最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ハイパーバイザプログラム翻案営業誹謗事件

東京地裁平成27.9.17平成25(ワ)19974等損害賠償等請求事件、損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官      広瀬達人
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2015.10.22
*キーワード:退職従業員、プログラム開発、営業誹謗行為、営業秘密、競業避止義務

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■事案

退職役員、従業員による営業秘密利用によるプログラム開発の著作権侵害性、営業誹謗行為性などが争点となった事案

甲事件原告・乙事件被告(原告会社):電子機器製造販売会社
乙事件被告Aら:原告会社代表取締役、被告会社元従業員
甲事件被告・乙事件原告(被告会社):プログラム開発販売会社
甲事件被告D:被告会社代表取締役

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■結論

甲事件:請求一部認容
乙事件:請求棄却


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■争点

条文 著作権法22条、27条、不正競争防止法2条1項14号、4号

1 本件通知の内容は虚偽か
2 原告会社の損害及び謝罪広告の必要性
3 本件営業秘密不正取得等が認められるか
4 被告会社の損害

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■事案の概要

『(甲事件)
原告会社は,被告会社が,「原告会社による別紙製品目録記載1の製品(以下「原告製品」という。)の開発・販売行為は被告会社の別紙製品目録記載2の製品(以下「被告製品」という。)の著作権を侵害する」旨の虚偽の事実を原告の取引先その他の第三者に告知・流布したと主張して,不正競争防止法2条1項14号,3条1項,4条,14条及び会社法429条1項に基づき,被告会社に対して上記事実の告知・流布行為の差止め及び謝罪広告の掲載を求めるとともに,被告らに対して損害賠償金2000万円及びこれに対する平成25年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。』

『(乙事件)
被告会社は,(1)原告製品は,原告会社が被告会社の著作物である被告製品を複製又は翻案したものであるから,原告会社が原告製品を製造,販売することは被告会社の複製権,翻案権ないし譲渡権を侵害する旨(以下「本件プログラム著作権侵害」という。),(2)原告らが原告製品及び「LunaBox」の開発に当たって被告会社の営業秘密である被告製品及び「Luna」のプログラム情報を不正に取得し使用したことは,不正競争防止法2条1項4号,5号の不正競争行為に該当し,また乙事件被告A,乙事件被告B及び乙事件被告C(以下,併せて「乙事件被告Aら」という。)が被告会社との間で締結した秘密保持等についての誓約書(以下「本件誓約書」という。)1条及び4条の秘密保持義務にも違反する旨(以下「本件営業秘密不正取得等」という。),(3)乙事件被告Aらが原告製品及び「LunaBox」の開発販売に携わったことは,本件誓約書6条の競業避止義務に違反し,また被告Aが被告会社の代表取締役として競業取引をしたことは会社法423条1項,356条1項1号,365条にも違反する旨(以下「本件競業避止義務違反」という。)を主張して,著作権法112条1項,不正競争防止法4条,民法709条,415条,会社法423条1項及び2項,350条に基づき,原告会社に対して原告製品の製造販売等の差止めを求めるとともに,原告らに対して損害賠償金2000万円及びこれに対する平成26年9月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。』
(3頁以下)

<経緯>

H21.08 B、Cが秘密情報誓約書に署名
H21.09 原告会社設立(代表取締役A)
H22.03 Aが秘密情報誓約書に署名
H23.04 被告会社が「Luna」発売
H23.05 原告会社が株式会社T.MAPとの間で開発基本契約締結
H23.06 Aが被告会社代表取締役退任
H23.07 Bが被告会社退社
H23.09 原告製品を開発、販売
H23.11 Cが被告会社退社
H25.02 被告会社が原告会社に警告書送付
H25.03 被告会社が取引先に警告書の写しを送付

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■判決内容

<争点>

1 本件通知の内容は虚偽か

(1)原告製品のプログラムが被告製品のプログラムの著作権を侵害するか

原告製品及び被告製品のプログラムについては、本件全証拠によっても各具体的記述が不明であるばかりでなく、両製品の具体的内容(各プログラムの詳細な構成や機能、動作など)すら明らかでないなどとして、裁判所は、原告製品のプログラムが被告製品のプログラムを複製ないし翻案したものであるとは認めていません(20頁)。

(2)信用毀損行為該当性

上記のように被告会社による本件プログラム著作権侵害に基づく請求には理由がないため、本件通知の内容は、原告会社が被告会社の被告製品に係るプログラム著作権を侵害したと被通知人に受け取られるものであることから、虚偽であると認められ、本件通知が原告会社の営業上の信用を害するものであることはその記載内容から明らかであるとして、裁判所は、被告会社が本件通知を行った行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の信用毀損行為に該当すると認められ、同行為の差止請求が認められると判断。
また、被告会社は、少なくとも上記信用毀損行為について過失があるとして、同法4条に基づく損害賠償責任を負うと判断されています。

当時の被告会社の代表取締役であった被告Dは、原告製品の分析結果等具体的な根拠に基づくことなく本件通知を行ったと認められるとして、少なくとも上記信用毀損行為について重過失が認められ、会社法429条1項に基づき、被告会社と連帯して損害賠償責任を負うと判断されています(20頁以下)。

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2 原告会社の損害及び謝罪広告の必要性

(1)逸失利益

原告会社は、本件通知の送付によってこれらの契約締結によって得べかりし1億2000万円の粗利益を失ったと主張するものの、契約締結交渉を行っていたことは認められるものの、本件通知送付時にどの程度具体的に契約の成立が見込まれていたか不明であるとして、本件通知とこれらの契約が締結に至らなかったこととの間の相当因果関係は認めがたいと裁判所は判断。逸失利益の成立を否定しています(22頁)。

(2)原告会社の信用喪失に係る無形的損害

裁判所は、一切の事情を総合考慮して、本件通知による無形的損害の額は100万円と認めるのが相当と判断しています(22頁以下)。

(3)謝罪広告の必要性

裁判所は、本件全証拠によっても原告会社につき損害賠償のみでは填補できない業務上の信用の低下があるとは言い難いとして、謝罪広告の必要性を認めることはできないと判断しています(23頁)。

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3 本件営業秘密不正取得等が認められるか

原告製品が被告製品を複製又は翻案したものであることを認めるに足りる証拠はないなどとして、原告らが被告製品に関するソースコードの情報を不正に取得・使用したとの被告会社の主張には理由がないと裁判所は判断しています(23頁以下)。

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4 被告会社の損害

原告会社による本件プログラム著作権侵害及び本件営業秘密不正取得等の事実は認められないことから、これらに基づく損害賠償請求には理由がないと判断されています(24頁以下)。

また、競業避止義務違反の事実が認められる場合の被告会社の損害についても、仮に本件競業避止義務違反を前提としても、それによって被告会社の損害が発生したことを認めるに足りる証拠はないとして、裁判所は被告会社の本件競業避止義務違反に基づく請求にも理由がないと判断しています。

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■コメント

退職従業員による営業秘密利用によるプログラム開発・販売について、著作権侵害性や営業誹謗行為性、営業秘密不正取得行為性が争点となった事案となります。

問題となった製品は、コンピュータを仮想化して複数の異なるOSを並列に実行できるようにするという機能(ハイパーバイザ)を携帯電話等で利用してリアルタイムマルチOS環境を実現することを可能にしたものでした。