最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
猫イラスト家紋Tシャツ販売事件
大阪地裁平成31.4.18平成28(ワ)8552著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(原告イラスト目録)
別紙2(被告イラスト目録)
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官 野上誠一
裁判官 島村陽子
*裁判所サイト公表 2019.ーー
*キーワード:イラスト、著作物性、応用美術、複製、翻案、依拠性、同一性保持権、氏名表示権
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■事案
猫のイラストを無断複製、翻案してTシャツなどを製造販売した事案
原告:デザイナー
被告:繊維製品製造販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2条2項、19条、20条、21条、23条、112条、114条3項、115条
1 原告イラストの著作物性
2 被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等
3 原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無
4 差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否
5 損害額
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■事案の概要
『本件は,別紙「原告イラスト目録」記載のイラスト(以下「原告イラスト」という。)をデザインした原告が,別紙「被告イラスト目録」記載の各イラスト(以下,各イラストを同別紙の番号により「被告イラスト1」などといい,各イラストをまとめて「被告イラスト」という。)の一部が描かれたTシャツ等を製造販売している被告に対し,(1)被告イラストは,原告イラストを複製又は翻案したものであり,上記Tシャツ等の製造は原告の複製権又は翻案権を侵害すること,(2)上記Tシャツ等の写真を被告が運営するホームページにアップロードしたのは,原告の公衆送信権を侵害すること,(3)さらに被告が原告イラストを複製又は翻案し,原告の氏名を表示することなく上記Tシャツ等を製造等したのは,原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害することを主張して,(a)著作権法112条1項に基づき,被告イラストを複製,翻案又は公衆送信することの差止め,(b)同条2項に基づき,被告イラストを使用した別紙「被告物品目録」記載の各物品の廃棄並びに被告イラストに関する画像データ及び被告が運営するホームページの被告イラストが掲載された上記各物品の表示の削除,(c)著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づき,原告の損害の一部である1000万円の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(d)著作権法115条に基づき,謝罪文の掲載を請求する事案である。』
<経緯>
H23 原告が原告イラスト制作、Tシャツ販売
H26 被告が被告商品を製造、販売
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■判決内容
<争点>
1 原告イラストの著作物性
原告イラストについて、裁判所は、以下の表現上の特徴を有するものであり、これらはありふれたものということはできず創作性が認められるとして、原告イラストは原告がこれを作成した時点で美術の著作物として創作されたものと判断しています(14頁以下)。
*原告イラストの表現上の特徴(15頁)
(1)全体が一個のマークであるかのような印象を与える
(2)機械的な真円ではなく、猫がきれいに丸まっているという基本的な印象を維持しつつも柔らかく自然な印象を与える
(3)上半分の猫を描いた部分と下半分の抽象的な紋様の部分とがうまく一体化している
なお、被告は原告イラストがTシャツ販売を目的としたイラスト原案であり、実用目的の観点から応用美術に属すると反論しましたが、裁判所はこの点についての被告の主張を認めていません。
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2 被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等
(1)原告イラストと被告イラストの類似性(16頁以下)
(ア)被告イラスト1ないし4
各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものと認定。
(イ)被告イラスト5ないし8
各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものと認定。
(ウ)被告イラスト9ないし12
各被告イラストは原告イラストの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ一部を変更したものと認定。
(エ)被告イラスト13ないし16
各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものと認定。
(オ)被告イラスト17ないし20
原告イラストの表現上の特徴との共通点がみられず、各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものとは認められず、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることもできないと認定。
(2)被告デザイナー又は被告の依拠性(19頁以下)
依拠性について、裁判所は、各被告イラストは表現上の本質的な特徴部分において原告イラストに類似又は酷似しているということができ、特に被告イラスト1については原告イラストを見ずにこれをデザインしたということが実際上考え難いといえる程に似ていると判断。原告イラストと各被告イラストとが類似又は酷似していることに照らして、そのようなイラストを作成した被告と契約をしているデザイナー(被告デザイナー)が原告イラストを参照してこれに依拠して各被告イラストを作成した事実が推認されると判断しています(19頁以下)。
また、仮に被告が被告商品を製造販売した際に原告イラストの存在を認識していなかったとしても、被告は被告デザイナーから原告イラストに依拠して作成された上記各被告イラストの提供を受けて、これを付して被告商品を製造販売していたことから、被告の依拠性も認められると裁判所は判断しています。
結論として、被告の過失を認定した上で、一部のイラストを除き、複製権、翻案権、公衆送信権の侵害性が肯定されています。
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3 原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無
被告は、原告イラストを改変した被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16を付した被告商品を製造し、被告が運営するホームページに被告商品の写真をアップロードした上に、その際に原告の氏名や原告が使用していたデザイナー名を表示しなかったことから、原告イラストについての原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものと裁判所は判断しています(21頁)。
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4 差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否
被告イラスト1ないし16について、原告による複製、翻案及び公衆送信の差止請求が認められています(21頁以下)。
また、被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16を用いた被告商品の廃棄請求、イラストに関する画像データの削除請求も認められています。
なお、信用回復措置(115条)としての謝罪文の掲載請求は認められていません。
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5 損害額
(1)114条3項に基づく損害(23頁以下)
合計122万3570円
計算式:販売店への販売数(返品数を含む)×小売価格×使用料率2〜5%
(2)著作者人格権侵害による慰謝料(29頁)
30万円
(3)弁護士費用相当額損害(29頁以下)
15万円
以上、合計167万3570円
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■コメント
原告のデザインがプリントされたTシャツ販売サイトを見てみると、とても楽しい図柄の商品が並んでいます
(pokka poka t-shirt - デザインTシャツマーケット/Hoimi(ホイミ))。
デザインの盗用での紛争で裁判ともなれば、被告はデザインの著作物性から争うのが常套ではあるものの、明らかな類似性がある事案にあっては、被告側の反論として著作物性から争うというのは原作品をいっそう貶めることになり、さらには、被告もありふれたデザインで商売をしていたと公に自ら認めてしまう訳で、被告側の企業倫理、経営理念としてそうした争点の立て方はどうなのか、ということは常々感じるところではあります。
別紙があるので、どのようなデザインであるか対比することができます。
被告イラスト17乃至20については原告イラストの翻案性が否定されています。肯定されてもおかしくはない、微妙な部分ですが、著作権による保護の範囲が広がり過ぎても他者の新たな創作性の幅を狭めかねないので線引きの判断が難しいところです。いずれにしても、本事案の一連のイラストのバリエーションは複製、翻案を考えるにあたって参考になります。
猫イラスト家紋Tシャツ販売事件
大阪地裁平成31.4.18平成28(ワ)8552著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(原告イラスト目録)
別紙2(被告イラスト目録)
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官 野上誠一
裁判官 島村陽子
*裁判所サイト公表 2019.ーー
*キーワード:イラスト、著作物性、応用美術、複製、翻案、依拠性、同一性保持権、氏名表示権
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■事案
猫のイラストを無断複製、翻案してTシャツなどを製造販売した事案
原告:デザイナー
被告:繊維製品製造販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2条2項、19条、20条、21条、23条、112条、114条3項、115条
1 原告イラストの著作物性
2 被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等
3 原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無
4 差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否
5 損害額
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■事案の概要
『本件は,別紙「原告イラスト目録」記載のイラスト(以下「原告イラスト」という。)をデザインした原告が,別紙「被告イラスト目録」記載の各イラスト(以下,各イラストを同別紙の番号により「被告イラスト1」などといい,各イラストをまとめて「被告イラスト」という。)の一部が描かれたTシャツ等を製造販売している被告に対し,(1)被告イラストは,原告イラストを複製又は翻案したものであり,上記Tシャツ等の製造は原告の複製権又は翻案権を侵害すること,(2)上記Tシャツ等の写真を被告が運営するホームページにアップロードしたのは,原告の公衆送信権を侵害すること,(3)さらに被告が原告イラストを複製又は翻案し,原告の氏名を表示することなく上記Tシャツ等を製造等したのは,原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害することを主張して,(a)著作権法112条1項に基づき,被告イラストを複製,翻案又は公衆送信することの差止め,(b)同条2項に基づき,被告イラストを使用した別紙「被告物品目録」記載の各物品の廃棄並びに被告イラストに関する画像データ及び被告が運営するホームページの被告イラストが掲載された上記各物品の表示の削除,(c)著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づき,原告の損害の一部である1000万円の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(d)著作権法115条に基づき,謝罪文の掲載を請求する事案である。』
<経緯>
H23 原告が原告イラスト制作、Tシャツ販売
H26 被告が被告商品を製造、販売
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■判決内容
<争点>
1 原告イラストの著作物性
原告イラストについて、裁判所は、以下の表現上の特徴を有するものであり、これらはありふれたものということはできず創作性が認められるとして、原告イラストは原告がこれを作成した時点で美術の著作物として創作されたものと判断しています(14頁以下)。
*原告イラストの表現上の特徴(15頁)
(1)全体が一個のマークであるかのような印象を与える
(2)機械的な真円ではなく、猫がきれいに丸まっているという基本的な印象を維持しつつも柔らかく自然な印象を与える
(3)上半分の猫を描いた部分と下半分の抽象的な紋様の部分とがうまく一体化している
なお、被告は原告イラストがTシャツ販売を目的としたイラスト原案であり、実用目的の観点から応用美術に属すると反論しましたが、裁判所はこの点についての被告の主張を認めていません。
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2 被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等
(1)原告イラストと被告イラストの類似性(16頁以下)
(ア)被告イラスト1ないし4
各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものと認定。
(イ)被告イラスト5ないし8
各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものと認定。
(ウ)被告イラスト9ないし12
各被告イラストは原告イラストの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ一部を変更したものと認定。
(エ)被告イラスト13ないし16
各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものと認定。
(オ)被告イラスト17ないし20
原告イラストの表現上の特徴との共通点がみられず、各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものとは認められず、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることもできないと認定。
(2)被告デザイナー又は被告の依拠性(19頁以下)
依拠性について、裁判所は、各被告イラストは表現上の本質的な特徴部分において原告イラストに類似又は酷似しているということができ、特に被告イラスト1については原告イラストを見ずにこれをデザインしたということが実際上考え難いといえる程に似ていると判断。原告イラストと各被告イラストとが類似又は酷似していることに照らして、そのようなイラストを作成した被告と契約をしているデザイナー(被告デザイナー)が原告イラストを参照してこれに依拠して各被告イラストを作成した事実が推認されると判断しています(19頁以下)。
また、仮に被告が被告商品を製造販売した際に原告イラストの存在を認識していなかったとしても、被告は被告デザイナーから原告イラストに依拠して作成された上記各被告イラストの提供を受けて、これを付して被告商品を製造販売していたことから、被告の依拠性も認められると裁判所は判断しています。
結論として、被告の過失を認定した上で、一部のイラストを除き、複製権、翻案権、公衆送信権の侵害性が肯定されています。
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3 原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無
被告は、原告イラストを改変した被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16を付した被告商品を製造し、被告が運営するホームページに被告商品の写真をアップロードした上に、その際に原告の氏名や原告が使用していたデザイナー名を表示しなかったことから、原告イラストについての原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものと裁判所は判断しています(21頁)。
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4 差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否
被告イラスト1ないし16について、原告による複製、翻案及び公衆送信の差止請求が認められています(21頁以下)。
また、被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16を用いた被告商品の廃棄請求、イラストに関する画像データの削除請求も認められています。
なお、信用回復措置(115条)としての謝罪文の掲載請求は認められていません。
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5 損害額
(1)114条3項に基づく損害(23頁以下)
合計122万3570円
計算式:販売店への販売数(返品数を含む)×小売価格×使用料率2〜5%
(2)著作者人格権侵害による慰謝料(29頁)
30万円
(3)弁護士費用相当額損害(29頁以下)
15万円
以上、合計167万3570円
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■コメント
原告のデザインがプリントされたTシャツ販売サイトを見てみると、とても楽しい図柄の商品が並んでいます
(pokka poka t-shirt - デザインTシャツマーケット/Hoimi(ホイミ))。
デザインの盗用での紛争で裁判ともなれば、被告はデザインの著作物性から争うのが常套ではあるものの、明らかな類似性がある事案にあっては、被告側の反論として著作物性から争うというのは原作品をいっそう貶めることになり、さらには、被告もありふれたデザインで商売をしていたと公に自ら認めてしまう訳で、被告側の企業倫理、経営理念としてそうした争点の立て方はどうなのか、ということは常々感じるところではあります。
別紙があるので、どのようなデザインであるか対比することができます。
被告イラスト17乃至20については原告イラストの翻案性が否定されています。肯定されてもおかしくはない、微妙な部分ですが、著作権による保護の範囲が広がり過ぎても他者の新たな創作性の幅を狭めかねないので線引きの判断が難しいところです。いずれにしても、本事案の一連のイラストのバリエーションは複製、翻案を考えるにあたって参考になります。