最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

生長の家「万物調和六章経」書籍事件(控訴審)

知財高裁平成30.10.9平成29(ネ)10101著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    高橋 彩
裁判官    寺田利彦

*裁判所サイト公表 2018.10.16
*キーワード:著作権譲渡、黙示の承諾、解除の有効性、権利の濫用

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■事案

生長の家創始者谷口雅春氏(故人)の著作「大調和の神示」の使用許諾の成否などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :公益財団法人、出版社
被控訴人(1審被告):宗教法人、宗教法人代表者

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、民法1条3項

1 本件著作物の著作権の帰属
2 黙示の許諾の有無
3 解約の有効性
4 控訴人光明思想社の出版権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,(1)控訴人事業団が,同控訴人は,言語の著作物である「大調和の神示」(「『七つの燈薹の點燈者』の神示」あるいは「『七つの灯台の点灯者』の神示」という題号のときもある。)(本件著作物)の著作権を有するところ,被控訴人らによる原判決別紙書籍目録記載1及び2の各書籍(本件各書籍)の出版が控訴人事業団の著作権(複製権)を侵害する旨主張して,被控訴人らに対し,(1)著作権法112条1項及び2項に基づく本件各書籍の複製,頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄(世界聖典普及協会,日本教文社及び被控訴人生長の家教化部の保管するものを含む。),(2)不法行為に基づく損害賠償金160万円及びこれに対する不法行為の日以後である訴状送達日の翌日(被控訴人生長の家につき平成27年11月19日,被控訴人Yにつき同月15日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(2)控訴人光明思想社が,同控訴人は,「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権(各著作物につき,別々の出版権設定契約に基づくもの。)を有するところ,被控訴人らによる本件各書籍の出版が控訴人光明思想社の上記各出版権を侵害する旨主張して,被控訴人らに対し,(1)著作権法112条1項に基づく本件各書籍の複製の差止め,(2)不法行為に基づく損害賠償金100万円及びこれに対する不法行為の日以後である上記訴状送達日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。』

『原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人らが控訴した。
 当審において,控訴人光明思想社は,控訴人光明思想社が本件著作物の出版権(上記1(2)の出版権設定契約とは別の出版権設定契約に基づくもの。)を有するところ,被控訴人らによる本件各書籍の出版が控訴人光明思想社の上記出版権を侵害する旨主張して,上記1(2)(1)及び(2)と同様の差止め及び損害賠償を求める請求を追加した(3つの出版権に基づく請求の併合形態は選択的併合)。』
(2頁以下)

<経緯>

H29.9 原審口頭弁論終結
H30.3 控訴人光明思想社と控訴人事業団が出版権設定契約、登録
H30.6 控訴審第1回口頭弁論期日

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■判決内容

<争点>

1 本件著作物の著作権の帰属

Aが執筆した本件著作物について、Aが本件寄附行為により控訴人事業団に「生命の實相」の著作権を移転しており、その素材である本件著作物の著作権も控訴人事業団に移転しているとして本件著作物の著作権は控訴人事業団に帰属すると控訴審は判断しています(16頁以下)。

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2 黙示の許諾の有無

Aにおいて、寄附行為により本件著作物の著作権を控訴人事業団に移転した後も本件著作物については、A自身やAの意向に基づいて設立される生長の家の宗教法人に無償で使用させることを当初から想定していたと認めるのが相当であるなどとして、本件寄附行為当時及びその後の経過に照らして、被控訴人生長の家の設立時から、遅くとも「聖光録(生長の家家族必携)」が発行された昭和28年1月1日までの間には、控訴人事業団は被控訴人生長の家に対して本件著作物を無償で個別の承諾なく使用することを、少なくとも黙示に許諾したものというべきであると控訴審は判断しています(17頁以下)。

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3 解約の有効性

黙示の許諾による本件使用許諾の合意を解約するためには、これを是認するに足りる正当な理由が必要であるところ、控訴審は、控訴人らが主張するいずれの解約の意思表示の時点においても本件使用許諾の合意を解約することを是認するに足りる正当な理由があるとは認められないと判断。解約の有効性を否定しています(20頁以下)。

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4 控訴人光明思想社の出版権侵害の成否

(1)時機に後れた攻撃防御方法の却下について

被控訴人らは、控訴人光明思想社による、(1)「生命の實相」及び「甘露の法雨」の対抗要件具備、(2)本件著作物についての出版権設定及び対抗要件具備の主張について、民事訴訟法157条に該当すると主張しました。
この点について、上記主張に係る事実はいずれも原審口頭弁論終結日(平成29年9月29日)より後のものであり、控訴審第1回口頭弁論期日に主張したことをもって同条の「時機に後れた」ものとはいえないと控訴審は判断しています(26頁)。

(2)「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権侵害について

控訴人光明思想社は、被控訴人生長の家による本件各書籍の出版は「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権を侵害すると主張しました。
この点について、控訴審は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」と本件各書籍は題号のみならず内容も異なる書籍であり、「生命の實相」及び「甘露の法雨」を原作のまま複製したものということはできないとして、本件各書籍の出版は「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権を侵害するものではないと判断。
これらの著作物の出版権に基づく控訴人光明思想社の請求は理由がないと判断しています(26頁)。

(3)本件著作物の出版権侵害について

1.出版権設定、登録

控訴人光明思想社は、平成30年3月22日までに控訴人事業団から本件著作物に係る出版権の設定を受け、その旨の出版権設定登録をしました。

2.出版権侵害性

そうすると、本件各書籍には本件著作物の本文が全部収録されており、本件各書籍の出版は本件出版権を侵害することになると控訴審は判断しています。

3.権利濫用の成否

もっとも、本件出版権の設定契約締結に関して、被控訴人生長の家が原審において控訴人事業団から本件著作物の使用許諾を受けていた旨並びに本件著作物と「生命の實相」及び「甘露の法雨」は別個の著作物である旨の主張をしたことから、これを受けて控訴人らが原審の口頭弁論終結日より後において、出版権設定契約をした上でその設定登録をしたという経過を踏まえ、控訴人事業団は、本件訴訟において本件使用許諾の解約が認められなかった場合に備えて被控訴人生長の家による本件使用許諾に基づく本件著作物の使用を妨げる目的で新たに本件出版権を設定したことが明らかであると控訴審は判断。
また、控訴人光明思想社は、控訴人事業団及び被控訴人生長の家が当事者となった過去の複数の訴訟において、共同原告ないし共同被告となって控訴人事業団とおおむね同じ主張をして被控訴人生長の家と対立しており、本件訴訟においても訴え提起の当初から控訴人事業団の共同原告として同一の訴訟代理人に委任し、同一の主張をして訴訟を追行していたことから、控訴人光明思想社においても上記と同様の目的をもって、本件出版権の設定契約をしたと推認することができると控訴審は判断。
以上に加えて、控訴人光明思想社が、本件出版権の設定契約までに「生命の實相」及び「甘露の法雨」と別個に本件著作物を独立して出版していた事情はうかがわれないことも勘案して、控訴人光明思想社による被控訴人生長の家に対する本件出版権の行使は権利の濫用として許されないと控訴審は判断(26頁以下)。

控訴人光明思想社の本件著作物の出版権侵害に関する請求は認められていません。

結論として、控訴人らの控訴はいずれも棄却され、また、控訴人光明思想社の控訴審における追加請求も棄却されています。

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■コメント

原審の棄却判断が控訴審でも維持されていますが、原審口頭弁論終結日後に著作権者と出版社が出版権設定契約、登録手続をすることで先行する使用許諾関係を劣後させようとした点は、権利の濫用としてその主張が認められていません。

なお、本事案の論点からは逸れますが、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム」では当然対抗制度導入の是非について議論がされています。未登録の出版権と著作権譲渡が抵触する場合との調整をどう考えるかといった出版権独自の検討課題が指摘されています。

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■過去のブログ記事

2017年12月11日 原審記事