最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ジル・スチュアート」ライセンス契約事件(控訴審)

知財高裁令和2.2.20平成31(ネ)10033パブリシティ権侵害等差止等・著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    上田卓哉
裁判官    石神有吾

原審
東京地裁平成31.2.8平成28(ワ)26612(第1事件)、26613(第2事件)

*裁判所サイト公表 2020.2.25
*キーワード:パブリシティ権、ライセンス契約、合理的意思解釈、品質誤認惹起行為、写真、ファッション

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■事案

ジル・スチュアートのブランドライセンス契約を巡る事案の控訴審

控訴人・被控訴人(1審原告):ファッションブランド管理会社
被控訴人(1審原告):デザイナー
被控訴人・控訴人(1審被告):衣料品企画製造販売会社

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■結論

いずれも控訴棄却

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■争点

条文 著作権法23条、不正競争防止法2条1項20号

1 原告ジルのパブリシティ権侵害による不法行為の成否
2 品質誤認惹起行為該当の有無
3 信義則違反ないし権利濫用の成否
4 差止めの可否及び必要性
5 被告の故意過失の有無
6 原告らの損害額
7 謝罪広告又は訂正広告の要否
8 誤認防止表示の要否
9 原告写真の著作権侵害性の有無(第2事件)

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■事案の概要

『1 原審第1事件は,ファッションデザイナーである一審原告X及びそのマネジメント会社である一審原告会社が,一審被告に対し,(1)被告ウェブサイトに被告表示1(一審原告Xの氏名。別紙被告表示目録記載1の表示を指す。なお,他の被告表示も,それぞれ同目録記載の表示に対応する。)及び被告表示2(同人の肖像写真)を掲載した行為は一審原告Xのパブリシティ権を侵害する,(2)被告ウェブサイトに被告表示1〜4を表示し又は被告商品に被告表示5を付す行為は,不正競争防止法(平成30年法律第33号による改正前のもの。以下「不競法」という。)2条1項14号の不正競争行為(品質誤認惹起行為)に該当し,これにより一審原告らの営業上の利益等が侵害されたなどと主張して,一審被告に対し,次の(1)〜(5)(控訴の趣旨2項の(1)〜(5)にそれぞれ対応する。)を求めた事案である。
(1) パブリシティ権又は不競法3条1項に基づく被告ウェブサイトにおける被告表示1の表示の差止め
(2) パブリシティ権又は不競法3条2項に基づく被告表示5を付した商品タグ(千葉地方裁判所平成28年(執ハ)第16号事件に基づき執行官により保管された商品タグ合計167点を除く。)及び同商品タグを付した被告商品の廃棄
(3) パブリシティ権侵害の不法行為又は不競法4条に基づく損害賠償(予備的に不当利得返還請求)として合計6億3008万4000円及びうち5億9345万5980円(民法709条及び著作権法114条3項類推適用に基づく一審原告Xのパブリシティ権侵害に係る使用料相当損害額9億6000万円の一部)に対する修正サービス契約の終了日の翌日である平成25年2月27日から,うち3008万4000円(使用料相当損害金の一部である8万4000円と弁護士費用相当損害金3000万円の合計額)に対する第1事件の訴状送達の日の翌日である平成28年8月25日から,うち654万4020円(パブリシティ権侵害又は不競法4条に基づく調査費用,執行費用等の損害賠償)に対する不法行為の後である平成29年12月21日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払(一審原告らの不真正連帯債権)
(4) ア 主位的に,パブリシティ権侵害(著作権法115条類推適用)又は不競法14条に基づく謝罪広告の掲載
イ 予備的に,パブリシティ権侵害(著作権法115条類推適用)又は不競法14条に基づく訂正広告の掲載
(5) 不競法14条に基づく誤認防止表示』

『2 なお,原審第1事件の提訴段階においては,より広汎な差止め及び作為が請求されていたが,一審被告は,同事件の第1回口頭弁論期日において,(1)被告ウェブサイト等における被告表示2〜4の表示の差止めを求める部分,(2)被告商品に被告表示5の表示を付し,又は同表示を付した被告商品の譲渡,引渡し,譲渡又は引き渡しのための展示若しくは輸入の差止めを求める部分,(3)本件執行官保管に係る被告表示5の表示を付した商品タグの廃棄(上記1(2)のかっこ内参照)を求める部分に係る各請求を認諾した。』

『3 原審第2事件は,ファッションイメージ写真である原告写真の著作権を有すると主張する一審原告会社が,一審被告に対し,一審被告は被告ウェブサイトに原判決別紙被告写真目録記載1ないし126の被告写真を掲載して一審原告会社の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したなどと主張して,次の(1)〜(4)(控訴の趣旨3項の(1)〜(4)にそれぞれ対応する。)を求めた事案である。
(1) 著作権法112条1項に基づく被告写真の複製及び公衆送信の差止め
(2) 著作権法112条2項に基づく被告ウェブサイトからの被告写真の削除
(3) 著作権法112条2項に基づく被告写真の電子データの廃棄
(4) 民法709条に基づく損害賠償(予備的に不当利得返還請求)として合計19億6352万2007円及びうち19億1350万6207円(著作権法114条3項による使用料相当損害金21億6678万円の一部,なお,予備的には18億5724円)に対する修正サービス契約の終了日の翌日である平成25年2月27日から,うち5000万円(弁護士費用相当損害金)に対する訴状送達の日の翌日である平成28年8月25日から,うち1万5800円(証拠収集費用に係る損害賠償)に対する不法行為の後である平成29年12月21日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払』

『原判決は,上記1及び3記載の各請求のうち,1(3)及び3(4)の各金銭請求の一部を認容し,その余を棄却した』

『5(1) 一審原告会社は,差止請求及び作為請求に係る敗訴部分を全部不服として(ただし,控訴に当たって,被告ウェブサイトを本判決別紙一審被告ウェブサイト目録記載のとおり特定するなど,請求の内容を変更した。),また,内金請求としての金銭請求に係る敗訴部分については,請求金額元本を第1事件につき6300万円及び第2事件につき1億9635万2200円(いずれも原判決で認容された金額を含む。)とすることによって不服の範囲を限定した上で,控訴した。
(2) 一審被告は,敗訴部分を不服として控訴した。
(3) 一審原告Xは,敗訴部分につき控訴しなかった。また,一審被告の控訴に対しては,当審において,公示送達による適式な呼び出しを受けたが口頭弁論に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない。』
(4頁以下)

<経緯>

H08 原告ブランドに関して被告がサブライセンシーになる
H14 原告側とマスターライセンサーが係争状態、終了合意
   トラストと被告間で終了合意書、期限付き商標権譲渡契約締結
H17 原告会社と被告がサービス契約締結
H19 原被告間で事業譲渡検討、4500万USドルで商標権譲渡契約締結
H24 原告会社らが被告らを米国で提訴
H25 被告が修正サービス契約解除
H27 原告らが東京地裁に仮処分申立

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■判決内容

<争点>

1 原告ジルのパブリシティ権侵害による不法行為の成否

原審では、原告ジル・スチュアートの肖像等の顧客誘引力を前提にパブリシティ権が原告ジルにあることが認定されており、修正サービス契約の解除(本件解除)後の被告表示1及び2の被告ウェブサイトでの使用については原告ジルのパブリシティ権を侵害すると判断されていましたが、控訴審も原審の判断を維持しています(22頁以下)。

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2 品質誤認惹起行為該当の有無

原審では、被告表示1ないし5について、本件解除後の被告による使用は、商品の品質、内容を誤認させるような表示に当たると認定。控訴審でも原審の判断が維持されています(23頁)。

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3 信義則違反ないし権利濫用の成否

被告は、原告らが修正サービス契約の終了を前提として被告に被告表示1ないし5の差止めや損害賠償を求めることが信義則違反又は権利濫用に該当すると主張しましたが、原審、控訴審とも被告の主張を認めていません(23頁)。

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4 差止めの可否及び必要性

原審では、パブリシティ権や不正競争防止法に基づく被告表示に関する差止請求について否定されていましたが、控訴審も原審の判断を維持しています(23頁以下)。

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5 被告の故意過失の有無

控訴審でも原告ジルのパブリシティ権の侵害及び不正競争行為について、被告の過失が認められています(24頁)。

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6 原告らの損害額

原審では、パブリシティ権侵害に基づく使用料相当額損害について100万円、侵害調査費用1万3230円、弁護士費用相当額損害10万円の計11万3230円が損害額として認定されていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています(24頁以下)。

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7 謝罪広告又は訂正広告の要否

原審では、原告らの謝罪広告請求及び訂正広告請求はいずれも理由がないと判断されていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています(27頁)。

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8 誤認防止表示の要否

原告らは、信用回復措置として更なる誤認防止表示(著作権法115条類推適用又は不正競争防止法14条)を求めていましたが、原審、控訴審ともにその必要を認めていません(27頁以下)。

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9 原告写真の著作権侵害性の有無(第2事件)

第2事件について、ファッションイメージ写真である原告写真の修正サービス契約終了後の被告による利用に関して、原告写真の著作権の所在、利用許諾の目的及び期間、さらには第2事件の訴訟提起に関する信義則違反、被告写真の複製等の差止の要否、損害論などが争点となりましたが、原審では結論として公衆送信権侵害、原告会社の利用料相当額損害378万円、弁護士費用相当額損害37万円の計415万円が認定され、控訴審でも原審の結論が維持されています(28頁以下)。

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■コメント

ファッションブランド「ジル・スチュアート」の事業について、ジル側と被告との間で全世界でのブランド事業譲渡契約が協議されたものの合意に至らず、ただ、アジア地域での商標権、グッドウィルなどを4500万USドルの対価で無期限に譲渡する商標譲渡契約が締結されていました。
日本国内でのブランド展開については、広告制作業務契約解消後も商標権譲渡契約により従前通り可能だったこともあり、「本件事案は,長期間にわたり契約関係にあった当事者が,必ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり,それが原因となってパブリシティ侵害行為,著作権侵害行為及び不正競争行為(いずれも法的性質としては不法行為)として損害賠償等が請求されている」(控訴審判決文21頁参照)という契約内容の合理解釈が争われた事案となります。

控訴審では、ジル・スチュアートにパブリシティ権が認められるにしても、超一流のファッションデザイナーとは同列ではない、とか、ライセンシーである被告の日本でのジル・スチュアートブランド形成への貢献に関する言及もあって、結果からみれば、世界最大のマーケットである日本においてジル側が提訴によって自らのブランド価値を毀損してしまったともいえます。

ジル・スチュアートの商標権譲渡で4500万USドル(約50億円)、全事業譲渡ならいくらになっていたか分かりませんが、高額とはいっても、たとえば、(歴史が浅く、若い女性向けブランドのジル・スチュアートを較べるのは酷ですが)モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンが2011年にブルガリを4200億円で、2019年にティファニーを1兆7400億円で、また、マイケル・コース ホールディングスが2310億円でヴェルサーチを買収しており、ラグジュアリーブランドの買収は桁違いで巨額です。

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■参考サイト

「ジル・スチュアート社、アパレル大手に26億円求め提訴」
(塩入彩2016年9月30日 23時06分)
朝日新聞デジタル記事