最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

JAXAスペースプレーンイラスト事件(控訴審)

知財高裁平成28.6.27平成28(ネ)10005著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官    中村 恭
裁判官    森岡礼子

*裁判所サイト公表 2016.7.01
*キーワード:イラスト、著作物性、二次的著作物性、契約

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■事案

宇宙輸送システム「スペースプレーン」イラストの著作物性が争点となった事案の控訴審

(一審原告):イラストレーター
(一審被告):JAXA、出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条1項11号、11条

1 本件イラストの原著作物性
2 本件イラストの二次的著作物性

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■事案の概要

『本件は,本件イラストの著作権を有すると主張する控訴人が,(1)被控訴人JAXAが本件イラストのサイズを変更して展示用パネルを制作し,展示した行為,(2)被控訴人JAXAが本件イラストを被控訴人JAXAのウェブサイトに掲載した行為,(3)被控訴人JAXAが本件イラストの複製物を被控訴人小学館に交付し,被控訴人小学館が,同複製物を用いて本件イラストの掲載された被控訴人各書籍を出版した行為が,それぞれ,控訴人の著作権(前記(1)の行為につき複製権,翻案権,前記(2)の行為につき公衆送信権,前記(3)の行為につき複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(前記(1)〜(3)の行為につき氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して(なお,控訴人は,前記(3)の行為は,被告らの共同不法行為に当たると主張している。),(1)著作権法112条1項に基づき,被控訴人らに対して本件イラストの複製又は翻案の差止めを求め(前記第1の2),被控訴人JAXAに対して本件イラストの自動公衆送信の差止めを求め(前記第1の4),被控訴人小学館に対して被控訴人各書籍の複製,頒布の差止めを求め(前記第1の5),(2)同条2項に基づき,被控訴人JAXAに対して前記展示用パネル,本件イラストが描かれたポジフィルム,その他印刷用フィルム等及び本件イラストの電子データが格納された記憶媒体の廃棄を求め(前記第1の3),被控訴人小学館に対して被控訴人各書籍,本件イラストが描かれたポジフィルム,その他印刷用フィルム等及び本件イラストの電子データが格納された記憶媒体の廃棄を求め(前記第1の6),(3)著作権及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被控訴人らに対して連帯して損害賠償金301万9460円((1)被控訴人書籍1に係る前記行為(3)による損害29万9775円(著作権法114条3項),(2)被控訴人書籍2に係る前記行為(3)による損害29万9775円(同項),(3)慰謝料200万円,(4)弁護士費用41万9910円)及びうち271万9685円(前記(1),(3)及び(4))に対する不法行為後である平成13年12月1日(被控訴人書籍1が発行された日)から,うち29万9775円(前記(2))に対する不法行為後である平成17年7月20日(被控訴人書籍2が発行された日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(前記第1の7),被控訴人JAXAに対して損害賠償金159万9550円((1)前記行為(2)による損害29万9775円(同項),(2)前記行為(1)による損害29万9775円(同項),(3)慰謝料100万円)及びうち29万9775円(前記(1))に対する不法行為後である平成13年12月1日(本件イラストがウェブサイトに掲載された日)から,うち129万9775円(前記(2)及び(3))に対する不法行為後である平成15年10月30日(前記展示用パネルが制作された日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(前記第1の8),(4)著作者人格権侵害に基づく名誉回復等の措置として,著作権法115条に基づき,被控訴人らに対して本件広告を掲載するよう求めた(前記第1の9)事案である。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件イラストの原著作物性

本件イラストの原著作物性について、控訴人は、最終的にNALシステム構成図を見て本件イラストを完成させたとしても、それ以前に別のイラストを作成してそれをNALシステム構成図に似せて本件イラストを作成したのであるから、NALシステム構成図に依拠して本件イラストを作成したものであるとは評価できない旨主張しました。
この点について、控訴審は、
・本件イラストの原案として作成したと主張する甲12の1のイラストと本件イラストとの対比
・本件イラストとNALシステム構成図との対比

といった点から、甲12の1のイラストを原案として本件イラストの作成に利用する場合、機体全体の輪郭を含むイラストの線画の主要な部分を大きく変更する必要があるとともに、色彩も相当変更する必要があり、別案を作るに近い作業が必要になるのに対して、NALシステム構成図を原案として本件イラスト作成に利用する場合、そこまでの作業は必要なく、部分的な修正で足りるといえると判断。
そして、仮に、控訴人が甲12の1のイラストを本件イラストの作成に何らかの形で利用したとしても、そのことをもって、本件イラストがNALシステム構成図に依拠することなく制作されたといえるものではないと判断。
結論として、本件イラストはNALシステム構成図に依拠して制作されたものというべきであり、本件イラストが控訴人の原著作物とは認められないとしています(13頁以下)。

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2 本件イラストの二次的著作物性

本件イラストとNALシステム構成図の相違点の全てを考慮に入れてもなお、本件イラストにおいて、NALシステム構成図の表現上の本質的な特徴が損なわれたとはいえないと控訴審は判断。また、思想又は感情の創作的な表現が新たに加わって二次的著作物が創作されるに至ったとも認められないとして、本件イラストにおいてNALシステム構成図との同一性は失われていないと認められると判断。
控訴人の本件イラストの二次的著作物性を否定しています(14頁以下)。

結論として、原審の棄却の判断が相当であるとされています。

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■コメント

結論としては、原審同様、控訴審でも本件イラストがNALシステム構成図に依拠して制作されたことが認められ、棄却の判断となっています。

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■過去のブログ記事

東京地裁平成27.12.25平成27(ワ)6058著作権侵害差止等請求事件
2016年01月12日 原審記事