最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
交通事故相談会広告事件
東京地裁平成29.2.28平成28(ワ)12608損害賠償請求事件、著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 廣瀬達人
*裁判所サイト公表 2017.6.9
*キーワード:広告、黙示的承諾、複製権、編集著作物、一般不法行為論
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■事案
交通事故相談会向けに作成されたチラシ広告の利用許諾の有無、著作物性などが争点になった事案
本訴原告兼反訴被告:弁護士
本訴被告兼反訴原告:行政書士
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■結論
本訴、反訴 請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、12条、22条、民法709条
1 利用許諾の抗弁の成否
2 改変許諾の抗弁の成否
3 一般不法行為の成否
4 原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否
5 本件被告ファイルの編集著作物性の有無
--------------------
■事案の概要
『(1) 本訴請求
ア 原告は,被告が別紙5及び6の各広告(以下,順次,「被告広告1」及び「被告広告2」という。)を頒布する行為が,別紙1の広告(以下「原告広告」という)について原告が有する著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害し,又は原告に対する一般不法行為に該当すると主張して,被告に対し,複製権侵害又は一般不法行為に基づく財産的損害に係る損害賠償金5万円,同一性保持権侵害又は一般不法行為に基づく精神的損害に係る損害賠償金30万円及びこれらに対する不法行為後の日である平成28年4月26日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(なお,原告は,訴状添付の対比表(1)及び(2)においては,原告広告とは別の日時及び会場等に係る広告を掲載しているが,原告の主張に照らせば,原告が著作権及び著作者人格権を主張するのは原告広告であると解される。)。
イ 原告は,被告が原告広告を複製し,又は頒布する行為が,原告が有する原告広告の著作権(複製権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,原告広告の複製又は頒布の各差止めを求める。
ウ 原告は,被告が別紙7及び8の各アンケート(以下,順次「被告アンケート1」,「被告アンケート2」という。)を作成・配布する行為が,原告が作成した別紙4記載2の表(以下「本件原告ファイル」という。)のうち別紙2の赤枠内の記載に相当する部分(以下「原告追加部分」という。
なお,別紙2の書面全体は被告アンケート1である。)についての原告の著作権(複製権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,原告追加部分の複製又は頒布の各差止めを求める。』
『(2) 反訴請求
被告は,原告が本件原告ファイルの記載された宣伝広告チラシを作成・頒布する行為が,別紙3の表(以下「本件被告ファイル」という。)についての被告の著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,原告に対し,著作権法112条1項,2項に基づき,本件被告ファイルの複製又は頒布の各差止め並びに本件原告ファイルが記載された宣伝広告チラシの頒布の差止め及び廃棄を求めるとともに,同一性保持権侵害に基づく精神的損害に係る損害賠償金33万円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』(2頁以下)
<経緯>
H12.05 CがNPO「交通事故110番」設立
H16 NPOが全国各地で無料地方相談会を開催
H23.05 Cと被告が問い合わせフォームを作成(本件被告ファイル)
H25.01 原告が甲府での交通事故無料相談会向け広告を作成(原告広告)
H25.01 Cが原告に原告広告の提供を依頼
H28.01 被告が静岡での地方相談会向け広告を作成(被告広告1)
H28.02 被告が高崎での地方相談会向け広告を作成(被告広告2)
H28.04 原告が本訴提起
H28.06 原告が交付での無料相談会向け広告を作成
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■判決内容
<争点>
1 利用許諾の抗弁の成否
原告が、被告らに対して原告広告の利用を包括的に許諾していたかどうかについて、裁判所は、原告が被告及びH弁護士から原告広告とほぼ同一内容のH広告の作成配布をしたと明確に告げられていながら、これを何ら問題とすることなく、かえって、H広告及び原告広告が同一の広告文言及び事例の紹介を用いていることを前提に、弁護士会からの指摘を回避するための原告広告の具体的表現に関する変更を提案していたといった事情などを勘案。
仮に原告広告に著作物性があったとしても、原告は、本件NPO法人の提携専門家らに対して、少なくとも黙示的には原告広告の利用を包括的に許諾したものと認められると判断しています(24頁以下)。
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2 改変許諾の抗弁の成否
仮に原告広告に著作物性があったとしても、原告が、本件NPO法人の提携専門家らに対して、少なくとも黙示的には、原告広告の改変についても許諾したものと認められると裁判所は判断しています(27頁)。
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3 一般不法行為の成否
原告は、被告が原告広告を無断で模倣して被告広告1及び2を作成したことによって、原告が有する原告広告を模倣されないという法的保護に値する利益が侵害された旨主張しました。
この点について、裁判所は、原告の主張する利益が法的に保護されるべき利益に当たるか否かは疑問があり、また、原告は被告を含む本件NPO法人の提携専門家らに対して原告広告の複製及び改変を許諾したものと認められることから、被告が原告広告を無断で模倣したという原告の主張は、その主張の前提を欠くと判断しています(27頁以下)。
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4 原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否
アンケートの原告追加部分と被告アンケート1及び2の対比について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義について言及した上で、共通する7点について検討。いずれも、ありふれた表現、あるいはアイデアの部類のものにすぎないとしてその著作物性を否定。
原告追加部分と被告アンケート1及び2の共通する部分は、いずれも著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現には当たらないとして、被告アンケート1及び2は原告追加部分の複製には該当しないと判断しています(28頁以下)。
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5 本件被告ファイルの編集著作物性の有無
反訴請求において、被告は、質問事項を工夫したなどとして、問い合わせフォームである本件被告ファイルの編集著作物性(12条)を主張しましたが、裁判所は、いずれもアイデアないしありふれた表現に過ぎないとして編集著作物性を認めていません(30頁以下)。
結論として、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないとして棄却されています。
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■コメント
別紙が添付されており内容がよく分かります。
原被告間でお互い連絡を取り合い、また、業務用のチラシとして良いところを双方で利用し合っているような状況のなかでの紛争でした。
交通事故相談会広告事件
東京地裁平成29.2.28平成28(ワ)12608損害賠償請求事件、著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 廣瀬達人
*裁判所サイト公表 2017.6.9
*キーワード:広告、黙示的承諾、複製権、編集著作物、一般不法行為論
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■事案
交通事故相談会向けに作成されたチラシ広告の利用許諾の有無、著作物性などが争点になった事案
本訴原告兼反訴被告:弁護士
本訴被告兼反訴原告:行政書士
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■結論
本訴、反訴 請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、12条、22条、民法709条
1 利用許諾の抗弁の成否
2 改変許諾の抗弁の成否
3 一般不法行為の成否
4 原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否
5 本件被告ファイルの編集著作物性の有無
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■事案の概要
『(1) 本訴請求
ア 原告は,被告が別紙5及び6の各広告(以下,順次,「被告広告1」及び「被告広告2」という。)を頒布する行為が,別紙1の広告(以下「原告広告」という)について原告が有する著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害し,又は原告に対する一般不法行為に該当すると主張して,被告に対し,複製権侵害又は一般不法行為に基づく財産的損害に係る損害賠償金5万円,同一性保持権侵害又は一般不法行為に基づく精神的損害に係る損害賠償金30万円及びこれらに対する不法行為後の日である平成28年4月26日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(なお,原告は,訴状添付の対比表(1)及び(2)においては,原告広告とは別の日時及び会場等に係る広告を掲載しているが,原告の主張に照らせば,原告が著作権及び著作者人格権を主張するのは原告広告であると解される。)。
イ 原告は,被告が原告広告を複製し,又は頒布する行為が,原告が有する原告広告の著作権(複製権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,原告広告の複製又は頒布の各差止めを求める。
ウ 原告は,被告が別紙7及び8の各アンケート(以下,順次「被告アンケート1」,「被告アンケート2」という。)を作成・配布する行為が,原告が作成した別紙4記載2の表(以下「本件原告ファイル」という。)のうち別紙2の赤枠内の記載に相当する部分(以下「原告追加部分」という。
なお,別紙2の書面全体は被告アンケート1である。)についての原告の著作権(複製権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,原告追加部分の複製又は頒布の各差止めを求める。』
『(2) 反訴請求
被告は,原告が本件原告ファイルの記載された宣伝広告チラシを作成・頒布する行為が,別紙3の表(以下「本件被告ファイル」という。)についての被告の著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,原告に対し,著作権法112条1項,2項に基づき,本件被告ファイルの複製又は頒布の各差止め並びに本件原告ファイルが記載された宣伝広告チラシの頒布の差止め及び廃棄を求めるとともに,同一性保持権侵害に基づく精神的損害に係る損害賠償金33万円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』(2頁以下)
<経緯>
H12.05 CがNPO「交通事故110番」設立
H16 NPOが全国各地で無料地方相談会を開催
H23.05 Cと被告が問い合わせフォームを作成(本件被告ファイル)
H25.01 原告が甲府での交通事故無料相談会向け広告を作成(原告広告)
H25.01 Cが原告に原告広告の提供を依頼
H28.01 被告が静岡での地方相談会向け広告を作成(被告広告1)
H28.02 被告が高崎での地方相談会向け広告を作成(被告広告2)
H28.04 原告が本訴提起
H28.06 原告が交付での無料相談会向け広告を作成
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■判決内容
<争点>
1 利用許諾の抗弁の成否
原告が、被告らに対して原告広告の利用を包括的に許諾していたかどうかについて、裁判所は、原告が被告及びH弁護士から原告広告とほぼ同一内容のH広告の作成配布をしたと明確に告げられていながら、これを何ら問題とすることなく、かえって、H広告及び原告広告が同一の広告文言及び事例の紹介を用いていることを前提に、弁護士会からの指摘を回避するための原告広告の具体的表現に関する変更を提案していたといった事情などを勘案。
仮に原告広告に著作物性があったとしても、原告は、本件NPO法人の提携専門家らに対して、少なくとも黙示的には原告広告の利用を包括的に許諾したものと認められると判断しています(24頁以下)。
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2 改変許諾の抗弁の成否
仮に原告広告に著作物性があったとしても、原告が、本件NPO法人の提携専門家らに対して、少なくとも黙示的には、原告広告の改変についても許諾したものと認められると裁判所は判断しています(27頁)。
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3 一般不法行為の成否
原告は、被告が原告広告を無断で模倣して被告広告1及び2を作成したことによって、原告が有する原告広告を模倣されないという法的保護に値する利益が侵害された旨主張しました。
この点について、裁判所は、原告の主張する利益が法的に保護されるべき利益に当たるか否かは疑問があり、また、原告は被告を含む本件NPO法人の提携専門家らに対して原告広告の複製及び改変を許諾したものと認められることから、被告が原告広告を無断で模倣したという原告の主張は、その主張の前提を欠くと判断しています(27頁以下)。
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4 原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否
アンケートの原告追加部分と被告アンケート1及び2の対比について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義について言及した上で、共通する7点について検討。いずれも、ありふれた表現、あるいはアイデアの部類のものにすぎないとしてその著作物性を否定。
原告追加部分と被告アンケート1及び2の共通する部分は、いずれも著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現には当たらないとして、被告アンケート1及び2は原告追加部分の複製には該当しないと判断しています(28頁以下)。
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5 本件被告ファイルの編集著作物性の有無
反訴請求において、被告は、質問事項を工夫したなどとして、問い合わせフォームである本件被告ファイルの編集著作物性(12条)を主張しましたが、裁判所は、いずれもアイデアないしありふれた表現に過ぎないとして編集著作物性を認めていません(30頁以下)。
結論として、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないとして棄却されています。
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■コメント
別紙が添付されており内容がよく分かります。
原被告間でお互い連絡を取り合い、また、業務用のチラシとして良いところを双方で利用し合っているような状況のなかでの紛争でした。