最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

英単語語呂合わせ書籍事件

東京地裁平成27.11.30平成26(ワ)22400著作権侵害差止等請求事件PDF

裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      天野研司

*裁判所サイト公表 2015.12.02
*キーワード:複製、翻案、創作性

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■事案

英単語の語呂合わせを掲載した学習書籍の類否が争点となった事案

原告:英語塾講師
被告:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条

1 複製権又は翻案権の侵害は成立するか
2 氏名表示権及び同一性保持権の侵害は成立するか

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■事案の概要

『本件は,別紙書籍目録記載2の書籍(以下「原告書籍」という。)の著者である原告が,被告が発行し販売する別紙書籍目録記載1の書籍(以下「被告書籍」という。)に掲載されている複数の英単語の語呂合わせ(特定の英単語の発音に類似した日本語と同英単語の日本語訳とを組み合わせて意味のある語句又は文章としたもの)は,原告が執筆した原告書籍に掲載されている複数の英単語の語呂合わせをいずれも複製又は翻案したものであり,被告が被告書籍を発行し,販売することは,原告が有する上記原告書籍に掲載されている各語呂合わせの著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項,2項に基づき,被告書籍の複製及び譲渡の差止め(前記第1の1)並びに被告書籍の廃棄を求めるとともに(前記第1の2),被告による被告書籍の平成25年7月16日から平成26年8月28日(本件訴訟の提起日)までの販売につき,不法行為による損害賠償金129万円(著作権である複製権又は翻案権の侵害につき著作権法114条2項により算定されるべき損害〔なお,原告は,訴状において「一部損害額」であるとしている。〕39万円又は同条3項により算定される損害39万円,著作者人格権である氏名表示権及び同一性保持権の侵害による損害〔慰謝料相当額〕50万円,弁護士費用40万円〔原告は,著作権侵害による弁護士費用と著作者人格権侵害による弁護士費用を区別していないが,各被侵害利益につき按分額を主張する趣旨と解される。〕の合計額)及びこれに対する平成26年9月5日(不法行為後の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(前記第1の3)事案である。』(1頁以下)

原告書籍:「全脳記憶英単語2201 実践編」(平成23年10月1日第2版発行

被告書籍:「イメタン」(平成25年7月16日初版発行)

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■判決内容

<争点>

1 複製権又は翻案権の侵害は成立するか

裁判所は、まず複製と翻案の意義について言及した上で、原告語呂合わせと被告語呂合わせとの共通部分を認定し、同共通部分が創作的な表現といえるかについて個別に検討しています(12頁以下)。

ところで、個別検討の前提として、括弧付きの空欄部分を含む原告語呂合わせをいかなる表現として把握すべきかに関して、裁判所は、被告語呂合わせと対照して共通部分を認定すべき原告語呂合わせの具体的表現は括弧付きの空欄部分を含むものというほかなく、当該括弧付きの空欄部分に対象となった英単語の日本語訳を読み込んだものを具体的表現とすべきではないと判断しています。

そして、100件の語呂合わせの個別検討について、結論としては、表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない、あるいは、ありふれた表現にすぎない(17、24、26、82)として、裁判所は複製又は翻案該当性を否定しています。

(例)
1 beard
原告書籍 ビヤーッ、どっとはえる( )。
被告書籍 びぃあ〜、どっとあごひげ伸びる

17 industry
原告書籍 インダスほとりに( )が。
被告書籍 インダスほとりに産業興り

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2 氏名表示権及び同一性保持権の侵害は成立するか

被告語呂合わせはいずれも原告語呂合わせを複製又は翻案したものではなく、したがって、原告がその意に反して原告語呂合わせの変更、切除その他の改変を受けたとはいえないとして、裁判所は、原告語呂合わせについての同一性保持権の侵害は認められず、被告が被告語呂合わせの掲載された被告書籍を販売するに際して原告の氏名を表示しなかったとしても原告の氏名表示権を侵害するものではないと判断しています(67頁)。

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■コメント

著作権侵害性が否定されていますが、裁判所は依拠性を認め、和解の交渉の経緯にも触れられており(68頁)、一般不法行為論も争点として考えられるところです。
なお、語呂に関係する裁判例としては、「ゴロで覚える古文単語」事件(東京高判平成11.9.30平成11(ネ)1150)があります。本事案では、42個の古文の語呂合わせの一部(原告語呂「朝めざましに驚くばかり」と被告語呂「朝目覚ましに驚き呆れる」等)について、2つの古語を同時に連想させる語句を選択するという工夫が凝らされているなどとして、創作性を肯定。もっとも、結論としては、控訴審は原審と異なり依拠性を否定して著作権侵害性を否定しています。