最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「旅行業システムSP」データベース事件(控訴審)

知財高裁平成28.1.19平成26(ネ)10038著作権侵害差止請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      田中正哉
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2016.2.2
*キーワード:データベース、複製、翻案、一般不法行為、限界利益

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■事案

退職従業員による旅行業者向けシステムのデータベースの複製、翻案などが争点になった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(1審原告):コンピュータソフトウェア開発会社
被控訴人兼控訴人(1審被告):コンピュータシステム開発会社、被告会社代表取締役、退職従業員ら

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法21条、27条、114条1項、民法709条

1 被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
2 1審被告らによる著作権侵害の共同不法行為の成否
3 1審被告らの損害賠償責任の有無及び1審原告の損害額
4 一般不法行為に基づく損害賠償請求の成否
5 1審原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無

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■事案の概要

『本件は,翼システム株式会社(以下「翼システム」という。)が制作した旅行業者向けシステム「旅行業システムSP」(旧製品名「スーパーフロントマン 旅行業システム」。以下「原告システム」という。)に含まれる検索及び行程作成業務用データベース(以下「原告CDDB」という。)に係る著作権を同社から譲り受けた株式会社ブロードリーフ(旧商号「アイ・ティー・エックス翼ネット株式会社」。以下「旧原告会社」という場合がある。)を吸収合併し,訴訟承継した1審原告(旧商号「シー・ビー・ホールディングス株式会社」)が,1審被告アゼスタ,1審被告アゼスタの代表取締役である1審被告Y1,旧原告会社の元従業員で,1審被告アゼスタの取締役である1審被告Y2及び1審被告Y3,旧原告会社の元従業員で,1審被告アゼスタの従業員である1審被告Y4及び1審被告Y6,旧原告会社の元従業員で,1審被告アゼスタの元従業員である1審被告Y5(以下,1審被告アゼスタを除くその余の1審被告らを併せて,「個人の1審被告ら」という。)に対し,1審被告らが,別紙物件目録1ないし22記載の各データベース(以下,これらを総称して「被告CDDB」といい,同目録1記載のデーターベースを「当初版」,同目録2記載のデーターベースを「2006年版」,同目録3ないし21記載の各データーベースを「現行版」,同目録22記載のデーターベースを「新版」という。)を含む旅行業者向けシステム「旅 nesPro」(以下「被告システム」という。)を製造,販売する行為が,原告CDDBについて1審原告が有する著作権(複製権,翻案権,譲渡権,貸与権,公衆送信権)の侵害に当たるなどと主張して,著作権法112条1項に基づき,被告CDDBの複製,翻案等の差止めを,同条2項に基づき,被告CDDBを格納したCD−ROM等の記録媒体の廃棄等を求めるとともに,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償又は一般不法行為に基づく損害賠償として9億1037万0978円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
 原判決は,1審原告の請求のうち,差止請求及び廃棄等請求に関する部分は,1審被告アゼスタに対し,被告CDDBの当初版,2006年版及び現行版の複製,頒布又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め及びこれらを格納したCD−ROM等の記録媒体の廃棄等(原判決主文第1項及び第2項)を求める限度で認容し,損害賠償請求に関する部分は,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,1審被告アゼスタ,1審被告Y1,1審被告Y2,1審被告Y3及び1審被告Y4に対し,連帯して1億1215万1000円及び遅延損害金の支払(原判決主文第3項)を,1審被告Y6に対し,1審被告アゼスタ,1審被告Y1,1審被告Y2,1審被告Y3及び1審被告Y4と連帯して1億0548万円及び遅延損害金の支払(原判決主文第4項)を,1審被告Y5に対し,1審被告アゼスタ,1審被告Y1,1審被告Y2,1審被告Y3及び1審被告Y4と連帯して5561万2000円及び遅延損害金の支払(原判決主文第5項。なお,1審被告Y6と1審被告Y5は,4944万1000円及び遅延損害金の限度で連帯支払)をそれぞれ求める限度で認容し,1審原告の1審被告らに対するその余の請求をいずれも棄却した。
 これに対し1審原告は,原判決のうち,1審原告敗訴部分全部を不服として控訴を提起し,1審被告らは,原判決のうち,損害賠償請求に関する1審被告ら敗訴部分(原判決主文第3項ないし第5項)のみを不服として控訴を提起した。』(4頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか

リレーショナルデータベースである原告CDDBの複製ないし翻案について、裁判所は、まず、著作権法12条の2第1項のデータベースの著作物性の意義、また、リレーショナルデータベースの著作物性について言及しています。そして、複製(21条)及び翻案(27条)の意義を述べた上で、被告CDDBが原告CDDBを複製ないし翻案したものといえるかどうかについて検討を加えています(37頁以下)。

被告CDDB(当初版・2006年版)、(現行版)、(新版)が原告CDDBの複製物ないし翻案物といえるかについて、裁判所は、これらは原告CDDBに依拠して制作されたものであって、被告CDDB各版において原告CDDBの共通部分の体系的構成及び情報の選択の本質的な特徴を直接感得することができるとして、原告CDDBの共通部分の複製物であると認めるのが相当であると判断しています。

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2 1審被告らによる著作権侵害の共同不法行為の成否

(1)1審被告らによる著作権侵害の有無について

1審被告アゼスタの行為は、原告CDDBについて1審原告が有する著作権(複製権、翻案権、譲渡権、貸与権、公衆送信権)の侵害行為に該当すると裁判所は判断。
また、個人の1審被告らは、いずれも1審被告アゼスタによる1審原告が有する著作権の侵害行為に関与したものであり、1審被告アゼスタ及び個人の1審被告らは共同して上記著作権の侵害行為を行ったものと認められると判断しています(77頁以下)。

(2)共同不法行為の成否について

1審被告らは、共同して原告CDDB(被告CDDBとの共通部分)について1審原告が有する著作権の侵害行為を行っており、被告らには少なくとも過失があったものと認められるとして、1審被告らにおいて著作権の侵害行為について共同不法行為が成立すると裁判所は判断しています。

(3)差止請求等について

1審原告の請求のうち、差止請求及び廃棄等請求に関する部分は、1審被告アゼスタに対し、被告CDDB(当初版・2006年版)、被告CDDB(現行版)及び被告CDDB(新版)の複製、頒布又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め及びこれらを格納したCDROM等の記憶媒体の廃棄等を裁判所は認めています。

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3 1審被告らの損害賠償責任の有無及び1審原告の損害額


(1)1審被告らの損害賠償責任について

被告CDDB(当初版・2006年版)及び(現行版)は、原告CDDBの共通部分の複製物であり、1審被告らによる被告CDDB(当初版・2006年版)及び(現行版)の複製、これらの複製物のいずれかを含む被告システムの販売等は、原告CDDBについて1審原告が有する著作権の侵害行為に当たり、共同不法行為が成立するとして、1審被告らは1審原告が著作権の侵害により被った損害について連帯して賠償する責任を負うと裁判所は判断しています(86頁以下)。

(2)著作権法114条1項に基づく損害額(1億8222万3000円)

著作権法114条1項に基づく1審原告の損害額の算定の基礎となる原告CDDBを含む原告システムの1本当たりの利益額(単位数量当たりの利益額)は45万9000円と認定しています。

計算式
91万8000円(原告システムの販売価格153万円×1審原告利益率0.6)×0.5(寄与率)=45万9000円
45万9000円×397本=1億8222万3000円

(3)データメンテナンス契約に係る損害(1251万円)

1審被告らによる被告CDDBを含む被告システムの販売に係る著作権の侵害行為とその販売数量に対応する1審原告のデータメンテナンス契約に係る1年分の利益額に相当する損害との間には相当因果関係が認められるとして、1審原告は上記損害を被ったものと認定されています。

(4)弁護士費用(2000万円)

(5)1審被告らが損害賠償責任を負う範囲

1審被告アゼスタ、1審被告Y1、Y2、Y3及びY4の損害賠償責任については、合計2億1473万3000円と判断されています。

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4 一般不法行為に基づく損害賠償請求の成否

一般不法行為に基づく損害額が、著作権法114条1項に基づく損害額を超えることを認めるに足りる証拠はないとして、裁判所は1審原告の一般不法行為に基づく損害賠償請求を認めていません(104頁以下)。

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5 1審原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無

1審被告らは、1審原告は独占禁止法2条5項、3条に違反している可能性があり、1審原告の請求はこの点から速やかに棄却されるべきものである旨主張しましたが、控訴審もこれを認めていません(105頁)。

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■コメント

国内旅行の旅行行程表、見積書作成のために必要な観光施設、宿泊施設、道路、時刻表などの各種データをデータベース化し、パソコンを用いて効率よく行程表、見積書等を作成することを可能とする旅行業者用システムの検索及び行程作成業務用データベースの著作物性や複製性などが争点となった事案の控訴審です。
原審では、著作権侵害が否定された被告CDDB(新版)について、控訴審では、侵害性が肯定されています。

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