最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

毎日オークションカタログ事件(控訴審)

知財高裁28.6.22平成26(ネ)10019等損害賠償請求控訴事件、損害賠償請求附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官    片岡早苗
裁判官    新谷貴昭

*裁判所サイト公表 2016.7.28

*キーワード:準拠法、当事者適格、美術カタログ、オークション、複製権、引用、小冊子、権利濫用

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■事案

オークション用カタログに掲載された美術作品画像の複製権侵害性が争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人  :作家相続人5名代表X1(原告X1)
附帯控訴人兼被控訴人:美術著作権管理団体(原告協会)
被控訴人兼附帯被控訴人兼控訴人:オークション会社

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法32条、47条、47条の2、114条3項、法適用通則法7条、13条、民法1条3項

1 原告X1の当事者適格の有無
2 著作権移転の有無
3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額
4 利用許諾の有無
5 本件カタログが展示に伴う小冊子(47条)に当たるか
6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか
8 不当利得返還請求について

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■事案の概要

『本件は,(1)フランス共和国法人である原告協会が,その会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受け,著作権者として著作権を管理し,(2)原告X1が,亡パブロ・ピカソ(以下「ピカソ」という。)の美術作品(以下「ピカソ作品」という。)の著作権について,フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者として裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告らが,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下「本件オークション」という。)のために作成したカタログ(以下「本件カタログ」という。)に,原告らの利用許諾を得ることなく,会員作品及びピカソ作品の写真を掲載しているから,原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求ないし悪意の場合の不当利返還請求として,(ア)原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,(イ)原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である(請求額は原審段階のものである。)。
 原審は,平成25年12月20日,原告らの請求のうち,原告協会については,4094万4350円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を,原告X1については,441万7000円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を認容する旨の判決を言い渡したところ,原告X1及び被告は,敗訴部分につき全部控訴し,原告協会は,敗訴部分につき全部附帯控訴した。
 その後,当審において,原告らは請求を拡張し,最終的な被告に対する請求内容は,原告協会については,1億8125万4733円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金であり,原告X1については,2209万0832円及びこれに対する同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。
 被告は,全ての請求について棄却を求めるとともに,原告X1の原告適格を争い,原告X1の訴えについては本案前の答弁として却下を求める。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 原告X1の当事者適格の有無

結論としては、原告X1のフランス法上の不分割財産の管理者としての地位は、我が国の訴訟法において単独で訴訟追行することが許される地位と解すべきものであり、本訴において当事者適格を認めることができると控訴審は判断しています(50頁以下)。

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2 著作権移転の有無

結論としては、著作権の侵害を主張する会員について、原告協会に適正に入会手続が行われたと認めることができるとして、会員から原告協会への著作権の移転を肯定しています(59頁以下)。

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3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額

複製権侵害について、原審同様、荻須高徳の一部の作品(本件カタログ318号)については、美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等に関する著作権法47条の2の規定の適用が肯定され、複製権侵害性が否定されています(111頁以下)。
複製権侵害が認められた作品の損害額の認定にあたっては、SPDA(一般社団法人美術著作権協会)の使用料規程に従い算定(114条3項)。また、約10年間にわたって開催されたオークションで配布された本件カタログ105冊のうち、本訴で提出された99冊の全てにおいて会員作品やピカソ作品に関して複製権侵害の違法行為を繰り返していたと認められることから、本訴で提出されていないカタログ6冊についても同様の違法行為が同程度繰り返されていたと推認するのが合理的であり、かつ、公平であるとして、控訴審は、損害額をその割合に応じて増額しています(76頁以下)。
結論として、原告協会については、弁護士費用相当額損害を含め7862万4614円、原告X1について、893万8485円が認定されています。

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4 利用許諾の有無

被告は、アイズピリ作品の著作権管理を行うギャルリーためながから許諾を受けてアイズピリ作品を本件カタログに複製していた旨主張しました。
結論としては、被告が本件カタログに係るアイズピリ作品の利用について許諾を受けたとは認めらていません(128頁以下)。

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5 本件カタログが展示に伴う小冊子(47条)に当たるか

被告は、オークションにおける公の展示において、観覧者のために著作物の紹介をすることを目的として小冊子である本件カタログに著作物を掲載したのであり、著作権法47条によりその複製は適法である旨主張しました。
この点について、控訴審は、本件カタログは本件オークションや下見会への参加の有無にかかわらず被告の会員に配布されるものであった点などから、47条の適用を否定。被告の主張を認めていません(129頁以下)。

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6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか

引用(著作権法32条1項)の肯否について、控訴審は、本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が本件オークションにおける売買という目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められないし、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められないとして、32条の適用を否定しています(130頁以下)。

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7 原告らの請求が権利濫用に当たるか

原告らの請求が権利濫用に当たるかどうかについて、著作権法47条の2の新設によって同規定の施行前にオークションのために行われた複製に関して損害賠償請求等の権利行使をすることや、同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使をすることが権利濫用であるとはいい難く、また、その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められないとして、控訴審は被告の権利濫用の主張を認めていません(131頁以下)。

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8 不当利得返還請求について

不法行為に基づく使用料相当損害金とは別に不当利得返還請求を認める余地はないと控訴審は判断しています(133頁以下)。

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■コメント

原告らが入手していない本件カタログ部分について控訴審では複製権侵害性が肯定されています。全体として原審と較べて損害額が増額の方向で認定されています。

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■過去のブログ記事

2014年02月26日記事 毎日オークションカタログ事件(原審)