最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
スマホ用ケースデザイン事件
東京地裁平成28.9.28平成27(ワ)482販売差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2
別紙3
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 天野研司
*裁判所サイト公表 2016.10.03
*キーワード:複製権、公衆送信権、氏名表示権、同一性保持権、独占的利用権、債権侵害、損害論
--------------------
■事案
スマホ用ケースのデザイン図柄の複製権侵害や独占的利用権侵害の有無が争点となった事案
原告:スマホ用ケース販売会社、アーティストら4名
被告:日用品販売会社
--------------------
■結論
請求一部認容
--------------------
■争点
条文 著作権法19条、20条、21条、23条、114条3項、1項
1 本件各著作物の著作者及び著作権者
2 原告会社は本件各著作物について独占的利用権を有するか
3 被告が被告各商品を製造し販売した行為は本件各作物についての著作権〔複製権、譲渡権〕又は独占的利用権を侵害する行為に当たるか
4 被告は被告各商品を撮影した写真データを本件各ウェブサイト上にアップロードしたか、また、同行為が本件各著作権〔公衆送信権〕を侵害する行為に当たるか
5 被告の行為が原告A、原告B、原告C及び原告Dの著作者人格権〔氏名表示権、同一性保持権〕を侵害する行為に当たるか
6 原告会社は本件著作物5ないし同28の2の各著作権者に代位して差止請求権及び廃棄請求権を代位行使できるか
7 差止め及び廃棄の必要性が認められるか
8 原告らが受けた損害の額
--------------------
■事案の概要
『本件は,別紙2著作物目録記載の各絵画(以下,個別には,同目録の番号に対応して「本件著作物1の1」などといい,同目録記載の各絵画を総称して「本件各著作物」と,それらの著作権を総称して「本件各著作権」という。)に関し,本件著作物1の1及び同1の2の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告A,本件著作物2の1ないし同2の6の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告B,本件著作物3の1ないし同3の6の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告C,本件著作物4の1ないし同4の3の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告D,及び本件各著作物について,それらの著作権者から独占的に利用することの許諾を受けた(以下,当該許諾に基づく権利を「独占的利用権」という。)と主張する原告会社が,別紙1被告商品目録記載の各スマートフォン用ケース(以下,個別には,同目録の番号に対応して「被告商品1−00396」などといい,また,同目録記載1の各商品を併せて「被告商品1」と,同目録記載2の各商品を併せて「被告商品2」と,同目録記載3の各商品を併せて「被告商品3」と,同目録記載4の各商品を併せて「被告商品4」と,同目録記載5の各商品を併せて「被告商品5」という。なお,同目録記載の各商品を総称して「被告各商品」ということがある。)に印刷された図柄は本件各著作物の複製物であるから,被告が被告各商品を製造及び譲渡する行為は本件各著作権(複製権,譲渡権)を侵害する行為であり,被告が被告各商品を撮影した写真データをウェブサイトにアップロードする行為は本件各著作権(公衆送信権)を侵害する行為であるほか,被告の上記行為は原告会社が有する本件各著作物の独占的利用権を侵害する行為であり,また,被告の上記各行為のうち,本件著作物1の1及び同1の2に係るものは同著作物についての原告Aの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為,本件著作物2の1ないし同2の6に係るものは同著作物についての原告Bの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為,本件著作物3の1ないし同3の6に係るものは同著作物についての原告Cの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為,本件著作物4の1ないし同4の3に係るものについては同著作物についての原告Dの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為であるなどと主張して,1原告A,原告B,原告C及び原告Dが,著作権法112条1項に基づき,前記第1の1ないし4の各(1)及び(2)のとおり,被告商品1ないし同4の複製及び譲渡の差止め並びに被告商品1ないし同4を撮影した写真データの送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求め,また,同条2項に基づき,前記第1の1ないし4の各(3)のとおり,被告商品1ないし同4の製造に用いる原版データ,製造済み商品及び商品を撮影した写真データの各廃棄を求め,2原告会社が,本件著作物5ないし同28の2の各著作権者に代位して差止請求権及び廃棄請求権を行使するとして,前記第1の5の(1)及び(2)のとおり,被告商品5の複製及び譲渡の差止め並びに被告商品5を撮影した写真データの送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求め,前記第1の5の(3)のとおり,被告商品5の製造に用いる原版データ,製造済み商品及び商品を撮影した写真データの各廃棄を求め,3原告A,原告B,原告C及び原告Dが,著作権及び著作者人格権の各不法行為による各損害賠償請求権に基づき,前記第1の1ないし4の各(4)のとおり,被告に対し,損害賠償金(請求額は,原告Aにつき75万0600円〔著作権侵害による逸失利益600円,無形損害(著作権侵害と著作者人格権侵害を選択的に主張するものと解される。原告B,原告C及び原告Dについても同様。)60万円及び弁護士費用15万円の合計〕,原告Bにつき196万9200円〔著作権侵害による逸失利益1万9200円,無形損害180万円及び弁護士費用15万円の合計〕,原告Cにつき197万7000円〔著作権侵害による逸失利益2万7000円,無形損害180万円及び弁護士費用15万円の合計〕,原告Dにつき105万2400円〔著作権侵害による逸失利益2400円,無形損害90万円及び弁護士費用15万円の合計〕)及びこれに対する平成27年9月6日(本件訴状送達の日の翌日)を起算日とする民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,4原告会社が,本件各著作物についての独占的利用権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権に基づき,前記第1の5の(4)のとおり,被告に対し,損害賠償金113万4108円(独占的利用権の侵害による逸失利益83万4108円及び弁護士費用30万円の合計)及びこれに対する平成27年9月6日(本件訴状送達の日の翌日)を起算日とする民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
<経緯>
H24.08 原告会社代表者が販売開始
H24.10 原告会社設立
H25.06 被告各商品販売開始
H25.07 原告会社が被告に販売停止通告
--------------------
■判決内容
<争点>
1 本件各著作物の著作者及び著作権者
まず、スマートフォン用ケースに使用された図柄である本件各著作物の著作者及び著作権者は、アーティストである原告A乃至Dであると裁判所は認定しています(18頁以下)。
--------------------
2 原告会社は本件各著作物について独占的利用権を有するか
原告A乃至Dに関する本件著作物1の1ないし同4の3については、原告会社が立証をせず、原告アーティストらから原告会社に対する独占的利用権の付与は認定されていません(20頁以下)。その他の本件著作物については、一部を除き、アーティストである著作権者らから原告会社への独占的利用権の付与が認定されています。
--------------------
3 被告が被告各商品を製造し販売した行為は本件各作物についての著作権〔複製権、譲渡権〕又は独占的利用権を侵害する行為に当たるか
(1)著作権(複製権、譲渡権)の侵害について
被告が一覧表中「被告商品」欄記載のスマートフォン用ケースを製造し販売した行為は、それぞれ対応する「アーティスト」欄記載のアーティストが有する「本件著作物」欄記載の著作物の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害する行為であることは明らかであると裁判所は認定しています(34頁)。
(2)独占的利用権の侵害について
原告会社が本件著作物5ないし同28の2(ただし、同11、同12の1、同12の2、同15、同16、同17、同21の1、同21の2を除く)について独占的利用権を有していると認定され、原告会社が被告に対し販売等の停止などを求めた日以降の被告の販売等の行為については、被告の主観的要件として故意又は重過失の存在が認定され、独占的利用権を侵害する不法行為が成立すると裁判所は判断しています(34頁以下)。
--------------------
4 被告は被告各商品を撮影した写真データを本件各ウェブサイト上にアップロードしたか、また、同行為が本件各著作権〔公衆送信権〕を侵害する行為に当たるか
被告は、平成26年から平成27年頃に本件各著作物をスマートフォン用ケースに印刷したもの(被告各商品)の画像データ(別紙1被告商品目録掲載の画像データ)を作成した上、楽天やヤフーといったショッピングサイトなどの本件各ウェブサイトにアップロードした事実が認められると裁判所は認定。
被告が本件各著作物の複製物である被告各商品を撮影した写真のデータを本件各ウェブサイトにアップロードした行為は、本件各著作物の著作権者が有する著作権(公衆送信権)を侵害する行為に当たると裁判所は判断しています(35頁以下)。
--------------------
5 被告の行為が原告A、原告B、原告C及び原告Dの著作者人格権〔氏名表示権、同一性保持権〕を侵害する行為に当たるか
アップロード並びに被告各商品の製造及び販売に際して、本件各著作物の著作者の氏名又は雅名を表示しなかった事実が認められるとして、裁判所は、被告による上記行為は原告A乃至Dの氏名表示権を侵害する行為であると判断しています(36頁以下)。
もっとも、原告アーティストらが、他の事業者に対して同様な態様でのデザインの利用許諾をしていることから、被告がこれらの著作物を利用してスマートフォン用ケースの画像データを作成したこと、また、スマートフォン用ケースを製造して販売したことが著作者の意に反する切除その他の改変に当たるものとは認められず、同一性保持権が侵害されたものとは認められないと裁判所は判断しています。
--------------------
6 原告会社は本件著作物5ないし同28の2の各著作権者に代位して差止請求権及び廃棄請求権を代位行使できるか
契約書案の内容からすると、債権者代位権(民法423条)の法意を用いて各著作権者が有する差止請求権及び廃棄請求権を原告会社が代位行使することができるものと認めることは困難であると裁判所は判断しています(37頁以下)。
--------------------
7 差止め及び廃棄の必要性が認められるか
被告が被告各商品を製造、譲渡し、また、被告各商品のデータを送信可能化するおそれがあるとして、被告による被告商品1ないし同4の製造及び譲渡並びに同商品を撮影した写真データの送信可能化(自動公衆送信を含む)を差し止めるとともに、侵害の予防のために必要な措置として同商品の製造に用いる原版データ、製造済みの商品及び商品を撮影した写真データを破棄させる必要があると裁判所は判断しています(38頁以下)。
--------------------
8 原告らが受けた損害の額
(1)原告A
逸失利益1個×500円 慰謝料1万円 弁護士費用3万円 合計4万500円(39頁以下)
(2)原告B
逸失利益32個×500円=1万6000円 慰謝料5万円 弁護士費用3万円 合計9万6000円
(3)原告C
逸失利益45個×500円=2万2500円 慰謝料7万円 弁護士費用3万円 合計12万2500円
(4)原告D
逸失利益4個×500円=2000円 慰謝料1万円 弁護士費用3万円 合計4万2000円
*原告A乃至Dにつき114条3項
(5)原告会社
原告会社が本件著作物5ないし同28の2(一部除外)について独占的利用権を有していたものと認められ、日本国内において事実上、これらの著作物の複製物を譲渡することによる利益を独占的に享受しうる地位にあり、その限りで著作物を複製する権利を専有する著作権者と同等の立場にあること、また、原告会社は現実に上記著作物を利用したスマートフォン用ケースを販売していたことから、裁判所は、原告会社の受けた損害の額の算定に際して、著作権法114条1項を類推適用することができると判断。
結論として、以下の損害額を認定しています。
・譲渡数量228個×単位数量当たりの利益額1958円=44万6424円
・弁護士費用15万
合計 59万6424円
--------------------
■コメント
被告は最新UV印刷機で立体印刷をしてオリジナルのアイフォンケースなどを1個から制作するサービスを提供していました。もっとも、プリントするデザインは第三者のもので無断使用のものが含まれていました。スマホ用のケースのデザイン図柄については、別紙1を見ると様々なものがあることが分かります。
損害額の算定にあたって、契約上の独占的利用権限を侵害された場合(債権侵害)に著作権法114条1項の類推適用を裁判所が認めている点が参考になります。
スマホ用ケースデザイン事件
東京地裁平成28.9.28平成27(ワ)482販売差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2
別紙3
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 天野研司
*裁判所サイト公表 2016.10.03
*キーワード:複製権、公衆送信権、氏名表示権、同一性保持権、独占的利用権、債権侵害、損害論
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■事案
スマホ用ケースのデザイン図柄の複製権侵害や独占的利用権侵害の有無が争点となった事案
原告:スマホ用ケース販売会社、アーティストら4名
被告:日用品販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法19条、20条、21条、23条、114条3項、1項
1 本件各著作物の著作者及び著作権者
2 原告会社は本件各著作物について独占的利用権を有するか
3 被告が被告各商品を製造し販売した行為は本件各作物についての著作権〔複製権、譲渡権〕又は独占的利用権を侵害する行為に当たるか
4 被告は被告各商品を撮影した写真データを本件各ウェブサイト上にアップロードしたか、また、同行為が本件各著作権〔公衆送信権〕を侵害する行為に当たるか
5 被告の行為が原告A、原告B、原告C及び原告Dの著作者人格権〔氏名表示権、同一性保持権〕を侵害する行為に当たるか
6 原告会社は本件著作物5ないし同28の2の各著作権者に代位して差止請求権及び廃棄請求権を代位行使できるか
7 差止め及び廃棄の必要性が認められるか
8 原告らが受けた損害の額
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■事案の概要
『本件は,別紙2著作物目録記載の各絵画(以下,個別には,同目録の番号に対応して「本件著作物1の1」などといい,同目録記載の各絵画を総称して「本件各著作物」と,それらの著作権を総称して「本件各著作権」という。)に関し,本件著作物1の1及び同1の2の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告A,本件著作物2の1ないし同2の6の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告B,本件著作物3の1ないし同3の6の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告C,本件著作物4の1ないし同4の3の著作者であり,それらの著作権を有すると主張する原告D,及び本件各著作物について,それらの著作権者から独占的に利用することの許諾を受けた(以下,当該許諾に基づく権利を「独占的利用権」という。)と主張する原告会社が,別紙1被告商品目録記載の各スマートフォン用ケース(以下,個別には,同目録の番号に対応して「被告商品1−00396」などといい,また,同目録記載1の各商品を併せて「被告商品1」と,同目録記載2の各商品を併せて「被告商品2」と,同目録記載3の各商品を併せて「被告商品3」と,同目録記載4の各商品を併せて「被告商品4」と,同目録記載5の各商品を併せて「被告商品5」という。なお,同目録記載の各商品を総称して「被告各商品」ということがある。)に印刷された図柄は本件各著作物の複製物であるから,被告が被告各商品を製造及び譲渡する行為は本件各著作権(複製権,譲渡権)を侵害する行為であり,被告が被告各商品を撮影した写真データをウェブサイトにアップロードする行為は本件各著作権(公衆送信権)を侵害する行為であるほか,被告の上記行為は原告会社が有する本件各著作物の独占的利用権を侵害する行為であり,また,被告の上記各行為のうち,本件著作物1の1及び同1の2に係るものは同著作物についての原告Aの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為,本件著作物2の1ないし同2の6に係るものは同著作物についての原告Bの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為,本件著作物3の1ないし同3の6に係るものは同著作物についての原告Cの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為,本件著作物4の1ないし同4の3に係るものについては同著作物についての原告Dの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する行為であるなどと主張して,1原告A,原告B,原告C及び原告Dが,著作権法112条1項に基づき,前記第1の1ないし4の各(1)及び(2)のとおり,被告商品1ないし同4の複製及び譲渡の差止め並びに被告商品1ないし同4を撮影した写真データの送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求め,また,同条2項に基づき,前記第1の1ないし4の各(3)のとおり,被告商品1ないし同4の製造に用いる原版データ,製造済み商品及び商品を撮影した写真データの各廃棄を求め,2原告会社が,本件著作物5ないし同28の2の各著作権者に代位して差止請求権及び廃棄請求権を行使するとして,前記第1の5の(1)及び(2)のとおり,被告商品5の複製及び譲渡の差止め並びに被告商品5を撮影した写真データの送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求め,前記第1の5の(3)のとおり,被告商品5の製造に用いる原版データ,製造済み商品及び商品を撮影した写真データの各廃棄を求め,3原告A,原告B,原告C及び原告Dが,著作権及び著作者人格権の各不法行為による各損害賠償請求権に基づき,前記第1の1ないし4の各(4)のとおり,被告に対し,損害賠償金(請求額は,原告Aにつき75万0600円〔著作権侵害による逸失利益600円,無形損害(著作権侵害と著作者人格権侵害を選択的に主張するものと解される。原告B,原告C及び原告Dについても同様。)60万円及び弁護士費用15万円の合計〕,原告Bにつき196万9200円〔著作権侵害による逸失利益1万9200円,無形損害180万円及び弁護士費用15万円の合計〕,原告Cにつき197万7000円〔著作権侵害による逸失利益2万7000円,無形損害180万円及び弁護士費用15万円の合計〕,原告Dにつき105万2400円〔著作権侵害による逸失利益2400円,無形損害90万円及び弁護士費用15万円の合計〕)及びこれに対する平成27年9月6日(本件訴状送達の日の翌日)を起算日とする民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,4原告会社が,本件各著作物についての独占的利用権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権に基づき,前記第1の5の(4)のとおり,被告に対し,損害賠償金113万4108円(独占的利用権の侵害による逸失利益83万4108円及び弁護士費用30万円の合計)及びこれに対する平成27年9月6日(本件訴状送達の日の翌日)を起算日とする民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
<経緯>
H24.08 原告会社代表者が販売開始
H24.10 原告会社設立
H25.06 被告各商品販売開始
H25.07 原告会社が被告に販売停止通告
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■判決内容
<争点>
1 本件各著作物の著作者及び著作権者
まず、スマートフォン用ケースに使用された図柄である本件各著作物の著作者及び著作権者は、アーティストである原告A乃至Dであると裁判所は認定しています(18頁以下)。
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2 原告会社は本件各著作物について独占的利用権を有するか
原告A乃至Dに関する本件著作物1の1ないし同4の3については、原告会社が立証をせず、原告アーティストらから原告会社に対する独占的利用権の付与は認定されていません(20頁以下)。その他の本件著作物については、一部を除き、アーティストである著作権者らから原告会社への独占的利用権の付与が認定されています。
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3 被告が被告各商品を製造し販売した行為は本件各作物についての著作権〔複製権、譲渡権〕又は独占的利用権を侵害する行為に当たるか
(1)著作権(複製権、譲渡権)の侵害について
被告が一覧表中「被告商品」欄記載のスマートフォン用ケースを製造し販売した行為は、それぞれ対応する「アーティスト」欄記載のアーティストが有する「本件著作物」欄記載の著作物の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害する行為であることは明らかであると裁判所は認定しています(34頁)。
(2)独占的利用権の侵害について
原告会社が本件著作物5ないし同28の2(ただし、同11、同12の1、同12の2、同15、同16、同17、同21の1、同21の2を除く)について独占的利用権を有していると認定され、原告会社が被告に対し販売等の停止などを求めた日以降の被告の販売等の行為については、被告の主観的要件として故意又は重過失の存在が認定され、独占的利用権を侵害する不法行為が成立すると裁判所は判断しています(34頁以下)。
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4 被告は被告各商品を撮影した写真データを本件各ウェブサイト上にアップロードしたか、また、同行為が本件各著作権〔公衆送信権〕を侵害する行為に当たるか
被告は、平成26年から平成27年頃に本件各著作物をスマートフォン用ケースに印刷したもの(被告各商品)の画像データ(別紙1被告商品目録掲載の画像データ)を作成した上、楽天やヤフーといったショッピングサイトなどの本件各ウェブサイトにアップロードした事実が認められると裁判所は認定。
被告が本件各著作物の複製物である被告各商品を撮影した写真のデータを本件各ウェブサイトにアップロードした行為は、本件各著作物の著作権者が有する著作権(公衆送信権)を侵害する行為に当たると裁判所は判断しています(35頁以下)。
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5 被告の行為が原告A、原告B、原告C及び原告Dの著作者人格権〔氏名表示権、同一性保持権〕を侵害する行為に当たるか
アップロード並びに被告各商品の製造及び販売に際して、本件各著作物の著作者の氏名又は雅名を表示しなかった事実が認められるとして、裁判所は、被告による上記行為は原告A乃至Dの氏名表示権を侵害する行為であると判断しています(36頁以下)。
もっとも、原告アーティストらが、他の事業者に対して同様な態様でのデザインの利用許諾をしていることから、被告がこれらの著作物を利用してスマートフォン用ケースの画像データを作成したこと、また、スマートフォン用ケースを製造して販売したことが著作者の意に反する切除その他の改変に当たるものとは認められず、同一性保持権が侵害されたものとは認められないと裁判所は判断しています。
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6 原告会社は本件著作物5ないし同28の2の各著作権者に代位して差止請求権及び廃棄請求権を代位行使できるか
契約書案の内容からすると、債権者代位権(民法423条)の法意を用いて各著作権者が有する差止請求権及び廃棄請求権を原告会社が代位行使することができるものと認めることは困難であると裁判所は判断しています(37頁以下)。
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7 差止め及び廃棄の必要性が認められるか
被告が被告各商品を製造、譲渡し、また、被告各商品のデータを送信可能化するおそれがあるとして、被告による被告商品1ないし同4の製造及び譲渡並びに同商品を撮影した写真データの送信可能化(自動公衆送信を含む)を差し止めるとともに、侵害の予防のために必要な措置として同商品の製造に用いる原版データ、製造済みの商品及び商品を撮影した写真データを破棄させる必要があると裁判所は判断しています(38頁以下)。
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8 原告らが受けた損害の額
(1)原告A
逸失利益1個×500円 慰謝料1万円 弁護士費用3万円 合計4万500円(39頁以下)
(2)原告B
逸失利益32個×500円=1万6000円 慰謝料5万円 弁護士費用3万円 合計9万6000円
(3)原告C
逸失利益45個×500円=2万2500円 慰謝料7万円 弁護士費用3万円 合計12万2500円
(4)原告D
逸失利益4個×500円=2000円 慰謝料1万円 弁護士費用3万円 合計4万2000円
*原告A乃至Dにつき114条3項
(5)原告会社
原告会社が本件著作物5ないし同28の2(一部除外)について独占的利用権を有していたものと認められ、日本国内において事実上、これらの著作物の複製物を譲渡することによる利益を独占的に享受しうる地位にあり、その限りで著作物を複製する権利を専有する著作権者と同等の立場にあること、また、原告会社は現実に上記著作物を利用したスマートフォン用ケースを販売していたことから、裁判所は、原告会社の受けた損害の額の算定に際して、著作権法114条1項を類推適用することができると判断。
結論として、以下の損害額を認定しています。
・譲渡数量228個×単位数量当たりの利益額1958円=44万6424円
・弁護士費用15万
合計 59万6424円
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■コメント
被告は最新UV印刷機で立体印刷をしてオリジナルのアイフォンケースなどを1個から制作するサービスを提供していました。もっとも、プリントするデザインは第三者のもので無断使用のものが含まれていました。スマホ用のケースのデザイン図柄については、別紙1を見ると様々なものがあることが分かります。
損害額の算定にあたって、契約上の独占的利用権限を侵害された場合(債権侵害)に著作権法114条1項の類推適用を裁判所が認めている点が参考になります。