最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

学習塾模試ウェブ解説事件(控訴審)

知財高裁令和1.11.25令和1(ネ)10043著作権に基づく差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    上田卓哉
裁判官    高橋 彩

*裁判所サイト公表 2019.11.26
*キーワード:編集著作物、模試、複製、翻案、学習塾、ネット配信

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■事案

学習塾が作成した問題や解説のネットライブ配信の翻案性などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告):学習塾経営会社
被控訴人(1審被告):学習塾経営会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条、2条1項1号、21条、27条

1 本件問題及び本件解説の著作物性の有無
2 複製又は翻案該当性
3 控訴人の補充主張に対する判断

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■事案の概要

『本件は,学習塾等の運営に当たって原判決別紙1−1及び1−2の各問題(本件問題)並びに同別紙1−3及び1−4の「解答と解説」と題する各解説(本件解説)を作成した控訴人が,控訴人とは別個に本件問題についての解説(被告ライブ解説)をインターネット上で動画配信した被控訴人に対し,(1)被控訴人が被告ライブ解説に際して本件問題及び本件解説を複製して利用することによって控訴人の複製権を侵害した旨主張し,また,(2)被告ライブ解説は本件問題及び本件解説の翻案であるから翻案権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,上記動画等の配信の差止め及びその予防を求めるとともに,同法114条2項に基づき,損害賠償の一部請求として1500万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成30年6月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却する原判決をした。控訴人がこれを不服として控訴した。』
(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件問題及び本件解説の著作物性の有無
2 複製又は翻案該当性

争点1、2について、原審の判断を維持しています(5頁)。

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3 控訴人の補充主張に対する判断

控訴人の控訴審での補充主張について、裁判所は、

(1)被控訴人は本件問題又は本件解説の複製を行っているか

控訴人は、被告ライブ解説に接する生徒たちがテストを受けてきたばかりであって、問題文の記憶が鮮明に残っていること、また、生徒たちが本件問題及び本件解説を手元に置いて参照しながら視聴していることをも総合的に考察すべきである旨主張しました。
しかし、控訴審は、被控訴人の手によって有形的な再製が行われていない以上、「複製」が行われたと認めることはできないとして、控訴人の主張を認めていません(5頁以下)。

(2)被告ライブ解説は本件問題の翻案に当たるか

控訴審は、仮に被告ライブ解説が本件問題が取り上げた文を対象とし、本件問題が提起したのと同一の問題をその配列・順序に従って解説しているものであるとしても、それはあくまでも問題の解説をしているのであって、問題を再現ないし変形しているのではなく、したがって、本件問題の翻案には当たらないものといわざるを得ないなどとして、控訴人の主張を認めていません(6頁以下)。

(3)被告ライブ解説は本件解説の翻案に当たるか

控訴人は、本件解説と被告ライブ解説とは本件問題の読解対象文章及び設問・選択肢の文章を前提としているということでは全く共通であるから、個々の文言にほとんど共通性がないからといって表現の本質的特徴に同一性がないということにはならない旨主張しました。
この点について、控訴審は、読解対象文章及び設問・選択肢の文章を前提としていること自体からは表現にわたらない内容の同一性がもたらされるにすぎないとして、表現の本質的特徴の同一性の有無は、別途文言等の共通性等を通じて判断されるべきものであるなどとして、結論として控訴人の主張を認めていません(7頁以下)。

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■コメント

控訴審でも原審の判断が維持されています。
例えば、ネットを利用した家庭教師ビジネスを新規に行おうを計画した場合、他社教材を(マンツーマンで、教材を講師用、受講者用2部購入したとしても)無許諾利用できる範囲を考える上で参考になる事例ではないでしょうか。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和1.5.15平成30(ワ)16791著作権に基づく差止等請求事件
原審記事