最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
コミュニティFM放送「リスラジ」事件
東京地裁平成28.6.8平成27(ワ)8615地位確認請求事件PDF
別紙1 当事者目録
別紙2 原告らの請求
別紙3 各原告の音楽番組名
別紙4 各原告の配信内容
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 笹本哲朗
*裁判所サイト公表 2016.6.14
*キーワード:利用許諾契約、利用許諾契約約款、放送、配信、サイマル放送、ザッピング機能
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■事案
コミュニティFMがサイマル放送(ラジオ番組を地上波放送と同時にインターネット配信すること)でザッピング機能を提供した点がレコード協会との間の契約更新拒絶事由にあたるかどうかなどが争点となった事案
原告:コミュニティFMラジオ局運営会社29社
被告:日本レコード協会
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権等管理事業法16条、独禁法19条、民法90条
1 被告の本件更新拒絶は管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)か
2 被告の本件更新拒絶は信義則に反し無効か
3 被告の本件更新拒絶は「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当するため無効(民法90条)か
4 「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当するため無効(民法90条)か
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■事案の概要
『原告らは,コミュニティ放送(放送法施行規則別表第五号(注)九のコミュニティ放送をいう。以下同じ。)を行う放送局(FMラジオ局)を運営する株式会社であり,各原告が運営する各放送局の放送番組の一つとして,それぞれラジオ音楽番組を地上波により放送(以下「地上波放送」という。)しているところ,同ラジオ音楽番組の地上波放送と同時に,株式会社エムティアイ(以下「MTI」という。)が運営するスマートフォン及びパソコン向け無料配信サービス「Listen Radio」(以下「リスラジ」という。)においてインターネット配信している(以下,各原告による同ラジオ音楽番組のインターネット配信を併せて「本件各番組配信」という。また,各原告がそれぞれ運営する放送局において地上波放送し,リスラジを通じて配信しているラジオ音楽番組のリスラジにおける番組名は,別紙「各原告の音楽番組名」記載のとおり,放送局やリスラジにおけるチャンネルにより異なることがあるが,以下,各原告らがリスラジを通じてインターネット配信している各ラジオ音楽番組を併せて「本件各音楽番組」という。)。
リスラジにおける「おすすめ番組まとめ」チャンネルには,各原告の本件各音楽番組をつなぎ合わせて自動的にまとめる機能(以下「ザッピング機能」又は「リスラジのまとめチャンネル機能」という。)があり,24時間連続して音楽番組がインターネット配信されるという特徴を有する。
被告は,本件各番組配信が,被告の管理に係る商業用レコード製作者の複製権,譲渡権及び送信可能化権等の権利に関する,平成26年4月1日から平成27年3月31日までの期間を対象とする,各原告と被告との間の利用許諾契約(従前の契約が,期間満了日の1か月前までに,契約当事者のいずれも異議を述べないときは,同一条件で,契約の対象期間が期間満了日の翌日から1年間延長され,以後も同様とする旨の条項〔以下「自動更新条項」といい,同条項に基づく契約の対象期間の更新を「自動更新」という。〕に基づいて,自動更新されたものを含む。以下,各原告共通して,「本件利用許諾契約」という。)に基づく使用料規程(以下,各原告共通して,「本件使用料規程」という。)の細則(以下,各原告共通して,「本件使用料規程細則」又は「本件細則」という。)の適用基準に違反しているなどとして,各原告に対し,平成27年2月26日付け「サイマルラジオ許諾契約に関するご連絡」と題する書面(以下,各原告共通して,「本件ご連絡書面」という。)を送付し,同年4月1日以降は,本件利用許諾契約を自動更新しない(本件利用許諾契約をいったん終了させる)旨の通知(以下,各原告共通して,「本件更新拒絶」という。)をした。
各原告は,本件訴訟において,被告に対し,被告による各原告に対する本件更新拒絶は,著作権等管理事業法(以下「管理事業法」という。)若しくは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)により禁止されている行為に該当し,又は信義則に反するから,私法上,無効である旨主張し(同主張は,本件利用許諾契約の期間満了日の1か月前までに,被告又は各原告のいずれも異議を述べなかったものとみなされる結果,同契約が自動更新された旨を主張する趣旨と解される。),本件利用許諾契約(上記のとおり,自動更新された本件利用許諾契約の趣旨と解される。)に基づき,(1)主位的に,本件使用料規定細則第3条に定める使用料を支払うことにより,被告による著作隣接権管理に係る商業用レコード(以下「被告の管理レコード」という。)を録音したコミュニティ放送番組(コミュニティ放送に供される番組をいうものと解される。以下,本判決において「コミュニティ放送番組」というときは,上記の趣旨である。)をインターネット上で同時に配信することを目的として,被告の管理レコードを複製及び送信可能化する方法で利用することができる契約上の地位にあることの確認を求め,(2)予備的に,本件使用料規程「第3節1(2)本表」(以下「本件使用料規程本則」又は「本件本則」という。)に定める使用料(本件使用料規定細則第3条に定める使用料よりも,高額である。)を支払うことにより,上記契約上の地位にあることの確認を求めている。』
(1頁以下)
<経緯>
H27.02 被告が本件各番組配信即時中止催告書送付
H27.02 原告が契約上の地位にあることを仮に定めることの仮処分命令申立
H27.02 被告が契約更新拒通知
H27.03 被告が利用許諾契約書案を提示
H27.03 原告が照会書送付。被告が回答書送付
H27.03 原告が要望書送付。被告が回答
H27.03 被告が「3月26日付け契約申込み」誘引
H27.03 原告が「3月26日付け契約申込み」拒絶
本件管理委託契約 約款PDF
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■判決内容
<争点>
1 被告の本件更新拒絶は管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)か
(1)本件各音楽番組が本件利用許諾契約における「自ら制作し放送するラジオ番組」(自主制作番組)といえるか
リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた本件各音楽番組の配信は、MTIの発意によるMTIの責任により配信されているものと認められる以上、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供される本件各音楽番組を、各原告の発意と責任によって制作された番組と認めることはできないと裁判所は判断しています(46頁以下)。
(2)被告の利用許諾の権限について
管理委託契約約款3条において、管理委託の範囲が定められており、同条(2)ア(3)で、「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組(コマーシャルを除く。)」と定められていることから、被告の利用許諾の権限は、この範囲に限定されている。
そして、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて配信されることを前提とした本件各音楽番組は、コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組といえないことから、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供されることを前提とした本件各音楽番組についての配信に関する利用許諾権限を被告が有していないことは明らかであると裁判所は判断しています(53頁以下)。
結論として、被告による本件更新拒絶は、管理事業法16条所定の正当な理由のない利用の許諾の拒否には当たらず、無効とはいえないと裁判所は判断しています。
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2 被告の本件更新拒絶は信義則に反し無効か
原告らは、被告はこれまでリスラジと同様の機能を有する他のアプリケーションの利用について何ら問題視しておらず、リスラジのアプリの利用についても被告と十分に事前協議を重ねており、事実上、被告は原告らの行為を明示的又は黙示的に承認してきたにもかかわらず、本件更新拒絶を行ったものであって、被告の本件更新拒絶は信義則に反し、無効である旨主張しました(57頁以下)。
この点について、裁判所は、被告はリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルについて、
・配信開始直後の平成24年12月から問題視していた
・CSRAなどと協議を重ねてきた
・協議の経過において明確に被告の利用許諾権限の範囲外であることも伝えていた
ことが認められるとし、
・被告が最終的に協議が整う見込みがないと判断して本件利用許諾契約を自動更新させないという対応をとったことが信義則に反するとはいえない
・協議の継続中に自動更新されたことをもって直ちに被告が黙示に承諾したとか、黙認したと評価することはできない
・3月6日契約書案の内容は合理的である
・被告は本件更新拒絶の後も3月6日契約書案を原告らに提示し利用許諾の範囲内での契約締結に応じる旨も明らかにしていた
といった点から、被告の原告らに対する本件更新拒絶が信義則に反し、無効であるとは認められないと判断しています。
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3 被告の本件更新拒絶は「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当するため無効(民法90条)か
原告らは、被告が各原告に対して本件更新拒絶によって本件利用許諾契約における契約上の地位を認めないことは、「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当するため、無効(民法90条)である旨主張しました(58頁以下)。
しかし、裁判所は、
・本件更新拒絶には正当な理由がある
・リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた配信を前提とする本件各音楽番組は、「自主制作番組」に当たらず、被告は、自主制作番組に当たらない番組に関して被告の管理レコードについての許諾権限を有していない
といった点から、被告はそもそも本件各音楽番組に関して、各原告と取引をする権限も拒絶する権限も有していないというべきであって、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた配信を前提とした本件各音楽番組を配信するために本件利用許諾契約上の地位についての確認を求める原告らの主張は、その前提を欠くものであると判断。
被告の本件更新拒絶は、「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当せず無効(民法90条)とはいえないと判断しています。
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4 「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当するため無効(民法90条)か
原告らは、本件更新拒絶はリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに参加しているコミュニティ放送局だけを差別的に取り扱うために行われたものであり、取引条件等の差別的取扱い(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当するため、無効(民法90条)である旨主張しました(59頁以下)。
この点について、裁判所は、平成27年4月1日以降、本件利用許諾契約の内容で被告と利用許諾契約を締結し又は自動更新したコミュニティFM局が存在しているものの、それは単なる手続上の事情によるものであって、被告は現にこれらの契約先に対して、平成28年4月1日以降、契約を自動更新させない旨の通知をし、3月6日契約書案による契約の申込みを誘引していると認定。
本件更新拒絶がリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに参加しているコミュニティ放送局だけを差別的に取り扱うために行われたということはできないと判断。
結論として、「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当せず無効(民法90条)とはいえないと判断しています。
結論として、原告らの契約上の地位の確認は認められていません。
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■コメント
複数のコミュニティ放送局において時間ごとに分散して配信されている番組を自動的に連続して聴くことができる、まとめチャンネル機能(ザッピング機能)を原告ラジオ局側が提供した点がレコード協会との契約に違反することは明らかで、契約更新拒絶に対しては原告ラジオ局側も信義則や民法90条といった一般条項を根拠にするくらいのほか、対応しようがなかったことになります。
なお、サイマル放送を推進する会からプレスリリースが出されています。
CSRA加盟コミュニティ放送局と日本レコード協会との間の訴訟における第一審判決について|サイマル放送を推進する会のプレスリリース
「「まとめチャンネル」は、コミュニティ放送局によりサイマル配信された音楽情報番組を受信する、いわば「ラジオ放送の受信機」と同様のものにすぎません。配信される音楽情報番組自体は、これに参加する各コミュニティ放送局が、互いに番組制作能力を補い、番組制作に対する意向を十分に伝えあって、共同で制作したものです。そして、自局の編成方針に従い同音楽情報番組の地上波放送を決定し公衆に提供しているのは、各コミュニティ放送局に他なりません。つまり、各コミュニティ放送局が、音楽情報番組についての「発意」と「責任」を有しながら同番組を地上波放送し、それらを並行してサイマル配信していることは明白であり、同番組が各コミュニティ放送局にとっての「自主制作番組」に該当することは当然のことです。同判決の事実認定は、ラジオ・テレビを問わず、放送業界において当然とされてきた常識的な扱いを根底から覆すものであります。」
「放送と通信の融合」はよくわかるところですが、まずは、約款などの改訂作業(つまるところ、使用料をどうするかの調整)が必要かと思われます。
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■参考サイト
ITmedia LifeStyle記事(2015年02月26日 23時37分)
コミュニティFM 39局、日本レコード協会とソニー・ミュージックの“サイマル放送中止要求”に異議
コミュニティFM放送「リスラジ」事件
東京地裁平成28.6.8平成27(ワ)8615地位確認請求事件PDF
別紙1 当事者目録
別紙2 原告らの請求
別紙3 各原告の音楽番組名
別紙4 各原告の配信内容
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 笹本哲朗
*裁判所サイト公表 2016.6.14
*キーワード:利用許諾契約、利用許諾契約約款、放送、配信、サイマル放送、ザッピング機能
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■事案
コミュニティFMがサイマル放送(ラジオ番組を地上波放送と同時にインターネット配信すること)でザッピング機能を提供した点がレコード協会との間の契約更新拒絶事由にあたるかどうかなどが争点となった事案
原告:コミュニティFMラジオ局運営会社29社
被告:日本レコード協会
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権等管理事業法16条、独禁法19条、民法90条
1 被告の本件更新拒絶は管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)か
2 被告の本件更新拒絶は信義則に反し無効か
3 被告の本件更新拒絶は「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当するため無効(民法90条)か
4 「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当するため無効(民法90条)か
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■事案の概要
『原告らは,コミュニティ放送(放送法施行規則別表第五号(注)九のコミュニティ放送をいう。以下同じ。)を行う放送局(FMラジオ局)を運営する株式会社であり,各原告が運営する各放送局の放送番組の一つとして,それぞれラジオ音楽番組を地上波により放送(以下「地上波放送」という。)しているところ,同ラジオ音楽番組の地上波放送と同時に,株式会社エムティアイ(以下「MTI」という。)が運営するスマートフォン及びパソコン向け無料配信サービス「Listen Radio」(以下「リスラジ」という。)においてインターネット配信している(以下,各原告による同ラジオ音楽番組のインターネット配信を併せて「本件各番組配信」という。また,各原告がそれぞれ運営する放送局において地上波放送し,リスラジを通じて配信しているラジオ音楽番組のリスラジにおける番組名は,別紙「各原告の音楽番組名」記載のとおり,放送局やリスラジにおけるチャンネルにより異なることがあるが,以下,各原告らがリスラジを通じてインターネット配信している各ラジオ音楽番組を併せて「本件各音楽番組」という。)。
リスラジにおける「おすすめ番組まとめ」チャンネルには,各原告の本件各音楽番組をつなぎ合わせて自動的にまとめる機能(以下「ザッピング機能」又は「リスラジのまとめチャンネル機能」という。)があり,24時間連続して音楽番組がインターネット配信されるという特徴を有する。
被告は,本件各番組配信が,被告の管理に係る商業用レコード製作者の複製権,譲渡権及び送信可能化権等の権利に関する,平成26年4月1日から平成27年3月31日までの期間を対象とする,各原告と被告との間の利用許諾契約(従前の契約が,期間満了日の1か月前までに,契約当事者のいずれも異議を述べないときは,同一条件で,契約の対象期間が期間満了日の翌日から1年間延長され,以後も同様とする旨の条項〔以下「自動更新条項」といい,同条項に基づく契約の対象期間の更新を「自動更新」という。〕に基づいて,自動更新されたものを含む。以下,各原告共通して,「本件利用許諾契約」という。)に基づく使用料規程(以下,各原告共通して,「本件使用料規程」という。)の細則(以下,各原告共通して,「本件使用料規程細則」又は「本件細則」という。)の適用基準に違反しているなどとして,各原告に対し,平成27年2月26日付け「サイマルラジオ許諾契約に関するご連絡」と題する書面(以下,各原告共通して,「本件ご連絡書面」という。)を送付し,同年4月1日以降は,本件利用許諾契約を自動更新しない(本件利用許諾契約をいったん終了させる)旨の通知(以下,各原告共通して,「本件更新拒絶」という。)をした。
各原告は,本件訴訟において,被告に対し,被告による各原告に対する本件更新拒絶は,著作権等管理事業法(以下「管理事業法」という。)若しくは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)により禁止されている行為に該当し,又は信義則に反するから,私法上,無効である旨主張し(同主張は,本件利用許諾契約の期間満了日の1か月前までに,被告又は各原告のいずれも異議を述べなかったものとみなされる結果,同契約が自動更新された旨を主張する趣旨と解される。),本件利用許諾契約(上記のとおり,自動更新された本件利用許諾契約の趣旨と解される。)に基づき,(1)主位的に,本件使用料規定細則第3条に定める使用料を支払うことにより,被告による著作隣接権管理に係る商業用レコード(以下「被告の管理レコード」という。)を録音したコミュニティ放送番組(コミュニティ放送に供される番組をいうものと解される。以下,本判決において「コミュニティ放送番組」というときは,上記の趣旨である。)をインターネット上で同時に配信することを目的として,被告の管理レコードを複製及び送信可能化する方法で利用することができる契約上の地位にあることの確認を求め,(2)予備的に,本件使用料規程「第3節1(2)本表」(以下「本件使用料規程本則」又は「本件本則」という。)に定める使用料(本件使用料規定細則第3条に定める使用料よりも,高額である。)を支払うことにより,上記契約上の地位にあることの確認を求めている。』
(1頁以下)
<経緯>
H27.02 被告が本件各番組配信即時中止催告書送付
H27.02 原告が契約上の地位にあることを仮に定めることの仮処分命令申立
H27.02 被告が契約更新拒通知
H27.03 被告が利用許諾契約書案を提示
H27.03 原告が照会書送付。被告が回答書送付
H27.03 原告が要望書送付。被告が回答
H27.03 被告が「3月26日付け契約申込み」誘引
H27.03 原告が「3月26日付け契約申込み」拒絶
本件管理委託契約 約款PDF
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■判決内容
<争点>
1 被告の本件更新拒絶は管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)か
(1)本件各音楽番組が本件利用許諾契約における「自ら制作し放送するラジオ番組」(自主制作番組)といえるか
リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた本件各音楽番組の配信は、MTIの発意によるMTIの責任により配信されているものと認められる以上、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供される本件各音楽番組を、各原告の発意と責任によって制作された番組と認めることはできないと裁判所は判断しています(46頁以下)。
(2)被告の利用許諾の権限について
管理委託契約約款3条において、管理委託の範囲が定められており、同条(2)ア(3)で、「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組(コマーシャルを除く。)」と定められていることから、被告の利用許諾の権限は、この範囲に限定されている。
そして、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて配信されることを前提とした本件各音楽番組は、コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組といえないことから、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供されることを前提とした本件各音楽番組についての配信に関する利用許諾権限を被告が有していないことは明らかであると裁判所は判断しています(53頁以下)。
結論として、被告による本件更新拒絶は、管理事業法16条所定の正当な理由のない利用の許諾の拒否には当たらず、無効とはいえないと裁判所は判断しています。
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2 被告の本件更新拒絶は信義則に反し無効か
原告らは、被告はこれまでリスラジと同様の機能を有する他のアプリケーションの利用について何ら問題視しておらず、リスラジのアプリの利用についても被告と十分に事前協議を重ねており、事実上、被告は原告らの行為を明示的又は黙示的に承認してきたにもかかわらず、本件更新拒絶を行ったものであって、被告の本件更新拒絶は信義則に反し、無効である旨主張しました(57頁以下)。
この点について、裁判所は、被告はリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルについて、
・配信開始直後の平成24年12月から問題視していた
・CSRAなどと協議を重ねてきた
・協議の経過において明確に被告の利用許諾権限の範囲外であることも伝えていた
ことが認められるとし、
・被告が最終的に協議が整う見込みがないと判断して本件利用許諾契約を自動更新させないという対応をとったことが信義則に反するとはいえない
・協議の継続中に自動更新されたことをもって直ちに被告が黙示に承諾したとか、黙認したと評価することはできない
・3月6日契約書案の内容は合理的である
・被告は本件更新拒絶の後も3月6日契約書案を原告らに提示し利用許諾の範囲内での契約締結に応じる旨も明らかにしていた
といった点から、被告の原告らに対する本件更新拒絶が信義則に反し、無効であるとは認められないと判断しています。
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3 被告の本件更新拒絶は「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当するため無効(民法90条)か
原告らは、被告が各原告に対して本件更新拒絶によって本件利用許諾契約における契約上の地位を認めないことは、「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当するため、無効(民法90条)である旨主張しました(58頁以下)。
しかし、裁判所は、
・本件更新拒絶には正当な理由がある
・リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた配信を前提とする本件各音楽番組は、「自主制作番組」に当たらず、被告は、自主制作番組に当たらない番組に関して被告の管理レコードについての許諾権限を有していない
といった点から、被告はそもそも本件各音楽番組に関して、各原告と取引をする権限も拒絶する権限も有していないというべきであって、リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた配信を前提とした本件各音楽番組を配信するために本件利用許諾契約上の地位についての確認を求める原告らの主張は、その前提を欠くものであると判断。
被告の本件更新拒絶は、「共同の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項1号イ又は同項6号イ、一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定2項)に該当せず無効(民法90条)とはいえないと判断しています。
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4 「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当するため無効(民法90条)か
原告らは、本件更新拒絶はリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに参加しているコミュニティ放送局だけを差別的に取り扱うために行われたものであり、取引条件等の差別的取扱い(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当するため、無効(民法90条)である旨主張しました(59頁以下)。
この点について、裁判所は、平成27年4月1日以降、本件利用許諾契約の内容で被告と利用許諾契約を締結し又は自動更新したコミュニティFM局が存在しているものの、それは単なる手続上の事情によるものであって、被告は現にこれらの契約先に対して、平成28年4月1日以降、契約を自動更新させない旨の通知をし、3月6日契約書案による契約の申込みを誘引していると認定。
本件更新拒絶がリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに参加しているコミュニティ放送局だけを差別的に取り扱うために行われたということはできないと判断。
結論として、「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条、2条9項6号イ、一般指定4項)に該当せず無効(民法90条)とはいえないと判断しています。
結論として、原告らの契約上の地位の確認は認められていません。
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■コメント
複数のコミュニティ放送局において時間ごとに分散して配信されている番組を自動的に連続して聴くことができる、まとめチャンネル機能(ザッピング機能)を原告ラジオ局側が提供した点がレコード協会との契約に違反することは明らかで、契約更新拒絶に対しては原告ラジオ局側も信義則や民法90条といった一般条項を根拠にするくらいのほか、対応しようがなかったことになります。
なお、サイマル放送を推進する会からプレスリリースが出されています。
CSRA加盟コミュニティ放送局と日本レコード協会との間の訴訟における第一審判決について|サイマル放送を推進する会のプレスリリース
「「まとめチャンネル」は、コミュニティ放送局によりサイマル配信された音楽情報番組を受信する、いわば「ラジオ放送の受信機」と同様のものにすぎません。配信される音楽情報番組自体は、これに参加する各コミュニティ放送局が、互いに番組制作能力を補い、番組制作に対する意向を十分に伝えあって、共同で制作したものです。そして、自局の編成方針に従い同音楽情報番組の地上波放送を決定し公衆に提供しているのは、各コミュニティ放送局に他なりません。つまり、各コミュニティ放送局が、音楽情報番組についての「発意」と「責任」を有しながら同番組を地上波放送し、それらを並行してサイマル配信していることは明白であり、同番組が各コミュニティ放送局にとっての「自主制作番組」に該当することは当然のことです。同判決の事実認定は、ラジオ・テレビを問わず、放送業界において当然とされてきた常識的な扱いを根底から覆すものであります。」
「放送と通信の融合」はよくわかるところですが、まずは、約款などの改訂作業(つまるところ、使用料をどうするかの調整)が必要かと思われます。
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■参考サイト
ITmedia LifeStyle記事(2015年02月26日 23時37分)
コミュニティFM 39局、日本レコード協会とソニー・ミュージックの“サイマル放送中止要求”に異議