最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
聖教新聞記事無断配信事件
東京地裁令和2.10.14令和2(ワ)6862発信者情報開示請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官 三井大有
裁判官 齊藤 敦
*裁判所サイト公表 2020.10.22
*キーワード:写真、著作物性、引用、付随対象著作物、発信者情報開示請求
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■事案
Twitterで新聞記事が無断配信されたとして引用の肯否などが争点となった発信者情報開示請求事件
原告:宗教団体
被告:プロバイダ
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■結論
請求認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、32条、30条の2、23条、プロバイダ責任制限法4条1項
1 本件写真の著作物性
2 本件写真の掲載が引用にあたるか
3 本件写真の掲載が付随対象著作物としての利用にあたるか
4 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
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■事案の概要
『本件は,原告が,経由プロバイダである被告に対し,氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに,原告が著作権を有する別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)を掲載した別紙投稿記事目録記載の投稿記事(以下「本件投稿記事」という。)を投稿したことによって,本件写真に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,上記著作権侵害行為に係る別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。』
(1頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件写真の著作物性
本件写真は、原告の一事業部門である聖教新聞社所属の職員が令和元年10月11日に原告の施設である創価学会本部第2別館において行われた「日蓮大聖人御入滅の日」の勤行法要の様子を、原告の発意に基づき職務上撮影したカラーの写真であり、同月13日付け聖教新聞の1面において原告名義で公表されたものでした。
本件写真の著作物性(著作権法2条1項1号)について、裁判所は、
「本件写真は,原告の施設内の一室で行われた法要において,多数の参加者が椅子に座って手を合わ
せている様子を撮影した写真であると認められるところ,本件写真は,後方にいる参加者まで撮影の対象にしつつ,前方の参加者の顔が重ならないよう,撮影のアングル,シャッタースピード,タイミング等において工夫がされている」(8頁以下)
と判断、撮影者の個性が現れており、撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものであるとして、その著作物性を肯定しています。
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2 本件写真の掲載が引用にあたるか
氏名不詳者による本件投稿記事は、『「今日の聖教新聞1面。学会本部に対策本部。「連携を密にしながら,被害状況の把握,会員の激励などに全力を挙げている」との記事だが,会長の動向,人的援助(ボランティア)手配や義援金の手配には一言も言及せず」』との内容を含むもので、同記載の下部に令和元年10月13日付け聖教新聞の1面の一部をカラーで複製した画像が掲載されているものでした(3頁、別紙投稿記事目録参照)。
令和元年10月13日付け聖教新聞の1面には、その上部に「聖教新聞」との題字があり、その題字の下に「日蓮大聖人御入滅の日 勤行法要 広布の誓い新たに 立正安国の前進を」と題する記事(「本件新聞記事1」)があり、同記事の左下部分には「台風19号 各地で被害相次ぐ 学会本部に対策本部」と題する3段から成る記事(「本件新聞記事2」)がそれぞれ掲載されていました。
被告(プロバイダ)の引用の抗弁について、裁判所は、
「本件投稿記事は,本件新聞記事2の内容を批評するものであると認められるところ,本件写真を掲載して勤行法要の様子等を伝える本件新聞記事1は,本件新聞記事2とは別の記事であり,内容的にも本件新聞記事2とは無関係であるから,本件新聞記事2の批評のために本件写真を本件投稿記事に掲載する必要はない。」(9頁)
として、引用の成立を否定しています。
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3 本件写真の掲載が付随対象著作物としての利用にあたるか
プロバイダは、本件写真は、本件新聞記事2を撮影するに当たって写り込んだにすぎないから、本件写真の本件投稿記事への掲載は著作権法30条の2の適用又は類推適用によって付随対象著作物の利用として適法である旨主張しました。
この点について、裁判所は、本件新聞記事2を批評する本件投稿記事を作成するに当たって、本件新聞記事2のみを写真で撮影する、あるいは本件写真をマスキングして、本件新聞記事2及び「聖教新聞」の題字を写真で撮影することは可能であって、本件写真が本件新聞紙面画像に係る写真の撮影の対象とする事物から分離することが困難であるとはいえないと判断。プロバイダの主張を認めていません(10頁)。
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4 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
裁判所は、本件写真に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであり、原告は本件発信者に対して著作権(公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等を有しており、その権利を行使するために被告から本件発信者情報の開示を受ける必要があると判断。原告の請求を認容しています(10頁以下)。
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■コメント
原告による発信者情報開示請求事件が続きますが、本事案のような掲載の体裁であっても、厳密にいえば、引用には当たらないわけで、発信者の表現の自由に対する配慮が必要ではあるものの、批評の発信者も安易な記事転載の体裁をとることには注意が必要であることがわかる事案となります。
聖教新聞記事無断配信事件
東京地裁令和2.10.14令和2(ワ)6862発信者情報開示請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官 三井大有
裁判官 齊藤 敦
*裁判所サイト公表 2020.10.22
*キーワード:写真、著作物性、引用、付随対象著作物、発信者情報開示請求
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■事案
Twitterで新聞記事が無断配信されたとして引用の肯否などが争点となった発信者情報開示請求事件
原告:宗教団体
被告:プロバイダ
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■結論
請求認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、32条、30条の2、23条、プロバイダ責任制限法4条1項
1 本件写真の著作物性
2 本件写真の掲載が引用にあたるか
3 本件写真の掲載が付随対象著作物としての利用にあたるか
4 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
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■事案の概要
『本件は,原告が,経由プロバイダである被告に対し,氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに,原告が著作権を有する別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)を掲載した別紙投稿記事目録記載の投稿記事(以下「本件投稿記事」という。)を投稿したことによって,本件写真に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,上記著作権侵害行為に係る別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。』
(1頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件写真の著作物性
本件写真は、原告の一事業部門である聖教新聞社所属の職員が令和元年10月11日に原告の施設である創価学会本部第2別館において行われた「日蓮大聖人御入滅の日」の勤行法要の様子を、原告の発意に基づき職務上撮影したカラーの写真であり、同月13日付け聖教新聞の1面において原告名義で公表されたものでした。
本件写真の著作物性(著作権法2条1項1号)について、裁判所は、
「本件写真は,原告の施設内の一室で行われた法要において,多数の参加者が椅子に座って手を合わ
せている様子を撮影した写真であると認められるところ,本件写真は,後方にいる参加者まで撮影の対象にしつつ,前方の参加者の顔が重ならないよう,撮影のアングル,シャッタースピード,タイミング等において工夫がされている」(8頁以下)
と判断、撮影者の個性が現れており、撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものであるとして、その著作物性を肯定しています。
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2 本件写真の掲載が引用にあたるか
氏名不詳者による本件投稿記事は、『「今日の聖教新聞1面。学会本部に対策本部。「連携を密にしながら,被害状況の把握,会員の激励などに全力を挙げている」との記事だが,会長の動向,人的援助(ボランティア)手配や義援金の手配には一言も言及せず」』との内容を含むもので、同記載の下部に令和元年10月13日付け聖教新聞の1面の一部をカラーで複製した画像が掲載されているものでした(3頁、別紙投稿記事目録参照)。
令和元年10月13日付け聖教新聞の1面には、その上部に「聖教新聞」との題字があり、その題字の下に「日蓮大聖人御入滅の日 勤行法要 広布の誓い新たに 立正安国の前進を」と題する記事(「本件新聞記事1」)があり、同記事の左下部分には「台風19号 各地で被害相次ぐ 学会本部に対策本部」と題する3段から成る記事(「本件新聞記事2」)がそれぞれ掲載されていました。
被告(プロバイダ)の引用の抗弁について、裁判所は、
「本件投稿記事は,本件新聞記事2の内容を批評するものであると認められるところ,本件写真を掲載して勤行法要の様子等を伝える本件新聞記事1は,本件新聞記事2とは別の記事であり,内容的にも本件新聞記事2とは無関係であるから,本件新聞記事2の批評のために本件写真を本件投稿記事に掲載する必要はない。」(9頁)
として、引用の成立を否定しています。
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3 本件写真の掲載が付随対象著作物としての利用にあたるか
プロバイダは、本件写真は、本件新聞記事2を撮影するに当たって写り込んだにすぎないから、本件写真の本件投稿記事への掲載は著作権法30条の2の適用又は類推適用によって付随対象著作物の利用として適法である旨主張しました。
この点について、裁判所は、本件新聞記事2を批評する本件投稿記事を作成するに当たって、本件新聞記事2のみを写真で撮影する、あるいは本件写真をマスキングして、本件新聞記事2及び「聖教新聞」の題字を写真で撮影することは可能であって、本件写真が本件新聞紙面画像に係る写真の撮影の対象とする事物から分離することが困難であるとはいえないと判断。プロバイダの主張を認めていません(10頁)。
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4 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
裁判所は、本件写真に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであり、原告は本件発信者に対して著作権(公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等を有しており、その権利を行使するために被告から本件発信者情報の開示を受ける必要があると判断。原告の請求を認容しています(10頁以下)。
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■コメント
原告による発信者情報開示請求事件が続きますが、本事案のような掲載の体裁であっても、厳密にいえば、引用には当たらないわけで、発信者の表現の自由に対する配慮が必要ではあるものの、批評の発信者も安易な記事転載の体裁をとることには注意が必要であることがわかる事案となります。