最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

風水ブログ記事発信者情報開示請求事件

東京地裁平成28.1.29平成27(ワ)21233発信者情報開示請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      広瀬 孝

*裁判所サイト公表 2016.2.16
*キーワード:著作物性、翻案、引用、同一性保持権、名誉権

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■事案

「風水」や「五術」に関するブログ記事が改変されて「2ちゃんねる」に無断掲載されたとして、プロバイダに対して発信者情報開示請求した事案

原告:風水コンサルタント
被告:プロバイダ

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、27条、19条、20条、32条、プロバイダ責任制限法4条1項

1 本件各記事の著作権者
2 著作権侵害の成否
3 「引用による利用」該当性
4 本件各記事の著作者
5 著作者人格権侵害の成否
6 「やむを得ない改変」該当性
7 名誉権・名誉感情侵害の成否
8 正当理由の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,本件各情報によって著作権(複製権,翻案権,公衆送信権),著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権,名誉・声望権),名誉権ないし名誉感情を侵害されたことは明らかであると主張して,被告に対し,法4条1項に基づき,本件発信者の氏名又は名称(以下「氏名等」という。)及び住所の開示を求める事案である。』(1頁以下)

原告記事目録:

1 風水とは,何なのかを述べるにあたり,一言で述べるならば「自然科学」だということです。自然科学の定義とは,自然に属する諸対象を取り扱い,その法則性を明らかにする学問のことです。

2 これまで台湾における五術文化の学術発表にかかわってきて,とても不愉快な文化の冒涜・歪曲にしか思えない独創と捏造による江湖派理論や,悪質な宗教による術数を利用した洗脳と金儲けを目撃する度に胸くそが悪かったのですが,こういった国家規模での認定試験ができたことで時代は着実に変わり始めました。

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■判決内容

<争点>

1 本件各記事の著作権者

本件各記事はいずれも「A」の作成したブログ上の記事であるが、同ブログは原告Aが管理するものであって、本件各記事はいずれも原告が自らの知見に基づいて作成したものであることが認められると裁判所は認定。本件各記事の著作権者は原告であると裁判所は認めています(8頁)。

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2 著作権侵害の成否

次に、「2ちゃんねる」に掲載された本件情報1ないし18が、原告記事1、2の著作権(翻案権、公衆送信権)侵害性が検討されています(8頁以下)。
裁判所は、まず、翻案権(著作権法27条)の意義について言及した上で、本件について、「風水」に関する本件記事1は、ひとかたまりの文章に個性が表れていると認定。そして、本件情報1ないし13の本文の表現は本件記事1の表現とほぼ一致しており、本件情報1ないし13は、本件記事1に依拠した上で、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して異なる表現を用いたものといえると判断。
本件記事1と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたるものであり、本件記事1の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるとして、翻案権侵害性を肯定しています。
さらに、台湾における「五術」に関する本件記事2についても、結論として、本件情報14ないし17による翻案権侵害性が肯定されています。
併せて、本件情報1ないし17を本件ウェブサイトに発信する行為について、公衆送信権(23条)侵害性が肯定されています。

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3 「引用による利用」該当性

被告は、本件情報1ないし17はいずれも「風水」や「五術」について議論することを目的としており、公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるとして、32条1項「引用」に当たると主張しました(11頁以下)。
この点について、裁判所は、本件情報1ないし17は、本件各記事に依拠した上で、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して本件記事1の「自然科学」を「妖怪学」に変更したり、本件記事2の「学術発表」を「詐欺発表」に変更したりしたものであって、引用元等を明示することもなく引用元の表現を直接改変した上でそれをそのまま本件ウェブサイトに匿名で投稿したものであるとして、これが議論を目的としたものであるとはにわかに窺われないと判断。被告の主張を認めていません。

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4 本件各記事の著作者

本件各記事の著作者は原告であると認定されています(12頁)。

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5 著作者人格権侵害の成否

本件情報1ないし17について、翻案権侵害が認められ、これらの表現において原告の意に反する改変がされており、かつ、原告の氏名が表示され(本件情報1)又は表示されていない(本件情報2ないし17)ことから、本件情報1ないし17については、原告の同一性保持権及び氏名表示権侵害性が肯定されています(12頁以下)。

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6 「やむを得ない改変」該当性

被告は、本件情報1ないし17は、「風水」や「五術」について議論することを目的とするものであって、引用分量も少なく、しかも本件発信者の見解を述べているだけで原告への人格攻撃でもないとして、本件情報1ないし17は、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変(20条2項4号)が行われているにすぎず、同一性保持権の侵害が明らかであるとはいえないと主張しました。
しかし、裁判所は、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変が行われたものということはできない、と判断しています(13頁)。

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7 名誉権・名誉感情侵害の成否

原告は、本件各情報によって原告の社会的評価を低下させ原告の名誉権を侵害することが明らかである、また、原告の人格権に基づく名誉感情は大きく侵害されている旨主張しました。
この点について、裁判所は、本件情報18は、原告の名誉権及び名誉感情を侵害することが明らかであると判断しています(13頁以下)。

【本件情報18】
痛風の為、今年中に風水業は廃業します。
風水本は、在庫限りです。
長い間、風水山師を支持頂きありがとうございました。
風水本は在庫が無くなり次第、廃刊となります。 区切りのいいとこ
ろで断酒、療養に専念のため廃業いたします。
長らく風水山師をご愛顧いただき、ありがとうございました。

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8 正当理由の有無

プロバイダ責任制限法4条1項2号の「正当な理由」の有無について、少なくとも、本件情報1ないし17によって原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、また、本件情報18によって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたことは明らかであり、原告が本件発信者に対して損害賠償等を請求するためにはその氏名等及び住所の開示が必要であり、開示を受けるべき正当理由があると裁判所は判断しています(15頁)。

結論として、権利侵害性が明らかであり(法4条1項1号)、かつ、発信者情報開示を受けるべき正当理由がある(同2号)として、プロバイダである被告に対する発信者情報目録記載の情報開示請求が認容されています。

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■コメント

名誉毀損的言辞があるので、結論としては情報開示請求認容の結論に賛成ですが、原告記事1に著作物性があるかどうかについては、微妙な判断かと思われます。