最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
クラシックコンサートポスター事件
東京地裁平成28.7.19平成27(ワ)28598著作権侵害等損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 村井美喜子
*裁判所サイト公表 2016.08.03
*キーワード:コンサート制作、契約、共有著作権、合意違反、権利濫用
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■事案
クラシックコンサートの企画制作業務委託契約において写真などの取扱いが争点となった事案
原告:クラシックコンサート企画制作会社、代表取締役A
被告:信用金庫
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、65条3項、民法415条、1条3項
1 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否
2 本件ポスターに係る著作権侵害の成否
3 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否
4 原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額
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■事案の概要
『(1)コンサートの告知に係る債務不履行ないし不法行為に基づく請求
原告会社は,平成19年から平成23年までに開催されたコンサート(以下「本件コンサート等」と総称する。)に係る業務を原告会社が受託するに際し,原告会社・被告間で,本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに,原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(以下「本件合意1」という。)にもかかわらず,被告が上記各コンサート開催についてホームページ上に掲載したこと等が上記合意に反する(債務不履行)のに加え,被告が当初からホームページ掲載等を行う意図を有していたにもかかわらず,これを隠して原告会社に業務を委託したのであれば,不法行為にも該当するとして,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金合計1002万9174円(公開のコンサートにおける通常料金と,「内輪の催事」ないし「非公開」であるとして合意された現実の代金の差額)及びこれに対する遅延損害金(上記損害賠償金のうち平成19年分の差額150万4426円に対する同コンサート開催日である平成19年11月18日から,うち平成20年分の差額167万7166円に対するコンサート開催日である平成20年11月15日から,うち平成21年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成21年11月7日から,うち平成22年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成22年11月20日から,うち平成23年分の差額345万3250円に対するコンサート開催日である平成23年11月5日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める。』
『(2)ポスターに係る著作権侵害に基づく請求
原告会社は,平成23年11月5日開催のコンサート(以下「本件コンサート」という。)に係るポスター(以下「本件ポスター」という。甲4の3参照)について原告会社が著作権を有するところ,被告が無断でこれを自らのホームページ上に掲載したことが上記著作権(公衆送信権)侵害に当たるとして,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償金30万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
『(3)写真に係る債務不履行ないし著作権侵害に基づく請求
原告会社は,原告会社・被告間で本件コンサート中の演奏場面を撮影した写真の取扱いについて平成23年11月5日に合意をした(甲7の書面に基づく合意であり,以下「本件合意2」という。)にもかかわらず,被告が同合意に従った処理をせず,原告会社に無断で被告発行の雑誌に本件コンサートの舞台写真(以下「本件写真」という。甲9の3,甲19の3参照)を掲載したこと等が債務不履行に当たり,また,原告会社が有する上記写真についての著作権(複製権,公衆送信権と解される。)を侵害するとして,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金50万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
『(4)原告Aに対する不法行為に基づく請求
原告Aは,(1)原告会社・被告間での本訴以前の調停手続等における被告の不誠実な対応等,(2)原告Aがデザインした本件ポスターを被告に無断で使用されたこと,(3)被告の対応等による原告Aの心労から,原告Aの個人会社である原告会社が営業活動をすることができず損害が累積したこと等により,原告Aが精神的苦痛を被った旨主張して,不法行為に基づき,損害賠償金(慰謝料)合計100万円及びこれに対する原告会社・被告間の調停が不成立となった日である平成27年9月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
(2頁以下)
<経緯>
H08 地域文化貢献活動の一環としてクラシックコンサートを被告が開催
H08 原被告間でコンサート運営代行業務委託契約締結
H23 本件ポスターの被告ホームページへの掲載
「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」書面交付
H24 ディスクロージャー誌(本件雑誌)に本件コンサートの舞台写真(本件写真)掲載
H24 原告会社が平成24年12月28日付け書面を被告に送付
H26 原告会社が損害賠償金支払催告書送付
H27 原告会社が豊橋簡易裁判所に民事調停申し立て、不成立
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■判決内容
<争点>
1 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否
原告会社は、原告会社・被告間で平成19年以降、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(本件合意1)と主張しましたが、裁判所は本件合意1の成立を認定していません(23頁以下)。
結論としては、被告が本件コンサート等に関する記事等をホームページ上に掲載したことが同合意違反(債務不履行)とはならず、また被告が原告会社を欺罔して委託料を減額させたなどとも認められず不法行為が成立することもないとして、原告会社の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求を裁判所は否定しています。
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2 本件ポスターに係る著作権侵害の成否
裁判所は、本件コンサートの開催内容を伝える本件ポスターの著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定した上で、本件ポスターの表現の創作には被告側従業員と原告Aが寄与しているとして、共同して創作した著作物であり、2条1項12号所定の共同著作物に当たると判断。共同著作物の著作権等の共有著作権の行使(65条2項、3項)について、被告が主催する本件コンサートに係る本件ポスターを、被告自らのホームページ上に掲載することはごく一般的な事柄といえるなどとして、原告会社が著作権侵害を主張してこれを妨げることは、正当な理由を欠くものとして許されないと裁判所は判断しています(26頁以下)。
結論として、被告が本件ポスターに係る原告会社の著作権(公衆送信権)を侵害したものとはいえないと判断されています。
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3 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否
原告会社は、被告が本件コンサートの写真撮影や同写真の使用に関して、「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」合意書面(本件合意2)に定められた条件に従わずに本件写真を被告のディスクロージャー誌(本件雑誌)に掲載した点は上記合意に違反する上、原告会社の著作権をも侵害するものであると主張しました(28頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、原告会社の本件写真に係る著作権侵害の主張の点については、理由がないと判断。債務不履行(合意違反)の主張の点については、本件合意2に違反する事実が認められるものの、被告は形式的には本件合意2に違反したものであるものの、これは原告会社が同合意の想定しないような不合理な行動を採ったことを原因とするものであるとして、原告会社が被告に対して本件合意2違反に基づく損害賠償を求めることは権利の濫用(民法1条3項)として許されないと判断しています。
結論として、本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成立は否定されています。
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4 原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額
原告Aは、平成23年秋以降被告に話合いを求めたが被告がこれに応じなかったこと(調停手続での対応を含む)等に基づく慰謝料請求をしましたが、裁判所は、被告の平成23年秋以降の対応等において何らかの違法行為があったことを認めるに足りる証拠はないなどとして、原告Aの慰謝料請求は理由がないと判断しています(30頁以下)。
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■コメント
長年に亘る取引があったものの、イベント経費の削減により両社の関係がこじれた事案となります。
クラシックコンサートポスター事件
東京地裁平成28.7.19平成27(ワ)28598著作権侵害等損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 村井美喜子
*裁判所サイト公表 2016.08.03
*キーワード:コンサート制作、契約、共有著作権、合意違反、権利濫用
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■事案
クラシックコンサートの企画制作業務委託契約において写真などの取扱いが争点となった事案
原告:クラシックコンサート企画制作会社、代表取締役A
被告:信用金庫
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、65条3項、民法415条、1条3項
1 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否
2 本件ポスターに係る著作権侵害の成否
3 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否
4 原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額
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■事案の概要
『(1)コンサートの告知に係る債務不履行ないし不法行為に基づく請求
原告会社は,平成19年から平成23年までに開催されたコンサート(以下「本件コンサート等」と総称する。)に係る業務を原告会社が受託するに際し,原告会社・被告間で,本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに,原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(以下「本件合意1」という。)にもかかわらず,被告が上記各コンサート開催についてホームページ上に掲載したこと等が上記合意に反する(債務不履行)のに加え,被告が当初からホームページ掲載等を行う意図を有していたにもかかわらず,これを隠して原告会社に業務を委託したのであれば,不法行為にも該当するとして,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金合計1002万9174円(公開のコンサートにおける通常料金と,「内輪の催事」ないし「非公開」であるとして合意された現実の代金の差額)及びこれに対する遅延損害金(上記損害賠償金のうち平成19年分の差額150万4426円に対する同コンサート開催日である平成19年11月18日から,うち平成20年分の差額167万7166円に対するコンサート開催日である平成20年11月15日から,うち平成21年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成21年11月7日から,うち平成22年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成22年11月20日から,うち平成23年分の差額345万3250円に対するコンサート開催日である平成23年11月5日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める。』
『(2)ポスターに係る著作権侵害に基づく請求
原告会社は,平成23年11月5日開催のコンサート(以下「本件コンサート」という。)に係るポスター(以下「本件ポスター」という。甲4の3参照)について原告会社が著作権を有するところ,被告が無断でこれを自らのホームページ上に掲載したことが上記著作権(公衆送信権)侵害に当たるとして,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償金30万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
『(3)写真に係る債務不履行ないし著作権侵害に基づく請求
原告会社は,原告会社・被告間で本件コンサート中の演奏場面を撮影した写真の取扱いについて平成23年11月5日に合意をした(甲7の書面に基づく合意であり,以下「本件合意2」という。)にもかかわらず,被告が同合意に従った処理をせず,原告会社に無断で被告発行の雑誌に本件コンサートの舞台写真(以下「本件写真」という。甲9の3,甲19の3参照)を掲載したこと等が債務不履行に当たり,また,原告会社が有する上記写真についての著作権(複製権,公衆送信権と解される。)を侵害するとして,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金50万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
『(4)原告Aに対する不法行為に基づく請求
原告Aは,(1)原告会社・被告間での本訴以前の調停手続等における被告の不誠実な対応等,(2)原告Aがデザインした本件ポスターを被告に無断で使用されたこと,(3)被告の対応等による原告Aの心労から,原告Aの個人会社である原告会社が営業活動をすることができず損害が累積したこと等により,原告Aが精神的苦痛を被った旨主張して,不法行為に基づき,損害賠償金(慰謝料)合計100万円及びこれに対する原告会社・被告間の調停が不成立となった日である平成27年9月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
(2頁以下)
<経緯>
H08 地域文化貢献活動の一環としてクラシックコンサートを被告が開催
H08 原被告間でコンサート運営代行業務委託契約締結
H23 本件ポスターの被告ホームページへの掲載
「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」書面交付
H24 ディスクロージャー誌(本件雑誌)に本件コンサートの舞台写真(本件写真)掲載
H24 原告会社が平成24年12月28日付け書面を被告に送付
H26 原告会社が損害賠償金支払催告書送付
H27 原告会社が豊橋簡易裁判所に民事調停申し立て、不成立
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■判決内容
<争点>
1 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否
原告会社は、原告会社・被告間で平成19年以降、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(本件合意1)と主張しましたが、裁判所は本件合意1の成立を認定していません(23頁以下)。
結論としては、被告が本件コンサート等に関する記事等をホームページ上に掲載したことが同合意違反(債務不履行)とはならず、また被告が原告会社を欺罔して委託料を減額させたなどとも認められず不法行為が成立することもないとして、原告会社の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求を裁判所は否定しています。
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2 本件ポスターに係る著作権侵害の成否
裁判所は、本件コンサートの開催内容を伝える本件ポスターの著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定した上で、本件ポスターの表現の創作には被告側従業員と原告Aが寄与しているとして、共同して創作した著作物であり、2条1項12号所定の共同著作物に当たると判断。共同著作物の著作権等の共有著作権の行使(65条2項、3項)について、被告が主催する本件コンサートに係る本件ポスターを、被告自らのホームページ上に掲載することはごく一般的な事柄といえるなどとして、原告会社が著作権侵害を主張してこれを妨げることは、正当な理由を欠くものとして許されないと裁判所は判断しています(26頁以下)。
結論として、被告が本件ポスターに係る原告会社の著作権(公衆送信権)を侵害したものとはいえないと判断されています。
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3 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否
原告会社は、被告が本件コンサートの写真撮影や同写真の使用に関して、「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」合意書面(本件合意2)に定められた条件に従わずに本件写真を被告のディスクロージャー誌(本件雑誌)に掲載した点は上記合意に違反する上、原告会社の著作権をも侵害するものであると主張しました(28頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、原告会社の本件写真に係る著作権侵害の主張の点については、理由がないと判断。債務不履行(合意違反)の主張の点については、本件合意2に違反する事実が認められるものの、被告は形式的には本件合意2に違反したものであるものの、これは原告会社が同合意の想定しないような不合理な行動を採ったことを原因とするものであるとして、原告会社が被告に対して本件合意2違反に基づく損害賠償を求めることは権利の濫用(民法1条3項)として許されないと判断しています。
結論として、本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成立は否定されています。
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4 原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額
原告Aは、平成23年秋以降被告に話合いを求めたが被告がこれに応じなかったこと(調停手続での対応を含む)等に基づく慰謝料請求をしましたが、裁判所は、被告の平成23年秋以降の対応等において何らかの違法行為があったことを認めるに足りる証拠はないなどとして、原告Aの慰謝料請求は理由がないと判断しています(30頁以下)。
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■コメント
長年に亘る取引があったものの、イベント経費の削減により両社の関係がこじれた事案となります。