最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

フリーペーパー写真事件

知財高裁平成28.6.23平成28(ネ)10026売掛金請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    大西勝滋
裁判官    寺田利彦

*裁判所サイト公表 2016.6.29
*キーワード:写真、複製、公衆送信、氏名表示権

原審:水戸地方裁判所龍ケ崎支部平成27年(ワ)第24号(裁判所サイト未登載)

   --------------------

■事案

写真の使用範囲について、フリーペーパーを越えてウェブ使用まで許諾していたかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :カメラマン
被控訴人(一審被告):冊子発行人

   --------------------

■結論

原判決変更

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、19条、20条、114条3項

1 複製権侵害、公衆送信権侵害の成否
2 同一性保持権侵害、氏名表示権侵害の成否
3 損害の発生及び額

   --------------------

■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人に対し,(1)被控訴人が,控訴人の著作物である写真48点(ただし,別紙において「原告撮影」と特定された写真50点の元となる各写真を指す。かき氷の写真3点はいずれも同一の写真をトリミングしたものであるため,元となる写真は全48点となる。以下,これらの各写真を「本件各写真」という。)を使用して作成した小冊子「ARCH」(以下「本件冊子」という。)を,控訴人の許諾を得ることなく電子データ化し,これを被控訴人が管理運営する特定非営利活動法人ちゃんみよTVのホームページに掲載した行為(以下,被控訴人が作成した本件冊子の電子データを「本件電子データ」,本件電子データを掲載した前記ホームページを「本件ホームページ」,本件電子データを作成して本件ホームページに掲載した被控訴人の行為を「本件ホームページ掲載行為」という。)は,控訴人が有する本件各写真の著作権(複製権,公衆送信権)を侵害する,(2)本件冊子において,被控訴人が,控訴人に無断で本件各写真の一部をトリミングし,本件冊子の2頁に「カメラマンX’」と表示した行為は,控訴人が有する本件各写真の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金814万2800円(著作権侵害による財産的損害314万2800円,著作者人格権侵害による精神的損害500万円)及びこれに対する平成26年11月1日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(なお,控訴人は,著作者人格権侵害の態様として,公表権侵害も主張していたが,当審の口頭弁論期日において,かかる主張は撤回した。)。
 原審は,控訴人の請求を全部棄却したので,控訴人が,控訴の趣旨記載の裁判を求めて控訴した。』

<経緯>

H26.06 原被告間で撮影契約締結
H26.07 本件冊子発行
H26.08 被控訴人が本件冊子のPDFをホームページに掲載
H26.09 被控訴人が撮影料3万円振込。控訴人が29万円支払要求
     控訴人が本件契約解除通知
H26.12 控訴人が民事調停申立

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 複製権侵害、公衆送信権侵害の成否

控訴人撮影の写真の使用範囲について、控訴審は、本件冊子を越えて本件ホームページ掲載についても明示の許諾はむろん、黙示の許諾があったとは認められないとした上で、被控訴人の過失、行為の違法性を肯定。著作権侵害性を認定しています(8頁以下)。

   --------------------

2 同一性保持権侵害、氏名表示権侵害の成否

控訴人は、本件冊子において、控訴人に無断で本件各写真50点中33点の写真がトリミングされ、また、本件冊子2頁に「カメラマン X’」と控訴人の氏名が表示されたと主張しました(13頁以下)。
この点について、控訴審は、控訴人は本件冊子の作成中、「冊子のデザイン」や「写真の使い方(トリミング)」等に疑問を感じて被控訴人にクレームを付けたものの、最終的には本件冊子の発行を承諾していること、また、発行日当日に自ら本件冊子を受け取り、その内容を確認した上で被控訴人に対し撮影料を請求する意思がある旨を伝えたこと、の各事実が認められ、その撮影料を請求したメッセージの文面からしても、何ら写真がトリミングされたことや氏名表示の態様について抗議の意思は示されていないと認定。
控訴人は、本件冊子の発行前にその校正刷りを確認し、本件各写真50点中、控訴人が主張する33点の写真がトリミングされている事実やその氏名表示の態様を具体的に認識し把握した上であえて本件冊子の発行を承諾したものと認めるのが相当であると判断。
結論として、控訴人が主張する写真のトリミングや氏名表示の点については、控訴人の同意があったというべきであるとして、控訴人が有する本件各写真の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものとは認められないとしています。

   --------------------

3 損害の発生及び額

本件著作権侵害に基づく使用料相当額(著作権法114条3項)として5万円が認定されています(14頁以下)。

   --------------------

■コメント

控訴人と被控訴人との間で本件ホームページ掲載行為以前から本件冊子の編集方針(写真の使い方)や本件各写真の撮影料の支払を巡って争いが生じており(11頁参照)、民事調停申し立て、そして訴訟にまで至った事案となります。
地域活性化の一環として地域の祭り(牛久かっぱ祭り)で配布することを念頭に作成されたフリーペーパー向けにボランティアワークとして無償で撮り下ろした写真について、紙媒体を越えてウェブで利用されたということで原審全部棄却の判断から一転、控訴審では侵害性が一部肯定されています。

紙媒体の冊子をそのままPDFにしてウェブで利用することは、現状の雑誌広告写真の利用態様(改変無しの媒体変換については、包括許諾)からすると、広告現場感覚としては通常で、侵害性肯定の点は、ウェブ利用前から紛争状態であったという本件での事例判断かと考えられます。
いずれにしても、判決文を読む限り、ボランティアでの冊子発行ということで、なれ合いのなかでフリーペーパーを制作しており、発行者側にも著作物の利用について脇が甘く、また、写真家も29万円(交通費など地元での撮影だとすれば経費もさほど掛かってはいないと思われますが)の撮影料を請求している点も含めプロ(どの程度著名なかたか分かりませんが)としては理解が得られない対応で、5万程度の損害額認定は落としどころとしては納得感があります。