最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ライブバー「X.Y.Z.→A」音楽使用料事件(控訴審)

知財高裁平成28.10.19平成28(ネ)10041著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
別紙(1)(別紙1から3)
別紙(2)(別紙4 使用料相当損害金一覧)

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    古河謙一
裁判官    鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.10.20
*キーワード:音楽著作権、使用料、契約、カラオケ法理、損害論

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■事案

ジャスラックの契約形態等に対する不信を理由に使用料金額等を争った事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審原告):音楽著作権管理団体
被控訴人兼控訴人(1審被告):ライブハウス経営者、ロックバンドドラマー

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法22条、民法1条3項

1 1審被告らの演奏主体性
2 オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否
3 1審被告らの故意又は過失の有無
4 1審原告による許諾の有無
5 権利濫用等の抗弁の成否
6 差止請求の適法性及び差止めの必要性
7 将来請求の可否
8 損害ないし損失発生の有無及びその額

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■事案の概要

『本件は,著作権等管理事業者である1審原告が,1審被告らに対し,原判決別紙1店舗目録記載の店舗(本件店舗。なお,同目録(1)の店舗は本件店舗6階部分であり,同目録(2)の店舗は本件店舗5階部分である。)を1審被告らが共同経営しているところ,1審被告らが1審原告との間で利用許諾契約を締結しないまま同店内でライブを開催し,1審原告が管理する著作物を演奏(歌唱を含む。)させていることが,1審原告の有する著作権(演奏権)侵害に当たると主張して,(1)上記著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求め,(2)主位的に著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,予備的に悪意の受益者に対する不当利得返還請求として,連帯して,1)平成21年5月23日(本件店舗の開設日)から平成27年10月31日までの使用料相当額560万2787円,2)弁護士費用56万0277円及び3)上記使用料相当額について平成27年10月31日までに生じた確定遅延損害金又は利息金87万2455円の合計703万5519円及びうち616万3064円(上記1)と2)の合計額)に対する同年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金の支払を求めるとともに,4)平成27年11月1日から上記著作物の使用終了に至るまで,連帯して,使用料相当額月6万3504円の支払を求めた事案である。
 原判決は,1審被告らが1審原告の管理する著作物の演奏主体に当たると判断して,(1)上記著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを認め,(2)著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求又は悪意の受益者に対する不当利得返還請求について,1審被告らに対し,連帯して,1)平成21年5月23日から平成27年10月31日までの使用料相当損害金又は不当利得金203万0513円,2)弁護士費用40万円,3)上記1)の使用料相当額について平成27年10月31日までに生じた確定遅延損害金又は利息金30万6858円,4)上記1)と2)の合計額243万0513円に対する同年11月1日以降の遅延損害金又は利息金,5)同日から平成28年2月10日(原審口頭弁論終結日)までの使用料相当損害金又は不当利得金9万3899円の支払を求める限度で認容し,平成28年2月10日までのその余の請求を棄却するとともに,(3)同月11日以降の使用料相当損害金等請求は,将来請求の訴えの要件を欠くとして,却下した。
 そこで,1審原告及び1審被告らが,それぞれ敗訴部分を不服として控訴したものである。なお,1審原告は,当審における金員支払請求において弁護士費用相当額の請求を拡張し,1審被告らに対し,連帯して,1)平成21年5月23日(本件店舗の開設日)から平成28年3月31日までの使用料相当額592万0307円及び本判決別紙1の元本欄記載の各金員に対する起算日欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息の,2)弁護士費用59万2029円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,3)平成28年4月1日から上記著作物の使用終了に至るまで,連帯して,使用料相当額月6万3504円の支払を求めるものである。』

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■判決内容

<争点>

1 1審被告らの演奏主体性

控訴審においても原審同様、クラブキャッツアイ事件、ロクラク2事件の最高裁判決を踏まえ、結論として1審被告らが本件店舗における1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)であると認められています(14頁以下)。

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2 オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否

著作権信託契約上、演奏者が1審原告に著作権管理を信託した楽曲を、演奏者が演奏する場合であっても1審原告の許諾を得ない楽曲の演奏が1審原告の著作権侵害に当たることは明らかであり、1審原告には使用料相当額の損害の発生が認められるとして、著作権侵害の不法行為が成立すると判断しています(19頁以下)。

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3 1審被告らの故意又は過失の有無

1審被告らは、本件店舗を開いた後は1審原告に著作権料を支払わなければならないことを認識しており、著作権侵害主体であることの認識があったことは明らかであって、1審被告らには著作権侵害の故意又は過失があったというほかないと判断しています(20頁以下)。

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4 1審原告による許諾の有無

本件調停の過程においても1審原告と1審被告ら又は1審被告Y1との間で、1審原告管理著作物の利用に関して利用条件等の契約の重要部分について意思が合致したとはいえないなどとして、結論としては、一審原告の許諾があったとは認められていません(21頁以下)。

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5 権利濫用等の抗弁の成否

1審原告が1審被告らに対し包括的契約の締結を強要した事実を認めるに足りないなどとして、結論としては権利濫用や信義則違反の抗弁を認めていません(23頁以下)。

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6 差止請求の適法性及び差止めの必要性

1審原告の1審被告らに対する差止請求には理由があると判断されています(25頁以下)。

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7 将来請求の可否

口頭弁論終結日以降の損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することは、本件では困難であるなどとして、本件の損害賠償請求権は将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有さず、一審被告らに対する金員支払請求のうち、口頭弁論終結日の翌日である平成28年9月13日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分は不適法である、と判断しています(28頁以下)。

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8 損害ないし損失発生の有無及びその額

(1)演奏回数

1ライブ当たりの1審原告管理著作物の演奏曲数は、本件店舗の5階部分と6階部分の双方を利用している場合の5階部分については12曲、主たる演奏会場(上記場合の6階部分又はいずれか一方のみを利用している場合)については13曲と判断されています(29頁以下)。

(2)使用料

1曲当たりの使用料は140円(税抜)と認定されています。

・使用料相当損害金又は不当利得金:496万5101円
・弁護士費用:50万円
合計 546万5101円

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■コメント

ジャスラック対ファンキー末吉氏(ライブバー)の事案の控訴審です。
損害論について、原審では被告側の主張を取り入れていましたが、控訴審ではJASRAC側の資料を重視して増額の認定となっています。

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■過去のブログ記事

原審記事 

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■参考サイト

JASRACプレスリリース 2016年10月20日
「ライブハウスの経営者らに対する訴訟の知財高裁判決について」
プレスリリース