最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

Twitterアイコン画像事件(上告審)

最高裁判所令和2.7.21平成30(受)1412発信者情報開示請求事件PDF

第三小法廷
裁判長裁判官 戸倉三郎
裁判官    林 景一
裁判官    宮崎裕子
裁判官    宇賀克也
裁判官    林 道晴

*裁判所サイト公表 2020.7.21
*キーワード:発信者情報開示請求、リツイート、著作者人格権

原審:知財高裁平成30.4.25平成28(ネ)10101発信者情報開示請求控訴事件
判決文PDF
第一審:東京地裁平成28.9.15平成27(ワ)17928発信者情報開示請求事件
判決文PDF
別紙1

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■事案

Twitterのアイコン画像に無断で写真が使用されたとしてリツイート行為も含め発信者情報開示請求がされた事案の上告審

上告人 :Twitter米国法人
被上告人:写真家

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■結論

上告棄却

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■争点

条文 著作権法19条、プロバイダ責任制限法4条1項

1 リツイートの著作権法19条1項「著作物の公衆への提供若しくは提示」行為の有無
2 リツイートの著作権法19条2項「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」該当性
3 リツイートのプロバイダ責任制限法4条1項1号該当性

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■事案の概要

『本件は,第1審判決別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)の著作者である被上告人が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトにされた投稿により本件写真に係る被上告人の氏名表示権(以下「本件氏名表示権」という。)等を侵害されたとして,ツイッターを運営する上告人に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,上記投稿に係る発信者情報の開示を求める事案である。』

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■判示事項

『1 著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要しない
2 SNSにおける他人の著作物である写真の画像を含む投稿により,同画像が,著作者名の表示が切除された形で同投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合に,当該表示画像をクリックすれば元の画像を見ることができるとしても,同投稿をした者が著作者名を表示したことにはならないとされた事例
3 SNSにおける他人の著作物である写真の画像を含む投稿をした者が,プロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報の発信者」に該当し,「侵害情報の流通によって」氏名表示権を侵害したものとされた事例』

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■判決内容

<争点>

1 リツイートの著作権法19条1項「著作物の公衆への提供若しくは提示」行為の有無

ツイッター社は、本件各リツイート者は本件各リツイートによって著作権侵害となる著作物の利用をしていないとして、著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」をしていないと主張しました。この点について、第三小法廷(多数意見)は、

「著作権法19条1項は,文言上その適用を,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用により著作物の公衆への提供又は提示をする場合に限定していない。また,同法19条1項は,著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護するものであると解されるが,その趣旨は,上記権利の侵害となる著作物の利用を伴うか否かにかかわらず妥当する。そうすると,同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。」と判示。
本件各リツイート者が本件各リツイートによって上記権利の侵害となる著作物の利用をしていないとしても、本件各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である本件各表示画像を表示したことは著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」に当たると判断しています(3頁以下)。

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2 リツイートの著作権法19条2項「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」該当性

ツイッター社は、本件各ウェブページを閲覧するユーザーは本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすることで本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができることから、本件各リツイート者は本件写真について、「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(19条2項)しているといえると主張しました。
この点について、第三小法廷(多数意見)は、

「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。」として、ツイッター社の主張を認めていません(4頁以下)。

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3 リツイートのプロバイダ責任制限法4条1項1号該当性

ツイッター社は、本件各リツイート者による本件リンク画像表示データの送信については、当該データの流通それ自体によって被上告人の権利が侵害されるものではないとして、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたという要件を満たさないこと、また、本件各リツイート者は被上告人の権利を直接侵害する情報である画像データについて何ら特定電気通信設備の記録媒体への記録を行っていないと主張しました。

この点について、第三小法廷(多数意見)は、

「本件各リツイート者は,その主観的な認識いかんにかかわらず,本件各リツイートを行うことによって,前記第1の2(5)のような本件元画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係る本件リンク画像表示データを,特定電気通信設備である本件各ウェブページに係るサーバーの記録媒体に記録してユーザーの端末に送信し,これにより,リンク先である本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから同端末に本件元画像のデータを送信させた上,同端末において上記指定に従って本件各表示画像をトリミングされた形で表示させ,本件氏名表示部分が表示されない状態をもたらし,本件氏名表示権を侵害したものである。そうすると,上記のように行われた本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしているものというべきであって,本件においては,本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ,本件各リツイート者は,「侵害情報」である本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる。」

として、ツイッター社の主張を認めていません。

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■裁判官戸倉三郎 補足意見

「(略)本件氏名表示権を侵害したものといわざるを得ない。
 もっとも,このような氏名表示権侵害を認めた場合,ツイッター利用者にとっては,画像が掲載されたツイート(以下「元ツイート」という。)のリツイートを行うに際して,当該画像の出所や著作者名の表示,著作者の同意等に関する確認を経る負担や,権利侵害のリスクに対する心理的負担が一定程度生ずることは否定できないところである。しかしながら,それは,インターネット上で他人の著作物の掲載を含む投稿を行う際に,現行著作権法下で著作者の権利を侵害しないために必要とされる配慮に当然に伴う負担であって,仮にそれが,これまで気軽にツイッターを利用してリツイートをしてきた者にとって重いものと感じられたとしても,氏名表示権侵害の成否について,出版等による場合や他のインターネット上の投稿をする場合と別異の解釈をすべき理由にはならないであろう。
(略)
個々のツイッター利用者の意識の向上や個別の対応のみに委ねることは相当とはいえないと考えられる。著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより,社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも,上告人において,ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される。」(6頁以下)

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■裁判官林 景一 反対意見

「私は,多数意見と異なり,本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件氏名表示権を侵害したとはいえず,原判決のうち本件各リツイート者に係る発信者情報開示請求を認容した部分を破棄すべきであると考える。その理由は以下のとおりである。」

「1 原審は,本件各表示画像につき,本件写真画像(本件元画像)がトリミングされた形で表示され(以下,このトリミングを「本件改変」という。),本件氏名表示部分が表示されなくなったことから,本件各リツイート者による著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害を認めた。しかし,本件改変及びこれによる本件氏名表示部分の不表示は,ツイッターのシステムの仕様(仕組み)によるものであって,こうした事態が生ずるような画像表示の仕方を決定したのは,上告人である。これに対し,本件各リツイート者は,本件元ツイートのリツイートをするに当たって,本件元ツイートに掲載された画像を削除したり,その表示の仕方を変更したりする余地はなかったものである。
 また,上記のような著作者人格権侵害が問題となるのは著作者に無断で画像が掲載される場合であるが,本件で当該画像の無断アップロードをしたのは,本件各リツイート者ではなく本件元ツイートを投稿した者である。
 以上の事情を総合的に考慮すると,本件各リツイート者は,著作者人格権侵害をした主体であるとは評価することができないと考える。」

「2 (略)
多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。そうした事態を避けるためにも,私は,上記1の結論を採るところである。」(8頁以下)

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■コメント

リツイート行為による著作者人格権侵害性の判断について、第一審では否定され、原審では肯定、上告審でも肯定の結果となりました。
補足意見と反対意見に触れることでインターネットにおける表現の自由や情報モラルについて裁判官の政策的価値判断の有りようが良くわかる事例となります。
写真家のかたにとっては、発信者情報開示請求の段階で上告審の負担まで負うことになり、たいへんな手間と労力になったかと思われますが、ネットだからと軽々に他人の情報を使うべきではない、という示唆を得る裁判例としてたいへん貴重な判断を示していただくことになりました。

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■過去のブログ記事

原審記事
Twitterアイコン画像事件(控訴審)
第一審記事
Twitterアイコン画像事件

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■追記(2020年7月23日)

1)原告代理人弁護士齋藤理央先生のコメント記事

「リツイート画像による「権利侵害」…原告代理人が注目する「最高裁判決」のポイント」(弁護士ドットコム 2020年07月23日08時14分 山下真史)
記事

2)弁護士小倉秀夫先生のコメント

「リツイート事件」(2020/07/23 12:46) 記事

3)企業法務戦士の雑感〜season2〜
「ニュースと判決文を眺めただけでは分からない「リツイート最判」の本当の意義。」(2020/7/23)
記事