最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アダルトビデオ無断配信発信者情報開示請求事件(対ハイホー)

東京地裁平成29.7.20平成28(ワ)37610発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    萩原孝基
裁判官    大下良仁

*裁判所サイト公表 2017.7.25
*キーワード:発信者情報開示請求、引用

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■事案

アダルトビデオを「FC2動画」サイトで無断配信した者の情報開示請求をプロバイダに求めた事案

原告:アダルトビデオ制作販売会社
被告:インターネット接続サービス会社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法23条、32条、プロバイダ責任制限法4条1項

1 権利侵害の明白性
2 正当な理由の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して,インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたと主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。』
(2頁)

本件原告動画:「ギャルハメウィークエンド!!Vol.003」

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■判決内容

<争点>

1 権利侵害の明白性

(1)権利侵害性

氏名不詳の本件発信者は、本件原告動画の一部を複製して作成した約10分間の動画(本件発信者動画)のデータを動画共有サイトである「FC2動画」に無断アップロードして不特定多数の者が閲覧できる状態に置いていました。
裁判所は、本件発信者の投稿行為により原告の公衆送信権が侵害されたと認定しています(6頁)。

(2)引用の成否

被告は、本件発信者動画は本件楽曲の著作権を本件原告動画が侵害していることを示して批評する目的で本件原告動画の一部を引用したものであり、その引用は公正な慣行に合致し、正当な範囲内で行われたものであるとして、本件投稿行為は著作権法32条1項の適法な引用であると主張しました(6頁以下)。
この点について、裁判所は、正当な範囲内での利用であるという余地はないとして、引用の成立を否定しています。

(3)本件投稿行為が正当な行為として違法性が阻却されるか

被告は、本件原告動画のうち本件発信者動画に利用された割合及び本件発信者による本件投稿行為の目的に照らせば、本件投稿行為が正当な行為として違法性が阻却されると主張しました。
この点について、裁判所は、仮に上記目的が認められるとしても、32条1項の適法な引用に該当しない以上、正当な行為として違法性が阻却されるとはいえないと判断。被告の主張を認めていません(7頁)。

結論として、裁判所は、本件投稿行為を正当化する事由は見当らず、本件発信者が原告の本件原告動画に係る公衆送信権を侵害したことが明らかであると判断しています。

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2 正当な理由の有無

原告は、本件発信者に対して本件原告動画に係る著作権侵害に基づき損害賠償請求権等を行使することができるが、本件発信者の氏名、住所等を知る手段が他にあるとうかがわれないことから、原告が本件発信者に対して損害賠償を請求するために本件発信者情報の開示が必要であることは明らかであると裁判所は判断しています(8頁)。

結論として、原告が求めた本件発信者の氏名(名称)、住所、電子メールアドレスの開示が認容されています。

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■コメント

原告の同種別件訴訟のほかにアダルト制作会社の発信者情報開示請求事件がいくつか続いています。今回の事案では、引用の成否が1つの争点となっています。

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■過去のブログ記事

「FC2動画」アダルトビデオ無断配信発信者情報開示請求事件(対プレステージ)
2017年07月03日記事