最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

夜景写真発信者情報開示事件(対NTTぷらら)

東京地裁令和1.6.26平成31(ワ)1955発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 山田真紀
裁判官    神谷厚毅
裁判官    矢野紀夫

*裁判所サイト公表 2019.−−
*キーワード:発信者情報開示、写真、著作物性、引用

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■事案

夜景写真が無断でネット掲載されたとして発信者情報開示請求がされた事案(対NTTぷらら案件)

原告:写真家
被告:プロバイダ

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法21条、23条、32条、プロバイダ責任制限法4条1項

1 本件投稿による権利侵害の明白性
2 本件発信者情報が本件投稿による侵害に係る発信者情報であるといえるか
3 開示を求める正当な理由の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,電気通信事業を営む被告に対して,被告の電気通信設備を経由してされたインターネット上のウェブサイトへの写真の掲載によって,当該写真についての原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり,別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)が,その侵害に係る発信者情報であって,上記の掲載をした者(以下「本件投稿者」という。)に対する損害賠償請求を行うために被告の保有する発信者情報の開示が必要であるとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて,本件発信者情報の開示を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H30.7 本件投稿者が「みんカラ」に本件画像を投稿

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■判決内容

<争点>

1 本件投稿による権利侵害の明白性

(1)本件画像の著作物性、原告の著作権

本件画像は夕方に横浜ベイブリッジを中心とする風景を撮影した写真でしたが、裁判所は、原告が本件画像の撮影者であり、本件画像は著作物性もあると判断。
原告が本件画像の著作者、著作権者であると認めています(5頁以下)。

(2)引用の肯否

被告は、本件投稿者が本件画像を本件記事内で使用したのは引用に当たり、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるから、著作権法32条1項により著作権侵害は成立しない旨反論しましたが、裁判所は被告の主張を認めていません(6頁以下)。

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2 本件発信者情報が本件投稿による侵害に係る発信者情報であるといえるか

被告が保有する別紙2侵害情報目録記載のIPアドレスの評価について、結論として、裁判所は、本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報と認めています(7頁以下)。

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3 開示を求める正当な理由の有無

原告は、本件投稿者に対して本件画像の著作権侵害について不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており、そのためには被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるものと認められるとして、裁判所は、その開示を受けるべき正当な理由があると判断しています(9頁)。

結論として、原告の請求が認容されています。

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■コメント

夜景写真家岩崎拓哉氏(https://www.yakei-photo.jp/)から、対NTTぷらら案件の判決文が裁判所サイトで公開されたことをお伝えいただき、またコメントをお寄せいただきました。

「本件は、ブログを管理するコンテンツプロバイダ側が投稿時刻のログ(IPアドレス)を保有しない不利な状況下であり、本人訴訟で顧問弁護士に相談をしながら進め、無事に勝訴して発信者情報が開示されました。」

別訴の対エキサイト事案(東京地裁平成31.4.17平成31(ワ)2413発信者情報開示請求事件)と同様、請求認容の結論となりますが、対エキサイト事案に比べると(対象となる風景は異なりますが)、本件では被告は夜景写真の著作物性を正面から否定しており、夜景写真への理解を示さず、また、写真の著作物性を巡る近時の裁判例の動向を踏まえておらず、その主張は空々しい印象を受けます。

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■過去のブログ記事

夜景写真発信者情報開示事件(対エキサイト)
東京地裁平成31.4.17平成31(ワ)2413発信者情報開示請求事件
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