最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「ステラマッカートニー青山」店舗設計事件
東京地裁平成29.4.27平成27(ワ)23694著作者人格権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 村井美喜子
裁判官 廣瀬達人
*裁判所サイト公表 2017.5.15
*キーワード:建築、設計、共同著作者性、氏名表示権
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■事案
日本空間デザイン賞2015などに入賞した「ステラマッカートニー青山」ブティック店舗の外観設計について共同著作者性などが争点となった事案
原告:建築設計会社
被告:建築会社、出版社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項2号、19条、115条
1 原告が共同著作者であるか
2 原告が原著作者であるか
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■事案の概要
『本件は,建築設計等を目的とする原告が,自らが別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の共同著作者(主位的主張)又は本件建物を二次的著作物とする原著作物の著作者(予備的主張)であるにもかかわらず,(1)被告竹中工務店が本件建物の著作者を同被告のみであると表示したことにより,そのように表示された賞を同被告が受賞したこと,及び,(2)被告竹中工務店の上記表示を受けて,被告彰国社がそのように表示された書籍を発行・販売してこれを継続していることが,原告の有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害する行為であると主張して,【1】被告らに対し,(1)原告が本件建物について著作物人格権(氏名表示権)を有することの確認,及び,(2)民法719条及び709条に基づき,慰謝料100万円(上記書籍の販売等に係るもの)及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年6月17日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を,【2】被告竹中工務店に対し,(1)民法709条に基づき,慰謝料200万円(上記受賞に係るもの)及びうち100万円に対する不法行為の日の後である同月30日から,うち100万円に対する不法行為の日の後である同年7月10日から各支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払,並びに,(2)著作権法115条に基づく名誉回復措置としての通知及び謝罪広告の掲載を,【3】被告彰国社に対し,(1)同法112条1項に基づき,上記書籍の複製及び頒布の差止め,(2)同条2項に基づき,上記書籍の回収及び廃棄,並びに,(3)同法115条に基づき,名誉回復措置として謝罪広告の掲載を,それぞれ求める事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
H24.12 エーエイチアイが被告竹中工務店に設計建築を依頼
H25.05 被告竹中工務店が設計資料を作成
H25.06 エーエイチアイが原告に外観デザイン監修を依頼
H25.09 原告が図面、立体模型を作成
H25.09 エーエイチアイ、原告、被告竹中工務店が打合せ
H26.10 本件建物が完成
H27.06 「DSA 日本空間デザイン賞2015」入選
H27.06 被告彰国社が本件書籍発行
H27.07 「JCD Design Award2015」準大賞受賞
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■判決内容
<争点>
1 原告が共同著作者であるか
原告は、原告代表者が本件建物のファサード上部に組亀甲柄を元にした立体格子を設置することを提案しており、本件建物の外観設計に関して原告代表者の創作的関与等があると主張しました(22頁以下)。
(1)原告代表者の創作的関与について
裁判所は、創作的表現(著作権法2条1項1号)及び「建築の著作物」(同法10条1項5号)の意義について言及した上で、本件について検討。
「原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は,被告竹中工務店設計資料を前提として,その外装スクリーンの上部部分に,白色の同一形状の立体的な組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配列するとのアイデアを提供したものにすぎないというべきであり,仮に,表現であるとしても,その表現はありふれた表現の域を出るものとはいえず,要するに,建築の著作物に必要な創作性の程度に係る見解の如何にかかわらず,創作的な表現であると認めることはできない。更に付言すると,原告代表者の上記提案は,実際建築される建物に用いられる組亀甲柄の具体的な配置や配列は示されていないから,観念的な建築物が現されていると認めるに足りる程度の表現であるともいえない。」(24頁)
として、本件建物の外観設計について原告代表者の共同著作者としての創作的関与を否定しています。
(2)「共同して創作した」といえるかについて
仮に、として、裁判所は、本件建物の外観設計における原告代表者の創作的関与の有無の点はともかくとして、被告竹中工務店の設計担当者は本件打合せで原告代表者から原告設計資料及び原告模型に基づく提案内容の説明を聞いたことはあるものの、原告との共同設計の提案を断り、その後、原告代表者と接触ないし協議したことはないといった経緯などから、共同創作の意思や事実を否定しています(25頁以下)。
結論として、原告が本件建物の共同著作者であるとは認められていません。
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2 原告が原著作者であるか
原告は、仮に、原告が本件建物の共同著作者であるとは認められないとしても、被告竹中工務店は原告設計資料及び原告模型に基づく提案内容を翻案して本件建物を創作しているとして、本件建物は原告の提案内容を原著作物とする二次的著作物に当たり、原告は二次的著作物である本件建物の原著作物の著作者である旨主張しました(26頁以下)。
(1)原著作物性について
裁判所は、原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は創作的な表現であるとはいえないとして、これに著作物性を認めることはできない(建物の著作物性を認めることもできない)と判断しています(26頁)。
(2)被告竹中工務店による翻案について
また、仮に、として、裁判所は、原告設計資料及び原告模型に係る原告代表者の提案についての著作物性の有無の点を措くとしても、原告設計資料及び原告模型と本件建物とはその表現上の重要な部分において多くの相違点があり、本件建物から原告設計資料及び原告模型における表現上の本質的特徴を感得することはできないと判断。被告竹中工務店が原告設計資料及び原告模型に係る原告代表者の提案を翻案して本件建物の設計を完了したとか、本件建物が上記提案の二次的著作物に当たるとは認められないとしています(26頁以下)。
結論として、原告が本件建物の原著作者であると認めていません。
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■コメント
ファッションブランド「ステラマッカートニー」(Stella McCartney ポール・マッカートニーの娘が設立)の青山店(表参道 みゆき通り 港区南青山)の外観設計の共同著作者性が争点となった事案です。
みゆき通りに行って見てみましたが、この界隈にあるブティックやスイーツショップの店舗外観はどれも個性的です。本件建物と通りを挟んで斜め向かい側には、プラダの店舗がありますが、プラダはガラスの菱形状の特徴的な店舗外観で、編込み様の立体形状の組亀甲柄を用いた本件建物の意匠もこの立地であれば、その「佇まい」も納得するものでした。
(なお、デザインコンセプトとして、「光を纏ったキューブを街に浮かべる」という点があることから、機会をみて夜間に足を運んでみたいと思います。)
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■参考サイト
一般社団法人 日本商環境デザイン協会
2015入賞者リスト
(格子柄が特徴的な店舗外観 2017年5月18日撮影)
「ステラマッカートニー青山」店舗設計事件
東京地裁平成29.4.27平成27(ワ)23694著作者人格権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 村井美喜子
裁判官 廣瀬達人
*裁判所サイト公表 2017.5.15
*キーワード:建築、設計、共同著作者性、氏名表示権
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■事案
日本空間デザイン賞2015などに入賞した「ステラマッカートニー青山」ブティック店舗の外観設計について共同著作者性などが争点となった事案
原告:建築設計会社
被告:建築会社、出版社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項2号、19条、115条
1 原告が共同著作者であるか
2 原告が原著作者であるか
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■事案の概要
『本件は,建築設計等を目的とする原告が,自らが別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の共同著作者(主位的主張)又は本件建物を二次的著作物とする原著作物の著作者(予備的主張)であるにもかかわらず,(1)被告竹中工務店が本件建物の著作者を同被告のみであると表示したことにより,そのように表示された賞を同被告が受賞したこと,及び,(2)被告竹中工務店の上記表示を受けて,被告彰国社がそのように表示された書籍を発行・販売してこれを継続していることが,原告の有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害する行為であると主張して,【1】被告らに対し,(1)原告が本件建物について著作物人格権(氏名表示権)を有することの確認,及び,(2)民法719条及び709条に基づき,慰謝料100万円(上記書籍の販売等に係るもの)及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年6月17日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を,【2】被告竹中工務店に対し,(1)民法709条に基づき,慰謝料200万円(上記受賞に係るもの)及びうち100万円に対する不法行為の日の後である同月30日から,うち100万円に対する不法行為の日の後である同年7月10日から各支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払,並びに,(2)著作権法115条に基づく名誉回復措置としての通知及び謝罪広告の掲載を,【3】被告彰国社に対し,(1)同法112条1項に基づき,上記書籍の複製及び頒布の差止め,(2)同条2項に基づき,上記書籍の回収及び廃棄,並びに,(3)同法115条に基づき,名誉回復措置として謝罪広告の掲載を,それぞれ求める事案である。』
(2頁以下)
<経緯>
H24.12 エーエイチアイが被告竹中工務店に設計建築を依頼
H25.05 被告竹中工務店が設計資料を作成
H25.06 エーエイチアイが原告に外観デザイン監修を依頼
H25.09 原告が図面、立体模型を作成
H25.09 エーエイチアイ、原告、被告竹中工務店が打合せ
H26.10 本件建物が完成
H27.06 「DSA 日本空間デザイン賞2015」入選
H27.06 被告彰国社が本件書籍発行
H27.07 「JCD Design Award2015」準大賞受賞
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■判決内容
<争点>
1 原告が共同著作者であるか
原告は、原告代表者が本件建物のファサード上部に組亀甲柄を元にした立体格子を設置することを提案しており、本件建物の外観設計に関して原告代表者の創作的関与等があると主張しました(22頁以下)。
(1)原告代表者の創作的関与について
裁判所は、創作的表現(著作権法2条1項1号)及び「建築の著作物」(同法10条1項5号)の意義について言及した上で、本件について検討。
「原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は,被告竹中工務店設計資料を前提として,その外装スクリーンの上部部分に,白色の同一形状の立体的な組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配列するとのアイデアを提供したものにすぎないというべきであり,仮に,表現であるとしても,その表現はありふれた表現の域を出るものとはいえず,要するに,建築の著作物に必要な創作性の程度に係る見解の如何にかかわらず,創作的な表現であると認めることはできない。更に付言すると,原告代表者の上記提案は,実際建築される建物に用いられる組亀甲柄の具体的な配置や配列は示されていないから,観念的な建築物が現されていると認めるに足りる程度の表現であるともいえない。」(24頁)
として、本件建物の外観設計について原告代表者の共同著作者としての創作的関与を否定しています。
(2)「共同して創作した」といえるかについて
仮に、として、裁判所は、本件建物の外観設計における原告代表者の創作的関与の有無の点はともかくとして、被告竹中工務店の設計担当者は本件打合せで原告代表者から原告設計資料及び原告模型に基づく提案内容の説明を聞いたことはあるものの、原告との共同設計の提案を断り、その後、原告代表者と接触ないし協議したことはないといった経緯などから、共同創作の意思や事実を否定しています(25頁以下)。
結論として、原告が本件建物の共同著作者であるとは認められていません。
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2 原告が原著作者であるか
原告は、仮に、原告が本件建物の共同著作者であるとは認められないとしても、被告竹中工務店は原告設計資料及び原告模型に基づく提案内容を翻案して本件建物を創作しているとして、本件建物は原告の提案内容を原著作物とする二次的著作物に当たり、原告は二次的著作物である本件建物の原著作物の著作者である旨主張しました(26頁以下)。
(1)原著作物性について
裁判所は、原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は創作的な表現であるとはいえないとして、これに著作物性を認めることはできない(建物の著作物性を認めることもできない)と判断しています(26頁)。
(2)被告竹中工務店による翻案について
また、仮に、として、裁判所は、原告設計資料及び原告模型に係る原告代表者の提案についての著作物性の有無の点を措くとしても、原告設計資料及び原告模型と本件建物とはその表現上の重要な部分において多くの相違点があり、本件建物から原告設計資料及び原告模型における表現上の本質的特徴を感得することはできないと判断。被告竹中工務店が原告設計資料及び原告模型に係る原告代表者の提案を翻案して本件建物の設計を完了したとか、本件建物が上記提案の二次的著作物に当たるとは認められないとしています(26頁以下)。
結論として、原告が本件建物の原著作者であると認めていません。
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■コメント
ファッションブランド「ステラマッカートニー」(Stella McCartney ポール・マッカートニーの娘が設立)の青山店(表参道 みゆき通り 港区南青山)の外観設計の共同著作者性が争点となった事案です。
みゆき通りに行って見てみましたが、この界隈にあるブティックやスイーツショップの店舗外観はどれも個性的です。本件建物と通りを挟んで斜め向かい側には、プラダの店舗がありますが、プラダはガラスの菱形状の特徴的な店舗外観で、編込み様の立体形状の組亀甲柄を用いた本件建物の意匠もこの立地であれば、その「佇まい」も納得するものでした。
(なお、デザインコンセプトとして、「光を纏ったキューブを街に浮かべる」という点があることから、機会をみて夜間に足を運んでみたいと思います。)
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■参考サイト
一般社団法人 日本商環境デザイン協会
2015入賞者リスト
(格子柄が特徴的な店舗外観 2017年5月18日撮影)