最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

教務管理システム事件

東京地裁令和2.11.16平成30(ワ)36168不当利得返還等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    小川 暁
裁判官    矢野紀夫

*裁判所サイト公表 2020.-.-
*キーワード:職務著作、システム開発、著作権譲渡

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■事案

教務管理システムの開発にあたり、著作権の帰属などが争点となった事案

原告:被告学校元職員システムエンジニア
被告:学校法人、一般財団法人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法15条

1 本件プログラムに係る職務著作の成否
2 本件プログラムの著作権の譲渡
3 本件プログラムの著作権又は著作者人格権の侵害行為
4 被告らの利益及びこれと因果関係のある原告の損失

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告らに対し,被告らが,原告作成の別紙原告プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)に係る原告の著作権(複製権,公衆送信権,貸与権及び翻案権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権及び同一性保持権)を侵害し,これによって利益を受けたと主張して,不当利得返還請求権に基づき,連帯して,利得金合計574万8000円のうち500万円及びこれに対する請求日の翌日である平成25年9月12日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁)

<経緯>

H20.04 原告と被告学園が非常勤講師委嘱契約締結
H24   被告学園と被告センターが業務委託契約締結
H24.12 被告学園が原告に本件システム開発委託
H25.04 被告学園が105万円を原告に支払い
H25.07 原告が開発中断
H25.09 原告らが交渉、開発再開
H25.10 交渉中止
H25.12 被告学園が兼松に開発委託

原告プログラム:サウジアラビア電子機器・家電製品研修所向け教務管理システムに係るプログラム

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■判決内容

<争点>

1 本件プログラムに係る職務著作の成否

原告が作成した本件システムは、海外教育支援として教育現場のICT(情報通信技術)化を支援することを目的として作成された海外向け教務支援システムであって、出席管理、成績管理、学生カルテ管理、教務管理の4つのモジュールによって構成され、インターネットを経由して利用可能な総合Webパッケージでした。

本件プログラムについて、被告らは職務著作が成立すると主張しましたが、裁判所は、原告による本件プログラムの作成は報酬の点でも被告学園の非常勤講師としての職務とは区別されていたなどとして、職務著作の成立を否定。原告が著作者であると認定しています(15頁以下)。

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2 本件プログラムの著作権の譲渡

被告学園は、原告が本件システムの開発当初から被告学園に対して同開発に係る成果物の著作権を譲渡することを承諾しており、平成25年5月23日に原告が被告学園に本件プログラムを引き渡し、被告学園が原告に対して開発費用を支払った事実をもって、原告から被告学園に対して本件プログラムの著作権が譲渡されたと主張しました。
しかし、裁判所は、結論として、原告が被告学園に対して本件プログラムの著作権を譲渡したとは認めていません(17頁以下)。

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3 本件プログラムの著作権又は著作者人格権の侵害行為

(1)被告学園プログラムをサーバーにアップロードしたことによる著作権侵害性

侵害性が肯定されています。

(2)被告学園プログラムを改変したことによる著作権等侵害性

侵害性が肯定されています。

(3)被告学園プログラムをデモンストレーションで使用するなどしたことによる著作権等侵害性

被告学園によって本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権が侵害されたとの主張は理由があるが、被告学園によって本件プログラムに係る原告の公表権及び氏名表示権が侵害されたとの主張は理由がなく、被告センターによって上記の著作権等が侵害されたとの主張も理由がないと判断されています。

(4)被告学園プログラムをサーバー上に保存したままにしたことによる著作権等侵害性

本件プログラムの公衆送信権(送信可能化権)、公表権及び氏名表示権の侵害性が肯定されています。

(5)被告学園プログラムを第三者に貸与するなどしたことによる著作権等侵害性

本件プログラムの複製権侵害性が肯定されています(以上18頁以下)。

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4 被告らの利益及びこれと因果関係のある原告の損失

本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け、原告に損失を及ぼした金額は20万円と認定されています(28頁以下)。なお、委託費用相当額の不当利得返還請求や慰謝料相当額損害金などは認められていません。

そのほか、原告の文書提出命令の申立てについては、却下されています(30頁以下)。

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■コメント

経緯をみる限り、発注元がシステム開発を安易に考えて契約もなおざりにしていたことが窺える事案です。