に係る記事の削除を命ずることが相当であると判断しています(43頁)。
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4 謝罪広告の要否
防衛研究所による本件公表によって原告に生じた損害を回復するためには、金銭賠償及び本件公表に係る記事の削除で足り、謝罪広告の掲載を命ずる必要があるとまでは認められないと裁判所は判断しています(43頁)。
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■コメント
省内の内部資料的なものでの引用の在り方が問われた事案となります。
防衛研究報告書引用事件
東京地裁令和2.10.20平成29(ワ)2890国家賠償請求事件PDF
別紙1
東京地方裁判所民事第25部
裁判長裁判官 谷口安史
裁判官 杉森洋平
裁判官 白井宏和
*裁判所サイト公表 2020.-.-
*キーワード:論文、報告書、盗用、引用、内部資料
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■事案
防衛研究報告書の記述が盗用にあたるかどうかが争点となった国賠事案
原告:防衛研究所事務官
被告:国
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法32条、国賠法1条1項
1 本件公表及び本件訓戒の違法性
2 原告の損害及び因果関係
3 削除請求の可否
4 謝罪広告の要否
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■事案の概要
『本件は,防衛省防衛研究所において研究に従事する職員である原告が,防衛研究所長が防衛研究所の公式ホームページにおいて原告が研究活動に係る不正行為を行った旨を公表したことにより,原告の名誉が毀損されたと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,2200万円及びこれに対する不法行為(公表)の日である平成28年10月19日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下この判決において同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,防衛研究所長が,前記公表及び前記不正行為を理由に訓戒処分をしたことにより,原告は抑うつ状態となって休職したと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,1100万円及びこれに対する不法行為(訓戒処分)の日である平成29年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,人格権による妨害排除請求権に基づき,前記公表に係る記事の削除を求め,さらに,名誉回復措置請求権に基づき,別紙「謝罪文」記載の謝罪広告の掲載を求める事案である。』
(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 本件公表及び本件訓戒の違法性
原告が、平成27年度特研報告書の本件引用箇所について、平成25年度特研報告書からの引用であることを表示していない行為(本件行為)が「研究活動に係る不正行為」に該当するかどうかについて、裁判所は、(1)平成27年度特研報告書が「発表された研究成果」(本件達2条2号柱書)に当たること、(2)本件行為が「盗用」(本件達2条2号三)に当たること、(3)原告が上記(1)(2)について「故意によるものでないことが根拠をもって明らか」ではないこと(本件達2条2号柱書ただし書)の各要件の該当性を検討しています(34頁以下)。
この点について、裁判所は、
・原告は特研報告書は防衛研究所紀要に掲載されるなどして対外的に公表されるまでは防衛省の内部資料であり、他の特研報告書の内容を引用する場合に表示をしなくとも本件達にいう「盗用」には当たらないとの認識を有していたが、そうした認識は実際上は必ずしも独自の見解とはいえない
・平成25年度特研報告書は原告を含む4名の研究者による共同研究であるところ、このような共同研究による特別研究における他の研究者の担当部分を引用する際の規律についても防衛研究所内において共通認識が形成されていたことをうかがわせる証拠はない
等の諸事情を踏まえて、原告が防衛研究所紀要に掲載される前の特研報告書については、引用する際に必ずしも表示をしなくとも本件達にいう「盗用」には当たらないと考えていたことについては、相応の合理的な根拠に基づくというべきであるとして、原告の本件行為は故意によるものではないと判断。
防衛研究所長が本件行為が「盗用」による「研究活動に係る不正行為」に該当することを理由として原告に対し本件公表及び本件訓戒を行ったことは、職務上の注意義務に違反し、国家賠償法上違法であると判断しています。
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2 原告の損害及び因果関係
本件公表は国家賠償法上違法であり、本件公表によってインターネット上で原告の名誉が棄損され、研究活動に支障が生じる可能性があることなどを考慮して、裁判所は、本件公表による原告の精神的損害を慰謝するための慰謝料は100万円、弁護士費用を加え合計110万円が原告の損害と認定しています(42頁以下)。
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3 削除請求の可否
防衛研究所の公式ホームページに本件公表に係る記事が掲載され続ける限り、原告は研究者としての活動を行うことに重大な支障が生じ,原告に対する無形の損害が生じるとして、裁判所は、これによる原告の権利の侵害を防止するため本件公表に係る記事の削除を命ずることが相当であると判断しています(43頁)。
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4 謝罪広告の要否
防衛研究所による本件公表によって原告に生じた損害を回復するためには、金銭賠償及び本件公表に係る記事の削除で足り、謝罪広告の掲載を命ずる必要があるとまでは認められないと裁判所は判断しています(43頁)。
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■コメント
省内の内部資料的なものでの引用の在り方が問われた事案となります。