最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
音楽CD製造販売業務委託契約事件
東京地裁平成28.2.16平成25(ワ)33167損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 廣瀬達人
*裁判所サイト公表 2016.6.13
*キーワード:業務委託、CD販売、配信、レンタル、債務不履行
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■事案
音楽CD製造販売業務委託契約について債務不履行があったかどうかなどが争点となった事案
原告:音楽制作会社、会社代表者
被告:音楽制作会社、衛星放送事業者ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法114条2項、90条の3第2項、民法415条
【1】 原告ノアの被告タッズに対する原告ノア印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求
【2】 原告ノアの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
【3】 原告Aの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
【4】 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求
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■事案の概要
『本件は,本件CDについてのレコード製作者である原告ノア及び本件CDに収録された別紙CD目録4記載の各楽曲(以下「本件楽曲」という。)の実演家である原告Aが,被告らに対し,以下の各請求をする事案と解される。
(1)原告ノアの被告タッズに対する,印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求
原告ノアは,被告タッズに対し,(1)被告タッズとの本件CDの製造販売委託契約の履行請求として,被告タッズが販売した本件CD213枚の売上金のうち原告ノアが取得すべき部分(以下,本件楽曲又は本件CDの各売上金のうち原告ノアが取得すべき部分を「原告ノア印税」という。)に相当する35万5071円,(2)同契約上の債務不履行による損害賠償として,同契約に要した費用と弁護士相談料(予備的に,本来取得するはずだった原告ノア印税相当額と弁護士相談料)を合計した144万4299円並びに上記(1)及び(2)に対する商事法定利率年6分の割合による各遅延損害金の支払を求める(上記第1の1)。
(2)原告ノアの被告らに対する,不法行為に基づく損害賠償請求
原告ノアは,被告らに対し,被告らが,(1)原告ノアの許諾がないのに,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信を繰り返し,原告ノアが有する本件CDについてのレコード製作者の著作隣接権(複製権,貸与権,譲渡権及び送信可能化権。著作権法(以下,単に「法」という。)89条2項)及び原告Aから譲り受けた本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権。法89条1項)を侵害し,また,(2)本件CDを廃盤にして,原告ノアの本件原盤,ジャケットを含む本件CD及びポスター等の所有権を侵害したため,これらの不法行為により,上記(1)について合計722万3480円,上記(2)について合計839万1174円,上記(1)(2)を通じた弁護士相談料として113万3232円の損害を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償金1674万7886円(上記の合計額)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(上記第1の2)。
(3)原告Aの被告らに対する,不法行為に基づく損害賠償請求
原告Aは,被告らに対し,被告らが,(1)音楽配信事業者のウェブサイトを通じて本件楽曲を配信するに際し,ファイル圧縮によって本件楽曲の音質を劣化させるなどして,本件楽曲の実演家である原告Aの実演家人格権(同一性保持権。法89条1項)を侵害し,(2)本件CDの廃盤と廃盤理由に関する虚偽の説明により原告Aの名誉権及び人格権を侵害し,(3)無断で原告Aのアーティスト名や写真を使用して原告Aのプライバシー権等を侵害したため,これらの不法行為により,上記(1)について100万円,上記(2)について400万円,上記(3)について100万円,上記(1)〜(3)を通じた弁護士相談料として30万円の損害を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償金630万円(上記の合計額)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(上記第1の3)。
(4)原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求
原告Aは,被告スペースに対し,被告スペースが本件CDの廃盤によって原告Aの名誉を棄損したと主張し,名誉を回復するために適当な処分(民法723条)として,本件CDを全国で販売するよう求める(上記第1の4)。
また,原告Aは,被告タッズ及び同スペースに対し,同被告らが本件CDの廃盤によって原告Aの名誉を棄損したと主張し,名誉を回復するために適当な処分(民法723条)として,ジャズ雑誌3誌に謝罪広告を掲載すること,及び被告スペースの管理するホームページ上に謝罪広告を掲載することを求める(上記第1の5,6)。』(3頁以下)
<経緯>
H19.09 原告Aが本件楽曲のレコーディングを実施(本件実演)
H21.08 原告Aが原告ノアにDVD原盤に係る全ての権利を譲渡
H22.09 本件原盤完成
H22.10 原告ノアと被告タッズがCD製造販売業務委託契約(本件契約)締結
H22.11 被告タッズと被告スペースが本件再委託契約締結
H23.02 被告スペースが本件CDを販売
H23.03 原告ノア元代表がDMMに本件CDレンタルについて抗議
H23.04 被告スペースが本件CD廃盤処置、出荷停止。
アルバム名:The Good Life Jazz Standards from New York
曲数:全12曲
実演家:E
発売日:平成23年2月23日
レーベル:24JazzJapan
商品番号:DDCZ-1737
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■判決内容
<争点>
【1】原告ノアの被告タッズに対する原告ノア印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求
1 本件契約に基づく原告ノア印税の支払請求権の存否及び額
原告ノア被告タッズ間の本件原盤を音源とする音楽CD(本件CD)の製造販売業務の委託契約により製造販売する本件CD1枚当たりの手数料等は、以下の通りの内容でした(8条)。
1 小売価格(税込) 3000円
2 小売価格(税抜) 2858円(1/1.05)
3 小売店手数料 572円(2×20%)
4 販売元(被告スペース)手数料 434円((2−3)×19%)
5 発売元(被告タッズ)手数料 185円((2−3−4)×10%)
6 原告ノアの収益 1667円(2−3−4−5)
被告タッズが本件契約8条に基づき原告ノアに支払うべき原告ノア印税の額は本件CD1枚当たり1667円であるところ、本件契約に基づき本件CD213枚が販売されていることから、原告ノアは被告タッズに対して原告ノア印税として35万5071円(1667円×213枚)の支払請求権を有するものと裁判所は認定しています(25頁)。
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2 本件契約についての債務不履行の成否
被告タッズは、本件契約の契約期間である平成23年10月24日までの間、本件契約に基づいて本件CDを販売する義務を負っていたところ、本件廃盤通知をした同年4月5日以降、本件CDの販売業務を行っていないとして、この点は、被告タッズによる本件契約の債務不履行に当たる、と裁判所は判断しています(25頁以下)。
なお、被告タッズは、原告ノアの当時の代表者Dがレンタル事業者に対して本件CDのレンタルを停止するよう求めたことが、本件契約の定める解除事由に当たると主張しましたが、原告ノアが被告タッズに対して本件CDのレンタルを許諾した事実は認められず、原告ノアの当時の代表者Dが本件CDのレンタルを行っているレンタル事業者に対して、本件CDのレンタルを停止するよう求めたことは、著作隣接権者としての正当な権利行使であるから、本件契約15条(5)号の解除事由に当たるものではないと裁判所は判断しています。
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3 損害の有無及び額
本件CDの発売日(平成23年2月23日)から本件廃盤処置までの2か月足らずの間における販売枚数が213枚に上ること、本件契約の契約期間が本件廃盤処置から半年以上先の平成23年10月24日までであることを裁判所は勘案して、被告タッズの債務不履行がなければ本件CDの一般流通分300枚のうち、未販売の87枚についても本件契約期間満了までに完売できた蓋然性が高いと判断。
原告ノアがその販売に係る収益を得ることができなかったことによる損害は、被告タッズの債務不履行と相当因果関係があるとして、本件契約8条に基づき、本件CD87枚分の税抜販売価格から小売店手数料、販売元手数料及び発売元手数料を控除した金額である14万5029円(計算式1667円×87枚)が原告ノアの損害と認定しています(26頁以下)。
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【2】原告ノアの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
4 著作隣接権侵害の不法行為の成否
(1)被告タッズらについて
被告タッズらの不法行為責任について、本件契約書には本件CDのレンタルや本件楽曲の配信についての許諾を明記した条項はなく、本件CDのレンタル又は本件楽曲の配信について、原告ノアの許諾があったと認めることはできないと裁判所は判断。
そして、被告Bが、被告タッズの代表者として被告スペースに対して、レンタル事業者へのレンタル用CDの販売やインターネット配信会社への本件楽曲の配信まで含めて委託する内容の再委託契約を締結し、その結果として、本件CDのレンタルや本件楽曲の配信が行われたことは、原告ノアのレコード製作者としての複製権、貸与権及び譲渡権を侵害するものであると判断。
また、被告タッズらに少なくとも過失があったことも明らかであるとして、結論として、被告タッズらに原告ノアの著作隣接権(貸与権及び送信可能化権等)を侵害する共同不法行為が成立すると判断しています(27頁以下)。
(2)被告スペースについて
被告スペースの不法行為責任について、裁判所は、契約当事者としては、相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるというべきであり、これを怠って当該著作物を利用した場合、当該第三者に対する不法行為責任を免れないとの原則論に言及した上で、本件に関して、被告スペースは本件再委託契約の締結時において被告タッズがレコード製作者及び実演家の各著作隣接権を有しないことを認識していたにも関わらず、被告スペースにおいて、著作隣接権者に問い合わせ、又は本件契約書を確認するなどの方法によって本件CD及び本件楽曲についての被告タッズの利用許諾権限を確認したことが伺われないとして、被告スペースは、本件CDの無断レンタルや本件楽曲の無断配信について、少なくとも過失があると認められると判断。原告ノアに対して被告タッズらとの共同不法行為が成立すると判断しています(29頁以下)。
(3)被告Cについて
被告スペースの一従業員にすぎない被告Cについて、原告ノアの著作隣接権侵害を行うことについての故意、過失があったと認めるに足る証拠はないとして、原告ノアの被告Cに対する請求は認められていません(30頁)。
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5 本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否
原告ノアは、本件廃盤処置によって本件原盤、本件CD及びポスター等の販促物が無価値となったとして、これが、被告らによる原告ノアの本件原盤等に対する所有権を侵害する旨主張しましたが、裁判所は認めていません(30頁)。
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6 被告らに対する損害額
(1)無断レンタル及び無断配信に係る損害(30頁以下)
レンタル 2000円(250円×8枚)
配信 5077円
合計 7077円
(2)その他の損害
弁護士相談料等は認定されていません。
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【3】原告Aの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
7 同一性保持権侵害の不法行為の成否
原告Aは、被告らが、
(1)MP3、AAC又はWMA等の圧縮フォーマットを利用して本件楽曲の音声を圧縮して配信したこと
(2)本件楽曲12曲を曲毎に配信したこと
が、いずれも本件楽曲についての同一性保持権を侵害する旨主張しました(33頁以下)。
圧縮配信について、裁判所は、「やむを得ないと認められる改変」(法90条の3第2項)に当たり、また、原告Aが本件契約後の平成22年12月27日に被告Bに送信したEメール中に「圧縮をやって頂きたいと思っておりました。」「引き続き圧縮をお願いできますでしょうか?」などの記載があることから、原告Aも本件楽曲の圧縮を了承していたことが推認されると判断。
圧縮配信行為について、原告Aの同一性保持権を侵害するものということはできないと判断しています。
また、曲毎に配信した点について、本件楽曲はいずれも独立の楽曲であり、原告Aが本件CDにおける本件楽曲の配列を工夫したとしても、この点は実演家の同一性保持権の保護範囲に含まれるものではないとして、(2)についても原告Aの同一性保持権を侵害するものとは認められないと裁判所は判断しています。
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8 名誉権侵害又は人格権侵害の不法行為の成否
原告Aは、廃盤となった音楽CD及びその実演家等は、何らかの重大な問題を抱えている者であると認識されるなどと主張しましたが、裁判所は、本件廃盤処置が直ちに原告Aの名誉権又はその他の人格権を侵害するとは認めていません(34頁以下)。
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9 プライバシー権等侵害の不法行為の成否
原告Aは、被告らが原告Aのアーティスト名や本件CDのジャケット写真等を配信したことが、原告Aの実演家人格権(氏名表示権)のほか、肖像権及びプライバシー権等の人格権を侵害すると主張しました(35頁以下)。
この点について、裁判所は、原告Aのアーティスト名は原告Aが音楽活動のために使用し、本件CDにも本件楽曲の実演家名として表示されているものであるから、これを本件楽曲の配信に当たって使用することが原告Aの氏名表示権ないし人格権を侵害するものでないと判断。
また、本件CDのジャケット写真等についても、本件CDの販売宣伝のために原告Aの承認の下で作成されたものである上、原告Aの音楽活動と無関係な原告Aの私的な情報が掲載されているわけではないこと、原告A自身が本件CDのジャケット上に上記写真等を表示・掲載して公開していることなどから、本件楽曲の配信に当たって、同ジャケット写真等を使用することについて、原告Aの肖像権やプライバシー権等の人格権を侵害するものではないと判断しています。
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10 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求
本件CDの廃盤により原告Aの名誉が毀損されたとは認められないとして、原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求はいずれもその前提を欠くと裁判所は判断しています(36頁)。
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■コメント
仲介業者がCD製造販売業務以外に契約外のレンタルや配信業務をしてしまった事案となります。
原告会社関係者のかたから御連絡をいただき、会長さんの名義で2016年4月25日付「告発文」を受け取り、拝見しました。
そこでは、無許諾海外配信が続いていること、また、被告スペース社が控訴していることなども伝える内容となっています。
音楽CD製造販売業務委託契約事件
東京地裁平成28.2.16平成25(ワ)33167損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 廣瀬達人
*裁判所サイト公表 2016.6.13
*キーワード:業務委託、CD販売、配信、レンタル、債務不履行
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■事案
音楽CD製造販売業務委託契約について債務不履行があったかどうかなどが争点となった事案
原告:音楽制作会社、会社代表者
被告:音楽制作会社、衛星放送事業者ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法114条2項、90条の3第2項、民法415条
【1】 原告ノアの被告タッズに対する原告ノア印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求
【2】 原告ノアの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
【3】 原告Aの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
【4】 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求
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■事案の概要
『本件は,本件CDについてのレコード製作者である原告ノア及び本件CDに収録された別紙CD目録4記載の各楽曲(以下「本件楽曲」という。)の実演家である原告Aが,被告らに対し,以下の各請求をする事案と解される。
(1)原告ノアの被告タッズに対する,印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求
原告ノアは,被告タッズに対し,(1)被告タッズとの本件CDの製造販売委託契約の履行請求として,被告タッズが販売した本件CD213枚の売上金のうち原告ノアが取得すべき部分(以下,本件楽曲又は本件CDの各売上金のうち原告ノアが取得すべき部分を「原告ノア印税」という。)に相当する35万5071円,(2)同契約上の債務不履行による損害賠償として,同契約に要した費用と弁護士相談料(予備的に,本来取得するはずだった原告ノア印税相当額と弁護士相談料)を合計した144万4299円並びに上記(1)及び(2)に対する商事法定利率年6分の割合による各遅延損害金の支払を求める(上記第1の1)。
(2)原告ノアの被告らに対する,不法行為に基づく損害賠償請求
原告ノアは,被告らに対し,被告らが,(1)原告ノアの許諾がないのに,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信を繰り返し,原告ノアが有する本件CDについてのレコード製作者の著作隣接権(複製権,貸与権,譲渡権及び送信可能化権。著作権法(以下,単に「法」という。)89条2項)及び原告Aから譲り受けた本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権。法89条1項)を侵害し,また,(2)本件CDを廃盤にして,原告ノアの本件原盤,ジャケットを含む本件CD及びポスター等の所有権を侵害したため,これらの不法行為により,上記(1)について合計722万3480円,上記(2)について合計839万1174円,上記(1)(2)を通じた弁護士相談料として113万3232円の損害を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償金1674万7886円(上記の合計額)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(上記第1の2)。
(3)原告Aの被告らに対する,不法行為に基づく損害賠償請求
原告Aは,被告らに対し,被告らが,(1)音楽配信事業者のウェブサイトを通じて本件楽曲を配信するに際し,ファイル圧縮によって本件楽曲の音質を劣化させるなどして,本件楽曲の実演家である原告Aの実演家人格権(同一性保持権。法89条1項)を侵害し,(2)本件CDの廃盤と廃盤理由に関する虚偽の説明により原告Aの名誉権及び人格権を侵害し,(3)無断で原告Aのアーティスト名や写真を使用して原告Aのプライバシー権等を侵害したため,これらの不法行為により,上記(1)について100万円,上記(2)について400万円,上記(3)について100万円,上記(1)〜(3)を通じた弁護士相談料として30万円の損害を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償金630万円(上記の合計額)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(上記第1の3)。
(4)原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求
原告Aは,被告スペースに対し,被告スペースが本件CDの廃盤によって原告Aの名誉を棄損したと主張し,名誉を回復するために適当な処分(民法723条)として,本件CDを全国で販売するよう求める(上記第1の4)。
また,原告Aは,被告タッズ及び同スペースに対し,同被告らが本件CDの廃盤によって原告Aの名誉を棄損したと主張し,名誉を回復するために適当な処分(民法723条)として,ジャズ雑誌3誌に謝罪広告を掲載すること,及び被告スペースの管理するホームページ上に謝罪広告を掲載することを求める(上記第1の5,6)。』(3頁以下)
<経緯>
H19.09 原告Aが本件楽曲のレコーディングを実施(本件実演)
H21.08 原告Aが原告ノアにDVD原盤に係る全ての権利を譲渡
H22.09 本件原盤完成
H22.10 原告ノアと被告タッズがCD製造販売業務委託契約(本件契約)締結
H22.11 被告タッズと被告スペースが本件再委託契約締結
H23.02 被告スペースが本件CDを販売
H23.03 原告ノア元代表がDMMに本件CDレンタルについて抗議
H23.04 被告スペースが本件CD廃盤処置、出荷停止。
アルバム名:The Good Life Jazz Standards from New York
曲数:全12曲
実演家:E
発売日:平成23年2月23日
レーベル:24JazzJapan
商品番号:DDCZ-1737
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■判決内容
<争点>
【1】原告ノアの被告タッズに対する原告ノア印税の支払請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求
1 本件契約に基づく原告ノア印税の支払請求権の存否及び額
原告ノア被告タッズ間の本件原盤を音源とする音楽CD(本件CD)の製造販売業務の委託契約により製造販売する本件CD1枚当たりの手数料等は、以下の通りの内容でした(8条)。
1 小売価格(税込) 3000円
2 小売価格(税抜) 2858円(1/1.05)
3 小売店手数料 572円(2×20%)
4 販売元(被告スペース)手数料 434円((2−3)×19%)
5 発売元(被告タッズ)手数料 185円((2−3−4)×10%)
6 原告ノアの収益 1667円(2−3−4−5)
被告タッズが本件契約8条に基づき原告ノアに支払うべき原告ノア印税の額は本件CD1枚当たり1667円であるところ、本件契約に基づき本件CD213枚が販売されていることから、原告ノアは被告タッズに対して原告ノア印税として35万5071円(1667円×213枚)の支払請求権を有するものと裁判所は認定しています(25頁)。
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2 本件契約についての債務不履行の成否
被告タッズは、本件契約の契約期間である平成23年10月24日までの間、本件契約に基づいて本件CDを販売する義務を負っていたところ、本件廃盤通知をした同年4月5日以降、本件CDの販売業務を行っていないとして、この点は、被告タッズによる本件契約の債務不履行に当たる、と裁判所は判断しています(25頁以下)。
なお、被告タッズは、原告ノアの当時の代表者Dがレンタル事業者に対して本件CDのレンタルを停止するよう求めたことが、本件契約の定める解除事由に当たると主張しましたが、原告ノアが被告タッズに対して本件CDのレンタルを許諾した事実は認められず、原告ノアの当時の代表者Dが本件CDのレンタルを行っているレンタル事業者に対して、本件CDのレンタルを停止するよう求めたことは、著作隣接権者としての正当な権利行使であるから、本件契約15条(5)号の解除事由に当たるものではないと裁判所は判断しています。
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3 損害の有無及び額
本件CDの発売日(平成23年2月23日)から本件廃盤処置までの2か月足らずの間における販売枚数が213枚に上ること、本件契約の契約期間が本件廃盤処置から半年以上先の平成23年10月24日までであることを裁判所は勘案して、被告タッズの債務不履行がなければ本件CDの一般流通分300枚のうち、未販売の87枚についても本件契約期間満了までに完売できた蓋然性が高いと判断。
原告ノアがその販売に係る収益を得ることができなかったことによる損害は、被告タッズの債務不履行と相当因果関係があるとして、本件契約8条に基づき、本件CD87枚分の税抜販売価格から小売店手数料、販売元手数料及び発売元手数料を控除した金額である14万5029円(計算式1667円×87枚)が原告ノアの損害と認定しています(26頁以下)。
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【2】原告ノアの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
4 著作隣接権侵害の不法行為の成否
(1)被告タッズらについて
被告タッズらの不法行為責任について、本件契約書には本件CDのレンタルや本件楽曲の配信についての許諾を明記した条項はなく、本件CDのレンタル又は本件楽曲の配信について、原告ノアの許諾があったと認めることはできないと裁判所は判断。
そして、被告Bが、被告タッズの代表者として被告スペースに対して、レンタル事業者へのレンタル用CDの販売やインターネット配信会社への本件楽曲の配信まで含めて委託する内容の再委託契約を締結し、その結果として、本件CDのレンタルや本件楽曲の配信が行われたことは、原告ノアのレコード製作者としての複製権、貸与権及び譲渡権を侵害するものであると判断。
また、被告タッズらに少なくとも過失があったことも明らかであるとして、結論として、被告タッズらに原告ノアの著作隣接権(貸与権及び送信可能化権等)を侵害する共同不法行為が成立すると判断しています(27頁以下)。
(2)被告スペースについて
被告スペースの不法行為責任について、裁判所は、契約当事者としては、相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるというべきであり、これを怠って当該著作物を利用した場合、当該第三者に対する不法行為責任を免れないとの原則論に言及した上で、本件に関して、被告スペースは本件再委託契約の締結時において被告タッズがレコード製作者及び実演家の各著作隣接権を有しないことを認識していたにも関わらず、被告スペースにおいて、著作隣接権者に問い合わせ、又は本件契約書を確認するなどの方法によって本件CD及び本件楽曲についての被告タッズの利用許諾権限を確認したことが伺われないとして、被告スペースは、本件CDの無断レンタルや本件楽曲の無断配信について、少なくとも過失があると認められると判断。原告ノアに対して被告タッズらとの共同不法行為が成立すると判断しています(29頁以下)。
(3)被告Cについて
被告スペースの一従業員にすぎない被告Cについて、原告ノアの著作隣接権侵害を行うことについての故意、過失があったと認めるに足る証拠はないとして、原告ノアの被告Cに対する請求は認められていません(30頁)。
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5 本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否
原告ノアは、本件廃盤処置によって本件原盤、本件CD及びポスター等の販促物が無価値となったとして、これが、被告らによる原告ノアの本件原盤等に対する所有権を侵害する旨主張しましたが、裁判所は認めていません(30頁)。
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6 被告らに対する損害額
(1)無断レンタル及び無断配信に係る損害(30頁以下)
レンタル 2000円(250円×8枚)
配信 5077円
合計 7077円
(2)その他の損害
弁護士相談料等は認定されていません。
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【3】原告Aの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
7 同一性保持権侵害の不法行為の成否
原告Aは、被告らが、
(1)MP3、AAC又はWMA等の圧縮フォーマットを利用して本件楽曲の音声を圧縮して配信したこと
(2)本件楽曲12曲を曲毎に配信したこと
が、いずれも本件楽曲についての同一性保持権を侵害する旨主張しました(33頁以下)。
圧縮配信について、裁判所は、「やむを得ないと認められる改変」(法90条の3第2項)に当たり、また、原告Aが本件契約後の平成22年12月27日に被告Bに送信したEメール中に「圧縮をやって頂きたいと思っておりました。」「引き続き圧縮をお願いできますでしょうか?」などの記載があることから、原告Aも本件楽曲の圧縮を了承していたことが推認されると判断。
圧縮配信行為について、原告Aの同一性保持権を侵害するものということはできないと判断しています。
また、曲毎に配信した点について、本件楽曲はいずれも独立の楽曲であり、原告Aが本件CDにおける本件楽曲の配列を工夫したとしても、この点は実演家の同一性保持権の保護範囲に含まれるものではないとして、(2)についても原告Aの同一性保持権を侵害するものとは認められないと裁判所は判断しています。
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8 名誉権侵害又は人格権侵害の不法行為の成否
原告Aは、廃盤となった音楽CD及びその実演家等は、何らかの重大な問題を抱えている者であると認識されるなどと主張しましたが、裁判所は、本件廃盤処置が直ちに原告Aの名誉権又はその他の人格権を侵害するとは認めていません(34頁以下)。
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9 プライバシー権等侵害の不法行為の成否
原告Aは、被告らが原告Aのアーティスト名や本件CDのジャケット写真等を配信したことが、原告Aの実演家人格権(氏名表示権)のほか、肖像権及びプライバシー権等の人格権を侵害すると主張しました(35頁以下)。
この点について、裁判所は、原告Aのアーティスト名は原告Aが音楽活動のために使用し、本件CDにも本件楽曲の実演家名として表示されているものであるから、これを本件楽曲の配信に当たって使用することが原告Aの氏名表示権ないし人格権を侵害するものでないと判断。
また、本件CDのジャケット写真等についても、本件CDの販売宣伝のために原告Aの承認の下で作成されたものである上、原告Aの音楽活動と無関係な原告Aの私的な情報が掲載されているわけではないこと、原告A自身が本件CDのジャケット上に上記写真等を表示・掲載して公開していることなどから、本件楽曲の配信に当たって、同ジャケット写真等を使用することについて、原告Aの肖像権やプライバシー権等の人格権を侵害するものではないと判断しています。
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10 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求
本件CDの廃盤により原告Aの名誉が毀損されたとは認められないとして、原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求はいずれもその前提を欠くと裁判所は判断しています(36頁)。
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■コメント
仲介業者がCD製造販売業務以外に契約外のレンタルや配信業務をしてしまった事案となります。
原告会社関係者のかたから御連絡をいただき、会長さんの名義で2016年4月25日付「告発文」を受け取り、拝見しました。
そこでは、無許諾海外配信が続いていること、また、被告スペース社が控訴していることなども伝える内容となっています。