最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ジャスラック対音楽教室事件

東京地裁令和2.2.28平成29(ワ)20502等音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官    吉野俊太郎
裁判官    今野智紀

*裁判所サイト公表 2020.-.-
*キーワード:演奏

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■事案

音楽教室における演奏権使用料の徴収の可否が争点となった事案

原告:音楽教室運営者(249社)
被告:ジャスラック

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法22条

1 原告らの確認の利益の有無
2 音楽教室における演奏が「公衆」に対するものであるか
3 音楽教室における演奏が「聞かせることを目的」とするものであるか
4 音楽教室における2小節以内の演奏について演奏権が及ぶか
5 演奏権の消尽の成否
6 録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由の有無
7 権利濫用の成否

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■事案の概要

『本件は,著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づく文化庁長官の登録を受けた著作権管理事業者である被告が,被告の管理する著作物の演奏等について,音楽教室,歌唱教室等からの使用料徴収を平成30年1月1日から開始することとし,平成29年6月7日,文化庁長官に対し,使用料規程「音楽教室における演奏等」の届出を行ったところ,音楽教室を運営する法人及び個人であって,教室又は生徒の居宅において音楽の基本や楽器の演奏技術・歌唱技術の教授を行っている原告らが,原告らの音楽教室における楽曲の使用(教師及び生徒の演奏並びに録音物の再生)は,「公衆に直接…聞かせることを目的」とした演奏(著作権法22条)に当たらないことなどから,被告は,原告らの音楽教室における被告の管理する楽曲の使用にかかわる請求権(著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権)を有しないと主張して,被告に対し,同請求権の不存在確認を求める事案である。』
(1頁)

<経緯>

S46   社交ダンス教授所の管理開始
S60   ヤマハ音楽教室の発表会の管理開始
H15.11 被告が原告ヤマハに協議申し入れ
H16.02 被告が原告ヤマハに協議申し入れ
H23.04 フィットネスクラブの管理開始
H24.04 カルチャーセンターの管理開始
H27.04 社交ダンス教授所以外のダンス教授所の管理開始
H28.04 カラオケ教室及びボーカルレッスンを含む歌謡教室の管理開始
H29.02 被告が原告ヤマハに使用料徴収開始を通知
H29.06 被告が文化庁に変更届
H29.12 原告らが文化庁に使用料規程実施保留の裁定申請
H30.03 文化庁が裁定
H30.04 被告が徴収開始

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■判決内容

<争点>

1 原告らの確認の利益の有無

個人教室の運営者である原告Y1、Y2についての確認の利益を裁判所は認めています(48頁)。

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2 音楽教室における演奏が「公衆」に対するものであるか

裁判所は、著作権法22条の立法経緯等に言及したうえで、音楽教室における音楽著作物の利用主体を検討。利用主体は原告らであると認定。
そして、利用主体である原告らからみて生徒が「公衆」に当たるかどうかについてさらに検討をしています。
結論として、音楽教室における生徒は利用主体たる原告らにとって不特定の者であり、また、多数の者にも当たるとして、「公衆」に該当すると判断しています(48頁以下)。

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3 音楽教室における演奏が「聞かせることを目的」とするものであるか

裁判所は、「著作権法22条は,「公衆に直接…聞かせることを目的」とすることを要件としているところ,その文言の通常の意義に照らすと,「聞かせることを目的とする」とは,演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし,音楽著作物の利用主体から見て,その相手である公衆に演奏を聞かせる目的意思があれば足りるというべきである。」として、結論としては、音楽教室における演奏は音楽著作物の利用主体である原告らとの関係で「公衆に直接…聞かせることを目的として」(公に)との要件を充足すると判断しています(63頁以下)。

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4 音楽教室における2小節以内の演奏について演奏権が及ぶか

原告らは、音楽教室における2小節以内の演奏については短すぎるため、どの楽曲を演奏しているかを特定することができず、著作者の個性が発揮されているということはできないとして、著作物には当たらず、また、聞かせる目的もないとして請求の趣旨第5項及び第8項において、被告が被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことの確認を求めましたが、裁判所はこれを認めていません(68頁以下)。

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5 演奏権の消尽の成否

原告らは、音楽教室のレッスンで使用する楽譜等及びマイナスワン音源は、教師及び生徒に購入された後に演奏に用いられることが当然に想定されており、被告はこれらが譲渡される際に複製権のみならず演奏権の対価を含めて使用料を徴収する機会があるのであるから、演奏権についても消尽すると主張しました(69頁以下)。
この点について、裁判所は、音楽教室のレッスンで使用する楽譜等及びマイナスワン音源が購入された後に演奏に用いられることが当然に想定されているということはできないなどとして、原告の主張を認めていません。

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6 録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由の有無

原告らは、音楽教室においてはレッスンの場にいる全員がレッスンで使用する楽曲の音源を再生して自らが聞くことについての権利を有しているので、それを全員がいるレッスンの場で再生しても著作権侵害の実質的な違法性を欠くと主張しましたが、裁判所は認めていません(70頁以下)。

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7 権利濫用の成否

原告らは、教則本やレッスンで使用するCD等の録音物を制作する際や生徒による発表会など著作権が及ぶ使用については被告に使用料を払っているので、音楽教室における演奏について著作物使用料を徴収することは過度の負担を強いるものであり、権利の濫用に当たると主張しましたが、裁判所は認めていません(71頁以下)。


結論として、原告らの音楽教室における被告管理楽曲の使用にかかわる請求権(著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権)が被告との間で存在しないことを求める原告らの請求(予備的請求を含む。)はいずれも理由がないとして棄却されています。

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■コメント

JASRACの音楽教室への演奏権使用料徴収に関する裁判となります。