最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
照明用シェード事件
東京地裁令和2.1.29平成30(ワ)30795著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官 吉野俊太郎
裁判官 今野智紀
*裁判所サイト公表 2020.--
*キーワード:応用美術論、著作物性、翻案
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■事案
「ミウラ折り」の技法を凝らした照明用シェードの著作物性や翻案権侵害性が争われた事案
原告:デザイナーら
被告:商業施設監理会社、デザイン制作会社
--------------------
■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、2条2項、27条
1 原告作品の著作物性
2 被告作品の翻案該当性
--------------------
■事案の概要
『本件は,原告らが,被告丹青社及び被告ルーセントが制作した別紙被告作品目録記載の「Prism Chandelier」(以下「被告作品」という。)は,原告らが制作した著作物である別紙原告作品目録記載の照明用シェード(以下「原告作品」という。)を改変したものであるから,被告らが被告作品を制作,販売,貸与又は展示する行為は原告らの翻案権及び同一性保持権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対し,被告作品の制作,販売,貸与及び展示の差止めを求めるとともに,被告丹青社及び被告ルーセントによる上記翻案権侵害及び同一性保持権侵害により,原告らは財産的損害及び精神的損害を被ったと主張して,民法709条(財産的損害につき同条及び著作権法114条1項)に基づき,被告丹青社及び被告ルーセントに対し,550万円(財産的損害330万円,精神的損害220万円)及びこれに対する被告丹青社につき平成30年10月6日から,被告ルーセントにつき同月7日から(いずれも不法行為の後である訴状送達日の翌日),支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,併せて,著作権法115条に基づき,名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求める事案である。』
(2頁以下)
原告作品:フラワーシェード(後に「umbel」と呼称)
被告作品:「Prism Chandelier」
■経緯
H22.09 原告らが原告作品を展示、販売
H24.09 被告Yが原告に連絡、制作打診
H26.12 原告X1と被告ルーセントとの間で「デザイン使用に関する合意書」締結
H28.08 被告らが意匠登録出願
H28.09 被告ルーセントが被告丹青社に制作業務発注
H30.09 原告らが無効審判請求
R02.04 無効審決確定(無効2018−880012、無効2018−880013)
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■判決内容
<争点>
1 原告作品の著作物性
照明用シェードである原告作品の著作物性について、裁判所は、
「原告作品は,照明用シェードであり,実用目的に供される美的創作物(いわゆる応用美術)であるところ,被告らはその著作物性を争うが,同作品は後記2(2)記載のとおり,内部に光源を設置したフレームの複数の孔にミウラ折りの要素を取り入れて折ったエレメントの脚部を挿入し,その花弁状の頭部が立体的に重なり合うように外部に表れてフレームを覆うことにより,主軸の先端から多数の花柄が散出して,放射状に拡がって咲く様子を人工物で表現しようとしたものであり,頭部の花弁状部が重なり合うことなどにより,複雑な陰影を作り出し,看者に本物の植物と同様の自然で美しいフォルムを感得させるものである。このように,原告作品は,美術工芸品に匹敵する高い創作性を有し,その全体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものであって,美術の著作物に該当するものというべきである。」
として、その著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています(16頁)。
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2 被告作品の翻案該当性
翻案権侵害性について、裁判所は、翻案(27条)の意義に言及しながら、被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかについて検討しています(16頁以下)。
裁判所は、原告作品と被告作品の形態や製法等を分析した上で、共通点と相違点を検討。
そして、共通点A乃至Iは、いずれも原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではなく、これらの共通点から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないと判断。
また、相違点(D、E、B、G)について、原告作品と被告作品とは原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成、形状において相違しており、被告作品は自然界に存在する花のような柔らかく陰影に富んだ印象を与えるのではなく、より立体感があって均一にむらなく光り、クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであって、その輪郭も散形花序のようにボール状の丸みを帯びたものではなく、凹凸のある刺々しい印象を与えるものであるとして、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないと判断。
結論として、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することができるということはできず、被告作品は原告作品の翻案には該当せず、また、原告らの同一性保持権を侵害するものであるということもできないと判断しています。
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■コメント
人工衛星の太陽電池パネルや携帯地図の折り畳み方として実用化されている「ミウラ折り」の技法を凝らした照明用シェードの著作物性や翻案権侵害性が争われました。
本判決では、著作物性が肯定されたものの、翻案権侵害性が否定されていますが、被告側の意匠登録に関する意匠無効審判では、類似性が肯定されて無効審決が確定しています。
意匠登録1574099 無効2018−880012
意匠登録1591314 無効2018−880013
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■参考資料
早稲田大学末宗達行「応用美術の判例紹介東京地判令和2年1月29日(平成30年(ワ)第30795号)照明用シェード事件」(山口大学国際総合科学部・知財センター共催 知的財産判例セミナー 2020
2020年11月19日セミナー)
照明用シェード事件
東京地裁令和2.1.29平成30(ワ)30795著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官 吉野俊太郎
裁判官 今野智紀
*裁判所サイト公表 2020.--
*キーワード:応用美術論、著作物性、翻案
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■事案
「ミウラ折り」の技法を凝らした照明用シェードの著作物性や翻案権侵害性が争われた事案
原告:デザイナーら
被告:商業施設監理会社、デザイン制作会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、2条2項、27条
1 原告作品の著作物性
2 被告作品の翻案該当性
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■事案の概要
『本件は,原告らが,被告丹青社及び被告ルーセントが制作した別紙被告作品目録記載の「Prism Chandelier」(以下「被告作品」という。)は,原告らが制作した著作物である別紙原告作品目録記載の照明用シェード(以下「原告作品」という。)を改変したものであるから,被告らが被告作品を制作,販売,貸与又は展示する行為は原告らの翻案権及び同一性保持権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対し,被告作品の制作,販売,貸与及び展示の差止めを求めるとともに,被告丹青社及び被告ルーセントによる上記翻案権侵害及び同一性保持権侵害により,原告らは財産的損害及び精神的損害を被ったと主張して,民法709条(財産的損害につき同条及び著作権法114条1項)に基づき,被告丹青社及び被告ルーセントに対し,550万円(財産的損害330万円,精神的損害220万円)及びこれに対する被告丹青社につき平成30年10月6日から,被告ルーセントにつき同月7日から(いずれも不法行為の後である訴状送達日の翌日),支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,併せて,著作権法115条に基づき,名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求める事案である。』
(2頁以下)
原告作品:フラワーシェード(後に「umbel」と呼称)
被告作品:「Prism Chandelier」
■経緯
H22.09 原告らが原告作品を展示、販売
H24.09 被告Yが原告に連絡、制作打診
H26.12 原告X1と被告ルーセントとの間で「デザイン使用に関する合意書」締結
H28.08 被告らが意匠登録出願
H28.09 被告ルーセントが被告丹青社に制作業務発注
H30.09 原告らが無効審判請求
R02.04 無効審決確定(無効2018−880012、無効2018−880013)
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■判決内容
<争点>
1 原告作品の著作物性
照明用シェードである原告作品の著作物性について、裁判所は、
「原告作品は,照明用シェードであり,実用目的に供される美的創作物(いわゆる応用美術)であるところ,被告らはその著作物性を争うが,同作品は後記2(2)記載のとおり,内部に光源を設置したフレームの複数の孔にミウラ折りの要素を取り入れて折ったエレメントの脚部を挿入し,その花弁状の頭部が立体的に重なり合うように外部に表れてフレームを覆うことにより,主軸の先端から多数の花柄が散出して,放射状に拡がって咲く様子を人工物で表現しようとしたものであり,頭部の花弁状部が重なり合うことなどにより,複雑な陰影を作り出し,看者に本物の植物と同様の自然で美しいフォルムを感得させるものである。このように,原告作品は,美術工芸品に匹敵する高い創作性を有し,その全体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものであって,美術の著作物に該当するものというべきである。」
として、その著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています(16頁)。
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2 被告作品の翻案該当性
翻案権侵害性について、裁判所は、翻案(27条)の意義に言及しながら、被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかについて検討しています(16頁以下)。
裁判所は、原告作品と被告作品の形態や製法等を分析した上で、共通点と相違点を検討。
そして、共通点A乃至Iは、いずれも原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではなく、これらの共通点から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないと判断。
また、相違点(D、E、B、G)について、原告作品と被告作品とは原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成、形状において相違しており、被告作品は自然界に存在する花のような柔らかく陰影に富んだ印象を与えるのではなく、より立体感があって均一にむらなく光り、クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであって、その輪郭も散形花序のようにボール状の丸みを帯びたものではなく、凹凸のある刺々しい印象を与えるものであるとして、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないと判断。
結論として、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することができるということはできず、被告作品は原告作品の翻案には該当せず、また、原告らの同一性保持権を侵害するものであるということもできないと判断しています。
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■コメント
人工衛星の太陽電池パネルや携帯地図の折り畳み方として実用化されている「ミウラ折り」の技法を凝らした照明用シェードの著作物性や翻案権侵害性が争われました。
本判決では、著作物性が肯定されたものの、翻案権侵害性が否定されていますが、被告側の意匠登録に関する意匠無効審判では、類似性が肯定されて無効審決が確定しています。
意匠登録1574099 無効2018−880012
意匠登録1591314 無効2018−880013
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■参考資料
早稲田大学末宗達行「応用美術の判例紹介東京地判令和2年1月29日(平成30年(ワ)第30795号)照明用シェード事件」(山口大学国際総合科学部・知財センター共催 知的財産判例セミナー 2020
2020年11月19日セミナー)