最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
カーナビ地図データ使用許諾契約事件
大阪地裁平成28.11.28平成27(ワ)6363等使用権料請求事件等PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官 田原美奈子
裁判官 林啓治郎
*裁判所サイト公表 2017.1.27
*キーワード:ライセンス契約、不安の抗弁
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■事案
地図データの使用許諾契約について不安の抗弁の成否などが争点となった事案
原告:カーナビゲーションシステム制作会社
被告:自動車用品製造販売会社
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■結論
第1事件:請求一部認容
第2事件:請求棄却
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■争点
条文 民法620条
1 本件契約における使用権料の額
2 被告による本件契約解除の有効性
3 本件契約解除が有効である場合の原告の未払使用権料支払請求権の存否・被告の既払使用権料返還請求権の存否
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■事案の概要
『第1事件は,原告が被告に対し,原告が使用権あるいは著作権を有する地図データについて,被告との間の有償使用許諾契約に基づき,使用権料1億5500万円(税抜き)の残金5940万円(5500万円とその消費税)及びこれに対する支払期日の翌日である平成27年5月14日から支払済みまで同契約で定める年15%による遅延損害金の支払を請求した事案である。これに対し,被告は,同契約による使用権料について支払済みの1億800万円(1億円とその消費税)を超える額の合意はなく,また,同契約は原告が地図データを提供しなかった債務不履行に基づき解除されたと主張して争っている。
第2事件は,被告が原告に対し,上記使用許諾契約の解除に基づく原状回復請求権として,支払済み使用権料1億円の返還及びこれに対する同金員受領の日である平成26年6月12日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による利息の支払を請求した事案である。これに対し,原告は,上記解除の有効性を争うとともに,仮に上記解除が有効であるとしても原告は被告に対して使用権料の支払請求権を有する等と主張して争っている。』(2頁)
<経緯>
H26.05 原被告間で使用許諾契約締結
H26.06 被告が1億800万支払い
H26.12 被告が使用権料分割払い、契約変更の要望
H27.02 被告が残金5500万円支払拒絶
H27.02 原告が不安の抗弁を主張
H27.03 被告が契約解除通知
H27.05 被告が原告に対して第2事件提訴
H27.06 原告が被告に対して第1事件提訴
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■判決内容
<争点>
1 本件契約における使用権料の額
本件契約における使用権料について、本件使用権料表には基本使用権料は1億5500万円とすると記載されていました。
裁判所は、原告と被告は本件契約の締結により、本件使用権料表に記載のある1億5500万円の使用権料の額をその使用権料の支払方法等も含めて合意したものと認めるのが相当であると認定しています(18頁以下)。
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2 被告による本件契約解除の有効性
(1)原告の責めに帰すべき債務不履行の有無
原告の責めに帰すべき債務不履行の有無について、裁判所は以下のように判断しています(20頁以下)。
(a)被告の使用権喪失の有無
本件契約における使用権料は、いわゆる年間最低使用料としての実質を有するものであると解するのが相当であり、本件契約第4条においては、何の条件の記載もなく原告が被告に対して本件データについての使用許諾をするものとされ、使用権料の支払がない場合に使用権を失うなどの定めはされていないことからすれば、本件契約において、使用権料の不払又は履行拒絶によって直ちに使用権が喪失ないし失効するとの解除条件が付されていたとは認められない。
被告が使用権料の残金を支払わないことを明確にしたことのみによっては使用権を喪失することはなく、被告は本件契約に基づく本件データの使用権を有していた。
(b)不安の抗弁
被告が使用権料の残金の支払を定められた支払期日に行わない意思を明確にしている以上、被告による支払拒絶の意思は明確にされていたといえる。しかし、使用権料は使用許諾を受けるためだけの対価ではなく、それに満つるまでの複製使用の対価としての性質も有するものであるから、使用権料は、使用権及び個別複製の双方と対価関係にあるものといえるところ、本件契約締結後に被告から使用権料1億5500万円のうち1億円が支払われ、原告が本件データの提供を拒絶する時点での使用権料の充当後残額(税込み)は6988万円余り、提供を拒絶した際に発注されていた3030枚の複製使用料に充当した後でも5974万円余りであったことからすれば、拒絶当時、原告においては、上記3030枚の発注はもちろん、それを超える相当数の発注についても、その対価たる複製使用料について十分な担保を有していたものといえる。
本件契約が被告の業務において不可欠な本件データを継続的に供給するものであったことからすれば、平成27年2月に被告が使用権料の残金を支払うことを明確に拒絶したとしても、原告において、被告に対する本件データの提供義務を履行させることが、著しく当事者間の衡平を欠く状況にあり信義に反するとまでいえるものではなく、原告において不安の抗弁を主張することはできない。
原告が、平成27年2月に被告に対する本件データの提供を拒絶したことは、原告の責めに帰すべき債務不履行であるといえる。
(2)解除事由
原告が被告の複製申請に対して本件データの提供を行うことは、原告の本件契約における債務そのものであるから、これを拒絶することは、本件契約第6条4項(6)に定める「本契約もしくは使用許諾地域等の個別契約上の重大な債務不履行」に該当するといえ、被告は、直ちに本件契約を解除することができるから、被告が原告に対して行った解除の意思表示は、本件契約条項に基づくものとして有効であると裁判所は判断(24頁以下)。
結論として、被告による本件契約解除は有効であると判断しています。
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3 本件契約解除が有効である場合の原告の未払使用権料支払請求権の存否・被告の既払使用権料返還請求権の存否
解除により本件契約が使用許諾期間途中で効力を失った場合に、契約がどのように解消されるかについては明確に定められていないことから、本件契約解除による使用権料の支払義務の帰趨が問題となっています(25頁以下)。
(1)本件契約解除の遡及効の有無について
本件契約には本件契約条項に基づく解除の効力について具体的な定めはないものの、本件契約が被告の行う複製使用申請に対して、原告が本件データを提供するという関係が使用許諾期間において続くという意味で継続的な契約の性質を有し、また、本件契約に基づき相当数の本件データの複製物が原告から被告に提供され、これを使用したカーナビゲーションが第三者に販売されていることを考慮すれば、本件契約条項に基づく解除については民法620条を準用し、将来に向かって効力が生じると解するのが相当であると裁判所は判断しています。
(2)使用権料残金
本件では、被告が原告に対して1か月又は2か月おきに相当量の複製発注をしてきていることに鑑み、解除による事後的な対価的清算としては、使用許諾期間の観点から考えることとし、使用許諾期間1年間のうち被告が使用許諾の利益を享受したと認められる期間に相当する範囲に対応する使用権料は原告が収受でき、それ以後の期間に対応する使用権料は、これを原告は収受できないと考え、このような清算関係に沿うように、被告の使用権料支払義務又は原告の原状回復義務のいずれかを認めることとするのが相当であると裁判所は判断。
1億6740万円(1億5500万円×1.08[税込み])のうち、使用許諾契約の始期である平成26年5月14日から上記平成27年2月4日までの267日に対応する額は、1億2245万4246円(1億6740万円÷365日×267日)となるから、被告の支払った1億800万円を超える1445万4246円については、被告は原告に対して未だ使用権料として支払義務を負っており、他方、被告が原告に支払った1億800万円は、上記1億2245万4246円を超えるものではないから、原告から被告に対して返還する使用権料はないと認定。
結論として、被告は、原告に対して本件契約に基づく使用権料の残金として1445万4246円の支払が認められています。
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■コメント
被告は、自動車が趣味でカー用品などを購入する機会が多い人には名の通った企業です。
カーナビ地図データ使用許諾契約事件
大阪地裁平成28.11.28平成27(ワ)6363等使用権料請求事件等PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官 田原美奈子
裁判官 林啓治郎
*裁判所サイト公表 2017.1.27
*キーワード:ライセンス契約、不安の抗弁
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■事案
地図データの使用許諾契約について不安の抗弁の成否などが争点となった事案
原告:カーナビゲーションシステム制作会社
被告:自動車用品製造販売会社
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■結論
第1事件:請求一部認容
第2事件:請求棄却
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■争点
条文 民法620条
1 本件契約における使用権料の額
2 被告による本件契約解除の有効性
3 本件契約解除が有効である場合の原告の未払使用権料支払請求権の存否・被告の既払使用権料返還請求権の存否
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■事案の概要
『第1事件は,原告が被告に対し,原告が使用権あるいは著作権を有する地図データについて,被告との間の有償使用許諾契約に基づき,使用権料1億5500万円(税抜き)の残金5940万円(5500万円とその消費税)及びこれに対する支払期日の翌日である平成27年5月14日から支払済みまで同契約で定める年15%による遅延損害金の支払を請求した事案である。これに対し,被告は,同契約による使用権料について支払済みの1億800万円(1億円とその消費税)を超える額の合意はなく,また,同契約は原告が地図データを提供しなかった債務不履行に基づき解除されたと主張して争っている。
第2事件は,被告が原告に対し,上記使用許諾契約の解除に基づく原状回復請求権として,支払済み使用権料1億円の返還及びこれに対する同金員受領の日である平成26年6月12日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による利息の支払を請求した事案である。これに対し,原告は,上記解除の有効性を争うとともに,仮に上記解除が有効であるとしても原告は被告に対して使用権料の支払請求権を有する等と主張して争っている。』(2頁)
<経緯>
H26.05 原被告間で使用許諾契約締結
H26.06 被告が1億800万支払い
H26.12 被告が使用権料分割払い、契約変更の要望
H27.02 被告が残金5500万円支払拒絶
H27.02 原告が不安の抗弁を主張
H27.03 被告が契約解除通知
H27.05 被告が原告に対して第2事件提訴
H27.06 原告が被告に対して第1事件提訴
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■判決内容
<争点>
1 本件契約における使用権料の額
本件契約における使用権料について、本件使用権料表には基本使用権料は1億5500万円とすると記載されていました。
裁判所は、原告と被告は本件契約の締結により、本件使用権料表に記載のある1億5500万円の使用権料の額をその使用権料の支払方法等も含めて合意したものと認めるのが相当であると認定しています(18頁以下)。
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2 被告による本件契約解除の有効性
(1)原告の責めに帰すべき債務不履行の有無
原告の責めに帰すべき債務不履行の有無について、裁判所は以下のように判断しています(20頁以下)。
(a)被告の使用権喪失の有無
本件契約における使用権料は、いわゆる年間最低使用料としての実質を有するものであると解するのが相当であり、本件契約第4条においては、何の条件の記載もなく原告が被告に対して本件データについての使用許諾をするものとされ、使用権料の支払がない場合に使用権を失うなどの定めはされていないことからすれば、本件契約において、使用権料の不払又は履行拒絶によって直ちに使用権が喪失ないし失効するとの解除条件が付されていたとは認められない。
被告が使用権料の残金を支払わないことを明確にしたことのみによっては使用権を喪失することはなく、被告は本件契約に基づく本件データの使用権を有していた。
(b)不安の抗弁
被告が使用権料の残金の支払を定められた支払期日に行わない意思を明確にしている以上、被告による支払拒絶の意思は明確にされていたといえる。しかし、使用権料は使用許諾を受けるためだけの対価ではなく、それに満つるまでの複製使用の対価としての性質も有するものであるから、使用権料は、使用権及び個別複製の双方と対価関係にあるものといえるところ、本件契約締結後に被告から使用権料1億5500万円のうち1億円が支払われ、原告が本件データの提供を拒絶する時点での使用権料の充当後残額(税込み)は6988万円余り、提供を拒絶した際に発注されていた3030枚の複製使用料に充当した後でも5974万円余りであったことからすれば、拒絶当時、原告においては、上記3030枚の発注はもちろん、それを超える相当数の発注についても、その対価たる複製使用料について十分な担保を有していたものといえる。
本件契約が被告の業務において不可欠な本件データを継続的に供給するものであったことからすれば、平成27年2月に被告が使用権料の残金を支払うことを明確に拒絶したとしても、原告において、被告に対する本件データの提供義務を履行させることが、著しく当事者間の衡平を欠く状況にあり信義に反するとまでいえるものではなく、原告において不安の抗弁を主張することはできない。
原告が、平成27年2月に被告に対する本件データの提供を拒絶したことは、原告の責めに帰すべき債務不履行であるといえる。
(2)解除事由
原告が被告の複製申請に対して本件データの提供を行うことは、原告の本件契約における債務そのものであるから、これを拒絶することは、本件契約第6条4項(6)に定める「本契約もしくは使用許諾地域等の個別契約上の重大な債務不履行」に該当するといえ、被告は、直ちに本件契約を解除することができるから、被告が原告に対して行った解除の意思表示は、本件契約条項に基づくものとして有効であると裁判所は判断(24頁以下)。
結論として、被告による本件契約解除は有効であると判断しています。
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3 本件契約解除が有効である場合の原告の未払使用権料支払請求権の存否・被告の既払使用権料返還請求権の存否
解除により本件契約が使用許諾期間途中で効力を失った場合に、契約がどのように解消されるかについては明確に定められていないことから、本件契約解除による使用権料の支払義務の帰趨が問題となっています(25頁以下)。
(1)本件契約解除の遡及効の有無について
本件契約には本件契約条項に基づく解除の効力について具体的な定めはないものの、本件契約が被告の行う複製使用申請に対して、原告が本件データを提供するという関係が使用許諾期間において続くという意味で継続的な契約の性質を有し、また、本件契約に基づき相当数の本件データの複製物が原告から被告に提供され、これを使用したカーナビゲーションが第三者に販売されていることを考慮すれば、本件契約条項に基づく解除については民法620条を準用し、将来に向かって効力が生じると解するのが相当であると裁判所は判断しています。
(2)使用権料残金
本件では、被告が原告に対して1か月又は2か月おきに相当量の複製発注をしてきていることに鑑み、解除による事後的な対価的清算としては、使用許諾期間の観点から考えることとし、使用許諾期間1年間のうち被告が使用許諾の利益を享受したと認められる期間に相当する範囲に対応する使用権料は原告が収受でき、それ以後の期間に対応する使用権料は、これを原告は収受できないと考え、このような清算関係に沿うように、被告の使用権料支払義務又は原告の原状回復義務のいずれかを認めることとするのが相当であると裁判所は判断。
1億6740万円(1億5500万円×1.08[税込み])のうち、使用許諾契約の始期である平成26年5月14日から上記平成27年2月4日までの267日に対応する額は、1億2245万4246円(1億6740万円÷365日×267日)となるから、被告の支払った1億800万円を超える1445万4246円については、被告は原告に対して未だ使用権料として支払義務を負っており、他方、被告が原告に支払った1億800万円は、上記1億2245万4246円を超えるものではないから、原告から被告に対して返還する使用権料はないと認定。
結論として、被告は、原告に対して本件契約に基づく使用権料の残金として1445万4246円の支払が認められています。
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■コメント
被告は、自動車が趣味でカー用品などを購入する機会が多い人には名の通った企業です。