最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ライブバー「X.Y.Z.→A」音楽使用料事件

東京地裁平成28.3.25平成25(ワ)28704著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官    広瀬 孝
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2016.05.19
*キーワード:音楽著作権、使用料、契約、カラオケ法理

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■事案

ジャスラックの契約形態等に対する不信を理由に使用料金額等を争った事案

原告:音楽著作権管理団体
被告:ライブハウス経営者、ロックバンドドラマー

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法22条、民法1条3項

1 被告らの演奏主体性
2 オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否
3 被告らの故意又は過失の有無
4 原告による許諾の有無
5 権利濫用等の抗弁の成否
6 差止請求の適法性及び差止めの必要性
7 将来請求の可否
8 損害ないし損失発生の有無及びその額

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■事案の概要

『本件は,著作権等管理事業者である原告が,被告らに対し,別紙1店舗目録記載の店舗(以下「本件店舗」といい,同目録(1)の店舗を「本件店舗6階部分」といい,同目録(2)の店舗を「本件店舗5階部分」という。)を被告らが共同経営しているところ,被告らが原告との間で利用許諾契約を締結しないまま同店内でライブを開催し,原告が管理する著作物を演奏(歌唱を含む)させていることが,原告の有する著作権(演奏権)侵害に当たると主張して,(1)上記著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求め,(2)主位的に著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,予備的に悪意の受益者に対する不当利得返還請求として,連帯して,使用料相当額,弁護士費用及び使用料相当額について平成27年10月31日までに生じた確定遅延損害金又は利息金合計703万5519円並びにうち616万3064円(使用料相当額及び弁護士費用)に対する同年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金の支払を求めるとともに,(3)不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得に基づく返還請求として,平成27年11月1日から上記著作物の使用終了に至るまで,連帯して,使用料相当額月6万3504円の支払を求める事案である。』
(2頁以下)

<経緯>

H21.05 本件店舗5階部分営業開始
H21.09 原告が「音楽著作物利用許諾契約申込書」郵送
H22.02 本件店舗6階部分営業開始
H24.02 原告が民事調停申し立て
H25.04 民事調停不成立
H27.10 本件店舗5階部分営業終了

店舗名:「LIVE BAR X.Y.Z.→A」

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■判決内容

<争点>

1 被告らの演奏主体性

被告らは、演奏主体は出演者でライブハウス側ではないと主張しましたが、裁判所は、クラブキャッツアイ事件、ロクラク2事件の最高裁判決に言及した上で、結論として、被告らはいずれも本件店舗における原告管理著作物の演奏を管理・支配し、演奏の実現における枢要な行為を行い、それによって利益を得ていると判断。
原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たると認めています(40頁以下)。

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2 オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否

被告らは、自ら制作したオリジナル曲を演奏することは原告に著作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから、不法行為に当たらない旨主張しましたが、裁判所は、原告との著作権信託契約からこれを認めていません(43頁)。

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3 被告らの故意又は過失の有無

被告らは、店舗開店後、原告に著作権料を支払わなければならないことを認識していたとして、著作権侵害行為の認識があり、被告らには著作権侵害の故意があると認定されています(43頁以下)。

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4 原告による許諾の有無

被告らは、平成24年6月11日の本件調停の第2回調停期日において、原被告間で被告らないし被告Aが、原告に対して1曲当たり140円の使用料を支払うという内容で合意が成立した、あるいは、原告が被告らに対して原告管理著作物の利用を許諾する旨の意思表示をしたなどと主張しましたが、裁判所は認めていません(44頁以下)。

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5 権利濫用等の抗弁の成否

被告らは、原告が独占禁止法に反する違法な包括的契約を強要し、背信的な交渉を行い、被告Aから使用料を受領しないこと等を理由として、原告の各請求は、権利の濫用及び(又は)信義則違反(形式的権利の濫用、優越的地位の濫用、公序良俗違反、禁反言則違反、説明義務違反、誠実交渉義務違反等)に該当すると主張しましたが、裁判所は認めていません(45頁以下)。

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6 差止請求の適法性及び差止めの必要性

被告らは著作権侵害主体に当たり、かつ、原被告間で原告管理著作物に係る利用許諾契約が締結されていないにもかかわらず、被告らは本件店舗6階部分において、現在も原告管理著作物を利用しているとして、被告らは原告の著作権を侵害する行為を現にしているというほかないと裁判所は判断。
差止めの必要性があると判断しています(47頁以下)。

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7 将来請求の可否

原告は、本件口頭弁論終結以後も被告らの不法行為が継続することが確実であると主張して、将来の不法行為に基づく損害賠償請求を主張しました(49頁以下)。
この点について、裁判所は、将来の給付を求める訴えにおける継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権の取扱いについて、大阪空港騒音訴訟最高裁事件(昭和56年12月16日大法廷判決)などに言及。
その上で、本件について、本件店舗においてはライブの出演者自らが演奏曲目を決定しており、被告らによる原告著作物の利用楽曲数は毎日変動するものであり、その損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することはできないこと、また、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるものであること、さらに、権利の成立要件の具備については権利者である原告が主張立証責任を負うべきものであるといった点から、口頭弁論終結日の翌日である平成28年2月11日以降に生ずべき損害賠償金の支払いを求める部分は不適法であるとして、却下の判断をしています。

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8 損害ないし損失発生の有無及びその額

損害論について、以下のように認定されています(50頁以下)。

使用料相当損害金又は不当利得金 212万4412円
遅延損害金又は利息金 30万6858円
弁護士費用等 40万円

損害額又は不当利得額 合計283万1270円

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■コメント

ジャスラック対ファンキー末吉氏(ライブバー)の事案です。ミュージシャンであるファンキー末吉氏もライブバー運営に深く関わっていました。
ライブバーのサイトには、「お知らせ」として判決に触れたコメントが掲載されていますが、ファンキー末吉氏のブログ記事には、現状、判決後のコメントはないようです。
上記「お知らせ」を読みますと、「JASRACに対しては、ご出演者(演奏家)が曲別の許諾申請・支払いをスムーズに行えるシステム、ご出演者の負担する著作権料がその曲の著作者に正しく分配されるシステムを提供するよう求めてきました。」ということですが、ジャスラックのシステムの改善を訴訟の場で問題提起するという意味合いが強いという印象を受ける訴訟です。

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■参考サイト

JASRACとの戦い
ファンキー末吉BLOG〜ファンキー末吉とその仲間たちのひとりごと〜

Live Bar X.Y.Z.→A
八王子 ライブバーX.Y.Z.→A

「ライブハウスの経営者らに対する訴訟の判決について」(2016年3月30日)
ジャスラック プレスリリース

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■参考判例

クラブキャッツアイ事件
判決文
ロクラク2事件
判決文
大阪空港騒音事件
判決文