最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

歴史小説テレビ番組事件(控訴審)

知財高裁平成28.6.29平成27(ネ)10042著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官    片岡早苗
裁判官    古庄 研

*裁判所サイト公表 2016.7.7
*キーワード:歴史小説、テレビ、著作物性、翻案、複製、氏名表示権、同一性保持権

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■事案

歴史小説を無断でBSテレビ番組として制作したかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :歴史小説作家(直木賞受賞作家)
被控訴人(一審被告):テレビ・ラジオ番組企画制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条

1 著作権(翻案権、複製権)侵害の成否
2 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の成否
3 許諾の有無
4 損害発生の有無及びその額

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人が控訴人の著作物である原告各小説を無断で翻案ないし複製して被告各番組を制作して,控訴人が有する著作権(翻案権,複製権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害したと主張して,被控訴人に対し,著作権法112条1項に基づき,被告各番組の公衆送信及び被告各番組を収録したDVDの複製,頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金3200万円及びこれに対する平成25年6月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審は,控訴人の請求のうち,被告番組1−3−1,被告番組2−5−6,被告番組3−4−6,被告番組4侵害認定表現部分及び被告番組5侵害認定表現部分が,それぞれ,控訴人の保有する原告各小説に係る著作権(複製権,翻案権)を侵害すると認めて,被告各番組の公衆送信の差止め,同番組を収録したDVDの複製又は頒布の差止め,及び,30万8659円の損害賠償金(遅延損害金を含む。)の支払について認容し,その余の請求を棄却した。
 控訴人は,損害賠償金の支払が認められなかった部分についてのみ控訴した。』
(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 著作権(翻案権、複製権)侵害の成否

(1)控訴人の主張の変更について

控訴人は、控訴審において原審で主張した著作権侵害のうち、「シークエンスの翻案」の一部について各ストーリーを構成する表現の内容を変更しました。これに対して、被控訴人は、控訴人においてシークエンスの翻案についての選択する記述及び配列を修正することは、時機に後れた攻撃防御方法であって許されないと反論しました。
この点について、控訴審は、変更部分については創作性の有無や類否に関する審理を再び行わなければならないことなどを前提に、変更の時期や2年6か月の審理といった経緯を踏まえ、訴訟完結遅延が明白であるとして、時機に後れた攻撃防御方法と判断。控訴人の変更の主張を却下しています(17頁以下)。

(2)シークエンスの翻案について

被告各番組が、原告各小説のシークエンスのストーリーの翻案に当たるとはいえないと控訴審は判断しています(20頁以下)。

(3)人物設定の翻案について

控訴人は、著作権法で保護する人物設定であるためには、登場人物に具体的な「性格、思想、道徳、経済観念、経歴、境遇、容姿等」を与えればよいのであって、原告小説2の6人の登場人物についての人物設定は、いずれもかかる要件を満たすとして、著作権法で保護されるべきものである旨主張しました(34頁以下)。
この点について、控訴審は、原告小説2の6人の登場人物は、いずれも歴史上の実在の人物であり、具体的な「性格」等を与えるだけでは単なる歴史上の事実か、歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないから、著作権法の保護の対象となるとはいえないと説示した上で、人物設定の具体的記述における表現の創作性を個別に検討。
結論として、控訴人の主張はいずれも認められていません。

(4)エピソードの翻案について

控訴人は、控訴人が主張する原告各小説の各エピソードは5つのWを備えた個々の行動や出来事を複数組み合わせたものであって、翻案権の保護範囲であるストーリーであると主張しました(41頁以下)。
この点について、控訴審は、原告各小説は歴史小説であり、個々の行動や出来事を複数組み合わせたというだけであれば、単なる歴史上の事実や歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないこともあるとして、それのみで著作権法の保護の対象となるとはいえないと説示。その上で、各エピソードについて、歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観が具体的記述において創作的に表現されたものであるか否かをその事実の選択や配列、歴史上の位置付け等を踏まえて検討しています。
結論として、控訴人の主張はいずれも認められていません。

(5)部分複製について

原審同様、控訴審においても、原告各小説の部分と被告各番組との共通する表現はいずれもありふれたものであるなどととして、控訴人の主張は認められていません(48頁以下)。

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2 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の成否
3 許諾の有無
4 損害発生の有無及びその額

争点2乃至4について、原審の判断が控訴審でも維持されています。
結論として、控訴は棄却されています。

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■コメント

控訴審でも原審の判断が維持されていて、損害額の認定に変更は生じていません。

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■過去のブログ記事

2015年03月09日 原審記事

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■追記(2016.9.17)

原告代理人を担当された柳原敏夫先生の「著作権その可能性の中心−定住以前の遊動性法律家をめざして−」より

佐藤雅美 VS テレビマンユニオン 著作権侵害事件(上告審)上告理由書(2016.9.12)(2016年9月13日火曜日)

上告理由書本文
別紙1乃至15