最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

学習塾模試ウェブ解説事件

東京地裁令和1.5.15平成30(ワ)16791著作権に基づく差止等請求事件PDF
別紙1

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官    三井大有
裁判官    遠山敦士

*裁判所サイト公表 2019.7.22
*キーワード:編集著作物、模試、複製、翻案

   --------------------

■事案

学習塾が作成した問題や解説の著作物性などが争点となった事案

原告:学習塾経営会社
被告:学習塾経営会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法12条、2条1項1号、21条、27条

1 本件問題及び本件解説の著作物性の有無
2 複製又は翻案該当性

   --------------------

■事案の概要

『本件は,中学校の受験のための学習塾等を運営する原告が,同様に学習塾を経営する被告に対し,被告が,原告の許可なく,別紙1−1及び1−2の各問題及び別紙1−3及び1−4の「解答と解説」と題する各解説を複製して利用した行為が複製権侵害に当たると主張し,また,上記各問題及び上記各解説をインターネット上で動画配信している行為が翻案権侵害に当たると主張し,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,上記動画等の配信の差止め及びその予防を求めるとともに,同法114条2項に基づき,損害賠償の一部請求として1500万円及びこれに対する不法行為後の日である平成30年6月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H30.04 原告が本件問題のテスト実施、本件解説を配布
    被告が同テスト終了後1時間後にウェブ上で本件問題について解説実施

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件問題及び本件解説の著作物性の有無

原告が制作した国語の読解問題について、同問題に係るテストの終了後に、被告の担当者等がウェブ上の動画において口頭でその解説をしましたが、本件問題及び本件解説が画面上に表示されることはありませんでした(10頁以下)。

(1)本件問題の編集著作物性

まず、本件問題の編集著作物性(著作権法12条)の有無について、裁判所は、題材となる作品の選択、題材とされた文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択、設問の内容、設問の配列・順序について、作問者の個性が発揮されており、その素材の選択又は配列に創作性があると認めることができると判断。本件問題は編集著作物に該当するとしています。

(2)本件解説の著作物性

次に、本件解説について、裁判所は、

「本件問題の各設問について,問題の出題意図,正解を導き出すための留意点等について説明するものであり,各設問について,一定程度の分量の記載がされているところ,その記載内容は,各設問の解説としての性質上,表現の独自性は一定程度制約されるものの,同一の設問に対して,受験者に理解しやすいように上記の諸点を説明するための表現方法や説明の流れ等は様々であり,本件解説についても,受験者に理解しやすいように表現や説明の流れが工夫されるなどしており,そこには作成者の個性等が発揮されているということができる。」(11頁)

として、言語の著作物性(2条1項1号)を肯定しています。

   --------------------

2 複製又は翻案該当性

被告は、複数の原告学習塾の生徒から問題の原本を入手して解説を行っている事実は認めるものの、問題を複製した事実は否認しており、本件においては被告が自ら本件問題及び本件解説文を複製したと認めるに足りる証拠はないとして、結論として裁判所は被告による複製の事実を認めていません(11頁以下)。
また、被告ライブ解説の本件問題の翻案性について、本件問題の全部又は一部の画像を表示しておらず、また、口頭で本件問題の全部又は一部を読み上げるなどの行為もしていないことから、被告ライブ解説は本件問題の本質的な特徴の同一性を維持しているということはできず、被告ライブ解説に接する者が本件問題の素材の選択又は配列に係る本質的な特徴を直接感得することができないと裁判所は判断。
結論として、被告ライブ解説の本件問題の翻案性を否定しています。

   --------------------

■コメント

別紙を見ますと、対象となったのは、小学校6年生向け国語2種類、2018年4月15日実施「第1回志望校判別サピックスオープン」の問題と解説となります。
事実認定として被告学習塾による複製や翻案の事実が認められていませんが、権利侵害しないように、よほど被告学習塾は気をつけて解説動画配信を行ったことになります。事実認定について控訴審の判断が注目されます。