最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「つくる会」歴史教科書翻案事件(控訴審)

知財高裁平成27.9.10平成27(ネ)10009書籍出版差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官      中村 恭
裁判官      中武由紀

*裁判所サイト公表 2015.9.15
*キーワード:歴史教科書、著作物性、複製、翻案、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

中学校用歴史教科書の記述を流用して複製・翻案したかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告) :「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)元会長
被控訴人(1審被告):出版社、執筆者ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条、民法709条

1 被控訴人各記述が控訴人各記述を「翻案」したものか否か
2 被控訴人各記述が控訴人各記述を「複製」したものか否か
3 被控訴人書籍の単元構成が控訴人書籍の単元構成を「翻案」又は「複製」したものか
4 控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の侵害の有無
5 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『(1)本件請求の要旨
本件は,控訴人が,被控訴人らに対し,(1)被控訴人らにおいて共同して制作して出版した被控訴人書籍中の個別の記述が,控訴人において制作した控訴人書籍中の個別の記述に係る著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するとして,[1]著作権法112条1項及び2項に基づき,〈1〉被控訴人らに対して被控訴人書籍1(市販本)の出版等の差止めを,〈2〉被控訴人書籍1の発行者である被控訴人育鵬社及び被控訴人扶桑社に対して被控訴人書籍1の廃棄をそれぞれ求めるとともに,[2]著作権及び著作者人格権侵害に係る共同不法行為に基づき,被控訴人らに対し,著作権侵害に係る損害賠償金5131万5750円,著作者人格権侵害に係る慰謝料300万円及び弁護士費用600万円の合計6031万5750円とこれに対する被控訴人書籍2(教科書)の教科書検定の合格日である平成23年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,さらに,予備的に,(2)一般不法行為に基づき,慰謝料300万円と上記(1)[2]と同旨の遅延損害金の支払を求める事案である。

(2)原審の判断等
原審請求は,翻案権侵害と著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の不法行為に基づく差止め,廃棄及び損害賠償請求のみであったところ,原判決は,控訴人書籍中の控訴人各記述とこれに対応する被控訴人書籍の被控訴人各記述とで記述内容が共通する部分について,控訴人各記述には創作性が認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,これを不服とし控訴したが,当審において,翻案権並びに同一性保持権及び氏名表示権の侵害と主張する記述を,被控訴人記述1,2,9,10,15,17,19,20,24,26,27〜29,33〜36,43〜45及び47に限定する一方で,上記記述(21か所)に係る複製権侵害と,被控訴人各記述(47か所)すべてに係る一般不法行為に基づく損害賠償請求を,請求原因に追加した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人各記述が控訴人各記述を「翻案」したものか否か

歴史教科書の個々の記述に関する翻案権侵害性判断について、控訴審は、中学校用歴史教科書であっても教科書としてだけ用いられるわけではなく、簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものとして一般の歴史書と同様に創作性があるか否かを問題とすべきであると示した上で、
「簡潔な歴史書における歴史事項の選択の創作性は,主として,いかに記述すべき歴史的事項を限定するかにあるのであり,選択される歴史的事項は一定範囲の歴史的事実としての広がりをもって画されている。したがって,同等の分量の他書に一見すると同一の記述がなかったとしても,それが,他書が選択した歴史的事項の範囲内に含まれる事実として知られている場合や,当該歴史的事項に一般的な歴史的説明を補充,付加するにすぎないものである場合には,歴史書の著述として創意を要するようなものとはいえない。控訴人の創作性基準に関する主張は,上記説示に反する限り,採用することができない。」(16頁)
と説示。
他社の歴史教科書に同様の表現があるか否かの点を中心に控訴人各記述の創作性を検討しています。
結論として、被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27〜29、33〜36、43〜45及び47は、創作性がなく、「著作物」(著作権法2条1項1号)には該当しないとして、その翻案も認めらていません。

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2 被控訴人各記述が控訴人各記述を「複製」したものか否か

被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27〜29、33〜36、43〜45及び47は、創作性がなく、「著作物」(2条1項1号)には該当しないことから、その複製も認められていません(65頁)。

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3 被控訴人書籍の単元構成が控訴人書籍の単元構成を「翻案」又は「複製」したものか

単元構成について、ごくありふれた構成にすぎないとして、控訴人の単元構成に係る翻案権又は複製権侵害に基づく請求は認められていません(65頁以下)。

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4 控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の侵害の有無

被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27〜29、33〜36、43〜45及び47は、創作性がなく、「著作物」(2条1項1号)には該当しないことから、その著作者人格権の侵害も認められないと判断されています(69頁)。

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5 一般不法行為の成否

控訴人は、仮に、被控訴人らに著作権侵害・著作者人格権侵害が成立しないとしても被控訴人らは控訴人各記述に係る控訴人の執筆者利益を害したものであるとして不法行為が成立する旨を主張しました(69頁以下)。
しかし、裁判所は、ただ単に被控訴人各記述に控訴人各記述に似たところ又は共通するところがあるというだけでは、被控訴人各記述を用いることが公正な競争として社会的に許容する限度を超えるということはできないとして、結論として一般不法行為論の成立を否定しています。

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■コメント

原審の判断が控訴審でも基本的に維持されています。控訴審では複製権侵害性の点と一般不法行為論を新たな争点としましたが、棄却の結論は変わっていません。

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■過去のブログ記事

2015年01月13日記事
「つくる会」歴史教科書翻案事件(原審)