最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

恋愛アドベンチャーゲーム改変事件

大阪地裁平成28.4.28平成27(ワ)12757損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官    田原美奈子
裁判官    林啓治郎

*裁判所サイト公表 2016.06.03
*キーワード:擬制自白、漫画、ゲーム、翻案

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■事案

PSP用恋愛アドベンチャーゲーム向け漫画原画をR18ゲームに無断転用された事案

原告:漫画家
被告:ゲーム制作販売会社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法114条3項

1 侵害論
2 損害論

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■事案の概要

<経緯>

H25.06 訴外アートムーヴが原告にゲームブランド「QuinRose」向け作画依頼
H25.07 原告がアートムーヴに納品開始
H26.08 納品終了
H26.11 アートムーヴがプレイステーションポータブル(PSP)用のゲームとして販売
H27.08 アートムーヴが原告に本件ゲームのスマートフォン向けオンラインゲーム化を提案
       被告がアートムーヴから受け取った本件著作物を改変して本件R18ゲームを制作
       アートムーヴが訴外DMMと契約。本件R18ゲームを配信開始
H27.11 DMMが販売停止措置

       アートムーヴ、破産手続中
       (事件番号:東京地裁平成27年(フ)第10281号)

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■判決内容

<争点>

1 侵害論

原告制作のイベント画(ゲームの進行に従って各場面を描写するために挿入されるイラスト)について、被告は複製するだけにとどまらず、被告自身において、頭部など登場人物を決定づける重要な部分を取り出し、首から下の着衣部分は切除し、被告自身が作成した裸体のイラストに当該頭部だけを接合したり、原告が作成した複数の著作物から部分的に取り出して継ぎ接ぎにして組み合わせ、それに裸体画を書き足したりするなどして改変し、露骨に性交を描写した場面等に書き換えて18歳以上を対象とするゲーム(いわゆる「R18ゲーム」)を制作し、配信しました。被告のこれらの行為について、裁判所は、原告の翻案権等(著作権法27条、28条、21条、23条、26条の2)の侵害、及び同一性保持権等(20条、18条、19条)の侵害の成立を擬制自白により肯定しています(1頁)。

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2 損害論

(1)著作権侵害による損害

著作権侵害による損害について、原告が、訴外アートムーヴから開発中であった本件ゲームで使用する原画の製作等を依頼された際、原画の製作等を含めて包括的に報酬350万円で注文を受けていることを踏まえ、裁判所は、本件R18ゲームという1個のゲーム作品のために多数のイベント画が使用される場合についても、上記と同様の報酬支払の形態を採用した上で著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、上記と同様に350万円と認めるのが相当であると判断しています(1頁以下)。

(2)著作者人格権侵害による損害

被告がゲームのタイトル名及び登場人物名をそのままにして、原告の意に反して、原告の製作した原画の部分を取り出して、つぎはぎにして裸体のイラストと組み合わせるなどして改変し、露骨に性交を描写した場面等に書き換えており、その結果、原告が改変後の本件R18ゲームについても原画を製作したとの印象や認識が広まったとうかがわれると裁判所は判断。
訴外DMMによる本件R18ゲームの販売期間が約2か月であることを考慮に入れても、被告の改変行為により生じた原告の精神的損害を金銭に評価した額は、200万円と認めるのが相当であると判断しています。


(3)弁護士費用相当額損害 50万円

以上合計、600万円が認定されています。

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■コメント

関連情報からしますと、原告は商業BL(Boys Love)や乙女ゲームの原画などを手掛ける平未夜氏。本件ゲームは、QuinRoseの乙女ゲーム「マーメイド・ゴシック」のようです。
被告が口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかったことから、擬制自白が成立しています。
本来、責任を負うべきアートムーヴが破産手続にあることから、原告としては被告を相手にせざるを得なかったかと思いますが、被告に資力があるのか、賠償金の回収は前途多難かもしれません。

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■参考サイト

(2015/10/2 11:28 ネタとぴ)
「ハートの国のアリス」などで知られる乙女ゲームブランド「QuinRose」の会社、アートムーヴが事業停止に