最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

新冷蔵庫システム開発契約事件(控訴審)

知財高裁令和1.6.6平成30(ネ)10052損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 森 義之
裁判官    眞鍋美穂子
裁判官    熊谷大輔

*裁判所サイト公表 2019.6.13
*キーワード:ソフトウェア開発委託契約、保守管理、複製、翻案

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■事案

ソフトウェア開発業務委託契約の条項の解釈を巡る紛争の控訴審

控訴人(1審原告) :物流倉庫等システムソフトウェア開発会社
被控訴人(1審被告):食品類卸売会社、システム開発会社、原告元従業員

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■結論

控訴棄却

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■争点

1 本件ソースコードの成果物該当性
2 本件基本契約終了前の本件ソースコードの複製・翻案
3 本件基本契約の終了後に控訴人の許諾なく本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することが本件基本契約によって許されるか
4 本件基本契約終了後の本件ソースコードの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項又はその類推適用)の有無
5 被控訴人マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し廃棄する債務の有無
6 不当利得返還請求権の有無

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■事案の概要

『ア 主位的請求
控訴人は,(1)被控訴人らは,本件基本契約の終了(平成26年9月17日)前の平成25年11月27日,本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に際し,本件共通環境設定プログラムのソースコード(以下「本件ソースコード」という。)を複製・翻案してその複製権又は翻案権を侵害し,上記本件基本契約の終了後,本件共通環境設定プログラムのダイナミックリンクライブラリ形式のファイル(以下「DLLファイル」という。),エグゼファイル(以下「EXEファイル」という。)及び本件ソースコード(以下,単に「本件共通環境設定プログラム」というときには,上記DLLファイル,EXEファイル及び本件ソースコードを併せたものを指すこととする。)を複製・翻案して本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権を侵害し(主位的請求原因1),又は(2)上記本件基本契約の終了後,被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を継続したことが,著作権法113条2項又はその類推適用により,本件共通環境設定プログラムの著作権を侵害するものとみなされる(主位的請求原因2。なお,主位的請求原因1,2は選択的請求原因と解される。)と主張し,民法709条,719条1 項前段及び著作権法114条3項に基づく損害賠償請求として,1620万円(平成26年9月17日から平成29年9月16日まで1か月当たり45万円の使用料の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被控訴人マルイチ産商,被控訴人Y1及び被控訴人Y2につき平成29年10月15日,被控訴人テクニカルパートナーにつき同月16日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払並びに平成29年9月17日から被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を停止するまでの間1か月45万円の使用料相当額の支払を求めるとともに,同法112条1項及び2項に基づき,被控訴人マルイチ産商に対し,原判決別紙プログラムの使用の差止め及び原判決別紙プログラムのソースコードの廃棄を求めた。』

『イ 予備的請求
控訴人は,被控訴人マルイチ産商は,本件基本契約又は条理に基づき,原判決別紙プログラムの使用を停止し,本件ソースコードを廃棄する債務を負うところ,被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を継続していることが,上記債務の不履行に当たり,又は原判決別紙プログラムの使用料相当額の支払を免れていることが不当利得に当たると主張し,被控訴人マルイチ産商に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求(予備的請求原因1)又は不当利得に基づく利得金返還請求(予備的請求原因2。なお,予備的請求原因1,2は選択的請求原因と解される。)として,1620万円(前記の合計額)及びこれに対する平成29年10月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払並びに同年9月17日から被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を停止するまでの間1か月当たり45万円の使用料相当額の支払を求めるとともに,本件基本契約又は条理に基づく債務の履行請求として(予備的請求原因1),被控訴人マルイチ産商に対し,原判決別紙プログラムの使用の差止め及び原判決別紙プログラムのソースコードの廃棄を求めた。』

『原判決は,(1)本件ソースコードが本件基本契約の終了前に複製又は翻案されたこと及び本件基本契約の終了後に本件共通環境設定プログラムが複製又は翻案されたことを認めるに足りる証拠はなく,(2)仮に,これらの複製又は翻案がされたとしても,本件共通環境設定プログラムは,本件基本契約で規定された「成果物」に該当し,本件基本契約の終了前及び終了後において,被控訴人マルイチ産商は,本件基本契約に基づき本件共通環境設定プログラムを使用するために必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案して利用することができたから,複製権又は翻案権の侵害は成立しないとし,さらに,(3)被控訴人マルイチ産商が,本件共通環境設定プログラムの複製物の所有権を取得しているから,本件共通環境設定プログラムを使用することができ,その使用による著作権法113条2項のみなし侵害も成立せず,(4)被控訴人マルイチ産商は,本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができるから,その使用が債務不履行に当たらず,不当利得も成立しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。』

『控訴人は,控訴を提起するとともに,当審において,前記(1)ア(2)の主位的請求原因2を撤回し,同請求原因を予備的請求の請求原因3(予備的請求原因1ー3はいずれも選択的請求原因である。また,控訴人は当審において,予備的請求原因3のみなし侵害の主張の対象を本件ソースコードとした。)として追加する訴えの変更をするとともに,前記(1)ア(1)の主位的請求原因における被控訴人テクニカルパートナーの責任を民法715条1項に基づくものとした。』
(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件ソースコードの成果物該当性

控訴審は、本件ソースコードは本件基本契約にいう「成果物」に該当すると判断しています(20頁以下)。

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2 本件基本契約終了前の本件ソースコードの複製・翻案

本件基本契約21条3項(2)は、控訴人が従前からその著作権を有していた「成果物」についても被控訴人マルイチ産商が自ら使用するために必要な範囲で著作権法に基づく利用を無償でできると規定しており、旧サーバから新サーバへの移行に伴って本件ソースコードを複製したり、新サーバ移行に必要な限度で翻案したりすることは、自ら使用するために必要な範囲に該当するものといえると控訴審は判断。
また、仮に、控訴人が主張するとおり旧サーバから新サーバへの移行に伴って本件ソースコードが複製又は翻案されたとしても、それが複製権又は翻案権の侵害となることはないと判断しています(22頁)。

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3 本件基本契約の終了後に控訴人の許諾なく本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することが本件基本契約によって許されるか

本件基本契約26条から、本件基本契約の更新しない旨の意思表示による終了後も本件基本契約21条3項(2)は有効であり、被控訴人マルイチ産商は21条3項(2)に基づいて本件共通環境設定プログラムについて自ら使用するために必要な範囲内で著作権法に基づく利用を無償ですることができたと控訴審は判断。

そして、保守管理のために本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することは自己使用のために必要な範囲でされるものといえるとして、本件基本契約終了後に控訴人が主張するように被控訴人らが保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することがあったとしても、それについて複製権又は翻案権の侵害となることはないというべきであると控訴審は判断しています(22頁以下)。

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4 本件基本契約終了後の本件ソースコードの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項又はその類推適用)の有無

本件ソースコードについて、本件基本契約の終了の前後を問わず被控訴人マルイチ産商が自己の利用する範囲内で複製又は翻案することができることから、被控訴人マルイチ産商が著作権を侵害した行為によって作成された複製物を使用しているとは認められないと控訴審は判断。控訴人の主張を認めていません(25頁)。

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5 被控訴人マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し廃棄する債務の有無
6 不当利得返還請求権の有無

本件基本契約の終了後も被控訴人マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムを使用することができたことから、控訴人の主張するような債務や条理の存在を認めることはできず、その使用が不当利得となることもないと控訴審は判断。控訴人のこの点についての主張も認めていません(25頁)。

結論として、控訴審は控訴人の主張を認めていません。

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■コメント

ソフトウェア開発業務委託基本契約書の条項の解釈、また事実認定が問題となった事案ですが、控訴審でも原判決の判断が維持され、また、控訴審での新たな主張についても棄却の判断となっています。

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■過去のブログ記事

東京地裁平成30.6.21平成29(ワ)32433損害賠償等請求事件
原審記事