最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アニメキャラクターボーイズラブ同人誌無断配信事件

知財高裁令和2.10.6令和2(ネ)10018損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    上田卓哉
裁判官    都野道紀

原審
東京地裁令和2.2.14平成30(ワ)39343損害賠償請求事件PDF
添付文書1PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官    三井大有
裁判官    今野智紀

*裁判所サイト公表 2020.10.7
*キーワード:権利の濫用、公序良俗、漫画、アニメ、キャラクター、二次的著作物

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■事案

アニメキャラクターをボーイズラブストーリーとして創作した同人誌漫画を無断でネット掲載した事案

控訴人・被控訴人(1審原告):同人誌漫画家
被控訴人・控訴人(1審被告):コンテンツ販売会社、取締役ら

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■結論

各控訴棄却(原判決維持)

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■争点

条文 著作権法23条、114条1項、民法1条2項、3項

1 本件各漫画の著作物性
2 原告が本件各漫画の著作権者であるか
3 被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したか
4 被告会社の故意・過失の有無
5 信義則違反又は権利濫用の成否
6 損害額
7 被告Y1及び被告Y2に対する会社法429条1項に基づく責任の成否

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■事案の概要

『(1) 本件は,一審原告が,一審被告会社は,自らが運営する原判決別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(本件各ウェブサイト)に,一審原告が著作権を有する原判決別紙著作物目録記載の漫画(本件各漫画)を無断で掲載し,一審原告の著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して,一審被告会社に対し,民法709条及び著作権法(以下「法」という。)114条1項に基づき,損害賠償金1億9324万3288円のうち1000万円及びこれに対する不法行為日である平成30年7月7日(本件各ウェブサイトへの掲載日のうち最も遅い日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,一審被告会社の現在の代表取締役である一審被告Y1及び同年8月25日まで代表取締役であったY3(同日死亡。以下「亡Y3」という。)が,一審被告会社の法令順守体制を整備する義務に違反して,一審被告会社が上記著作権侵害行為を行う本件各ウェブサイトを運営することを許容したとして,一審被告Y1及び亡Y3を相続した同人の配偶者である一審被告Y2に対し,会社法429条1項に基づき,一審被告会社と連帯して,上記同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。』

『(2) 原判決は,一審原告の請求を,一審被告らに対し,損害賠償金219万2215円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
(3) 原判決に対し,各当事者は,それぞれ,敗訴部分を不服として控訴した。』(2頁以下)

<経緯>

H30.07 1審被告が1審原告漫画作品をサイトに掲載
H30.10 1審原告代理人が1審被告会社に照会書送付

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■判決内容

<争点>

1 本件各漫画の著作物性

1審原告の本件各漫画の著作物性(著作権法2条1項1号)について、原審はその著作物性を肯定していましたが、控訴審でも原審の判断を維持しています(8頁)。

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2 原告が本件各漫画の著作権者であるか

1審原告の著作権者性について、原審同様、控訴審も肯定しています。

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3 被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したか

被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載して公衆送信していたとする原審の判断を控訴審も維持しています。

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4 被告会社の故意・過失の有無

原審は被告会社の故意を認定し、著作権侵害性を肯定していましたが、控訴審も原審の判断を維持しています。

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5 信義則違反又は権利濫用の成否

被告らは、原審において、本件各漫画はいずれも有名なテレビアニメの登場人物及びストーリーを脚色したものであって、二次的著作物に該当するものであり、原告は原著作物の著作権者から許諾を得ておらず、本件各漫画は違法な二次的著作物に当たるにもかかわらず、原告は自ら原著作物の著作権を侵害しながら自己の著作権侵害を主張して第三者に対する損害賠償請求をしており、このような行為は信義則に反し、あるいは権利の濫用に該当する旨反論しました。

この点について、原審は、本件各漫画が違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠はない、と判断。控訴審も原審の結論を維持しています。

なお、1審被告らは、控訴審で補充主張として、本件各漫画の違法性について、

(1)他者の作品の著作権侵害性

1審原告は、原作のキャラクターを無断利用して同性愛及びわいせつなストーリーに変容させており、原著作者の複製権、翻案権、同一性保持権を侵害している。

(2)本件各漫画のわいせつ性

本件各漫画は、わいせつ図画に該当し、著作者が販売することも民法上公序良俗に反して許されない。

などとして、違法な二次的著作物である本件各漫画に法的保護を与えることは許されないと主張しました。

この点について、控訴審は、

(1)他者の作品の著作権侵害性について

本件各漫画が、仮に著作権侵害の問題が生ずる余地があるとしても、それは主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分の複製権侵害に限られるものであり、その他の部分については、オリジナリティを認めることは十分に可能であり、二次的著作権が成立し得るものというべきであると判断。

原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん、認められる場合であっても、1審原告がオリジナリティがあり二次的著作権が成立し得る部分に基づいて本件各漫画の著作権侵害を主張して損害賠償等を求めることは、権利の濫用に当たるということはできないと判断しています(8頁以下)。

(2)わいせつ性について

本件各漫画全体を検討してみても、それらが甚だしいわいせつ文書であり、これに基づく著作権侵害を主張して損害賠償を求めたり、認めたりすることが、権利の濫用に該当するであるとか、公序良俗に違反するとまでいうことはできないと判断しています(11頁以下)。

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6 損害額

原審では著作権法114条1項に基づき損額額が219万2215円と認定されていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています(12頁以下)。

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7 被告Y1及び被告Y2に対する会社法429条1項に基づく責任の成否

原審では、被告Y1及び亡Zの権利義務を承継した被告Y2は、会社法429条1項に基づいて損害賠償責任を負い、当該責任は被告会社の不法行為に基づく損害賠償責任と不真正連帯債務の関係に立つと判断されていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています。

結論として、原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないと判断されています。

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■コメント

ボーイズラブ(BL)を素材にした同人誌漫画14点が無断でBL系の7サイトに掲載された事案です。
原告は、テレビアニメのキャラクターをモチーフにBLストーリーにして同人誌販売しており、被告側は、テレビアニメの著作権侵害性や漫画のわいせつ性の点から権利濫用との反論を試みていますが、そうした作品を自ら無断配信している被告側からの主張としては、「どの口で言うか」ということになり、本件ではこうした反論は認められませんでした。
もっとも、控訴審の判断からしますと、二次的著作物の部分の創作性が高くなくて、オリジナルの部分からの剽窃が多いような場合であれば、権利濫用の抗弁が認められる余地もありそうです。