最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「エジソンのお箸」幼児用箸事件

東京地裁平成28.4.27平成27(ワ)27220著作権侵害行為差止等請求事件PDF
別紙1

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官    笹本哲朗
裁判官    天野研司

*裁判所サイト公表 2016.5.10
*キーワード:著作物性、工業デザイン、応用美術論

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■事案

幼児用箸のデザインの著作物性などが争点となった事案

原告:ベビー用品輸入製造販売会社
被告:プラスチック製品企画製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、10条1項4号、6号

1 原告各製品に係る著作権侵害(複製権又は翻案権)の成否
2 原告図画に係る著作権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,「エジソンのお箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している原告が,「デラックストレーニング箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している被告に対し,自らが別紙原告著作物目録1記載の図画(以下「原告図画」という。)及び別紙原告著作物目録2記載1ないし19の各幼児用箸(以下,同目録の番号に従い「原告製品1」などといい,これらを併せて「原告各製品」という。)に係る各著作権を有すること(なお,原告各製品のうち,上部の部材に記載又は成形されたキャラクターの図柄又は立体像については,原告も著作権を主張しているものではないと解される。)を前提に,被告による被告商品目録記載1ないし20の各幼児用箸(以下,同目録の番号に従い「被告商品1」などといい,これらを併せて「被告各商品」という。)の製造販売が上記各著作権(複製権及び翻案権)を侵害する旨主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項・2項に基づき,被告各商品の製造及び販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,(2)平成25年1月から平成27年9月28日(訴え提起時現在)までの間における上記各著作権侵害を内容とする不法行為に基づく損害賠償請求として,2400万円の内金100万円及びこれに対する不法行為の後である同年11月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(1頁以下)

<経緯>

H15 原告が原告各製品を製造販売
H25 被告が被告各製品を製造販売
H25 不競法、特許法に基づく差止め等請求訴訟提起
    (大阪地裁平成25年(ワ)第2464号事件)、棄却判決
H26 知財高裁控訴棄却判決(知財高裁平成25年(ネ)第10110号事件)
H27 本訴提起

原告商品名:「エジソンのお箸」
被告商品名:「デラックストレーニング箸」
原告図画:「子供の知能を発展させる練習用箸」(米国著作権登録番号VAu 1-173-069)

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■判決内容

<争点>

1 原告各製品に係る著作権侵害(複製権又は翻案権)の成否

原告各製品は幼児用箸として実用に供されるためにデザインされた機能的な工業製品でしたが、原告は、これが著作権法上の「著作物」(2条1項1号)として保護を受ける旨主張しました(11頁以下)。
この点について、裁判所は、機能性を有する製品のデザインに関する著作権法、意匠法、不正競争防止法での取扱いに関して言及した上で、
「実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法が保護を予定している対象ではなく,同法2条1項1号の「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである。」(11頁以下)と説示。
幼児の練習用箸として量産される工業製品であること、リングの個数、配置、形状、構造、また、連結箸であること等の検討から、結論として、原告各製品は、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えているということはできないし、純粋美術と同視し得る程度の美的特性を備えているということもできないと判断。
原告各製品は著作権法2条1項1号所定の著作物には当たらないことから、被告による被告各商品の製造販売が原告各製品に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとする原告の主張を認めていません。

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2 原告図画に係る著作権侵害の成否

(1)「学術的な性質」を有する図面該当性

原告図画は、原告各製品ないしこれに類似する製品を製作するためのあくまで工業用のデザイン画の域を出ないものと認められるとして、原告図画は「学術的な性質」を有する図面(著作権法10条1項6号)とはいえないと裁判所は判断しています(13頁)。

(2)美術の著作物性

原告は、「原告図画は,あたかも画家がスケッチするようなタッチで描かれたものであって,特にデザイン画中の影の表現等は絵画的な表現形式であり,美術の著作物に当たる。」旨主張しました(13頁以下)。
この点について、裁判所は、原告図画について、原告各製品等工業製品の製作とは離れて純粋に白黒のスケッチ画として見た上で検討を加えています。
そして、3次元の被告各商品とは形状や色彩等において全く異なり、また、仮に原告の指摘する影の表現等の絵画的な特徴をもって創作性を認めるとした場合、その特徴は被告各商品には何ら現れていないとして、被告各商品から原告図画の表現形式上の本質的特徴は感得することができないと判断。
また、被告各商品が原告図画に依拠して作られたとの事実を認めるに足りる証拠もないと認定。
被告製品が原告図画の複製にも翻案にも当たらないことは明らかであると判断しています。

結論として、被告による被告各商品の製造販売が原告図画に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するということはできないとされています。

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■コメント

別紙1に原被告各製品が掲載されているので、製品の対比がし易いです。
いずれも幼児向けの箸のトレーニング用のもので、キャラクターを配した機能性箸となっています。
なお、先行する裁判で不正競争防止法2条1項1号の論点(商品の形態的な特徴をもって同号の商品等表示に該当するかどうか)については、すでに控訴審でも否定されています。

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■先行判例

(控訴審)
知財高裁平成26年4月24日平成25(ネ)10110特許権侵害差止等請求控訴事件
特許権侵害差止等請求控訴事件

(原審)
大阪地裁平成25年10月31日平成25(ワ)2464特許権侵害差止等請求事件
特許権侵害差止等請求事件